
ドイツでも恐怖によって子どもたちを躾けるというむきがあったようだ。19世紀に発行されたハインリヒ・ホフマンの子供向けの絵本もじゃもじゃペーター(1845年)には、きちんとできない男の子がその結果、悲劇の顛末を迎えるというお話なのだが、あまりにも悲劇すぎてトラウマ化決定なのだ。
その初版がニューヨーク公共図書館に所蔵されており、ホフマン自らが彩色したオリジナルの挿絵が公開されていた。
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きちんとできないことで、みんなから超絶嫌われていく
『もじゃもじゃペーター』は、医師でもあった作者のホフマンが書き綴ったのは不気味な寓話だ。主人公は、スープを飲まずに死んでしまう少年、犬に噛み付かれ苦痛に身悶えする少年、指しゃぶりをしすぎたために指を切り落とされてしまった少年などである。
もじゃもじゃペーターの罪は、絶対に爪を切らず、風呂も入らず、髪も整えなかったことだ。罰として誰からも嫌われた。

希少な初版
この本のオリジナルの題名は『Lustige Geschichten und drollige Bilder mit 15 schon kolorirten Tafeln fur Kindervon 3–6 Jahren(3歳から6歳児のための、15枚の美麗に彩色された滑稽な挿絵と愉快な物語)』であった。その貴重な初版はニューヨーク公共図書館に所蔵されている。ここで紹介している挿絵は、そこに掲載されているホフマン自らが彩色したオリジナルである。
図書館がこれを購入した1933年当時、現存する初版として知られているものはわずか4部しかなかった。
6つの物語で構成される絵本は15ページで、しかも片側にしか印刷されていないごく薄いものである。

ホフマンの3歳の息子へのクリスマスプレゼントだった
ホフマンの言によると、本は3歳の息子へのクリスマスプレゼントとしてまとめたものらしい。学者のウォルター・ザウアーによって、ホフマンが子供の患者向けに長年にわたり物語を書き綴ったことを示す証拠も発見されている。そして当時のドイツ出版業界に顔のきく書籍クラブの友人の勧めで、出版の運びとなった。初版は少なくとも1,500部、おそらく最大で3,000部が刷られた。ホフマンが友人へ宛てた手紙には、だいたい2年で完売し、増版が決まったことが記されている。
2版からは徐々に改訂が加えられ、挿絵が変更されたり、もじゃもじゃペーターが表紙になったり、いくつか物語が追加されたりした。

指しゃぶりがやめられない少年の末路
根強い人気を博すようになり、1848年までには第6版、計2万部が発行されていた。最も有名な物語は「指しゃぶり小僧の話」だ。コンラッドという少年には指をしゃぶる癖があり、止めないと指を切り落とされてしまうと母親から注意されていた。
しかしどうにも我慢できず指しゃぶりをしてしまうと、仕立て屋が現れて指を切られてしまう。この不気味な仕立て屋はすぐに教会のカノンに登場するようになり、さらにW・H・オーデンの詩やティム・バートンの『シザーハンズ』をはじめとするさまざまな作品でも取り上げられた。

いけないことをした子どもには容赦ない描写
ホフマンは登場人物の子供に容赦なかった。いけないことをした子供は必ず罰を受けている。「残酷なフレデリックの話」のフレデリックは動物をいじめてばかりで、ハエの羽をむしったり、鳥を殺したり、猫を階段の下に落としたりしていた。


しかし野ウサギが主人公である話もある。


が、「真っ黒な男の子たちの話」は少々違う。これは3人の白人の少年たちが黒人の少年を肌の色を理由にいじめる話である。
この物語は現代なら出版できなかっただろう。挿絵に描かれる子供たちは、白人の少年が服を着ているのに対し、黒人の少年は腰巻姿で、人種差別的な表現である。
黒人の少年の肌の色をからかった少年たちは実際罰を受けているのだが、その罰は黒いインクに浸されて黒く染められるというものだった。
この話の教訓は違いを受け入れることを学ぶべしだったのかもしれないが、黒人であることを汚名として扱っているのだ。

最初は手で彩色されていたが、すぐにカラー印刷に変わる。それでも初版は魅力に溢れ、かつ恐ろしくぞっとするものだった。
今日ですら、もじゃもじゃペーターや仕立て屋は鮮烈な印象を与える。19世紀当時のドイツの子供たちに与えた影響は想像にかたくない。
【絵本】もじゃもじゃペーター Struwwel-Peter
もじゃもじゃペーターは「ぼうぼうあたま」として日本でも翻訳され出版されているので、興味のある人は見てみるといい。
ぼうぼうあたま―
ちいさいこどものおもしろいはなしとおかしなえ

via:babel.hathitrust・The 19th-Century Book of Horrors That Scared German Kids Into Behaving
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コメント
1. 匿名処理班
ヴォイニッチ手稿みたいな雰囲気...
2. 匿名処理班
初版では無いけど子供の頃読んだなあ。こんな歴史の有る本だったんだ
3. 匿名処理班
グリム童話といいドイツの寓話は子供が悲惨な目に遭うんだ
4. 匿名処理班
でも悪い事は楽しいんだなぁ
バレるまでのワクワク感とバレそうな時のハラハラ感がアドレナリン出まくるんだ
5. 匿名処理班
髪を切らないことの罰は禿げることかと思ったが。
そうか・・・
禿げないのか・・・
6. 匿名処理班
子供に対する「しつけ」ってさ、何かを教え諭す行為ではなくって、遺伝子に深く刻み込む作業だよね。だから、教育の材料としてのこの絵本は、「いささかの問題あり」な感じがするけど、「躾ける」って言う意味では、全くの正解だと思うよ、だって忘れないでしょこんな強烈な内容。俺のとっての、もじゃもじゃペーターは、お恥ずかしながら「ウルトラセブン:第7話」です。
7. 匿名処理班
持ってるわ。台風の日に傘さしてたら飛ばされる奴ね。
8. 匿名処理班
扉絵のハサミ男の疾走感と、思いっきり
手を切られてる割には悠長なリアクションの少年
9. 匿名処理班
狩人を狩ることにしたからコーヒーで火傷にどうやったら繋がるのか気になる
10. 匿名処理班
懐かしい
動物に火を点ける女の子もいなかったかな?
11. 匿名処理班
もじゃペー懐かしすぎwww
火遊びして真っ白な灰になるまで燃え尽きた女の子の話が好き
マッチ一本でどんだけ火力あるんだよwww
12. 匿名処理班
「ぼうぼう」だの「もじゃもじゃ」だの 懐かしいわ!
13. 匿名処理班
もじゃぺー子供の頃は指を切られるのも笑って見られたけど今じゃ結構洒落にならないなぁ。
14. 匿名処理班
「真っ黒な男の子たちの話」は手持ちの現代版(出版時期の若干異なる2部)でも削除なんかされていませんよ。変だと思って記事の原文を見たら、"The language used to describe the black boy wouldn’t be published today"(黒人の少年を表現する言葉(表現)は現代だったら出版禁止(用語)でしょう」だった。
Es ging spazieren vor dem Tor
Ein kohlpechrabenschwarzer Mohr
(城門の前をコールタールのカラスのように真っ黒な黒ん坊が散歩していた)
[中略]
Die schrie'n und lachten alle drei,
Als dort das Mohrchen ging vorbei,
Weil es so schwarz wie Tinte sei!
(そこに小さな黒ん坊が通り過ぎたとき、
3人はみんな大声を上げて笑った、
その子がインクのように真っ黒からと!)
たしかに今こんなこと書いたら、黒人差別満載だとして出版できないでしょうね。
でも、もじゃもじゃペーターでは、差別して嘲笑した子供が聖人ニコラウスの怒りを買い、インク壺につけられ、黒人の子供より真っ黒にされるという報復を受けている。だからあえて19世紀当時の言葉そのままに、現代でも書き換えをせずに出版されてます。
15. 匿名処理班
1845年でも人種を理由に迫害することは避けるべきことという認識はあったんだね
良識が法律になるまで時間かかるんだなぁ
16. 匿名処理班
画面前代の文字と絵の配置、色使い、バランスが奇麗だなあ
17. 匿名処理班
動物が酷い目に遭うのは現実はもちろん例え絵本でも嫌だわ
18. 匿名処理班
ドイツは躾に厳しいイメージがあったけどこの本を見る限りやっぱり厳格な価値観を持つ社会なんだなぁと思った
19. 匿名処理班
※5
ハゲは遺伝だから諦めろ。
20. 匿名処理班
読み聞かせの世界の童話短編本で初めて読んだんだけど、「世の中にはいろんな人がいるから、そのままでいいんだよ」的な解釈で読んでたので衝撃Σ(゜Д゜)
21. 匿名処理班
これをネタにした推理小説を読んだことあるな
22. 匿名処理班
※4
分かる。その感覚は蜜よりも甘美で刺激的。一度味わうと忘れられない。
23. 匿名処理班
倒れてる猫ちゃん可愛い
24. 匿名処理班
こんなトラウマ的な絵本少なくなったな
人種差別的表現もなかったことみたいに削除されるより
そういう時代もあったと受け止められないのかな
25. 匿名処理班
差別は駄目って話なのに、恰好だの侮蔑だの屁理屈っぽい理由で削除しちゃったのは勿体無いな
奴隷扱いしてた時代を隠したようにも感じるけど
26. 匿名処理班
グリム童話もドイツやったけ?
あの国の童話は基本怖い
27. 匿名処理班
小学校の図書館にあったな
この記事で鮮明に思いだした
28. 匿名処理班
※9
ウサギが猟師を鉄砲で撃つ→猟師、井戸に飛び込んで難を逃れる→ウサギの撃った鉄砲の玉が猟師の妻が飲んでいたコーヒーのカップに命中→カップ、真っ二つ→ちょうどそこに隠れていたウサギの子供が熱いコーヒーを頭からかぶってやけど
というお話です。
猟師が自分の商売道具をほったらかして寝てしまったので、本来自分が仕留めるはずのウサギに命を狙われる不注意さをたしなめるのが目的なら、子ウサギがコーヒーをかぶってやけどするオチが理解できません。
何度読んでもこの話だけは、どういう教訓があるのか分からないです。はい。
29. 匿名処理班
「ももいろのきりん」が俺のバイブル。
30. 匿名処理班
これ地元の図書館にあったけど読んだことなかったな
こんな話だったのか
31. 匿名処理班
※18 そう、宗教や政治やら民族主義やらに絡んで様々な虐待が正当化されていた歴史がある
32. 匿名処理班
これ知ってる…!
33. 匿名処理班
※4
2種類の人種に分かれるんだろうな。
子供の頃のくだらん軽犯罪だが、
した時の罪悪感と、バレそうなときの焦燥感で、
とてもじゃないけど二度とするものかと誓ったよ。
あの感覚を快感と取るか、不快と取るかなんだろうね。
34. 匿名処理班
ペーターのばかぁ!
35. 匿名処理班
おそらく多くの日本人の中の白人による黒人差別のイメージはアメリカのもの
この絵本はドイツの絵本
アメリカのイメージでドイツのことを語るのは差別につながりますので要注意
36. 匿名処理班
「わるい子はしまっちゃおうねぇ〜」
日本の良心
37. 匿名処理班
日本にも 地獄 というしつけ絵本があるじゃないか
38. 匿名処理班
小さい時に読んでなくて良かった…ねれなくなるわ。
39. 匿名処理班
これかマザーグースだったか、すごく記憶に残ってる絵本があるんだけど
絵がこれに近いんだよなー
以前調べてメモっといたやつがどっかいっちゃったよ
40.
41. 匿名処理班
クリスマスプレゼントにこの内容ってどうなのよ!
42. 匿名処理班
※29
きりんの「きりか」でしたっけ?
紙製のきりかが水に濡れてふにゃふにゃになってしまうシーンは子供心に衝撃でした!
あの美しい色使いの絵本は今でも忘れることはできません。
懐かしい!
43. 匿名処理班
※10
何度注意されてもマッチに火を点けて遊ぶ女の子。
2匹の飼い猫が一生懸命「ダメニャー」「マッチで遊んだら危ニャーニャー」と注意するのですが、自分の洋服に燃え移ってあっという間に灰の山に。
ラストで2匹の猫たちが少女の死を悼んで涙を流すのですが、その涙がもうジェット噴射そのもので最高でした!このお話の猫ちゃんたちが一番好きでした。
44.
45. 匿名処理班
※36
しまっちゃうおじさん!
後「寝ないとガオーさんが来る」とかね。
46. 匿名処理班
文字と絵が上手く配置されたデザインがいいね。
ちょっと新鮮
47. 匿名処理班
>滑稽な挿絵と愉快な物語
あちらの感覚じゃ「愉快」なんだろうな。う〜む…
48. 匿名処理班
親が体罰などで子供を教育するのが許されないなら、物語の形で、架空の人物やオバケなんかに協力してもらうのはいいアイデアかもね?
49. 匿名処理班
※48
非実在青少年がどうのこうの
50. 匿名処理班
※36※45
昔の隣家では子供に「良い子にしてないと爐ます瓩里じさん呼ぶよ」と脅していたらしい
因みに爐ます瓩碗檗箆玲遒鯑鵑沈泙蠅砲靴椴消爾鯑譴之襪鵑逝沺砲了で、それを踏まえて考えると、そのおじさんは人攫いか子買いみたいなニュアンスだったのかな?
自分の家じゃないから詳しくは解らないけど
51. 匿名処理班
ペーターは手の爪は切らずとも
足の爪だけは切っていたんだな
靴履けている
52. 匿名処理班
これ、ほるぷ出版から出てる絵本のバージョンを持ってる。
大学の時、一般教養のドイツ語のテキストの一つとして取り上げられた。強烈なインパクトだったなぁ。
53. 匿名処理班
※24
トム・ソーヤとか若草物語とか風と共に去りぬとか普通に差別表現でてくるよ。
子どもに読ませるには、「あくまで昔の話だ」って事を教えなくちゃいけない。
54. 匿名処理班
※9
8時丁度のあずさ2号の車内でコーヒーを...
55.
56. 匿名処理班
スープを飲まない少年の話はトラウマだわ
57. 匿名処理班
飯野和好が描いた絵本を読んだことがある
58. 匿名処理班
「みてるよみてる」と「おっとあぶない」が好きだったな
59. 匿名処理班
子供のころに親が買ってくれた本のなかでもっとも記憶にのこっている絵本。
子供にトラウマはよくないという考えが主流で、それをうのみにしている人が多いが、子供にとってトラウマは必要ですよ。トラウマがあると、社会も自然界も怖いことが多いという認識が植え付けられ、人生を慎重に歩く人になる。
社会も自然界も甘くないという畏怖の念は、たとえ冒険者の道に進んでも、必要不可欠な哲学です。
60. 匿名処理班
※28
罰をうけたのはウサギ、これは日本昔話で言うと
悪い狸と猟師みたいなもんじゃないの?
猟師を殺そうとした悪い狸の子供のほうにって
動物視点だと猟師が悪者だけど
61. 匿名処理班
※28
そんな展開なのか…
悪いことしたのは親ウサギなのに、痛い目をみるのが子ウサギってのがつらいな…
62.