
なぜ動物たちは、自分を犠牲にしてまで他者のために子育てをするのか?
スイス、ベルン大学の研究グループは、動物の利他性に関する研究を行った。それによるとグループ内で他者の子供を育てることは、結果的に優位性をもたらすことがあるという。
人間界でいうところの「情けは人の為ならず」ということなのかもしれない。
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利他的行為とは?
利他的行為とは、自分を犠牲にして、他者のために行動することだ。動物界で見られるもっとも顕著な例は、子育てだろう。哺乳類から魚・鳥・昆虫まで、協力して他人の子供を育てる動物はたくさんいる。一般的なのは、1組の優位なつがいが子供を産み、グループ内の仲間が子育てを担当するというスタイルだ。
こうしたグループのメンバーは、他人の子供であっても、己の子供であるかのように育てている。

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なぜ血がつながっていない他者の子を育てるのか?
進化の視点から見れば、こうした利他的行為には合理的な部分もある。たとえ自分の子供でもなくても、血のつながった親族の子供を育てれば、自分と共有している遺伝子を残せるからだ。
だが、このように考えるなら、まったく無関係の子供の育児には、何の利点もないことになる。ならなぜ赤の他人の子供を育てる動物がいるのか?
これが今回の研究のテーマだ。

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グループ内で仲間同士の子育ての優位性
進化の基本的な理論として、「自然選択」がある。つまり生き残りやすい(遺伝的適応度が高い)特徴ほど広まり、そうでないものは淘汰されるということだ。だからもしグループに所属することが、生存に不可欠なほど有利なのであれば、仲間同士による協力的な子育てが進化する可能性がある。
イレーネ・ガルシア・ルイス氏らは、この仮説を検証するために、グループメンバー各々の意思決定が遺伝的適応度にどう影響するのかシミュレーションしてみることにした。
その結果、集団生活が生存に有利な場合、自然選択を通じて下位メンバーが上位ペアの子供を育てるようになる状況が2つ確認されたという。
1つは、すでに述べたように、他人の子供といっても自分の近縁である場合だ。この状況では、子育てする側とされる側が共有する遺伝子が次世代に受け継がれていく。これを「血縁選択」という。
もう1つは、まったく赤の他人でも育てる「個体選択」のケースだ。
赤の他人の子供だったとしても、誰かが面倒を見ることで子供の生存率が高まるので、グループは大きくなる。
これが子育てをする個体の生存率を高めることにもつながる。それだけ捕食動物によって食われる確率が下がるからだ。そうなれば、後に自身の子供を残せるチャンスも高まるだろう。

血縁選択と個体選択、どちらが有利か?
血縁選択と個体選択のどちらが有利かは、環境次第であるという。例えば、天敵となる捕食動物がほとんどいないなら、血縁選択のほうが自分の遺伝子を残しやすいかもしれない。
それと反対に捕食動物が多ければ、グループ内にいて、赤の他人の子供を育てて自らの生存率を上げたほうが、結果的に遺伝子を残しやすい。
また生き残るのが大変な危険な場所ならば、もっと安全な場所に移動するという手もあるだろう。
グループに留まって他人の子供を育てるのと、別の場所に移住して自分で子供を産むのとで、どちらが有利なのか?
それは個体の年齢次第であるそうだ。
この研究の大きな成果は、血縁選択と個体選択の相対的な重要性が、環境に左右されることを明らかにしたことだ。
この研究は『Science Advances』(2022年5月27日付)に掲載された。

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今回の研究ではグループ内における他者の子育てに関する理由の解明だが、自然界では群れを作らず単独で行動をする動物でも、自分が産んだ子供以外を育てるケースもある。更には種が異なる動物ですら、熱心に面倒を見ようとする動物のケースも複数確認されている。これらは動物の本能に備わった庇護愛とか母性愛とかなのだろうか?そちらの方の研究結果も是非見てみたい。
References:Unselfish behavior has evolutionary reasons / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
巡り巡って己が為
2.
3. 匿名処理班
甥っ子姪っ子を可愛がらないのか?
4. 匿名処理班
「自分の遺伝子を残そうとする」というそもそもダーウィンの進化論すら理解してなさそうな考えが念頭にあるのがおかしい
5. 匿名処理班
利己的な遺伝子
6. 匿名処理班
社会性が重要な種なら利他的って程でもないと思う
群れはデカい方が大抵の場合有利だし
7. 匿名処理班
もちろん科学的な理屈はあるんだろうけど、当事者としては「ただ、かわいいから」なんだろうな。
かわいいと思わせる戦略があったとしても、それとかわいいと思う感情とが、因果として直感にくいのが不思議。戦略がばれると不利だから覆い隠されてるのかな。
8. 匿名処理班
単に自分の子供と区別出来ないだけじゃない?
9. 匿名処理班
はぁ…?動物の方が冷酷で冷たいだろ
子どもがある程度大きく成長したら親元から離そうとするし…
弱い動物たちほど強い動物たちから狩られているときにのんきに静観しているだけだし…
助け合いなど存在しないのだ
10. 匿名処理班
しょーもない素人独自考察で溢れる予感
11. 匿名処理班
人間にだって動物にだって、我が子以外にも愛情注ぐ親もいれば我が子すら愛さない親もいるでしょ
カラパイアにも動物が育児放棄する系の記事結構あるやん
12. 匿名処理班
血吸いコウモリは吸ってきた血を腹を空かせた仲間に分けてあげることがあるそうなんだが、
普段から気前よく仲間に血を分け与える個体は、
自分が飢えた時に仲間から血を分けてもらえる率が高いんだそうだ。
情けは人のためならずって、ホントにこういうことなんだろうな。
13. 匿名処理班
>>8
動物は共通して妊娠すると母性本能のスイッチが入って子育てに繋がるので、子を亡くした親(主に母)がみなしごを育てるケースは多いよね。妊娠してなくてもスイッチが入って我が子でなくとも子育てする個体も結構いる。
我が子かどうか見分けが付かないというより、本能でそういうモードに入ってるから育てるという方が近いのかも。
14.
15. 匿名処理班
他種の子供をかわいいと思う大人の遺伝子が残るんじゃなくて
他種の大人から可愛がられる子供の遺伝子が残るんだぞ
16. 匿名処理班
敵味方の区別がつかないから
17. 匿名処理班
敵味方の区別がつかないから
もしくは、あふれ出る愛情の方が大きいから
18. 匿名処理班
そうか?ライオンやチンパンジーは自分の子供じゃなければ群れから追い出したり、殺したりするんだが。
19. 匿名処理班
食べ物あげて食べて貰えると満足感あるし求愛行動にもなってるし、餌付け幸福遺伝子があると思う
20. 匿名処理班
※18
だからそれが、「血縁選択と個体選択の相対的な重要性が、環境に左右される」ってこと。
「環境」というのも、生物的な環境、非生物的な環境、とわけられる。
ハレムの主となるオスは、ハレム外からやって来る非血縁者だからね。
それに対してライオンは母系社会なので、ハレムの構成メスは血縁者で構成されるから、メス同士は自分の子供でなくても共同で授乳したりと協力し合うことが知られてますよ。
状況次第で協力と非協力を使い分けるし、協力する際は血縁者どうしが起こりやすい。
21. 匿名処理班
例えば本当に「遺伝子を残す為に性欲がある」と思ってるのか って話
22. 匿名処理班
しかしこの議論、どちらもハミルトンが50年以上前に提出した血縁選択と利己的な群れの理論そのままだな。環境要因に帰結する実証研究はいっぱいありそうだけど、今更どう新しいことを解明したのか気になる。元論文読む気にならないけど…
23. 匿名処理班
群を形成せず雌のみで子育てをする動物でも特定の条件下で雄が血縁関係のない子を拾って育てることがあるのだそう
24. 匿名処理班
血縁性の低い個体や他種を育成するのは、普通に本能の誤謬なだけだろ。合理性が高ければ自然選択で残っていくだけで、その本能が100%合理的なわけではない。
以下は多少ズレた余談。もちろんその本能誤謬につけ込むような進化する生物も居るわけで。カッコウやアリヅカコオロギ、あるいはサムライアリなんかがそれだわね。サムライアリの奴隷になってるクロヤマアリが奴隷になるために自然淘汰&進化したわけでないのは明白。サムライアリのほうがクロヤマアリの本能を上手く刺激して奴隷化させるように進化してる。
むしろクロヤマアリには奴隷化されないような逆方向の淘汰圧が掛かってるだろう。この双方への淘汰圧はカッコウとその托卵対象鳥類では証明されてる。
自分は犬猫もそうだと思ってるよ。家畜化されたきっかけや使役、ネズミ対策のものは兎も角、少なくとも愛玩系小型犬や現代の猫はそう。
大きな頭や黒目がちの大きな目、小さな体や短い脚、大袈裟な甘え行動など、人間の保護本能や育成本能を過剰に刺激するように進化してる。そして世話すべき子供や家族と本能的に誤認させることで子孫を遺す。
オールドミスと猫や小型犬の組合せは普通。つまり犬猫に重度に労働寄生された人間は子孫残すのに失敗してるわけで、人間には逆方向の淘汰圧がかかってるだろうね。それに対応するために小型犬や猫は益々「カワイイモフモフ」へと進化する(=対応できなかった個体・系統は子孫を遺せない)。
25. 匿名処理班
元論文パッと見たけど、生活史戦略モデル作ってヘルパーの適応度を直接、間接で評価して〇弔辰瞳豈鐔ける居着いて繁殖の機会をうかがうJ散して他所で生き残る、のパターンを説明できましたよって感じだね
26. 匿名処理班
「放っておけないでしょ?」と言う至極真っ当な理由から、幼い命は育て育もうとする、一種の安全装置が働くんだよ。
27. 匿名処理班
※6
その「群れがデカい方が有利だから」ってのをシミュレーションで出したのがこの研究だが。
28. 匿名処理班
>>6
自分の子や血縁個体でデカくしたほうが著しく有利だぞ。不妊個体や子供を失った個体でも血縁度の高い個体まで不妊とか失ったとかまずない。血縁度の低い個体やましてや他種よりそっちの子を育てればいい(ヘルパーすればいい)
だから、群れの大きさ説は、説明できてるようで実は全くできてない。
29. 匿名処理班
鳥には同族の他の巣を攻撃する種類結構いると思うけどね
ツバメなんかそうだし
30. 匿名処理班
※8
オスはまだしも、メスは普通に分かるだろ
…と思ったけど、明らかに大きさが異なる托卵でも
気にせず温めてたりする鳥もいるから、
種によっては そのへん結構アバウトなのか…?
31. 匿名処理班
>>15
あなた天才
32. 匿名処理班
>>13
母性に限らず本能って定義自体が学問上定まってないから
その分析は多分人間のエゴというか宗教的な思想が孕みすぎているように思う