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史上初めて液体の永久磁石が開発された。その液体はさまざま形状に変形することが可能で、しかも操作して動きまわらせることだってできるらしい。磁石というと固体の硬い物体を思い浮かべるだろう。
だが、米マサチューセッツ大学アーマスト校のポリマー科学の権威トーマス・ラッセル教授は、「液体の磁石を開発することが可能になった」と話す。その形はまさに自由自在――その気になればウニのような形にもできるそうだ。
偶然完成した液体永久磁石
この液体磁石が開発されたのは偶然だった。それは固体でありながら、液体の性質を持つ物質を作る実験を行なっていたときのことだ。ポスドク課程のリュウ・シュボ氏の目に、酸化鉄という磁性を帯びた粒子で3Dプリントされた素材が、磁性プレートの上でシンクロでもするかのようにくるくる回っているところがとまった。
もしかして粒子だけでなく、全体の構造が磁気を帯びている? ――これが流体の永久磁石開発のきっかけとなった。
流体の磁石を3Dプリント
まず研究チームは、液体を3Dプリントする技術を使い、水と油と酸化鉄からミリサイズの水滴を作成した。この水滴は酸化鉄の粒子が界面活性剤に結合し、水の周りに膜を形成することで形を保っている。また界面活性剤と結合していない酸化鉄粒子は膜の内側に閉じ込められている。
これを磁気コイルの近くに置いて、磁気を帯びさせる。そして再度コイルを外すと、水滴は液体のまま不思議な性質を獲得した――磁気がそのまま残っていたのだ。
Scientists Print Liquid Magnetic Droplets
まるで生き物のような振る舞い
これまで「磁性流体」という液体でありながら磁気を持つ物質はあった。しかし、これはあくまで磁場があるときにしか磁気を持たない。磁場のないところでも、磁気を帯びた液体は初めてのものだ。水滴を磁場に近づけると、微細な酸化鉄粒子は同じ方向に整列する。また磁場を取り除けば、膜の中の表面活性剤に結合する。それでいて水滴の中に自由に浮かんでいるものは、整列したままだ。
その動きを見ていると、なんだか微生物か、スライムのように見えてくる。起き上がって、仲間になりたそうにこちらを見つめてきそうな感じだ。

詳しい仕組みは不明だが、応用は数多い
ラッセル教授によると、酸化鉄粒子が磁場を保ち続けている仕組みはまだ完全にはわかっていないらしい。だが、これが解明されれば、いくつもの応用方法が考えられるという。たとえば、真ん中は磁気を帯びないが、両端は磁気を帯びたキャップで挟まれた筒のようなものがあげられる。「両端がU字磁石のようにくっつく」ので、小さなマジックハンドとして利用できるかもしれないという。
むろん、きっと中には想像している人もいるであろうヤツもある。そう、『ターミネーター2』に登場した液体金属ロボット「T-1000」のような人型デバイスだ。
Terminator Genisys (2015) - Killing the T-1000 Scene (4/10) | Movieclips
ラッセル教授が考えているのは、T-1000よりもずっと小さなものだが、磁性パーツと非磁性パーツを組み合わせれば、外部の磁場を使いマリオネットのように手足を動かせるのではという。
この研究は『Science』(2019年7月19日付)に掲載された。
References:New Laws of Attraction: Scientists Print Magnetic Liquid Droplets/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1.
2. 匿名処理班
グミかな?
3. 匿名処理班
対人で人にぶつかってもボディーで力吸収し人に危害もなく
航空機だと風向や気象にあったボディーに変わり燃費軽減に
役立ったりなど技術革命始まるぞ
4. 匿名処理班
刻々と形を変えた方が都合が良い磁性体…、
ちょっと良い使用用途が思い付かないけれど、
こういう発見がブレークスルーになって、
新しい産業分野が発展して行くかも知れない
何となく、ロボット分野に応用できそう?
回転特性によって磁性体の分布を変えるモーターとか?
5. 匿名処理班
振るだけで発電できる電池とか、発電量によってはさらにウェアラブル端末の電源としても応用できたりするのかな?
6. 匿名処理班
3D型のインターフェースになんか使えないかな
7. 匿名処理班
未来兵器フラグがたっちゃう
8. 匿名処理班
磁気テープに使われるマグヘマイトって酸化鉄は磁化できる。
液体と言っても磁性流体とおなじコロイド溶液。
ローテク組み合わせたら、誰もやってなかった分野だったってことかな。
9. 匿名処理班
液体金属型の医療用ロボットが実現するかな? 人体の内部に注入するだけで自律的に患部に到達し切除・縫合・接着を行えるとか。それこそT−1000のように本体の一部を変形させて極小の作業肢や単分子の切断糸などを形成できるだろうから、これまでは外科的処置が不可能だった脳内の深部も治療可能になるんじゃないだろうか。
10. 匿名処理班
応用効きすぎて我々素人には利用方法が思いつかないヤツだこれ!
11. 匿名処理班
使用用途は無数に上げられそうだ。こういう夢のある発見発明は心が躍る
12. 匿名処理班
要は、液体の中に酸化鉄を含んだものがあって、それが磁石になるわけだよね。
実は、そういう構造を持つ液体は、既に存在している。
その名も、「血液」。
なぜ、脊椎動物の血液は赤いのか、それは、体中に酸素を運ぶための媒質として赤血球中に「酸化鉄」が含まれているから。
とすれば、今回の技術って、案外「人工血液」を作ることに発展させることができるのかもね。
13. 匿名処理班
とりあえず「鋼の錬金術師ごっこ」に使えるな!
14. 匿名処理班
酸化鉄を超微粒子にしたらナノロボットが作り放題ってこと?すごい!
15. 匿名処理班
これでモーターとか作ったら
どうなるんだろうか?
今まで考えた事も無いような物が
生まれるような気がするわ
16. 匿名処理班
※12
酸素の運び手としての鉄には磁性は必要ない
酸素は鉄とポルフィリンの錯体であるヘムを形成した上で結合するので酸化鉄ではない
赤血球が磁場に反応するのは細胞膜の脂質二重層や膜貫通タンパク質の反磁性磁気異方性によるもの、らしい
一方ヘモグロビンは単体で常磁性を示すが、これは外部磁場がないと磁性を示さないので通常は記事にある「磁石」という言葉は使わない
17. 匿名処理班
そもそも磁石ってのも子供心に折れた磁石が二度と同じところではくっつかないってあたりから不思議なものだったよね「Sだけ極みたいなのなんでないんだよ!」ってね
磁性流体は昔TV番組で正体不明な不思議な生き物?みたいな紹介されてた。
ほんと昔から視聴者騙す気満々だよな。
科学の世界あるあるで原理はわかっていないが経験上こうなるのは確実なので利用してしまうのが面白怖いところ。
18. 匿名処理班
永久磁石と言っても、時間や環境によって磁力が弱まったりするのだけど
そのあたり性質は、物質によって大差があるんだけど どうなんだろう。
また、弱まっても簡単に着磁したりして磁力を復活させる事ができるのだろうか。
19. 匿名処理班
3Dプリント基板とかによさそうだな
20. 匿名処理班
※18
永久磁石は基本的(錆びたり熱したりと外部的な要因がない限り)に永久だぞ
一般的な磁石を放置して磁性が無くなるってのは磁石の磁極が完全に一定方向に向いていないから他の磁極と打ち消し合って無くなるだけ
永久磁石は磁極が完全に一致しているから基本的に消える事はない
21. 匿名処理班
当たり前の話だが磁力に関する発明は電気に密接な関係があるから
即時的に現代社会に大きな影響を与える可能性が高そうで夢があるわね
22. 匿名処理班
ほんま?すごないかこれ。
23. 匿名処理班
マーグネータイトー
えー、マグネタイトは
いらんかねェー
24. 匿名処理班
「フェリコロイド」とは違うのか?
25. 匿名処理班
釣りのリールにあるよね。ダイワのマグシールド技術
あれと何が違うの?
26. 匿名処理班
でも、高いんでしょ。 僕はB級磁石でいいです。
27. ふと疑問が浮かぶ
磁性粒子を含む流体と、どう違うのだろうか?
また、そもそも液体と固体は、明確な区別があるのだろうか?
粒子の間隔・密度が、どの程度なら液体で、どの程度なら固体か、はっきり区分けできるものだろうか?
水の場合は、常圧の0度と100度で、状態変化が起きるとされている。
――氷、水、水蒸気。そのように学んだ。
しかし、大人になった今になって考え直してみれば、疑問が浮かぶ。
果たして、「氷と水の間は、一切ないのか?」、「水と水蒸気の間は、一切ないのか?」
その状態変化の、まさに変化の最中の、どちらともいえない状態のとき、それは、固体なのか? 液体なのか? 気体なのか? プラズマなのか?
はたまた、現在の科学では、「そこまで定義しない」なのか?
現実というものは、理論上の数学などのように、明確、とは、限らない……
ことに、観測機器にさえ、完璧というものは、ないのだから・・・
28. 匿名処理班
10数年位前に日経の記事に掲載されたのを見た記憶だけれど、児玉教授が発表した磁性流体とは別?
たしかモルフォタワーって名前のトゲトゲを見た・・・。
29. 匿名処理班
3Dプリンターで液体を作るってどういうこと?
固体を作るものじゃないの?
自分の頭ではそこからもう理解不能
30. 匿名処理班
ターミネーター2の敵みたいなのはコメント欄で俺たちが書くもの
31. 匿名処理班
見てるとなんか愛おしくなってくる……
32. 匿名処理班
※28
磁性流体なんてNASAが50年も前から使ってたローテクでしょ
油に磁性粒子ぶっこめば誰でも作れるよ
今回のは磁石そのものが液体だから別物だよ
33. 匿名処理班
こういった技術がブレイクスルーするきっかけになるんだろうな〜
色々と使えそうだよね。あれとかあれとか…そうだ!あれもだな!
34. 匿名処理班
>>3
>航空機だと風向や気象にあったボディーに変わり燃費軽減
この技術で何がどう変わっていくのかさえ分からんかったけど、ファンタジー未来がリアルで始まるんやな
35. 匿名処理班
スライムというオモチャに鉄粉混ぜる遊びがあってだな…
36. 匿名処理班
このタイトルおかしいでしょ。
論文は磁性流体の微小な液滴を作ることができたというもので、液体の永久磁石は強磁性体微粒子の磁性流体で今までに良く知られているものです。
37. 匿名処理班
>>20
そう言う意味だと流体磁石は永久磁石より永久ぽいね。
38. 匿名処理班
※27
「相転移」で調べてみて下さい。奥深いテーマです。
39. 匿名処理班
※11
磁石って原理がわかっていても実際見たら不思議な現象が色々あるよね
40. 匿名処理班
子供の頃ミクロマンのタイタンやマグネモのガ・キーンとかで砂場で遊んだら悲惨な事になったな〜
41. 匿名処理班
科学の世界は詳しくないけど、時々こういうバグとかチートアイテムみたいなものが見つかるのがホンマ好き
42. 匿名処理班
ででんでんででん
たらら〜〜
43. 匿名処理班
液体磁石を入れたチューブをコイル状にして、その液体磁石を高速で循環させると…
44. 匿名処理班
読んだ限りでは実用性はまだ無いし、これを使って直ぐブレイクスルーが起きるような物ではないけど、こういう基礎研究は未来における科学の選択肢の増加に寄与するので非常に重要だと思う。
45. 匿名処理班
※28
サイエンス アート作品として評判になりましたね。
46. 匿名処理班
磁性物資をコロイド上に溶かしたもの、液体軸受けとかでとっくに実用化されている
47. 匿名処理班
とても小さい水滴の磁石ってことは
コピー紙みたいな薄さにも成形できるのかな?
これで磁力も強力なの創れたら
HDDも薄くなるかもなあ
48. 匿名処理班
液体やうの3Dプリンタってとこと、鉄錆って磁力持つっけ?て辺りで思考が止まってしまって
49. 匿名処理班
リアルぷよぷよやん
50. 匿名処理班
イゼルローン要塞の様な流体金属の膜としても利用できるのかな?
51. 匿名処理班
※50
トールハンマー(゚∀゚)キタコレ!!
問題はどこまで硬くできるかどうかだな
52. 匿名処理班
患部へ薬を届ける方法
53. 匿名処理班
もしかして3Dプリンターって現代人類にはまだ早すぎる代物の可能性
54. 匿名処理班
人間の血液に入れて回転させれば詰まった血管を掃除したり、血流を良くしたり出来る?
逆に特定の場所で固定すれば栓、蓋みたいな使い方とか?
55. 匿名処理班
ナノマシン技術につながっていきそう
56.
57. 匿名処理班
いやーこれは凄いね。久々にワクワクしたよ
海外は軍事利用考えるだろうけどきっと日本はエログッズや医療系に応用してくれるだろうなw
58. 匿名処理班
完全に液・スライムなターミネーターまでは行かなくても
電気+液状・ゲル状の流体磁石を循環させ駆動や緩衝に利用するロボとか出来そう
駆動用の流体磁石が使いようで力を吸収するとか反発するバネにもなる
破損個所から流れ出てるのもオイルで無く流体磁石だとか
モーターでもシリンダーでもない今まではありえん構造の
未来兵器フラグだな
59. 匿名処理班
>>28
あれは磁石に反応する液体。
今回のは磁石と同じはたらきをする液体ってこと。
60. 匿名処理班
Agents of S.H.I.L.E.D.に出てきたグラビトニウムみたい。
61. 匿名処理班
要するに従来のものは液体に磁石混ぜたもので、
今回のものは磁石そのものが液体になるレベルに細かいってこと?
また私の膝にも磁力があるのか
猫がくっついて液状化するのですが
これも液体磁石でしょうか?
教えて詳しい人
62. 匿名処理班
なるほどわからん
液体を3Dプリントするからわからん
63. 匿名処理班
保磁力がある磁性流体かな?
キラリティーで分散してるのかな?
強誘電性の液晶の磁気版材料みたいに使えたら、LCDを駆逐できそうだ。