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今年出版100周年。カフカ『変身』にまつわる12の事実

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 「ある朝、グレーゴル・ザムザが不安な夢から目を覚ますと、巨大な虫に変身していた」(抄訳)という冒頭の一節で有名な、チェコのプラハ出身の作家フランツ・カフカの中編小説『変身』。1915年の刊行から、今年で100周年を迎える。誰でもその存在を知っているけれど、謎に満ちた小説『変身』にまつわる12の事実を見ていこう。

1. 背景には長年の遠距離恋愛があった

 1912年、カフカはプラハの友人マックス・ブロートの家で、のちに婚約者となるフェリーツェ・バウアーと出会う。カフカはその後、ベルリンに住むフェリーツェに頻繁に手紙を書くようになり、その数は多いときには1日に2~3通にもなったという。手紙はおおむねカフカからの一方通行だったが、カフカはフェリーツェにも同じように手紙を書くように要求した。ある朝、フェリーツェの手紙が届くまでベッドから起き上がらないことを決めたカフカのなかで、ある物語が形を成し始めた。

2. 別の小説執筆の合間に書き上げた

 カフカは、1912年11月から12月にかけて、わずか3週間で『変身』の第1稿を書き上げた。当時、カフカは処女長編(カフカの死後に『アメリカ(別名:失踪者)』として刊行)を執筆中だったが、なかなか進まない状況にあり、『変身』の構想がひらめくと、すぐにそれを形にしようとしたという。

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3. 出版まで3年かかった

 初稿をわずか3週間で書き上げたにもかかわらず、出版にこぎつけるまでには3年の月日を要した。カフカは1912年11月24日、友人たちを集めて『変身』の朗読会を行った。そのときの噂が広がり、興味を持った出版社から連絡が入った。ところが、フェリーツェとの文通や『アメリカ(別名:失踪者)』の執筆に気を取られていたカフカは、なかなか『変身』の最終稿を仕上げることができず(カフカは、日中は労働災害保険協会に勤務する実直な官吏だった)、そうこうするうちに第一次世界大戦が勃発。最終的に、1915年に『Die weissen Blatter』誌10月号に掲載されたのち、同年12月に独クルト・ヴォルフ社から本が刊行された。

4. 有名な冒頭の一節にはさまざまな解釈がある

 冒頭の「ある朝、グレーゴル・ザムザが不安な夢から目を覚ますと」に続く一節は、日本語訳ではほとんどが「とてつもなく大きな毒虫」や「ばかでかい虫」「薄気味悪い虫」など、いずれにしても大きな虫に変身することになっている。各国語訳でも「害虫」「毒虫」に加えて、「巨大なゴキブリ」「大きなナンキンムシ」などで、カフカの研究者たちもグレーゴルが「虫」に変身したことは間違いないだろうと考えている。ただし、どんな虫なのかは不明なままで、それがカフカの意図だったようだ。

 ちなみに、ドイツ語の原文の「ウンゲツィーファー(Ungeziefer)」は、辞書には害虫を含む「害獣」とあり、古高ドイツ語では「生け贄にできない不浄な動物」の意味を持つという。最近では、ドイツ在住でドイツ語に堪能な多和田葉子が、『すばる』2015年5月号に発表した『変身』の新訳で、「ウンゲツィーファー(生け贄にできないほど汚れた動物或いは虫)」という訳語を選択したことが話題になった。

5. カフカは出版社に対して、表紙に「虫」の画像を使わないように指示していた

 表紙に虫の絵を使いたいという出版社に対して、カフカは「虫そのものは描かないこと。遠くに見えているのもだめ」と回答した(前項を参照)。カフカの指示通り、初版は苦悩する男の絵の表紙が採用されたものの、その後の版では、具体的な虫ではないがどことなく気味の悪い生物が描かれるようになった。

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6. 実は笑える話である

 『変身』は「虫に変身した男の悲劇」と捉えられがちだが、ある意味とてもおかしな物語である。ありえない出来事を淡々と描写するカフカの筆致はどこかユーモラスで、クスッとした読者も多いだろう。実際、カフカ自身も友人たち相手に本作を朗読した際には、笑い声をあげていたという。

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7. ダブルミーニングの宝庫である

 『変身』でグレーゴルが壁を這う様子を描写する際に使われた原文のドイツ語「kriechen」には、「這う」という意味と同時に「うずくまる」「縮こまる」という意味がある。この単語を通して、虫という新たなアイデンティティを得てもなお、グレーゴルが従順で意気地のない人物であることを表現している。

8. さまざまな解釈が存在する

 『変身』は、カフカ自身の人生が投影されていると同時に、孤独や疎外など普遍的な人間のありようを表現した作品だと考えられている。ほかにも「不眠症の危険性を説いている」という説や、高圧的な父親に対するカフカなりの仕返しだとするフロイト的解釈などさまざまあり、今日にいたるまで研究者を魅了しつづけている。

9. ウラジミール・ナボコフの『変身』論

 『ロリータ』で知られるロシア出身の作家ウラジミール・ナボコフは、米コーネル大学で行っていたロシア文学とヨーロッパ文学の講義のなかで『変身』を取り上げた(このときの講義は『ナボコフの文学講義』として書籍化されている)。その際、ナボコフはカフカを「現代最高のドイツ語作家」と称えている。一方で、作家の性なのか、自身の持つ『変身』英語版のコピーには、いくつか校正を施した跡があった。また、昆虫学者でもあったナボコフは、グレーゴルは「(羽を持つ)甲虫」に変身したと解釈していた。

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10. 舞台化された『変身』

 『変身』はストレートプレイ以外にも、バレエやオペラにも翻案されている。有名なのがイギリス人演出家スティーブン・バーコフのバージョン(1969年初演)で、バーコフ自身のほか、ロマン・ポランスキー、ミハイル・バリシニコフ、ティム・ロス、また日本では宮本亜門や森山未來がグレーゴル役に挑戦している。

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11. デビッド・クローネンバーグ監督作『ザ・フライ』に影響を与えた

 2014年にW・W・ノートン&カンパニーから出版された、英語版新訳『The Metamorphosis(変身)』に序文を寄せたカナダ出身の映画監督・脚本家・作家のデビッド・クローネンバーグは、実験中のアクシデントによりハエ男に変身する科学者の悲劇を描いた1987年の映画『ザ・フライ』の脚本執筆中に、『変身』を意識していたことを明かしている。

12. ベネディクト・カンバーバッチが朗読した

 独特な美声で知られる「SHERLOCK シャーロック」の英俳優ベネディクト・カンバーバッチが、出版100周年を記念して、BBCラジオで『変身』全編を朗読した。こちらで全編聞くことができる。

Franz Kafka’s Metamorphosis narrated by Benedict Cumberbatch

References: Mentalfloss

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この記事へのコメント 58件

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  1. ザ・フライの話だけぼんやり聞いたことあるな、そういやエルム街でも虫になってたな

    • +2
  2. 事故で寝たきりという解釈で読んでた。

    • 評価
  3. バイオハザードリベレーションズ2の原案かな?

    • 評価
  4. これはね・・・実際に読んだら拍子抜けするんだけどね
    その「虫」が心の病だろうが思想だろうが関係無いんだよ

    • +5
  5. 最近は平田オリザと石黒 浩によるアンドロイド版を観たけどやはりおもしろかった

    • 評価
  6. 「変身」もいいけど「流刑地にて」が好き
    でもどうしても将校が軍服着たサルバドール・ダリに脳内変換される

    • -1
  7. 一回読んだきりだけど、最後の家族のシーンが清々しかった記憶がある

    • +1
  8. 友人たちの前で朗読したとき、笑いころげてたって話は聞いたことある
    主人公にりんごが刺さった姿が印象的だったわ、滑稽でいて哀しい…
    「変身」もそうだけど、
    いつまでも辿りつけない「城」や、自分が逮捕された理由が分からないままの「審判」とか
    世界と自分のどちらが狂気の中にいるのか分からない不安定なところが魅力なんだろう

    • +5
  9. 新潮文庫版の無駄にインパクトある表紙すき

    • +18
  10. これって最初は自分が虫に変身→家族から差別受けてたけど妹だけが面倒観てくれた→最終的には妹からも差別されてしまう、っていう自身を取り巻く環境の「変身」と思って読んでたわ。

    • +10
  11. 借金を抱える家の長男がある日、心身どちらかであれ病んで働けなくなる
    これが現代の変身である

    • +4
  12. 自分が初めて読んだときは足が沢山あって甲殻のある虫だから主人公はワラジムシになってしまったのかと思った。
    言われてみればおかしな話ではあるけど結局虫になったまま元に戻ることは無かったことを現代風に解釈するなら人生に疲れるなりしてて引きこもったら最後もう元には戻れないという後味の悪さを感じた。

    • +12
  13. カフカはそんな解釈求めてないと思うな
    いや、求めてるんだけど求めてない
    ただ有りのままに受け取ってほしくて、それ自体の虚無的な文学を受け入れてほしいんだと思う。確かに、仄めかしたことはあるんだろうけど、少なくとも、精神病とかそんな直接的な啓発ではない。
    カフカの作風は大体そんな感じに思える。

    • +13
  14. 多和田葉子の名前が出てきて嬉しい
    あの人の小説もカフカ的で奇怪
    飛魂とか、雪の練習生とか

    • +3
  15. 夢から覚めたら仮面ライダーの変身が解けたことならあったな

    • +10
  16. ナボコフ先生の文学講義は河出文庫から出版されてるよ(上・下)
    趣味偏ってるけど視点が面白いので古典好きな方は挑戦してみるといいかも
    ただ、元の作品を読んでないと何言ってるかサッパリわからない
    読んでても時々わからない
    『変身』が入ってる下巻には『ジキル博士とハイド氏』、『スワン家のほうへ(失われた時を求めて)』そして『ユリシーズ』が収録されてる

    • 評価
  17. 車輪の下は合わなかったが変身は面白かった

    • +3
  18. この小説、中学生のころ友人に誕生日プレゼントに貰って読んだ。なんとなくムカデのような虫を想像していたのだけど、理不尽な仕打ちを受ける主人公があんまりにも可哀想で、読み終わった後しばらく落ち込んでいた覚えがある。

    • +1
  19. この作品をモチーフとした手塚治虫の作品があったっけ。あれは面白かったんだが、なんだっけなー。ライオンブックスの一遍だったかな。

    • +3
  20. 手塚治虫の「ザムザ復活」を先に読んじゃったおかげで
    どうしても巨大な芋虫のヴィジュアルで読んでしまう。

    • -2
    1. ※21
      『車輪の下』はヘッセじゃないの?舞台かなにかの話?
      車輪の下と変身って比較とかされるの?

      • +1
  21. カフカの代表作は「城」
    カフカの小説の主人公はいつも「独りぼっち」
    変身は「アメリカ」執筆中に書かれた
    アメリカ+城+独り=アメリカシロヒトリが虫の正体ではないかと思います。

    • +7
  22. デイリーポータルに「カフカ「変身」をネット通販風に描く」ってのがあるよ
    「実は笑える話である」ってのを痛感できる

    • +1
    1. ※23です。
      ※24
      あ、それだ! 
      あの作品では甲虫やゴキブリ等ではなく、
      芋虫という設定がラストで生きてるんだよね

      • 評価
  23. ある朝、本郷猛が目を覚ますと手術台の上で自分がバッタ男に変身して(ry

    • +9
  24. 日野日出志の『毒虫小僧』は好き。『変身』は取っ付きにくかった。でも、記事を踏まえて改めて読んでみるわ。

    • +5
  25. 激突 !! カフカ対 堤中納言
    東西を超えた最終決戦 !!

    • +7
  26. 江戸川乱歩の「芋虫」を先に読んでたから、「変身」も家族であっても所詮自分可愛さの人間の悲しき性、それに対するなす術を持たない諦観と思ってたけど、喜劇だったとはね(呆然)勝手に思い込んでたな、もう一回読もう…。
    車輪の下はヘルマン・ヘッセ。哀しく息苦しい話で若い頃は自分を重ね合わせてた。なんか自信なくなってきたよ。読み直します。

    • +23
  27. 喜劇だったのか…本人の意に反して他人に負担の大きい状態や病気になったら、本人に善意があろうが関係なく周囲に負の感情をもたらし、死ぬことでのみ周囲にスカッとした快感を与えられる、という哀しい話だと思っていた。

    • +2
  28. 不条理を喜劇的に描いた作品であるが、喜劇とは別物だと思う。

    • +2
  29. 手塚治虫の…と書こうとしたら、もう出ていて嬉しい。
    短編集「メタモルフォーゼ」、大好きだ。

    • +1
  30. とても喜劇とは思えないけどなぁ特に最後なんか。
    悲しみに打ちひしがれたのは俺だけかよw

    • +5
  31. すでに書いてる方もいるけど、最後に家族がザムザを見捨てて出ていって苦悩から解放されるという筋書きが印象的だった。そしてザムザに救いがないという。

    • +1
  32. チェコのプラハをチュパカブラと空目してしまってごめんなさい

    • +8
  33. 喜劇とは思ったことなかったけどそう考えて読むとなぜかより不条理感が増して鬱になりそうだな。

    • +2
  34. 断食芸人とかあったなぁ、そういや

    • 評価
  35. 一家を経済的に支えていた長男が
    役に立たないどころかお荷物になっていく
    理不尽で不気味で生きるだけの無為な存在
    視点を家族目線にすると
    今の時代、普遍的な物語になりそう

    • +6
  36. 「変身」に関しては「衝撃!朝起きたら→虫!」の情報商材ネタがすごいよくまとまってて感心した覚えがある

    • +3
  37. 喜劇なのか?
    大分前に読んでたけど、とてもそんな気分になれなかったな
    ザムザが働けなくなったら、今まで働いてなかった家族が働き始めるのにもイラっとしたし、最後の爽やかさにもムカついたわ

    • +4
  38. 解釈してもいいけど答えを決めてはいけない、答えのきまっていない状態がこの作品ってことかな?
    人間って二元論すきだけどフィクションの外の現実は意図なんて無いものね

    • +4
  39. これ、休職してメンタルが弱りきって家に籠ってた時に「ひょっとしたら助けになる言葉やここから抜け出す糸口がつかめるかも・・・」と思って手に取った覚えがある。
    結果は傷口に塩を塗りこむだけで余計に気分が落ち込んだ。

    • +3
  40. 「ウンゲツィーファー(Ungeziefer)」は、辞書には害虫を含む「害獣」とあり、古高ドイツ語では「生け贄にできない不浄な動物」の意味を持つという。
    中二病が泣いて喜びそう

    • +3
  41. 誰が描いたパロディ漫画か忘れたけど、20年くらい前に読んだ漫画が面白かった。
    主人公(日本の高校生)がある朝目覚めると芋虫になっている。
    制服が着られないので裸で電車通学。
    満員電車で潰されないように天井に張り付くのを見た友人が羨ましがるけど本人は「裸なんだからあんまり見るなよ」とか恥ずかしがっている。
    最終的に巨大な蛾(本人は蝶だと思い込んでいる)になって友人宅へ見せに行く。
    友人の部屋の窓の外で大きく羽を広げるが電線に接触して感電死。
    うろ覚えだけどだいたいこんな内容だった…

    • 評価
  42. カフカと阿部公房はなんか読むと鬱になる

    • +6
  43. 表紙に虫を使わないてのはいいね、自分なりの虫をイメージできる!

    • +1
  44. 手塚治虫のザムザ復活はスカッとする終わり方だったな
    鬱なときに読むがいい

    • +1
  45. プラハのカフカ美術館は暗くて悪夢的でいい雰囲気だったなぁ
    人がいっぱいいたからぎりぎり怖くなかったけど

    • +1
  46. カンバーバッチがドイツ語できるのかと思っちゃったじゃないか…

    • 評価
  47. 最後のベネディクトカンバーバッチ版のこと教えてくれてありがとう!
    その俳優さんはいつも同じ役しかやらないので(口が達者で高慢な天才役)、母親や妹や上司役が凄く新鮮に聞こえましたよ。

    • +3
  48. 笑えると言われても、どこをどう笑えばいいんだ・・・
    天才バカボンのブラックジョーク(金儲けがしたい人と医者の話とか)みたいな感覚で読めばいいのか

    • +3
  49. カフカは大学卒業後、保険会社でハードワーク経験したあと、転職して政府系の労働保険協会に死ぬ直前まで勤続してるんだよな。
    当時としては珍しいサラリーマン作家だ。

    • +1
  50. カフカってサラリーマンだったんだ。芥川龍之介っぽい人生かと勝手に思ってしまった。

    変身って画面がモノクロじゃなくてセピアっぽいなーって思った記憶

    • 評価

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