12月下旬、NASAケネディ宇宙センターからスペースXのロケットが打ち上げられる。その任務は、国際宇宙ステーション(ISS)に科学研究用の資材を送り届けることだ。
24回目となる貨物輸送ミッションで運ばれるのは、怪我の応急処置に使われる皮膚細胞を印刷し、絆創膏のように貼り付ける携帯型バイオ3Dプリンター、抗がん剤、宇宙で洗濯をするための洗剤、宇宙工場のための製造機器などだ。
これらを用いて、船内で科学実験が行われる予定だが、この実験は宇宙ではもちろん、地球で暮らす私たちにとっても役立つものだ。 今回のミッションで行われる科学実験は以下の7つだ。
1.皮膚細胞で傷口を覆うバイオ3Dプリンター実験
宇宙に病院はない。だから将来的な月や火星でのミッションで、万が一、宇宙飛行士が怪我してしまえば、自分たちでどうにかしなければならない。そのために考案されているのが、生きたの細胞を3Dプリンターで絆創膏のように印刷する方法だ。
ドイツの宇宙機関が開発する「バイオプリント・ファーストエイド(Bioprint FirstAid)」は、本人の皮膚細胞で傷をおおうパッチをプリント。これを傷に当てることで、治りを大幅に速めることができる。
怪我人本人の細胞から作られるので、個人にぴったりの治療を行うことができる。こうした人それぞれにパーソナライズされた治療は、もちろん地球上でも有効だ。
2.皮下や筋肉に注射する抗がん剤実験
さまざまながんに効く分子標的薬「モノクローナル抗体」は、液体に溶けにくいため、通常は静脈に注入される。そこで国際宇宙ステーションでは、これを皮下や筋肉への注射で、もっと手軽に投与できる方法が探られている。具体的には、モノクローナル抗体を結晶化し、そこから薬剤の構造や振る舞いを詳しく分析する。
皮下注射や筋肉注射で抗がん剤が投与できるようになれば、病院だけでなく、自宅でも使えるようになる。より患者に負担が少ないがん治療が可能になるかもしれない。
3. 宇宙で洗濯するための洗剤
気軽に洗濯などできない国際宇宙ステーション内では、1枚の服を何度も着ることになる。着替えができるのは、新しい服が届けられたときだけだ。国際宇宙ステーションですらツラい状況なのに、月や火星でのより長期のミッションとなれば、ちょっとマズいだろう。
そこでP&G社は、微重力下でもきちんと洗濯ができる宇宙専用洗剤「タイド・インフィニティ(Tide Infinity)」を開発している。
宇宙船用洗剤として求められる性能は、「宇宙基地の空調システムに問題が生じない」こと、「限られた水量でも洗濯できる」こと、「洗濯に使った水を処理して飲料水にできる」こと、だ。
無事完成すれば、地球での洗濯ももっとエコになる。
4. 宇宙工場の合金製造設備
微重力下で製造された合金は、地上で製造されたものよりも構造にムラがなく、機械的特性が優れている。そこでレッドワイヤー・スペース社(Redwire Space)は、宇宙で耐熱性合金を製造する生産設備「タービンSCM(Turbine SCM)」の開発を進めている。
これによって宇宙で生産される合金ならば、航空宇宙産業や発電所で使われているタービンエンジンの性能をアップできると期待されている。
5. 宇宙感染症リスクの評価
宇宙線が飛び交い、重力にも乏しい宇宙は、ときに微生物の毒性を高め、その一方で人間の免疫力を弱めてしまうことがある。そこで国際宇宙ステーションでは、宇宙への出発前・滞在中・帰還後に宇宙飛行士から採取した細胞を、細菌と一緒に培養し、その危険性の詳しい評価を試みている。
宇宙空間のストレスが人体の免疫系に与える影響がきちんと理解されれば、地上で行われる免疫系疾患の治療にも役立つことだろう。
6. 宇宙栽培に適した植物の開発
食事は体の基本。それは宇宙飛行士にとっても同じことだ。そんな彼らが長期ミッションにおもむく際、期間中の宇宙食を支える重要な食材が、宇宙で栽培される野菜だ。しかし人間たちと同じく、植物もまた宇宙空間では大きなストレスを受け、遺伝子などに変化が現れる。
ゆえに宇宙でも元気に成長できる、宇宙での栽培に適した野菜の開発が重要となる。
今回の実験では、テックショット社(Techshot)が新たに開発した「ファイトフュージ・モジュール」内にシャーレが置かれ、その中で植物が栽培される。
7. 学生によるプロジェクト
NASAは、宇宙でのミッションに参加するチャンスを、学生にも与えている。たとえば今回、コロンビア大学とアイダホ大学の学生が考案した実験では、宇宙空間が細菌の抗生物質耐性や抗菌素材に与える影響が調べられる。
宇宙を飛び交う宇宙線は、細菌の突然変異をうながし、抗生物質が効かない細菌が誕生する恐れがある。
こうした耐性菌は地上でも大きな問題となっているが、簡単に病院に行くことができない長期的な宇宙ミッションではなおのこと脅威だ。
人体内や宇宙船の機材など、細菌はさまざまなところに存在する。それが宇宙でどのように変化するのか理解することは、とても重要なことだ。
Science Launching on SpaceX's 24th Cargo Resupply Mission to the Space Station
References:Experiments Riding 24th SpaceX Cargo Mission to ISS | NASA / written by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
5000匹のクマムシとダンゴイカが人類の為、宇宙へと旅立っていった(NASA)
宇宙で栽培した唐辛子を使った「スペース・タコス」が完成!NASAの宇宙飛行士がおいしくいただく
細菌が宇宙空間で1年間生き延びた!ただし全身にイボができた(国際宇宙ステーション きぼう実験棟)
まもなく国際宇宙ステーションに大量の人間の精子が到着。無重力空間での能力が試される(NASA研究)
6年間宇宙で保存された冷凍乾燥精子から無事マウスの赤ちゃんが誕生!
コメント
1. 匿名処理班
こういうの見ると年甲斐もなくワクワクするね
2. 匿名処理班
やはり3Dプリンターの本領は神経接続!
3. 匿名処理班
マウスとかじゃなくて乗組員が実験台になるのか…ご苦労様です
4. 匿名処理班
普通の外科手術だって文字通り糸で縫うんでしょ?それ考えればまあそこまで驚く方法でもないかなあ
5. 匿名処理班
なんか修正テープみたいだなあ