
審査の結果、その番組は意図的に”脅威感を煽る”よう仕向けられていたと判断された。つまり、1,100万人の人々を無分別に恐怖に陥れた行為にBBCが加担していたとみなされたのである。
ゴーストウォッチとは一体どんな番組だったのだろう?
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ゴーストウォッチはアーリー一家に起きているという超常現象がテーマだった。一家は”パイプ”という亡霊によって苛まれていた。番組にはBBCの司会者が登場し、まっとうなドキュメンタリー風の作りで、作り話であることを匂わせる手がかりはほとんどなかった。かなりの視聴者が邪悪な霊を目撃したかのような印象を受けていた。
番組によって不安を覚える視聴者があまりにも続出した為、BBCには”信頼を重んじるべき報道番組が策略を仕掛けた”という非難が浴びせられた。医療系の専門誌には心的外傷後ストレス障害を発症した子供の事例が報告され、やがては死亡事件の責任まで問われるようになる。

脚本家のスティーブン・ヴォルクは1988年、幽霊屋敷とされる家のツアーを目玉とする6回シリーズの超常現象の企画をBBCに売り込んだ。しかし、BBCはあまり乗り気ではなく、最後のエピソードのみを採用し、ハロウィンの晩にこの”擬似ドキュメンタリー”の放送を決めた。
ヴォルクにとって、これは自身の考えを試すチャンスであった。ホラー映画の場合には、人々は怖がらせられることに同意して観る。だが、テレビはもっと身近なもので、内容を予測することは難しい。お笑い番組を期待してチャンネルを回した視聴者は大いに驚くことだろう。
番組に信憑性を持たせるため、ヴォルクらはBBCの司会者サラ・グリーンとクレイグ・チャールズ(2人とも子供番組でおなじみ)をアーリー家に派遣し、スタジオの進行役にアナウンサーのマイケル・パーキンソンを採用した。


「放送の数日前に行われたBBCとの会議で、大騒ぎになると話しました。するとキャスト付きのフィクションドラマとして宣伝するから心配ないと言われました。でも、それでは不十分だと感じました」
1992年10月31日午後9時25分、ゴーストウォッチが放送された。番組はパーキンソンが視聴者からの電話を受け付け、超常現象について話し合うという構成だった(すべてやらせである)。
番組が始まりタイトルが表示されると、そこにはヴォルクが脚本を書いたことを示す”by”という文字があったのだが、それはほんの数秒しか画面に映らなかった。おなじみのBBCのキャスターが登場することで、本物らしさが演出された。なかなか展開しないことも本当っぽかった。

アーリー家の子供たちは徐々に動揺し始める。1時間もするとパーキンソンが奇妙な出来事が起こっているために、グリーンを現場に残して番組の延長を決めたと発表。スザンナが低い声で話す。壁の後ろからいるはずのない猫の鳴き声が聞こえてきたというのだ。
そのグリーンは家の階段下にあった隙間に潜り込んだあと行方不明になってしまう。そして、超常現象の専門家という人物が、視聴者は知らずのうちに降霊に携わってしまい、パイプをつけあがらせていると解説した。番組の終わりには、パーキンソンが憑依されたかのような状態になっていた。
少々大げさなフィナーレであったが、1,100万人の視聴者が幽霊の目撃を信じ、子供を怯えさせたことについて大いに怒っていた。

番組終了後、BBCには苦情の電話が殺到した。ある女性などはストレスから誘発分娩を起こしたという。また、夫が失禁してしまったという苦情もあった。数時間のうちにBBCは番組がフィクションであると報じた。しかし、時すでに遅しである。
公開講演番組は、その評判を利用して視聴者をだましたとしてBBCを非難。超心理学者のスーザン・ブラックモアはこう話している。
「視聴者を不当に扱っていました。ファンタジーと現実の縁で遊んだり、テレビの慣習を拡大解釈したりするのは楽しいでしょうが、番組の進め方としては正しくも楽しくもありません。少女の苦しみを目にするのは、それが本物であれ、嘘であれ、不快です。しばらく嫌悪感を覚えましたし……適切な警告を行わなかったのは無責任です」

グリーンは子供番組でパイプによって誘拐も殺されもしてないことを表明。ヴォルクらも謝罪し、ウェルズへのオマージュであり、ここまでの騒ぎになるとは予想もしなかったと釈明した。
18ヶ月後に発行された『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌に掲載されたレポートでは、ゴーストウォッチによる心的外傷性後ストレス障害が報告された。番組を観た10歳の少年がパニック発作や睡眠障害を発症したという。
さらに錯乱状態となった少年が幽霊に遭遇したと悩むあまり、自殺を図ったという事件まで起きた。両親はゴーストウォッチがフィクションであることを適切に表示しなかったとして、放送基準審議会を批判している。

だが、こうした作品によって乗り物酔い以上の被害が出ることは滅多にない。BBCと手を組んだゴーストウォッチは2度と作られないであろうが、比類なきホラー作品を生み出したという点で後世に名を残すこととなった。
尚、現在映像の方はVIMEOなどで公開されている。
via:The BBC Halloween Hoax That Traumatized Viewers/ translated hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
番組名を見て妖怪ウォッチを連想した俺は大分日本文化に毒されてるな
2. 匿名処理班
日本じゃ仮にやってもネタだとか作ったなの一言で
ほとんどの人がスルーして終了だろうな
幽霊が多いイギリスの特徴の番組でありトラブルかも
3. 匿名処理班
「放送禁止」シリーズまたやらないかなぁ
4. 匿名処理班
ラジオドラマで火星人襲来のドラマを真実っぽく放送したら、っていうのがアメリカでむかーしあったね。
しかし何で信じるんだ?嫌なら見なければいいだけでは。
5. 匿名処理班
ゴーストウォッチ?
任天堂の新製品か?
6. 匿名処理班
ドキュメンタリー風なら面白そうだなあと思ったけど、本当の出来事だと思ってみてる視聴者はそうじゃないよね
7. 匿名処理班
日本のテレビ番組も義母愛子さん怖かった
8. 匿名処理班
ゴーストのせいなのね?
そうなのね⁉︎
9. 匿名処理班
義母愛子ワロタ
あの心霊番組やりまくってた時代にちょうど小学生だった自分はしょっちゅう風呂に入れなくなってた
10. 匿名処理班
ポルターガイスト現象は、実際に有るみたいだからね
面白半分で扱ったりしたら、それは苦情も来ると思う
ポルターガイスト現象が起こっている家の子供が、
それを起こしている存在と交信を始める話は面白かった
ここでも、そういう話題も取り上げて欲しいな
例えばだけれど…、
自分の死体を発見して欲しくて、メッセージを発信し続けるとか
人として悲し過ぎる面も有るので、ポルターガイスト現象には
個人的に怖いという面以上の思い入れは有る
11. 匿名処理班
※7
一瞬※7の方の義理のお母さんが何で?って思ったw
でもこのBBCの番組見ても派手すぎて日本人なら仕込みだろうって思うんじゃないかな。
海外の心霊は自己主張強いイメージだから信憑性が上がったんだろうけど日本の心霊はこっそりひっそりが原則だからねw
12. 匿名処理班
オーソン・ウェルズの宇宙戦争がこの類の元祖かな?
13. 匿名処理班
あなたの知らない世界は子供ながら楽しんで見ていたけどね
14. 匿名処理班
良くも悪くも昔のTV絶対主義時代だよね
今じゃネットの情報が先だから騙される人はいない
15. 匿名処理班
ラジオドラマで火星人襲来やったころからなにも進歩してなくてワロタ
16. 匿名処理班
※後にこの番組は妖怪ウォッチとなり、多くの子供たちが、怠慢や暴力を妖怪のせいにしたのである
17. 匿名処理班
イギリスは幽霊、妖精、魔女を信じてる人がかなり多いからしょうがない
魔法とかも大好きな国だし
でも「夫が失禁」て旦那さん怖がりすぎやろ
18. 匿名処理班
この事件もいずれは「オーソンウェルズの宇宙戦争事件」みたいに
伝説の名演出として語られることもあろうよ。
19. 匿名処理班
ヨーデルヨーデルヨーデルヨーデル……
20. 匿名処理班
ネットで見たけど、いまなら多分問題化しないし、信じる人は少ないだろう
くっさい子供の演技、明らかに映画風なカメラワーク、完全に女優な親
21. 匿名処理班
※15
そのネット上の心霊話に騙されてる人もいるんだが…
22. 匿名処理班
ドキュメンタリー仕立てのドラマだったってこと? で、あまりにリアル過ぎて苦情が来た?
だとすると、ある意味これは番組の勝利と言えるかも。
視聴者側にはチャンネルを換えたり、テレビの電源を切る権利があったわけだしw
23. 匿名処理班
日本でも数年前に無かったっけ?
クリームシチュー司会だったかよく覚えていないが
途中から見てすっかり本当だと信じて大はしゃぎした記憶がw
24. 匿名処理班
「午後は○○おもいッきりテレビ」の電話コーナーを思い出した。
あのノリだろこれw。
25. 匿名処理班
なんだっけ米国制作のエイプリルフールの番組をわざと何の説明もなしに日本で放送して混乱させた番組あったな
今調べたら「第三の選択」だった矢追純一許すまじ
26. 匿名処理班
イギリスは他にも50年代だか60年代だかにBBCがエイプリルフールネタでスパゲッティの収穫風景として、木にたれ下がるスパゲティを収穫する人々映像を流したところ本気にする人が続出したという逸話もあるのだ
27. 匿名処理班
そう言う試みは嫌いじゃないけど、
ドラマの冒頭でニュースが流れてると
「あれ?これニュース……じゃないよね?」
って感じで一瞬不安になることあるし、
抗議したくなる気持ちもわかる
テロップぐらいは常時表示で良かったと思うの
28. 匿名処理班
>>夫が失禁してしまった
知るか、やかましいわw
29. 匿名処理班
木梨憲武追悼特番みたいな感じ?
30. 匿名処理班
オルターナティブ3、またの名を『第三の選択』という番組が昔あってね・・・
31. 匿名処理班
そんなに恐いならチャンネル変えりゃよかったろ
自分の好奇心に負けて恐い思いした奴の八つ当たりだわ
32. 匿名処理班
日本だと、NHKの武田アナウンサーがクローズアップ現代のセットで真面目な表情で超常現象を紹介するNHKスペシャルなようなもんか…
おまけにヤラセというかネタがてんこ盛り。
33. 匿名処理班
※26
火星移住計画だっけ?そんなに怖かった記憶はないな・・。
34. 匿名処理班
※5
アメリカを震撼させた夜、という映画。
35. 匿名処理班
※27
地面から小麦の方に生えてるパスタじゃなかったっけ?
それを鎌でばりばり刈り取っている農民、というシュールな映像だったとうろ覚え。
36. 匿名処理班
公共放送局がやっちゃったのか
民放だったらそこまでの大騒ぎにはならなかったかもな
それとも日本がヤラセやワイドショー的誇張に慣れてるのか?
37. 匿名処理班
「夫が失禁」これは違う。確か民間的な除霊方法のうちの一つに、霊が尿を嫌う、というのを実行したのでは?
一般的な家庭では聖水は置いていないだろうし。
38. 匿名処理班
信仰心がためされるな
子供の頃から神よ悪魔よと教育されている国でこんな番組やったらそりゃそうなるわ
39. 匿名処理班
くりいむしちゅーが出てた番組でこういうのやったやつあったよね
40. 匿名処理班
※24
あったあった。うろ覚えだけど、通常の霊能者呼んだり、いわくつきの場所に行ったりする番組よりよっぽど怖かった印象がある。
41. 匿名処理班
俺も覚えてるわ。
日本でも数年前に無かったっけ?
クリームシチュー司会だったかよく覚えていないが
途中から見てすっかり本当だと信じて大はしゃぎした記憶がw
匿名処理班
16.10.14 23:48
42. 匿名処理班
信じるやつは信じるよなぁwばかすw
でも子供のPTSDは本当にかわいそう
こればっかりは笑えない
43. 匿名処理班
まだこんなもん信じる輩が居るんだ。
霊やら超能力やら神やら、有りもしない物に良くここまで怯えられるもんだ。
44. 匿名処理班
外人ってすぐこういうの信じるな
45. 匿名処理班
日本だと放送禁止シリーズがこんなノンフィクションと思わせて実はって番組だったよね。
夜中テレビつけたらなぜか大家族番組をやってて、不思議に思いながら観てたら父親が娘を殴ってるような物音が流れたりしてヤバイものやってるって真剣に焦ったことあった。
流石に番組終盤には嘘臭さをあからさまに出して作り話だと分かるようにしてあったけど。
46. 匿名処理班
欧米人って暗示とかかかりやすいの?
47. 匿名処理班
ニュースだと思って(現実だと思って)、ホラー番組を見るのと、
娯楽だとわかった上で、ホラー番組を見るのでは、
全然ダメージが違うだろうね。
何が起きてるかわからなくて、固唾を呑んでホラー番組を見ちゃったら、
失禁するのも分からんでもない。
48. 匿名処理班
この件は集団ヒステリーの要因が強いと思う。
※47
魔女狩りとかの過去もあるからねえ。
49. 匿名処理班
※24
「日本のこわい夜・特別編」
監督は今をときめく白石コージだ。
しかしあれだな…プラスαの話題が出ないあたり時代だな…
生き人形は忘れ去れられる運命か。
海外でこんな燃える企画やってたなんて驚きだ
50. 匿名処理班
テレビやラジオの怪談に対して
こんな子供騙しに引っかかるヤツなんて今はいねえよと
冷めた態度を取っておきながら
ツイッターのデマには簡単に引っかかる現代っ子
51. 匿名処理班
当時と今の常識やリアリティが違うからなぁ
今の目で見ればおかしいことも、当時はそれがデマに見えないんだよ
52. 匿名処理班
苦情に含まれる誘発分娩とは?
53. 匿名処理班
BBCはどないした
54. 匿名処理班
脚本家がウェルズへのオマージュって言ってるから、ある意味大成功。
ウェルズも喜んでるだろうね
55. 匿名処理班
法整備して、騙す事が目的の番組は放送法違反で即時免許剥奪、関係者も即時殺処分にしないとね。
56. 匿名処理班
前にSMAPの香取慎吾さんが人質をとって立てこもったというニュース形式で始まるドラマがあったの覚えてる人いない?
(今調べたら「香取慎吾 2000年1月31日」というタイトルだった)
当時見てたけど、いかにもドラマっぽい映像、演技してるっぽい演技でどう見てもドラマだと分かるし、ニュースやワイドショー部分にはテロップも出てたそうなんだけど、それでも本物のニュースだと思って見てた人が結構いて、後から局に抗議がきたそうな。
時代だとかネットの情報とかに関わらずTVのやることを頭から信じ込んでしまう人が一定数いるってことなんだと思う。
57. 匿名処理班
・・・なんというか、海外のメディアは信頼されてるんだなぁ・・・
ヤラセ番組が蔓延してる日本だと同じことやっても鼻で笑われて終わりそうなのにw
58. 匿名処理班
メディアは情報を発信するものなのだから
嘘と真実は区別して報じる義務があると思う
それを破ってしまうことは裏切り行為以外の何物でもない
※15
ネットほど捏造やヤラセが横行してるメディアもない
2ch管理人ひろゆき氏の有名な言葉を知らないか
「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板(2ch)を使うのは)難しい」
これはインターネットそのものにも言える
59. 匿名処理班
トランプがいるじゃねぇか
60. 匿名処理班
イギリスの方はとても繊細なんですね。かわいいと思います。失禁とか。
61. 匿名処理班
※36
BBC: Spaghetti-Harvest in Ticinoで検索すると見れますね。
豊作で木にめっちゃぶら下がってるw
62. 匿名処理班
※3
イギリス人は幽霊マジで信じてる人多いのか
63. 匿名処理班
えっと、宇宙戦争はオーソン・ウェルズではなくH・G・ウェルズでは。
64. 匿名処理班
現代の『火星人襲来』になってしまったんだね。今でも騙される人がいるんだ。でも、作品としては大勝利だろ。ホラー作品なのに、『意図的に恐怖心を煽る様な…』ってのが意味が分からん。
65. 匿名処理班
※46
全く同じ体験しました
66. 匿名処理班
一方、日本は妖怪ウォッチを作った
67. 匿名処理班
日本だとヤラセか、よく出来てるなぁぐらいで終わる。
68. 匿名処理班
番組側が本気で視聴者を騙そうとしてこういう番組を作りまくってたら、
視聴者は実際のニュース番組も嘘だろうと思って信用しなくなったり
災害のニュースも信用しなくなるかもねww
69. 匿名処理班
今となってはこういう、『本気で』怖がらせようとしてくれる番組が羨ましくて仕方ないわ。
今の日本のテレビ局は恐怖番組なんて作ろうともしないし、仮にあったとしてもyoutube上の動画の転載だったりで散々だ…
こういう本気で震え上がらせるような娯楽こそお目にかかりたいもんだよ。
70. 匿名処理班
※69
時代を考えようよ
71. 匿名処理班
いつの時代にも、素直で騙されやすい人間はそこそこ存在すると思うよ
文明や技術は蓄積・洗練されていくけど、ヒトの知能そのものは大して変わらないから
現代の日本なら誰も騙されない、というのも疑わしい
現代の技術、心理学等を総動員して「民衆を騙す事」を本気で追求すれば
より洗練された「火星人襲来」を造れるかもw
72. 匿名処理班
この時、ちょうど仕事でロンドンにいてこの番組を観た
今でも覚えてるけど、さすが英国、凝ったことするなあと思った。
エンディングでネタバレしたから、まさかこんなことになっていたとは知らなかった
この番組のあと、クリープショーやってて、その方がトラウマ
73. 匿名処理班
英国人よ。自己責任という言葉が日本にはあるのだが、英国にはこれに近い言葉は無いのか?
ヤバイと思ったら見なきゃいいし、子供にも見せなきゃいい。
自分の身も心も自分で守ろうや。
74. 匿名処理班
出来が良すぎても苦情が来るのか…どーせヤラセだろって言う時代でも