
カイラーサナータ石窟寺院/iStock
インド、マハラシュトラ地方にある世界的に有名なエローラ石窟群。その中のカイラーサナータ石窟寺院は、世界最大の石の建造物だが、熟練の職人たちが山腹の洞窟の硬い一枚岩を丹念に彫り進めて作った一大芸術作品と言えるだろう。完成までに20年以上かかったという。この古代の驚異には、度肝を抜くような事実がたくさんあるが、一方で寺院の背景となる歴史には少々議論がともなう。
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シヴァ神を祀ったヒンドゥー教の寺院「カイラーサナータ石窟寺院」
カイラーサナータ石窟寺院は、ヒンドゥー教徒がシヴァ神を祀るために建てたもので、シヴァ神が住むとされるヒマラヤ山脈のカイラス山に見立てたとされる。伝説では、ヒンドゥの王が妃の病の治癒をシヴァ神に祈って、建設を命じたという。
カイラーサナータ寺院の最頂部 image by:Jean-PierreDalbera/ Flickr.com
建築者は、まずは山の頂上から始め、下へと彫り進んでいった。考古学者によると、紀元757年から783年の間に20トン以上の火山岩を彫り出す大変な作業だったという。この寺院は、硬い岩をくりぬいて作られた34窟あるエローラ石窟群全体のうちのひとつだ。
現代の技術をもってしても、これだけのものを作ろうとしたら、24時間休みなく作業して200日はかかるという。ここには、この建造物全体に精巧な彫刻を施すのにかかる時間は入っていない。

ヒンデゥーの神ガジャラクシュミを表わした彫刻。所々に白い漆喰が塗られている
image credit:WIKI commons
カイラーサナータ寺院は、U字型をした3層構造になっていて、一番上から下までおよそ45メートルの深さがある。外側の壁に沿って彫られた大きな石の彫刻は、さまざまなヒンデゥーの神を描いていて、内部の2本の旗竿用の柱は、シヴァ神の物語を表わしている。もうひとりの主要なヒンドゥー神ヴィシュヌを崇めた巨大な彫刻も見られる。
建物の内部には、ほぼ隙間なくびっしりと複雑な彫刻が施されている。
上の階に向かうとゾウの彫刻がずらりと並んでいる。まるで、寺院のメイン部分の下で、巨大な石のゾウ軍団が寺院全体を持ち上げているように見える。
ゾウたちは、この複合的な寺院建築物のメインといってもいいような30メートルの高さの柱を、それぞれぐるりと取り囲んでいる。
カイラーサナータ寺院はアテネのパルテノン神殿よりも遥かに規模が大きい。しかし、インドの人たちは、1682年までこの壮麗な芸術に気がつかずに行き来していた。
こんな逸話が残されている。イスラム教徒であるムガール皇帝のアウラングゼーブが、この寺院を破壊するよう命令し、すべての痕跡を消そうとした。
しかし、1000人の男たちが3年かけて破壊しようとしても、寺院はもちこたえた。かつて職人たちが、ハンマーやノミ、つるはしだけで建設したこの寺院は、岩がものすごく硬くて取り崩すことができなかったのだ。

寺院を見守るように立つカイラーサナータのゾウたち
image credit:cool_spark/Flickr
いまだ謎に包まれたカイラーサナータ寺院
現在、寺院は火山岩で黒く見えるが、建設された当初は、雪を錯覚させるために白い漆喰を塗るよう命じられたという。そのため、この寺院はまるでヒマラヤ山脈の中にあるように見える。今日でも白い漆喰の跡を見ることができる。
この驚異的な芸術作品には秘密も隠されている。考古学者によると、3億個以上のサンスクリット語が刻まれているが、それらはまだ翻訳されていないという。
言葉の隠された意味が解き明かされたら、それこそカイラーサナータ寺院はもっとも価値ある歴史的芸術作品のひとつになるだろう。

カイラーサナータ寺院の壁に刻まれた多くの物語のひとつ
Istock
カイラーサナータ寺院は、実はもっと古い時代のものではないかと主張する者もいる。当時の人間には、このような巨大な構造物を彫り出す手段はなかったからだというのだ。つまり、古代のエイリアン説だ。インドのこの地域の人々がエイリアンの助けをかりてこの寺院を作ったと言いたいのだろうが、こうした空想的な説を裏づける証拠はない。
Kailasa Temple in Ellora Caves - Built with Alien Technology?
周囲の洞窟には、カイラーサナータ寺院よりもはるかに古い彫刻があるが、それは単に、かなり後になるまでこの寺院の彫刻に誰も近づけなかったことを意味している可能性がある。
寺院はシヴァ神に捧げられた建造物で、内部には偉大なヒンドゥー神に敬意を表した5つの聖堂がある。建設にどれほど時間がかかろうと、どれほど古い年代のものであろうと、カイラーサナータ寺院がまぎれもない驚異であることは確かだ。
References:Kailasa Temple, The Massive Indian Temple Carved From A Single Rock/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
すげーな、作るのにどれだけの年月がかかったんやろ
2. 匿名処理班
素晴らしい情熱だ
ノミの入れ方一つでも間違えたら何されるか分からないし
緊張感や殺伐感も半端じゃなかったろうに
職人たちは成し遂げたのだ
3. 匿名処理班
※2
本当、「もし失敗してそこいら一帯がやり直しになったら?」「顰蹙を買ってもう誰も口きいてくれなくなったら?」考えるだけで食べ物も喉を通らなくなるよ
4. 匿名処理班
>1000人の男たちが3年かけて破壊しようとしても寺院はもちこたえた
昔の話で良かったと思う。近代だと爆薬を仕掛けてバラバラ...だと思う
(ノーベルも草葉の陰で泣いている事例だろうと思う)
そういう手法で古代の遺跡が破壊されてしまった例も結構と有るからね
5. 匿名処理班
20トン以上の火山岩を彫り出すとあるが、石で20tってのは2メートルの立方体程度の大きさだ。記事の作者がなんか間違えてるのか、実は寺院にミニチュアのような物なのか(写真から見て確かに一部の構造物が不自然に小さく見える)、記事が指してるものは実は載せてる写真のごく一部だけで見えるもののほとんどは普通の石造建物なのか。
6. 匿名処理班
こんな見事な物を良く破壊しようなんて思えるなぁ
7. 匿名処理班
あの時代なら既に大砲もあるし、アウラングゼーブは極端に敬虔で偏屈で過激なイスラム教徒だから本気で壊そうと思ったのなら徹底的に破壊してるし、出来ると思うわ
アウラングゼーブによくある悪評と寺院の縁起譚の融合したものであって事実であるかは微妙な気がする
8. 匿名処理班
※5 気になったので元記事を見てきたら "200,000 tons" になってるから
翻訳のとき「万」が抜け落ちたようです
9. 匿名処理班
※5
元記事を見てきたら、20万トン以上になってた。
10. 匿名処理班
※6
宗教や慣習が違うと芸術品でも躊躇無く壊せるもんよ。過激派が世界遺産のバーミヤンの石像破壊とかしてるし十字軍だって破壊活動してたしな。
11. 匿名処理班
24時間休みなく作業して200日だったら楽勝じゃん
12. 匿名処理班
世界が終わるときの死に場所を見つけたかも。
13. 匿名処理班
地震に強い
14. 匿名処理班
アウランガーバードからバスで行くしかないから、観光客少な目でじっくり楽しめる良い場所だったよ
15. 匿名処理班
逸話だけで実際の破壊工作の記録はないってことなのかな?
時の権力者の力の誇示の為に目をつけられやすそうだけど、冷静に考えて岩は壊すのめんどくさいから他のにしようかってなりそう。
16. 匿名処理班
※11
インドの1日は1年だよー。
17. 匿名処理班
がらっ!話は聞かせてもらった。
宇宙人は存在する!
18. 匿名処理班
最古の3Dプリンターはここに存在した・・・!
19. 匿名処理班
間違って削ったり、削るときに周りの石ごとバコって外れたりしたらどうしてたんだろう。
すげえストレスたまりそう。
20. 匿名処理班
山から彫り出した寺院とは、まるでダンセイニ
というよりダンセイニが東洋のこういう逸話に影響されたと言ったほうが正確か
21. 匿名処理班
自分がこの寺院を造った職人のひとりだったとして、
未来の人間が「宇宙人が作ったんだ!」とか言ってたら自分たちの努力と技術を全否定された気持ちになるわ
22. 匿名処理班
※15
表面のレリーフや像はそこそこの数が壊されていますよ