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日本でも今年は連日の梅雨曇りで日照不足が続き、農作物への影響が懸念されているが、ヨーロッパの一部の地域では毎年、日照量が乏しくなる時期がある。そのため、LEDの人工光を使用した室内で作物を育てる試みが流行の兆しを見せており、ハーブ、レタス、トマトといった市場価値の高い作物を一年中光で照らされた温室で育てられている。
このやり方ならば、土地の限られた都心部でも農業が可能になり、さらに地方から都市まで作物を運送する必要もなく、都会にいながら地産地消を楽しめる。だがこれまで、人工光を照射するコストが高いことが問題となっていた。
そこで今回、コストを削減できる人工光の照射方法が研究された。
光と闇のサイクルを短くすることで効率化
基本的に、室内温室栽培では赤と青の発光ダイオードが使用される。その電気代はときに生産費の25パーセントを超える。これでは太陽の光を無料でふんだんに使える地域での農業には太刀打ちできないし、温暖化を引き起こす二酸化炭素も大量に放出されてしまう。
そこで、30年以上植物の成長と光との関係を研究しているアメリカ・フロリダ大学のケヴィン・M・フォルタ氏は、更に効率的な方法を模索した。
12時間毎の昼と夜のサイクルを繰り返す代わりに、数時間あるいは数分単位のもっと短いサイクルで植物を育てられないだろうかと考え、光の総量としては同じでありながら、それを色々な間隔に区切って植物に浴びせてみるという実験を行うことにした。
1万円札と1円玉1万枚は同じ?
いうまでもなく、植物が光を必要とするのは光合成のためだ。太陽のエネルギーを使って、二酸化炭素と水を結合し、代謝を支える糖を作り出す。また光には成長する方向を導くという役割もある。このように植物にとって光はとても重要なものであるために、それを細かく分けてしまえば問題が生じるかもしれない。
想像してほしい。あなたは1万円札を手に入れればウキウキしてくるだろうが、同じ金額であっても1円玉1万枚ではあまり気分が上がらないだろう。
植物もこれと同じで、同じ量の光であっても、細かく分けられてしまえば、うまく育ってくれない恐れがあった。
実験でも予想どおりの結果となった。ケール、カブ、ビートのタネを光の照射を12時間、照明を切り真っ暗な状態を12時間というサイクルで4日間にわたり育ててみたところ、普通に成長し、色素が蓄積され、大きくなった。
だが光と闇のサイクルを6時間、3時間、1時間、30分で試してみると、タネはそれを拒絶した。光の総量は同じだったのに、それを細かくしすぎるとダメだったのだ。
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光と闇のサイクルを短く縮めれば、植物体内時計に関係しない
同じ量の光であっても短いインターバルで当てると、植物にとっては暗闇の中で育っているのと同じになってしまう。フォルタ氏は、光と闇のサイクルが植物の体内時計と一致しておらず、タネが今何時なのかわからないことが原因ではないかと考えた。その結果、光を求めて背を伸ばし、色素を作り出すプロセスが停止してしまうのだ。
ところが、光の照射サイクルをさらに細かくすると驚くべきことが起こった。
光と闇のサイクルを5秒間隔にまで縮めると、植物は普通のサイクルのときと同じように成長したのだ。ここまで短くしてしまうと、体内時計が起動せず、数秒間隔の光であってもそれほど気にしなくなるようだった。
88年前の結果の再発見
だが、じつはこの発見は、88年も前にすでに知られていたことの再発見だったようだ。米農務省の科学者が1931年に同じ現象を確認していたのだ。その実験は成長した植物を対象としたものだったが、今回のタネの実験と驚くべき類似を示していた。
またフォルタ氏の実験は古い結果の再現だっただけでなく、電気代の節約にもならなかった。24時間5秒間隔のサイクルを続けたときの電気は、照明を12時間点けっぱなしにしたときの電気に相当する。電気の使用量は何も変わっていないのだ。
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闇の時間を長くすることで電気代の節約可能
では、今度は闇の時間を長くしてみたらどうだろうか? 5秒光を点けたら、10秒消すといった具合だ。こちらの実験は1931年当時はやられていない。すると、植物は多少暗い時間が延びたからといって気にしないことがわかった。光合成と生体作用のために5秒光を当てて、それから10秒間あるいは20秒間光を消すというやり方でも、光と闇をそれぞれ同じ時間繰り返したときと同じようにタネは成長した。
これを室内農業で行えば、少なくとも30パーセントは電気代を節約できるだろう。コストがネックだった室内農業にさらに競争力持たせることができる。
この結果はリーフレタスでもうまくいった。そして、こちらの場合では、葉っぱがより大きく、色が紫ではなく緑色になるレタスもあった。これを利用すれば、作物の種類を増やすこともできるだろう。
iStock
都心にある最新設備の高層ビルで作られた新鮮な野菜――近い将来、そんなことを売り文句にする農業が登場するのかもしれない。References:Micro-naps for plants: Flicking the lights on and off can save energy without hurting indoor agriculture harvests/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
葉の陰であろうとも苔は生す
2. 匿名処理班
植物は太陽光だけでなく、隣の植物の気分(アロマで情報のやり取りをしてる)や根から取り入れるその他の情報など、きっと未解明の何かも得てるんだと思われるので、そっちの研究も進むといいな。
フィトケミカルと呼ばれる人体に有用な成分は、その植物が自然界で何かを相手に頑張った結果得た成分なので、その全てが整うとなれば、やはり田舎の地産地消に勝るものはまだないと思う。
3. 匿名処理班
「天気に左右されなくなる」って言うことだけでも相当コストダウンなんじゃないかな?(金銭的、人的、時間的、総合的に見てのコストね)俺は洗濯物を外に干すのを7年くらい前にやめたよ、扇風機を使って風をあてるんだけど、その角度と時間をちょっと調整するだけで、かなりしっかり乾くよ。一番のメリットは「やっべー、雨だよ」って勤務中に思わなくて済むってことだね、一番手強いお風呂の足拭きマットでもカサカサに乾くよ。
4. 匿名処理班
青と赤の植物用LED買ったけどやっぱりまだまだ出力が弱くて
ちょっとLEDだけじゃきついなぁ・・・よほど光を収束できるような設備があるなら別かもしれんけど
鏡で囲ってみるか?
5. 匿名処理班
普通に太陽光を活用すればいいのよ
現在の技術力では人類は太陽のない場所で生存は無理よ
だったら利用できるものは利用した方がいいのよ
太陽光を発電以外に、作物に照射して活用すればコストは抑えられるでしょ
核融合発電が実用化されれば状況はガラッと変わるのだから、それまではね
6. 匿名処理班
想像しただけで目がチカチカしてきた…
付けて消してって以外と電気代使うんだよね
7. 匿名処理班
太陽光が足りない所でなら役に立ちそうだな
けど今後はソコが問題な地域以外が増えて行く気がするが
今の日本の場合は過剰な雨風かね
8. 匿名処理班
※5
そのとおりだ
室内栽培なんて努力の方向性が間違っている
温暖化を促進し栄養もない作物作っても害になるだけ
人類の叡智の結集である段々畑こそが
最大の土地の有効活用だと確信している
9. 匿名処理班
>>8
地球外での栽培とかも視野には入ってんじゃないのこういう実験は
10. 匿名処理班
良い情報でした。ありがとう。
11. 匿名処理班
※8
段々畑もいいと思うけど
室内栽培そのものを否定するつもりはないわ
天候に左右されず虫や動物の被害も防げて
安定して栽培できるというのは大きな強みだから
室内栽培になると太陽光を使わないのが
もったいないと言いたかったの
室内栽培でも日中は普通に
太陽光を取り入れればいいじゃない
日中の間にライトを照射せずに済むなら
コストを大きく削減できるわ
12. 匿名処理班
※8
まず冒頭から記事をちゃんと読んで下さい。
日照不足が毎年起こるから代替案として研究してるということです。天然の太陽光ですべて問題なく栽培できているんなら、なにもコストをかけて設備を作ったりしないんです。
日本だって、日照不足からくる野菜の値段の高騰はよく報道されるでしょう。安定供給に向けた努力の何が「間違ってる」んですか?
13. 匿名処理班
「なるほど。」と記事を読んで水槽でモサモサ育ってる水草を眺めてる。
14. 匿名処理班
光が当たらない夜も作ってあげないと植物は疲れるよ。
初めはいいだろうけど
動物が夜に寝ないといけないみたいに。
15. 匿名処理班
>>11
太陽光を使わなくてもよくなれば縦に大きく積んだビル型農場や地下型農場ができるようになって日照量不足だけじゃなく耕地面積不足への解答にもなりうるのが大きい。
太陽光を使える所では使えばいいのは確かだけどそれには十分な広さの土地を確保しなきゃならないからこそ、そうした土地の確保が難しい都市部でも大規模な農業ができるようになる可能性を持つ完全室内栽培が研究されてる。
16.
17. 匿名処理班
※15
縦に大きく積むといっても光を当てることはするのでしょ?
だったらその部分を日中の間だけでも日光で代替できないかしら
鏡などで日光を反射させるだけでも効果はあると思うのだけれど
積み方や反射方法を工学的に計算して設計すれば
地下でもビル型でも無電源でも可能だと思うわ
18. 匿名処理班
この記事の肝は、人工の光による植物栽培ではなく、消灯と点灯の時間でより効率よく育てることができるか、あとはランニングコスト削減ってとこかな
日本だと南極大陸の昭和基地での野菜不足解消にNECがビタルックスという蛍光灯を開発していて、何十年も前からやってきたことで、今もビオルックスという商品名で販売されてる
光が紫っぽいのは、光合成に必要な色温度が赤色と青色だから
19. 匿名処理班
大型ごみに出そうと考えてた大きな光美顔器…もう一回使うか
20. 匿名処理班
>>17
だから天候に左右されない環境下でって言ってんでしょうがよ
何で理解できないのかね
21. 匿名処理班
屋内栽培の最大のメリットは「耕作面積を多層化できる」だよな。
22. 匿名処理班
※14
だから、そのほんとに疲れるの?ってのを実験してるのがこれでは
むしろ、休ませる時間(電気代の掛からない時間)を長くしたいってのが研究の目的
23. 匿名処理班
※17
光ファイバーで導光するってのはある
24. 匿名処理班
これは有意義な研究
25. 匿名処理班
この手の技術は実は日本ですでに何十年も前から生産者レベルで実装されてたりする。
有名なのは電照菊とかイチゴの電照栽培かな。
強制的に花芽分化させる際の冷蔵時にLEDを当てると、本来なら光不足で白っぽくなる葉が青々とした元気の良い葉のまま冷蔵処理をクリアすることまで分かっている。
地味に莫大な費用と年単位の時間がかかるから、こんなことをやれるのは県立農業試験場クラス以上が東〇やク〇レ、日〇紡辺りの大企業と共同で研究しないと無理だけど、悲しいかな、公務員には移動があるのでどうしても研究が途中でストップしてしまう。
大学の研究機関が現場レベルにまで降りてきてくれたら、日本は世界一の農業生産国になれるのに本当に残念。
26. 匿名処理班
電気代と水代、カビ対策などコストが釣り合うかどうか
27. 匿名処理班
日本だと一般企業に籍を置いて就労する作業所(複数の企業の障害枠を埋めつつ農園で就労するタイプ)が工場栽培やってるよん。
就労する人の心身弱くても車椅子でも働けるのが人間にとってはメリット。
時給いいから一瞬転職しようかと思ったわww
私はまだオフィスワークで頑張るw
28. 匿名処理班
>>25
欧米では飲食店やスーパーに野菜工場が併設されて店産店消というものも普及していますよ
29. 匿名処理班
農業不可能な過酷な環境の地域では
トータルで安上がりになるかもしれないが
土と水と日光に恵まれた地域では
従来の農法より安上がりになることは
無いのでは。自然災害のリスクを差し引いても
従来の農法は安上がりで無駄がない。
30. 匿名処理班
>>17
それは最終段階であってまずは無太陽光での大規模農法の技術を確立してから太陽光の併用によるコスト削減の手法を模索した方がいい。
それにいくら太陽光といえども単位面積辺りの照射量には限りがあるから反射にしろ集光にしろそれ相応の広さの被照射面積が必要になるからどれだけ弱くても平気な状況を作る必要があるんで結局人工光のみでの技術は用意しとかないかん。
31. 匿名処理班
※12
>温暖化を促進し栄養もない作物作っても害になるだけ
理解できないの?
32. 匿名処理班
>日本でも今年は連日の梅雨曇りで日照不足が続き、農作物への影響が懸念されているが、ヨーロッパの一部の地域では毎年、日照量が乏しくなる時期がある。
すごく勘違いしている人が多いが、数年に一度の悪い時期に合わせて地球資源を消費する室内生産環境を作ると、平常時にも地球資源を消費する室内生産環境を利用するから良くないって言ってんの
天候が悪い時期にはその作物我慢して別の作物食えよ
贅沢なお前らが地球環境汚してんだよ
宇宙なんて行く前に人類絶滅してんだから考える必要ないの
人類が地球以外で生存できると本気で思ってんのかね
能天気にもほどがある
33. 匿名処理班
※8
俺は百姓だが、あなたがそうじゃない事だけはよく分かるよ
34. 匿名処理班
>>29
そりゃコスト増を代償に供給量の天候によらない安定化を得るための技術だからな
導入によるコスト増と安定供給を天秤にかけてそれでも導入側に振れる余地を増やすためにできるだけコスト増を押さえられないかって研究をしているって話よ
35. 匿名処理班
※32
勘違いしてるようだけど、これは省資源化、省力化、省エネルギー化、省地化の研究だよ。
キミの頭の中の植物生産プラントとは真逆のものだよ。
36. 匿名処理班
なんつーか、ドケチ感のある(っつうかそのもの)な研究だな。
産業と言っていい規模で都市農業・屋内栽培を展開するには、極めて重要な研究ではあるが。
37. 匿名処理班
※31
大変な勘違いをされているようなので一つ教えて差し上げますけど
LEDで栽培された野菜の方が栄養価が高いんですのよ
ググってごらんなさいな
38. 匿名処理班
喪服を着たオールバックの男「この野菜はできそこないだ、食べられないよ」
39. 匿名処理班
農家を継がない人間が多いのだから工場農家もありだと思う。
要は割に合わないから誰も農家をやらない訳で
生産物に対する更なる省力化によって農業革命が起これば良いな。
40. 匿名処理班
>>32
自分で引用した文章に「毎年」って書いてあるのに「数年に一度の悪い時期」とは。
そもそも、日照不足になったら作物はだいたい不作になるんで「別の作物食え」は通らない。
41. 匿名処理班
※31
※32
単位面積あたりの収量と必要なエネルギーのバランスが、路地栽培より大幅に劣り、改善する見込みがないのならわかります。しかしLEDが普及したことにより、電力消費が大幅に低くなり、コスト面と環境負荷を低減できる可能性が高くなった。その高効率化を狙ったのがこの記事の研究目的。
そして室内で育てたから栄養価が低いというのは過去の常識になりつつあります。特定波長の光をコントロールして、栄養価や味に関しても遜色ないものが出来ています。
「平常時に室内栽培技術がバックアップとして存在する」ことは有意義だと思いませんか?従来の農法はもちろん優れていますが、一般的に重労働であり、風水害に影響されやすいことは、それを維持することに多大な労力と不安定な要素が常につきまとうことを意味します。人類の叡智がそれを解決しようとするのは悪ですかね?
宇宙での生活はさすがに遠い未来のことでしょうから、悲惨な未来を想像するより、能天気に他の恒星系で農業やってる夢でも見てたほうが楽しいですねw
42. 匿名処理班
※21
しかも、農薬の使用はこれまでの必要最低限以下にできるのも大きいよな。
さらに決まった量が決まった時期に収穫できるのは流通面でも助かる。
43.
44. 匿名処理班
日光に匹敵するエネルギー源なんてそうそうないが、
太陽光ほどのエネルギーは必要ないってことは、太陽光に拘らず(LED光らす電力に変換できるなら)任意のエネルギー源で農作物を栽培できるってのは朗報だな。
南極や北極が一大耕作地になる日も近いかもしれん。
45. 匿名処理班
米も作れるようになれば長雨等の災害や日照不足に煩わされる事も無くなるし、労働時間の固定(9時〜17時の労働)にも繋がるのにな。
46. 匿名処理班
植物も受けた光エネルギーを一から十まで活用できてる訳ではないんだね
そこを効率化することで生産量が伸びるのいうのは一種のエネルギー事業でもあるな
47. 匿名処理班
地道な研究をありがとう🙇♀️
48. 匿名処理班
やがて人類がスペースコロニーで生活を始めようとするならば必要な技術だ
49. 匿名処理班
パルス光の試験は昔からやられてるけど、作業者への影響ってどうなんだろう…