
実験室で作られた人間のミニ脳(ヒト脳オルガノイド)をラットの赤ちゃんの脳に移植し、ラットの脳の一部として結合させることに成功したそうだ。
移植されたミニ脳は神経レベルで結合しており、ラットの行動に影響を与えることができたという。
神経レベルで結合されたヒト脳オルガノイドなら、ラットの行動を制御することで、これまでは難しかったさまざまな研究を行えるようになるという。
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赤ちゃんラットに人間のミニ脳を移植、結合を確認
従来、この種の移植実験は大人のネズミで行われてきた。だが今回は、生まれて数日しか経っていないラットの赤ちゃんにヒト脳のオルガノイドが移植された。ヒト脳オルガノイドとは、人間の幹細胞から試験官で培養される脳の3Dミニチュアモデルのことで、「ミニ脳」とも呼ばれている。
今回赤ちゃんが利用されたのは、脳はまだ未熟なままなので、ヒト・ニューロンがうまく融合するだろうと考えてのことだ。
その予測は当たった。人間の脳組織は赤ちゃんラットの中で、従来の実験よりずっと成熟し、実験皿で培養したものより約6倍も大きくなったそうだ。
脳組織は、ラット脳の半球のおよそ3分の1を占め、ラット・ニューロンと結合(シナプス)まで形成したという。

人間のニューロンを介してラットを操作することに成功
こうしたラット脳に結合されたヒト脳オルガノイドは、ラット自体の行動にも影響を与えるのだろうか?これを確かめるために、遺伝子操作で細胞を光に反応するよう改変(「オプトジェネティクス」や「光遺伝学」という)し、検査が行われた。
具体的には、ラット脳内のヒト・ニューロンに青い光を当てて活性化させつつ、ラットに水を飲ませたのだ。
すると2週間後、ヒト・ニューロンに青色光を浴びせるだけで、ラットは水を予期して舐めるようになったそうだ。
つまりヒト脳オルガノイドを移植すれば、そのニューロンを操作することで、ラットにどのような影響が出るのか1つ1つ確認できるということだ。

photo by iStock
脳オルガノイドの限界を克服
研究の中心人物である、スタンフォード大学のセルジュ・パスカ氏によれば、今回の手法によって、脳オルガノイドの限界をいくつか克服できるという。たとえば、精神疾患を治療するのなら、患者の脳内で具体的にどのような現象が起きているのか解明したいところだ。
しかし脳オルガノイド単体では、その活動と病気の症状を結びつけることができない。
一方、ラット脳に移植されたヒト脳オルガノイドなら、細胞を操作して、それによるラットの行動の変化を調べれば、脳内の現象と病状を結びつけることができる。
こうした手法は、神経発達障害・神経精神障害・物質使用障害・神経再生障害など、さまざまな神経疾患の研究で応用できるだろうとのこと。
倫理的に問題視する声も
一方で、ラットを使ったこのような実験を倫理的に問題視する意見もある。たとえば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の動物法学者テイミー・ブライアント教授は、「人間のために搾取する資源として動物を扱うことは、決して倫理的に正当化できないと思います」と第三者の立場で話す。
「ラットの意識は人間が手を加えずとも素晴らしいものです。その脳を傷つけることは、人間やそれ以外の動物が地球で生きることを危うくする、自然に対する態度を象徴しているように思えます」
この研究は『Natrue』(2022年10月12日付)に掲載された。
References:Human neurons transplanted into a rat's brain influence its behaviour | New Scientist / Human brain cells transplanted into baby rats’ brains grow and form connections | MIT Technology Review / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
げっ げっ げげげのげぇ〜〜〜♪
2. 匿名処理班
人の脳細胞を持ったラットは人権を持つのだろうか
3. 匿名処理班
次はラットの脳細胞を人間に移植してみよう
ねずみ男だ
4. 匿名処理班
まさにアルジャーノン
5. 匿名処理班
倫理的な問題は置いといて、この手の研究が進めば、いずれは先天的あるいは事故や病気などで脳の一部を失っても、その人の脳細胞だけで補えるようになるんじゃないの?
6. 匿名処理班
動物実験について、それに供される動物たち(主にマウス)は一種の経済動物じゃないか、て思ってる
彼らの犠牲は我々人類の医学の進歩に貢献してきた訳で、動物実験と牛・豚・鶏を食べる行為との間で大きな違いはあるだろうか
(もちろん感謝の気持ちは忘れちゃいけない、必要な犠牲だったのだから)
7.
8. 匿名処理班
後のジェリーである
9. 匿名処理班
倫理持ち出して批判する類の研究には見えないな
脳の仕組みは未だ未だ未知数だし、治療に関しちゃ可成り役立つ研究なのでは
10. 匿名処理班
意識とかどうなるんだろう?
11. 匿名処理班
テセウスの脳!
今後、脳の置換の割合を変えていったら、何割までがラットでどこからが人間となるのだ?
12. 匿名処理班
ウフコック
13. 匿名処理班
後の「ビビビのねずみ男」である
14. 匿名処理班
※4
アルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください。
15. 匿名処理班
批判されたところで、批判してる人が実験のために脳を提供してくれるわけでもないしなあ
16. 匿名処理班
そのうちしゃべりだすの?
17. 匿名処理班
ピンキー&ブレインって感じだ
18. 匿名処理班
私が村長です
19. 匿名処理班
リアル肉の芽か…
20. 匿名処理班
※11
その境界が見つかったら
次はその境界ラインに満たない知性しか持たない人間を人間とみなせるかどうか
21. 匿名処理班
捕らえられたあくる朝
目を覚ますと
ネズミになっていた
吾輩はプーチンである。
22. 匿名処理班
最後の批判は無意味じゃない?
脳細胞移植しなくたってラットは人間のために使われて死ぬんだし
あらゆる動物実験をやめろっていうならまだしも
23.
24. 匿名処理班
いつか人間に復讐しそう。ホラー映画で見た
25. 匿名処理班
※5
なくなってしまった記憶や機能は取り戻せないけど
リハビリで新しい機能を得たり再学習できる領域が作れたらいいよね
残った健康な脳細胞も隣接領域から信号が来ている方が機能を保ちやすそうだし
もう来てしまった高齢化社会が問題じゃなくなる技術が増えるといいな
26. 匿名処理班
そうね…でもラットで行う実験のほとんどがじつは倫理的には×なんだよね
最低限度の犠牲として見て見ぬふりをしているだけで
人工ラット皮膚に人口ラット臓器を揃えて脳だけ人口ヒト脳を入れるとか?