
N95マスクの再利用を可能にするシステム/iStock
4月13日(現地)、高性能マスクN95の再利用を可能にする除染システムの発注契約を締結したと、アメリカ国防総省から発表された。同システムは、1日でマスク8万枚の除染処理が可能で、現在深刻化している医療機関におけるマスク不足を解消する切り札になると期待されている。
じつはこの除染システムは、ある夫婦の食卓での会話がヒントになって開発されたものであるそうだ。
マスク除菌システム開発のきっかけは夫婦の会話
1ヶ月ほど前、オハイオ州在住のホメマ夫妻が2人の娘とその日の夕食を終えたとき、医師である妻のローリーさんは、勤務する病院でN95マスクの備蓄が減ってきたことで、このような不安を口にした。このまま新型コロナの感染者が増えれば、いずれマスクが手に入らなくなるかもしれない...N95マスクは、労働安全衛生研究所の規格に合格したマスクで、ウイルス入りの飛沫を防ぐことができる。新型コロナ感染者の治療に当たらねばならない医療従業者にとっては、生命線とも言える大切な保護具だ。
ローリーさんの言葉を聞いて、エンジニアである夫ケビンさんはちょっとしたアイデアを閃いた。「洗って、再利用すれば?」と。
「できるの?」とローリーさん。N95マスクは普通なら使い捨てだ。
ケビンさんの頭にあったのは、同僚が5年前に発表した、マスクを除染して再利用できることを示した研究だった。
Final Report for the Bioquell Hydrogen Peroxide Vapor (HPV) Decontamination for Reuse of N95 Respiratorsケビンさんが勤務するバテル記念研究所は、ケミカルハザードやバイオハザードに関連して、幾度か政府と契約を結び、軍にも助言をした実績がある。
https://www.fda.gov/media/136386/download
N95マスクの再利用は可能であると確信したケビンさんは直ぐに行動した。
Young Couple Creates New System To Clean And Reuse N95 Masks | TODAY
わずか15日で食品医薬品局から認可
ケビンさんは、すぐにその同僚に連絡し、かつての研究を引っ張り出すよう依頼。ローリーさんも上司に連絡して、この件を進めていいかどうか判断を仰ぎ、それから除染システムの設計に取り掛かった。オハイオヘルスとバテル研究所の関係者が、このプロジェクトについて話し合うためにミーティングを開いたのは、それから3日後のことだ。あとはとんとん拍子で進んだという。
5日後、バテル研究所に汚染されたマスクが送られ、除染機プロトタイプの試験が行われた。
さらに3月29日には、アメリカ食品医薬品局から除染システムの使用許可が下りた。ホメマ夫妻が食卓の会話を交わしてから、わずか15日目のことだ。

1日に8万枚の処理能力
除染システムは、濃縮された過酸化水素の蒸気を吹き付けることで、マスクを除染する。チャンバーの中にマスクをつるしておけば、2時間半ほどで再利用が可能になる。1日にN95マスク8万枚を処理可能で、こうしておけばマスクは劣化することなく20回は使い回せるようになる。

Battelle Memorial Institute
国防総省と契約を締結、あくまでも緊急事態のみに再利用
完成したシステムは、まずオハイオヘルス傘下の12の病院に導入。さらに、ニューヨークやシアトルの病院でも使用が開始された。そして4月10日、バテル研究所から、国防総省国防兵站局と契約が締結され、医療機関にはこの除染サービスが無料で提供される旨の発表があった。60台の除染システムを稼働させれば、1日に最大480万枚のマスクを殺菌できるという。
現時点では、マスクのみの除染となるが、将来的には医療用ガウンやフェイスシールドといった他の医療器具にも応用できる可能性があるという。
なお、こうしてマスク不足に悩む病院の救世主になるかもしれない除染システムだが、決して万能なわけではないようだ。
バテル研究所によると、除染されたマスクは、呼吸がしにくくなったり、ストラップが劣化したりといった可能性もないわけではないという。
したがって、利用はあくまで現在のような緊急事態のみに限られるべきであるようだ。

医療従事者から感謝の声が届く
先日、ある看護師からホメマ夫妻にメールが届いたそうだ。そこにはこう書かれていた――。先日、ICUに入ったら、N95マスクがどっさり入った紙袋が20個も置いてありました。なんだかクリスマスの朝のような感じがしました!きっとホメマ夫妻に感謝している看護師や医師はほかにもたくさんいるのだろうが、ローリーさんとケビンさんは自分たちが何をやり遂げたのか、まだあまりピンときていないそうだ。
きっかけは夫婦の夕食の会話。その後すぐに論文を引っ張り出して可能かどうかを検証する。ただそれだけのことだったと彼らは言うが、大半はアイディアが浮かんでも机上の空論に終わってしまうことが多い。
彼らの素早い行動力こそが、医療従事者を救う鍵となったのかもしれない。
References:A dinner table chat between husband and wife may help solve the coronavirus mask shortage/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. とらきち
我が家はマスクは「ハイター」に漬けおきして普通に洗濯物と一緒にして洗って再利用してますよ。幾分洗剤は多めにしましたけどね。
2. 匿名処理班
不織布マスクに塩素やアルコールを使うと一気に機能が落ちるからあまりお勧めはしない
ソース元→「Masks/PPE/Cleaning - Stanford Medicine's Box」5ページ目
不織布自体はなんだかんだ売っているので使い捨てフィルターにして、布マスクと併用の形の方がいい気がする
3. 匿名処理班
アメリカはこういうのはほんと素早い。
↑ちょっと気になったけど、マスクに塩素系漂白剤使って
完璧に塩素成分を抜かないで使用したら、コロナとは違う肺炎になるからね!
4. 匿名処理班
日本だと認可まで10年かかりそう
5.
6. 匿名処理班
オゾンじゃダメなのかね?
また、マスク内面に付いた皮脂汚れはどうなるんだろう?
7. 匿名処理班
他人が何時間もつけたマスクを使うのかな・・・?
名前書いておいて自分のものがわかればいいけど。
8. 匿名処理班
ハイターに浸けたら繊維ボロボロになって目が荒くなるやろ。ウイルスヒュンヒュン入ってくるな。
9. 匿名処理班
記事に登場するBattelle CCDS Critical Care Decontamination System(TM)は一度に処理できる数量が多く再利用回数も多く庫内サイズも段違いに大きいのが魅力ですね
全世界で協力できると良いのですが、期待したい
日本のN95マスク再利用についてはニュースにもなっていたと思いますがこちらを↓
元記事の最後のほうにある別件機材と同様のものを認めているようですね
厚生労働省のサイト
自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症)
ttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00088.html
健康・医療
2020年4月10日掲載 の4件目
「N95マスクの例外的取扱いについて」(PDF)
以下URLは「N95マスクの例外的取扱いについて」のPDFが直接開きます
ttps://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf
10. 匿名処理班
>>7
綺麗だけど汚れと汗がっていう気分の問題が発生するね
11. 匿名処理班
むかし在庫処分で買って使ってなかった500ml缶位の大きさのマクセルの低濃度オゾン発生脱臭機があったので、100均で買った装置とマスクが入るプラケースに入れて脱臭されるか試して見てるわ
12. 匿名処理班
>>4
厚労省からN95マスクの再利用に関する文書がすでに出ていますよ。
・手術器具の滅菌に使う過酸化水素水プラズマ滅菌器による再利用、最大2回まで。
・5個1セットにしてローテーションで再利用。
詳細はwww.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf
13. 匿名処理班
※7
BATTELLEのサイトにある内容を見ると、目視で汚損が認められるマスクは処理用収集には入れず病院側で廃棄を求めているようです。処理に回すマスクには使用した人、場所、再生回数などをペンで記入するよう推奨されているみたい。
ペン書きされた使用済み(汚染)マスクは収集・持ち込み用のバーコード付き袋で処理コンテナに運び込まれ(持ち込み袋破棄)、処理が終われば同じバーコードが貼られた新しい返却袋で病院に届けられる。という計画のよう。
ペン書きするのは日本での再生方法も取り入れているようですね。「N95マスクの例外的取扱いについて」にも説明があります。
Battelle CCDS(TM):Personal Protective Equipment (PPE) decontamination for reuse
ttps://www.battelle.org/inb/battelle-critical-care-decontamination-system-for-covid19
14. 匿名処理班
オゾン洗浄が有効なんじゃなかろうかと思って調べてみたら、今メーカーが大学と一緒に実証中なんだと。
15. 匿名処理班
※13
詳しくありがとうございます、参考になりました!
16. 匿名処理班
過酸化水素ってオキシドール?
あれ匂い好き。
17. 匿名処理班
※13
なるほどなあ
使用後にペンで書くと手が汚染されそうで怖くね?と思ったけど、汚染済みのゴム手したまま書き込めば問題ないって感じなのかな。
18.
19. 匿名処理班
※8
ウイルスはマスクの網の目より小さいけど、それ単体でヒュンヒュン飛んでくるわけじゃないことをくれぐれも忘れぬように
20. 匿名処理班
※16
弱い発がん性があるんですけど
21. 匿名処理班
ジップロックに入れて日光消毒でおk
22. 匿名処理班
※12
情報ありがとう。さすがに厚労省も少しは柔軟に考えてくれるようになったのかな
23. 匿名処理班
ペンで名前を書くのか。
そりゃ他人が使ったものは嫌だよなw
24. 匿名処理班
昨日の日経メディカルオンラインでも、マスクの再利用に関してアルコールは禁忌という
記事が出てましたね
登録しなければ全文は見られませんが
2020/04/24「N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌」
西村 秀一(国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター)、阪田総一郎((株)メディエアジャパン)
アルコール洗浄のN95マスクはサージカルマスクにも負けてるというのは衝撃でした
25. 匿名処理班
>>10
現場はそれを気にしていられる状況ではないでしょうな。