インド北部、ラージャスターン州のアラヴァリ山脈周辺は、野生のヒョウが数多く生息している地域だ。
中でもパーリ県の小さな村、ベラ周辺では、威厳のある野生のヒョウが自由に歩き回っている姿を見ることができ、人々は頭を垂れて彼らを敬う。
住民たちにとってヒョウは神聖な生き物で女神の化身とされ信仰対象となっているのだ。
この村周辺では、ヒョウが観光客を惹きつけ、人間の生計の足しになっている一方、人々は自分たちの家畜をヒョウに獲物として与えるという共存関係が保たれている。
人とヒョウが共存関係を築く
人とヒョウの奇妙な平和的共存の話が始まったのは45年前のこと。6頭のヒョウが、岩山を探し求めてカンブホールガー国立公園から下りてきた。ベラの村は、ヒョウにとって自然の生息地としておあつらえむきの場所だった。まもなく彼らは、岩の間をぬうようにしてつながる洞窟の迷宮にずっと棲みつくようになった。
洞窟の岩陰の間で子どもを産み、迷路のようなトンネルは、彼らが3日ごとに棲みかを変えるのに十分な環境だ。
この生活スタイルのおかげで、ヒョウの子どもたちが生き延びる確率が高くなった。だいたいヒョウの子どもは3頭中1頭しか生き残ることができないが、ベラでは3頭とも成獣になれる。
その数は2020年までに大幅に増えた。この地域では、50〜70頭のヒョウが目撃されているという。
The Kingdom of Leopards - Bera, Rajasthan
ヒョウは女神アンベー・マタの化身として信仰の対象に
ベラ周辺のジャワイ・バンドの20平方キロ範囲は、2003年にジャワイ・ヒョウ保護区に指定された。サファリガイドツアーでは、ほぼ100%の確率でヒョウの姿を見ることができるが、ヒョウはまだ保護区の外に生息している。
現在、ベラの村は、世界でももっともヒョウの数が集中している地域のひとつで、地元ラバリの人たちの宗教的な信心もあって、ヒョウは村に馴染み、池周辺や道など人間の生活圏を自由に歩き回っている。
image credit:Koushik Ranjan Das / Wikimedia
ヒョウが丘の上にある祠の階段で目撃されると、地元の人々は立ち止まって道を譲り、ヒョウは何事もなかったかのように悠々と道を横切って行く。ヒョウ以外にも、保護区にはキツネ、ハイエナ、ニルガイという牛、ワニなどの動物や、200種もの鳥類がいるが、女神アンベー・マタの化身と考えられているのはヒョウだけだ。
ヒョウに家畜を捧げることで村が繁栄すると信じられている
ヒョウは、地元の人たちが育てた家畜を襲うことも多いが、ベラの人々はこうした行為を目の敵にしない。彼らに言わせると、ヒョウが彼らの羊を襲っても、神がその2倍の埋め合わせをしてくれるという。
迷信はともかくとして、政府はヒョウによる頻繁な家畜の被害を認め、ヤギ一頭の損失に4000ルピー、牛一頭では1万5000ルピーを補償する政策を定めている。
もちろん、ベラの人々はヒョウと平和に共存できると信じ、多くは金銭的な補償を拒否し、ただ生命のサイクルのなすがままにまかせている。
ヒョウは神聖だと考えられているため、誰も彼らを殺したりせず、周辺のほとんどの祠にはその像が建っている。
インドには、およそ1万4000頭のヒョウがいるが、国内のほとんどの地域では、土地の開拓の過程や、恐怖の報復として密猟されている。
ここベラの村だけが、ヒョウが人の間を自由に歩き回れる唯一の場所なのだ。
Jawai - a tale of humans, leopards and landscapes
観光客が多く訪れるように
ヒョウの多くは、ベラの尾根の斜面を歩き回っているが、村の私有地の中もぶらついている。自然と人間のこうした驚くような共存の光景は、地元の人間でなく、明らかに外部からの関心を集めている。
ここ数年、村周辺に観光客が押し寄せるようになり、双眼鏡を首から下げた面々が人の間で暮らすヒョウをひと目見ようと待ち受けるようになった。
私有地の多くは、ホテル経営者やリゾートのオーナーに貸し出され、この土地に入って来る観光客を受け入れることができるようになっている。
だが。このことが知れわたることが、さまざまな意味で生態系のバランスを崩す原因になっている。
かつては、ヒョウが獲物を求めて歩き回り、今では人間がヒョウを探してさまよっている。
多くのサファリガイドが動物の死骸を道路に置いて、見世物のためにヒョウを誘い出そうとしている。
地元の人間は、家畜を殺すヒョウのおかげで報酬を受け取り、観光客はインスタのためのネタを集める。
しかし、このような人間同士の無秩序な行為で、ヒョウが歩き回ることができる空間が狭まりつつある。
オスのヒョウは、ほかのオスが縄張りの中に入らないようにする。これは、個体数が増加するためのスペースが不足する中、オスが子どものヒョウを襲う傾向が増加する傾向にあることを意味する。
森林局がヒョウの救済を継続しているが、どれくらい続くのだろうか?
References:Bera, The Indian Village Where Man and Leopards Live Together | Amusing Planet / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
野生動物と接するような文明の端にある田舎(言い方悪いが)は放っておくと生活のため無秩序に破壊しちゃうってのが自然破壊の一番あるあるだけど、そういう人達を抑えられるのは信仰って事なんだな
2. 匿名処理班
害獣として駆除されるくらいなら見世物にされても殺されずに増えたほうがよい
3. 匿名処理班
頂点の動物は居ないと困るが増えても困るんだよなぁ
オスが子供殺してもそれは有る意味必要な調整なんだろうから放っておいた方が良いのでは
でないと獲物が減って、その獲物が食べてる虫とかが増えるぞ
4. 匿名処理班
>>1
うーん
抑えるも何も、そもそも土地に根付いた文明であれば土着の生態系と折り合いをつける文化が編み出されてるんだよなぁ、信仰はその最たる例だが、それを破壊しているのはどちらかというと外来の文明化であって、積極的にその地域の文明を改造した責任はどこにあるのだろうか
それを含めて「放っておくと」という言葉にはどこか他人行儀を感じた
5. 匿名処理班
一方、日本では
愛知県東郷町で、犬を路上に置き去りにした疑いで48歳の女が逮捕されました。
動物愛護法違反の疑いで逮捕されたのは、名古屋市天白区のパートの女(48)です。 警察によりますと。女は3月、当時住んでいた東郷町の自宅近くの路上で、オスの秋田犬10歳を置き去りにした疑いがもたれています。 警察の調べに対し、女は「捨てたわけではない」と容疑を否認しています。 犬は重度の脱水症状で2日後に死にました。 警察は、女が犬に食事も与えず虐待していたとみて調べています。
6. 匿名処理班
やっぱ地元の宗教が絡んでる案件だね
なんかさ、宗教、特にシャーマニズムじぁ肉食獣って崇拝される傾向強くない?
アフリカじゃあライオンを神として崇めたりワニを祖霊として敬ったりしている部族がいるし、遠く離れた南アメリカのアステカ文明ではジャガーは宗教的に非常に重要な存在だった
文明のあけぼので肉食獣は自分達の脅威そのものだったんだろうけど、それ故に敬意や憧れの情があったりしたんだろうか
7. 匿名処理班
この村の人たちはヒョウに襲われたりせんの?
仮に襲われちゃっても生命のサイクルのなすがままで受け入れちゃってそうだけど…
8. 匿名処理班
人間側の問題を解決したとしても、ヒョウが増える事による縄張り争いが激化する問題は解決しないのよね
そしてそれはヒョウの問題なので人間は手出しできない
軽く詰んでるのでは?
9. 匿名処理班
信仰心じゃ飯は食えない。
この土地では先に人が家畜育てて、ヒョウは後からきてそれを奪ったんだから
報復にヒョウを狩り返すのが自然だよね。
観光客や業者を呼び寄せて一帯の産業を歪ませたのは住民だよ。
10. 匿名処理班
サファリ観光も、完全なパークではない自然を見に行くものなら、ダイビングみたいに『見られるかはあなたの運次第』『近づいてきてもこちらから何かを仕掛けるのはダメでルールはきちんと守れ!』ってならないものかなぁ。
まあ、ダイビング系でもサメの檻ツアーとかもあるけど……。あくまで一般的なあれでお願いします……。
餌付けとかするとそこからねえ、って感じになるのは今までの色々で起こってるし。
11. 匿名処理班
🐯「ひょう!」
12. 匿名処理班
インスタ栄えを考える連中はホント、ろくなことしねぇな。
13. 匿名処理班
※6
脅威の対象だからこそ、敬意を抱いたのでしょうね。
世界中のほとんどの神話では、恐るべき自然現象や生態系の頂点に立つ肉食獣は崇められています。
14. 匿名処理班
鉱物は肉じゃがー
15. 匿名処理班
その地域はヒョウにとって安住の地だろうけど、増えすぎたら縄張りを追われたオスが別地域に移動する事になるだろうね。
その移動した地域でどうなるか、それも生態系のバランスなんじゃなかろうか。
16. 匿名処理班
人間がどんどん増えて生活圏を拡大する限りは、特に大型の野生動物はどうにか社会に取り込まないと絶滅以外の道は無いのかも。その過程でこういう葛藤はあるだろうけど。どちらにしろ自由気ままに生きてもらうなんてのはいずれ不可能になるのは自明だね。
17. 匿名処理班
※7
抵抗せずに、おとなしく家畜を差し出しているからでは?
羊や牛みたいな草食獣で胃を満たせるなら、
ヒトってわざわざ狩るほどの食いでも無いし…。
18. 匿名処理班
補償すら拒否ってすげえな
ヒトはおそわれないのか?
19. 匿名処理班
>>18
自分なら政府がくれるって言うなら、補償金受け取るけどねw
20. 匿名処理班
ヒョウの赤ちゃん見たいなぁ♡
21. 匿名処理班
アフリカでゴリラと一時間同じ空間で過ごすため、国に管理されたゴリラトレッキングに観光客は大金を払っているが、神出鬼没で基本単独行動なヒョウの場合はそうはいかんよなぁ。
22. 匿名処理班
>>18 うっかり政府補償受け取るなんて不信心やらかしたら、それこそ自分が襲われかねんって感覚な気がするなこれは
23. 匿名処理班
※9
奪ったも何も、それで政府からの補償も拒否するほど住民の信仰心が満たされ納得しているんだから良いんじゃない?
それに世の中人間が中心なのは仕方ないけど住民が納得した上でなら、どこかにこういう場所があっても良いかと。
あと観光客や業者は一帯の「産業を歪ませた」とは書いてないよ。
地元民の収入源になっているが観光客の増加はヒョウ自身を中心とした生態系への影響として憂慮されるという意味で書いてある。
この村が入ってるかどうかは不明だけど周辺にヒョウ保護区もあるようだし問題があるようなら対策をするでしょう。
24.
25. 匿名処理班
人間のせいで崩れるような生態ならそれも自然なんじゃないかな
何も人間がいなければ地球と他の生物はずっと安定してるわけじゃない
常に環境も絶滅も進化も起こった結果が今というだけなのだし