
image credit:photo by youtube
トリックアートの一種に、水平方向と垂直方向を入れ替える、というものがある。例えば、床に実物大の塔の絵が描いてあって、そこに這った状態で写真を撮ると、誰でもお姫さま(あるいは王子さま?)を助けに来たヒーローになれる、という仕組みだ。というわけで、この写真も石畳の上にヤギを寝かせて撮ったんだ…なんてことはない。これは正真正銘、ほぼ垂直のダムの壁面なのだ。そしてそんな場所に平然とたたずんでいるのは、アルプス・アイベックスである。
その名の通り、普段はヨーロッパアルプスの斜面に暮らしているアイベックスだが、時にはこうしてダムに現れることも。それは単なる物見遊山ではなく、生存をかけた理由があるのだそうだ。 この動画は、スイスとの国境付近、北イタリア・ヴァッレ・アントローナ自然公園のチンジーノ・ダムに集まるアルプス・アイベックスを撮影したものだ。
Alpine Ibex on Dam - hybridwildlife.com
アルプスの高地に暮らすアイベックス
アルプス・アイベックスの主な生活領域は、ヨーロッパアルプスの切り立った、岩だらけの険しい崖だ。標高2,000m〜3,000mにある樹木限界線のさらに上である。だが、アイベックスもずっとそこに留まっているわけではない。動物である以上、エサを食べずには生きていかれないからだ。
春から夏にかけては、アイベックスは樹木限界線より下に降り、緑豊かな緑草高地や針葉樹林帯でエサを食べる。雪が降り出す前に、冬を越すのに十分な栄養を蓄えておくのだ。
そして、冬の間は樹木限界線を越えて、捕食者の近づけない天然の要塞で暮らすのである。
しかし、これだけではアイベックスがダムに現れる理由の説明にはならない。

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草食で不足する栄養素は?
カロリーが十分摂れたとしても、ほとんどの草食動物と同様、アイベックスの食生活にも不足している栄養素があるのだ。塩分をはじめとした基本的なミネラル類である。これを補うために、草食動物は塩が滲み出している土や岩塩をなめる。塩場と呼ばれるものだ。
この習性を利用して、例えば猟師がシカを獲る際に、塩を撒いて人工の塩場をつくり、そこに集まるシカを狙う、という方法が用いられることもある。
春先には、アイベックスの身体は特に塩分を必要とする。アイベックスが岩塩を舐めている姿も観察されるが、天然の塩場は常に手ごろな場所にあるとは限らない。
ダムが塩場として機能する
そこでダムなのだ。アイベックスにとって、ダムは「常にそこにあり、豊富なミネラルを提供してくれる」便利な塩場なのである。
image credit: Fulvio Spada/Flickr
他にも、ロンバルディのバルベリーノ・ダムやピエモンテのロッサ湖ダムでもアイベックスが見られるとのことである。

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ダムの材料であるコンクリートは、硬化する過程でエトリンガイトという鉱物を生成する。エトリンガイトはカルシウムとアルミニウムの化合物で、コンクリートに20%程度含まれるそうだ。他の草食動物には不可能だが、アイベックスならば、ダムの壁面を登ってこれを舐めることができるのだ。アイベックスの蹄は二つに割れていて柔らかく、どんな小さな足掛かりをも、しっかりと握ることができるのである。

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アイベックスの運動能力であれば、ダムの壁面を転げ落ちる心配はいらないだろう。彼らは生粋のロッククライマーなのだから。でも放水の際の警報には十分に注意してくれることを願う。
References: Amuzing Planet など / written by K.Y.K. / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
高所恐怖症のぼく、震える
2. 匿名処理班
大きな角のだんなだ!
おんじがハイジに作った木彫りのやつ思い出したけど
ダムの壁まで登っちゃうのか
すごいわ
3. 匿名処理班
ヤギが近所で放牧されてるが周辺の草地全部食いつくし
すっかりきれいになってしまった
1匹でもこの最強、このダムの塩分大ピンチ〜(?)
4. 匿名処理班
狼:「下で待ってるからごゆっくり〜」
5. 匿名処理班
猿もコレやるんだよね。日本のダムではニホンザルがこれやってる。
しかし近ごろは道路に蒔く融雪用の塩化カルシウムのほうが色んな意味で楽で手軽で場所も多いんで、猿も鹿もカモシカもこっち舐めに来るらしい。
6. 匿名処理班
シコルスキー「俺も垂直の壁を登れるぞ!」
7. 匿名処理班
まぁたまに落ちて死んでるんですけどね
8. 匿名処理班
ボルタリング選手もビックリだね。
9. 匿名処理班
ダムの鉱物摂るのか
コンクリから化学反応で湧いたミネラルとか聞くと凄く体に悪そうだけど大丈夫なんかね
10. 匿名処理班
日本にも線路の除雪材舐めに来るシカがいたな
11. 匿名処理班
一般的なダムは平らな型枠でつるんとした仕上げが普通だけどこういう仕上げは初めて見た。石積み風の型枠や凸凹した型枠も建築物の意匠として存在するけど、山羊さんのためにあえてこういう仕上げにしたんだろうか?
12. 匿名処理班
人間は良いロッククライミング場を作ってくれたな?
崖登りの練習にはなるし、塩も補給できるし、
外的から身を守れるし、言う事なしの集会場だ
13. 匿名処理班
肉球が柔らかいらしいがヒヅメだからね。為せば成るの精神で進化したのだろうね…まさか人生哲学を学ぶとは思わなかったよ。
14. 匿名処理班
昔、崖から崖へ飛び移りながら地上へ降りるアイベックスの動画を見た事がある。本物かわからないけど。
15. 匿名処理班
塩分じゃないような気がするんだけど、いいのかい、アイベックスくん。
16. 匿名処理班
>>15
塩(しお:NaCl)じゃなくて、塩(えん)の方じゃない
17. 匿名処理班
全然関係ないけどアイベックスボーイを思い出した。
18. 匿名処理班
あまり柔軟性に優れた体の作りしてなさそうなのにな・・・
19. 匿名処理班
いつもギリギリで生きていく、こういうのがロックな生き方というものなのか
20. 匿名処理班
源義経が見たら馬で行って転落死しそうだな。
21. 匿名処理班
※6
ふ...ふしゅる...ふ... ダヴァイッッッ!!
22. 匿名処理班
こんな映像偶に見るけど、どう考えても崖側に重心が寄ってて、普通だったら落ちるとしか思えないんだよなあ。
23. 匿名処理班
そこに壁があるから‼! To Be Continued
24. 匿名処理班
※22
それな
物理法則おかしくないかってなる
25. 匿名処理班
これ垂直じゃないから!!