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幻覚物質シロシビンがなぜうつ病に効果をもたらすのか?人間の「自我」と関連性(オランダ研究)

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(著) (編集)

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幻覚物質の治療効果 / Pixabay
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 幻覚物質の治療効果に着目した研究が急激に増えている。代表的なのはマジックマッシュルームに含まれる「シロシビン」という化合物で、たとえばうつ病の治療効果が期待されるとして、ここ数年ではアメリカ食品医薬品局によって治験も承認されている。

 幻覚物質はなぜ抗精神病薬としての効果が期待ができるのか?人間の「自我」と関連性があったようだ。

自我に作用する幻覚剤

 おそらく、幻覚剤が人に与える影響で一番目を引くのは、自分が自分であると感じる意識――すなわち自我に生じる主観的な変化であろう。これまで多くの使用者が「宇宙との一体感」を味わったと語ってきた。

 こうした自意識と外部環境が渾然一体となる幻覚体験は、研究者をも魅了してきた。1960年代にアメリカの心理学者ティモシー・リアリーがその現象を「自我の喪失」と呼んで以来、「自我の死」「自我の崩壊」「自我の分解」などさまざまな呼称が与えられている。

 自我の喪失は必ずしも好ましいものではない。たとえば統合失調症を患った人が体験するのは、主観的な意識の乱れだ。うつ病、不安障害、依存症、PTSDなども、そうした自意識の混乱を主な症状としている。

 幻覚剤が自我に作用するものであるならば、それよって精神の病気を治したり、さらには自我という体験を解明する手段として利用できないものかと考えたりする学者がいたとしても不思議はないだろう。

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シロシビンは神経伝達物質「グルタミン酸塩」を活性化させる

 LSDやシロシビンといった化合物が、脳の5-HT2Aセロトニン受容体を刺激することで幻覚体験を引き起こしていることに注目した研究は、最近ではかなりの数に上っている。しかしその一方で、それに続いて起きる他の神経伝達物質への作用について取り上げた研究は少ない。

 そこでマーストリヒト大学(オランダ)のナターシャ・メイソン氏らは、自我に関連するとされる脳領域に発現している「グルタミン酸塩(グルタミン酸と塩基が反応したもの)」に対して、シロシビンがどのような影響を与えているのか調べてみることにした。

 グルタミン酸塩は、学習や記憶といった認知機能に関わっている重要な興奮性神経伝達物質だ。さらに統合失調症から不安障害まで、精神疾患にも関係していると考えられている。

 実験では、60名の被験者にシロシビンかプラセボを投与し、「内側前頭前皮質」および「海馬」に含まれるグルタミン酸塩濃度の変化がMRIで観察されるとともに、自我に関する一般的なテストで被験者の主観的な状態が評価された。

 まず判明したのは、シロシビンの投与によってグルタミン酸塩の濃度が大きく変化したことだ。

 幻覚物質によって神経伝達物質セロトニンが変化することはすでに知られていたが、グルタミン酸塩もまた関連していることが人体で確認されたのは初めてのことであるという(ただし動物実験ではすでに実証されていた)。

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グルタミン酸塩の変化量によってネガティブ・ポジティブ体験

 もう1つの発見は、グルタミン酸塩の変化量によって、自我の喪失に質的な違いが生じるということだ。

 全体的なパターンとしては、シロシビンを服用すると、内側前頭前皮質でグルタミン酸塩が増加し、海馬では減少する。面白いのは、前者の変化はネガティブな自我の喪失、後者の変化はポジティブな自我の喪失に関連しているらしいということだ。

 ネガティブな喪失では、思考・意思決定・動作といったものが自発的に行われなくなり、また自制心も薄れる。一方、ポジティブな喪失だと、高揚感や多幸感をともないつつ、離人症的感覚を味わう。

 メイソン氏いわく、ネガティブな自我喪失なら「操り人形」となり、ポジティブな自我喪失なら「周囲との一体感」を味わうことになる。

 また、どちらか一方だけの幻覚体験を味わうわけではないことも重要だ。つまり程度の差はあれど、シロシビンを服用すると、ネガティブ体験とポジティブ体験の両方を味わうことになるのだそうだ。

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脳が自我を作り出す仕組みが解明される日はくるか?

 今回の研究では、内側前頭前皮質と海馬における神経伝達物質の変化が意識を変容させることが突き止められた。しかし、これ以外にも自我に関係している領域はきっとあるだろうとメイソン氏は説明する。

 また幻覚物質が脳に作用していることは分かったとしても、それが一体どのように作用しているのかはまだまだ謎に包まれている。自我の神経化学的な起源が解明されたと言うには程遠い。

 だが、いつの日かそのメカニズムが解明されたとき、より根本的な謎に答えることができるようになるのかもしれない。つまり脳はどのようにして意識を作り出すのか? という大きな謎である。

この研究は、『Neuropsychopharmacology』(5月23日付)に掲載された。

Me, myself, bye: regional alterations in glutamate and the experience of ego dissolution with psilocybin | Neuropsychopharmacology
https://www.nature.com/articles/s41386-020-0718-8

References:Breakthrough psilocybin study uncovers neurochemical origins of human ego/ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 16件

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  1. うつ病の人はスイッチが入ると自我を失い自殺行動をとる場合があるらしい。
    弟の上司によるとある夜に弟が手首をハサミで切って見せに来て、赤い血が
    流れてるって言ったそうだ。後で聞くと弟にその記憶はない。
    もし将来、リアルタイムで脳内のグルタミン酸濃度を把握でき、操作もでき
    るようになったら、そういった自己破壊行動を抑えられるかもね。

    ついでに、私の記憶力も改善してほしい。

    • +10
  2. ダメ、ゼッタイで日本じゃ許可されなそう

    • +4
    1. ※3※7※10※16
      国民には鬱のままで居て欲しいのかもよ。

      • 評価
  3. ネガティブな自我喪失なら「操り人形」
    ポジティブな自我喪失なら「周囲との一体感」
    確立した自己と現実感を失う作用があるみたいですね
    まるで違った側面から抑うつリアリズムを証明しているようで面白いです

    • +4
  4. 彡⌒ミ
    ( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

    髪が戻ったぞフサフサだあぁ

    キノコを食べれはフサフサだあぁ

    • +8
  5. こういうの解禁してくれないかなあ
    俺も救いが欲しい

    • +4
  6. 慈恵医大の近藤一博教授らによる培養細胞やマウスの実験。
    ヒトヘルペスウィルス6(ほぼすべての人が幼児期に感染)
    が体内に潜伏→過労により目覚め唾液中に急増、再感染
    →嗅球の細胞死→海馬での神経再生の抑制→うつ病発症
    (米科学誌アイサイエンス6月11日公表)

    • +6
  7. 健康に良いってさんざん研究結果もでてるのにいつまで違法扱いなんだろう

    • +1
  8. どうなんだろう?
    安易に考えてはいけないと思う。
    シャーマニズム文化ではバッドトリップを避けるため。トリップを集団で行い助け合うことが多い(カヌーを漕ぐてやつ)。
    「ローリングサンダー」でもバットトリップしそうな体験者を支える話があるからねー。

    知り合いがカナダ留学時代、一度だけLSDをやったそうだ。
    で見事に悪い方に…崖からダイブするビジョンを何十回と繰り返し見たとか。
    以来、子供時代の虐待とかフラッシュバックを繰り返すようになって、PTSDの診断名がついたよ。

    もちろんトランスの深さやその個人の資質、人生・体験、薬剤耐性いろいろあるけど、変性意識を扱う文化を持つ指導者を置いて行うのがスマートじゃないかな。

    • +9
  9. ウイルスがうつ病を引き起こす可能性が報告されたね。
    これは「自我」っていうものに対する考え方を変えるかもしれない。
    例えば、自我はひとつの肉体の内部で完結するものではないとか。
    欧米は「自我の消失」とか「自我の分裂」とか大げさに騒いでいるらしいけど、非西洋圏では自我と肉体を別に数えるのは珍しいことではないよね。実感的にも実はそうだ。

    • +2
  10. 日本の場合、うつになる環境を改善したほうが…
    パワハラとかセクハラとかなめらかな横文字にしてるけど、捕虜に対する拷問ばりにひどい状況だったりするからな。

    • +8
  11. 初期のうつ病の大半には何よりも札束が一番効く

    • +2
  12. 『虹』は卓球がインドネシアかどっかの海岸でキノコ食って夕日眺めてる時に出来た曲っていうインタビュー記事読んだ記憶がある

    • -1
  13. うつにはオキシトシンが効果あるじゃなかったか?

    • 評価

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