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解剖学がなかった時代、昔の人が人体に住んでいると考えていた10の奇妙なモノ

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(著)

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 ヒトのゲノムの全塩基配列を解析するヒトゲノム計画は2003年に完了し、今その解明に全力が注がれているが、人体についての不思議と謎はまだ多く残されている。

 科学で身近ではなかった時代、解剖学的な知識を持ち合わせていなかった昔の人は奇妙で、おぞましくものが体の中に住んでいると考えていたようだ。

1. 3つの魂

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 人間の体には3つの魂が宿るということは、ギリシャの哲学者や医師によって広く受け入れられていた。

 プラトンは『ティマイオス』の中で、頭の中に不死の魂、横隔膜によって隔てられた箇所にいずれは死ぬ運命の魂がふたつ、全部で3つの魂があるとしている。

 横隔膜の上のほうは、欲望に逆らう思慮分別を支える怒りの魂、下のほうは、欲望に忠実な本能的な魂だという。

 横隔膜は、貪欲な第一の衝動が不死の魂に悪影響を与えるのを防ぐバリアになっているという解釈なのだ。

 ペルガモンの剣闘士向けの医師クラウディウス・ガレノス(130~199年)は、傷の治療をたくさん行った。

 しかし、彼はおもにサルなど動物の解剖しかしたことがなかったので、人間の体内には魂のためのさまざまな種類のスペースがあると思っていた。

 プラトンの足跡を継いで、ガレノスは3つの解剖学的魂を次のように定めた。頭にある理知、心にある気概、肝臓にある欲望だ。

 たとえエーテルのようであっても、これらの魂は実態のある有形なものからできているとした。

2. プネウマ(気)

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体の5大システムは、動脈、静脈、骨格、神経、筋肉。ガレノスが表わした『Salomon Glossaries』より。バイエルン州立図書館蔵、ドイツ、ミュンヘン、1158年と1165年

 西洋医学の父、ヒポクラテス(紀元前460~370年)と彼の後継者たち、とくにプラクサゴラス(紀元前340年頃の生まれ)は、動脈がプネウマという生きる活力を運んでいたと信じていた。これは生命や魂の源である温かい空気のようなものだという。

 遺体を解剖することはタブーだったため、古代ギリシャの医師のほとんどは、生きている人間を観察するか、動物の生体解剖または遺骸の解剖から体の柔組織の知識を得た。

 死んだ動物の動脈の中にはなにもなかったため、プラクサゴラスは、動脈と血管で循環器系の役割が分かれていて、前者はプネウマを運び、後者は血液を運んでいると結論づけた。

 つまり、動脈は生命維持に必要な体温を各器官にもたらしていて、このプネウマが脳や心臓に達すると、思考や行動が生まれるという。血管は単に栄養素を運んでいるだけとしたのだ。

 このプネウマの存在が真剣に議論されたのは、それから2000年近くもたってからだった。1508年頃、レオナルド・ダ・ヴィンチは書いている。

すべての血管と動脈は心臓から派生している。そのわけは、太い血管と動脈が心臓で結合しているところで発見されたからだ。太い血管は心臓から離れれば離れるほど、細くなり枝分かれしていく

 1628年、ウィリアム・ハーベイ(1578~1657年)が、動脈と血管は同じ循環器系の一部であることを実証し、プネウマは完全に葬り去られた。

3. ”常識”という感覚器官

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 現在では隠喩のようなものだが、常識はかつては体の器官として始まった。アリストレスは、解釈され、判断された感覚のデータがすべて蓄積されている場所が心臓の近くに存在すると信じていた。

 人間の感覚器官が周辺から情報を受け取り、それが血液によって運ばれて、sensus communis(常識)と呼ばれる中心機能へと送り込まれる。このsensus communisが、情報を処理して、行動や理解へと変換する機能をもつとされた。

 ガレノスはこの概念には賛成していたが、彼は感覚の情報はが血液ではなくプネウマによって、空洞の感覚神経を経由して心臓ではなく脳へと運ばれると考えていた。

 脳が運動神経にプネウマを送って、そこから情報を動きに変える筋肉へと伝達しているというのだ。

 ガレノスの功績がルネサンス期までの医学の源となっているのは間違いないこともあり、人々は脳の中にあるというこの常識という”器官”を探し続けた。

 17世紀に解剖学が発達して、実際に人間の脳の詳細が研究されて初めて、常識という器官はないことがわかったのだ。

4. 5. 悪霊と幽霊

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 現存している最古の医学書は、紀元前2100年頃にシュメール人が石板に楔形文字で刻み込んだものだ。それまで、メソポタミアの医療は基本的に、(怪我とは対照的に)病気は神が立腹したり、悪霊が憑りつくことによって引き起こされるという考えだった。

 治療者は祈祷師もしくは医師か薬剤師だ。祈祷師は患者に病気を引き起こしているのは、神なのか悪霊なのかを診断し、必要な呪文を唱えて憑りついた霊を追い出す。医者は傷の手当てをしたり、薬草を処方したりする。両者が共に治療に当たることもある。

 悪霊や霊的なものに憑りつかれ、肉体に侵入されると、発作から自傷、わけのわからないことを口走るなど、さまざまな症状があらわれる。

 こうしたことがのちのユダヤやキリスト教の伝承となっていった。死海文書や新約聖書にも悪魔祓いはとりあげられている。

 中世や近代初期のユダヤ文書は、悪霊や死者の霊が、憑りつかれた肉体から、血まみれの爪先や喉や膣、直腸を通して去っていったという例が報告されている。

6. ホムンクルス

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精液の中のホムンクルス。ニコラス・ハートソーカー『Essay de dioptrique』1694年

 微生物学の父、アントニー・ファン・レーウェンフックは、顕微鏡で初めて精液を観察し、1677年に精子を発見した。そして、人間は卵から生まれるのではなく、男性の精液の中にいる極微動物から生まれると仮定した。

 極微動物は単細胞生物のことをさす昔の言葉で、顕微鏡が一般的になると、これらがうごめく世界が急に注目されるようになった。

 レーウェンフックの生徒だったニコラス・ハートソーカーは、のちにネジ式顕微鏡を発明したが、師よりも早く精子の発見をしていたと主張した。

 誰が最初だったのか論争が起こったが、レーウェンフックのほうが先輩だったので、彼に軍配が上がった。

 ハートソーカーは実際に精液の中に小さな人がいるのを見たわけではなかったが、レーウェンフックと違って、人間が発生する前成説として精子論を支持した。

 つまり、生育環境である女性の子宮の近くに到達する前に、すでに精液の中に小さな赤ん坊がいるというのだ。

 彼はこれを、錬金術師が不可解な手段によって作り出したと言われる小さな成人、ホムンクルスと呼んだ。

7. 胸中の蛇

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ガードナー博士による体内動物駆除サービスの広告。イングランド、リーズのIntelligencer紙、1801年7月20日

 「胸中の蛇」という言葉は、ナサニエル・ホーソーンが1843年の短編のタイトルに使って有名になった。これは自分の胸の中に一匹の蛇が棲んでいると信じ込んでいる男の話だ。

 ヘビ、トカゲ、昆虫など様々な生物が自分の体内をうごめいているという考えは、ホーソーンよりずっと以前から、世界中にあった。

 1910年、民俗学者のトーマス・ジョンソン・ウェストロップは、アイルランドのクレア県クロンララで聞いた、寝ている男の喉を足の生えた虫が這いまわっているという話を記録している。

 次第に男の食欲が異常なほど増したため、無理やり賢者に診てもらうことになった。賢者は男に、2日間なにも飲まず、食べ物はベーコンだけにするように言った。

 そして、男を近くの小川に連れていって、口を開けさせた。その前にベーコンの切れ端をさらすと、足の生えた虫が男の口から飛び出してきてベーコンに飛びついた。賢者がそのベーコンを水の中に投げ込むと、男は回復したという。

 万能薬の発明者ドクター・ガードナーなる人物が、イングランドのリーズにやってきて、1801年7月20日付のIntelligencer紙に、彼の薬は寄生虫を含む、どんな病気でも治すことができるという広告を出した。

 特に目新しいものはなかったが、彼は訪ねてきた者に、患者から駆除したという非現実的な生き物を見せることを約束している。

 「まるでトカゲようなもの、カタツムリのような角が生えていたり、ネズミのような耳をもっていたり、毛むくじゃらな生き物が、人間の肝臓を破壊していた」

8. 腹の虫と悪霊の憑依

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トカゲ、カエル、昆虫などを吐き出すテオドロス・デダーライン。ゲオルグ・アブラハム・メルクリン『De Incantamentis』1715年

 ドイツ、ベロルツハイムの牧師の息子、テオドロス・デダーライン(12)は、すさまじい胃痙攣に襲われ、ほどなくして昆虫、無脊椎動物など、さまざまな生き物を吐き始めた。

 なんとその数は、イモリ21匹、カエル4匹、ヒキガエル数匹にもなった。こんなにたくさんの生き物が人間の胃の中に棲みついているとは思えなかったが、地元の牧師はこれは悪魔が憑りついたせいだと信じた。

 出てきたカエルを解剖して、その腹に半分消化された昆虫があったことから、ごく最近食べられたばかりのものであることがわかったにもかかわらず、牧師たちは自説を曲げなかった。

 結局、祈祷師が呼ばれて悪魔祓いが行われた。儀式の最中に少年の口からヘビの頭が出てきたので、引き抜こうとしたがまた少年の腹の中に戻ってしまったという。

 相変わらず少年の苦しみは続いたので、祈祷師たちは馬の尿を使って治療することにした。

 祈祷と賛美歌を唱えながら、大量の馬の尿を嫌がる少年の喉に流し込むと、これが効いて少年は二度と生き物を吐き出さなくなったという。

9. ツェルタル族に伝わる、妊娠できなくさせてしまう虫”BULUK’SIT”と奇形胎児の元凶となるカエル”Pokok”

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 メキシコ、チアパスの高地に住むツェルタル族には、マヤ時代にさかのぼる古代から言われていることがある。

 「BULUK’SIT 」という目が飛び出た虫が体の中に侵入するというのだ。3インチほどのこの毛虫は、角とヒルやヤツメウナギのように吸いつくのに便利な大きなクチをもっている。

 女性の膣から体内に入り込み、子宮に棲みつき、まるで胎児のように毎晩、知らないうちに子宮から栄養分を吸い取るという。そのせいで本来ならば人間の赤ん坊にいくはずの栄養がなくなってしまい、女性は不妊になってしまう。

 この虫は精液も食べてしまい、妊娠できなくしてしまうと言うツェルタル族もいる。

 また、ツェルタル族の系列には、Pokokという現象もある。魔術によってカエルが女性の子宮に埋め込まれて、それが成長して本当の妊娠のような状態になる。

 最終的には流産するが、カエルのような奇形胎児が出てくるという。

10. お腹の中にヒキガエル

 ロシアの農学者で、多くの自伝を残しているアンドレイ・ボロトフ(1738~1833年)は、お腹が大きいある農民の女がやってきたときのことを書き残している。

 女によると、男の魔術師が自分の腹にヒキガエルを入れたという。ボロトフは女の話を迷信として片づけて、腹の中のものを吐き出すよう吐剤を与えた。

 ところが、本当に彼女は生きたヒキガエルを吐き出したため、ボロトフは驚いてヒキガエルを詳しく調べた。

 すると、それは目が見えず、後ろ足が萎縮していて、まるで長い間、狭い暗闇に閉じ込められて暮らしていたかのようだったという。

via:10 Things People Thought Lived Inside Their Bodies・written konohazuku / edited by parumo

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この記事へのコメント 39件

コメントを書く

  1. 8番は今で言うとストレスや鉄分不足からくる異食症だったのかな?

    • +9
  2. エジプトだと風邪などで出てくる鼻水は脳が溶け出したもので
    ミイラつくりでも重要視してなかったっけ

    • +2
    1. プネウマは酸素とすれば発想としては掠ってる気もする
      ※2
      逆じゃなかったかな、脳は鼻水を作るだけの機関だから捨てていいとされてたという話
      でもこの話は間違いだと否定されてた気もするなあ

      • +3
  3. 腹の虫がおさまらないとか言うけど日本人もこういうの信じてたのかな?

    • +9
  4. 日本にも疳の虫とか色々言われていたしね。

    • +8
  5. 9番のpokokは無脳症の子供が伝承の元になってそう、カエルみたいな顔に見えるし

    • +21
  6. 人間にだけ特別な死後の世界があると本気で信じていたんだろうか

    • 評価
  7. 昔は細菌やウイルスを観測できる技術がなかったからな。

    • 評価
  8. 最後2つのカエルの話は
    無頭児とクル病で説明できそう

    • +14
  9. カエルのような奇形胎児って、無脳症かな?

    • +10
  10. 右肩のひどい肩凝りは、痛む部分に500円玉を5枚くらい重ねたどす黒いグミキャンディーのような肩凝りの元が潜んでいる。
    そいつを切除したら、今後は肩凝りはない。
    …という妄想を都度都度してしまうオレもこの時代の人々からあんまし進歩してないかもw

    • +5
  11. 現代の人間から見るとトンデモ理論だらけだけど
    かくいう自分もメカニズムについて大して知らない

    • +9
    1. ※17
      キリスト教では最後の審判が施行されると
      死者はかつての肉体に宿り復活すると信じられていた
      だからその時のために遺体も五体揃った状態でなければ考えられていた
      キリスト教に限らず古今東西、死語の世界が≪確信≫されていた時代では
      遺体を正しい処置をして埋葬しないと天国に行けない、あの世で不自由な生活を強いられる、転生できないなどと考えられた
      だから遺体を損壊するような死刑の方法は「あの世まで刑罰が続く」ようにする目的もあった
      だからかつての中華文化圏では身分の高い人物の死刑は服毒が多かった
      と、今回の記事と離れてしまいましたねスイマセン(・_・;

      • +6
  12. 「これが効いて少年は二度と生き物を吐き出さなくなったという」
     厳密に言うなら
    「これに懲りて少年は二度と生き物を飲み込まなくなったという」
     だな(´・ω・`)

    • +23
    1. ※18
      食い物がなくて、その辺の生き物とっ捕まえて食べてたんじゃないかと思っちゃうよ……

      • +7
  13. 日本では、カンの虫の強い子供を神社に連れてって「虫切り」
    と云う儀式を行なっていたね、もちろん戦後の話。

    • +9
    1. ※19
      今でも夜泣きとかのお祓いやってる神社はあるよ

      • 評価
  14. うむ、日本で言う「疳(かん)の虫」の類ですな。

    • +5
  15. 西洋ばっかやな
    三尸とかの中国系のネタもあるかとおもったんだが。

    • +4
  16. こんなところでホーソンの名を見るとは思わなかった。セイラム生まれで魔女裁判で親族迫害されてるよね

    • -3
    1. ※22
      ホーソーンの親族は迫害した側じゃなかったっけ(裁判した判事が先祖にいたはず)

      • +7
  17. まー、寄生虫そのものは実在していて、衛生概念が発達してない当時は深刻な問題でもあったしな。
    にしても、統合失調症で今なら電波のせいにするところを、昔は寄生虫のせいにしてたんだな。

    • +1
  18. 昔の人なりに考えたんだろうな。
    今でこそ医術や工業技術の進歩で可笑しな風に見えるけど、当時としては実に真っ当な見解だったんだろう。
    金環日食の時に思ったけど、あれは知識なきゃこの世の終わりにしか思えない光景だったよ。

    • +1
  19. 蛙の子供は無脳症の子供が語り継がれる間に尾ひれがついていったのかもしれんな

    • +5
  20. 今常識とされてる医学の中にも未来の人からみたら荒唐無稽だったりするかもね

    • +2
  21. 日本と中国だと「三尸(さんし)」だよね。

    • +8
  22. 3つの魂っていうのはフロイトとかのいうスーパーエゴ、エゴ、イドなのか?

    • +4
  23. 9みたいな不妊の話は、
    「あなたは不妊です、残念ながら体質的に」 と医学的に言われるより「BULUK’SITのせいなんだ」と言われた方が患者は楽かもね。
    前者は「なんで私が」としか思えないけど、後者は「おのれBULUK’SIT」と敵を作る事で活力が生まれる。(本当はいない事を知らない限り)
    当時は大真面目に納得されていた話だったんだろうな。

    • +3
  24. 2,3は解釈のしようによっては的を得てるように感じる
    常識という器官が司る機能の一部を、反射と同じものと捉えれば(熱いものに触ったら手を離す、転んだら手を前に出すなど)常識という器官は脊髄のことと捉えられなくもない(厳密には結構違う気がするけど)
    あと、気という概念を便利に扱ってるけど、活動電位や酸素なんかの目に見えない要素を一緒くたにしてるんだろうな
    色々と惜しい

    • +4

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