人間の記憶があまりあてにならないということは何度かお伝えしたかと思う。「誰かがその時のことを”ハッキリと覚えている”と言っても、私はただ一笑に付すだけだ。」と神経学者ドナ・ブリッジがかつて語ったように、我々の記憶は常に流動的だ。
事故のせいだろうと、誰かに操られていようと、そんなことは関係がない。この記事を読み終えた時点で、すでにあなたの記憶はいつの間にか変わってしまっているはずだ。それほどまでに人間の記憶力というものは脆く、自分を守る為、有意になる為の潜在意識が働いているのだ。
10. 嘘のつき方で記憶力が変わる
嘘のつき方によって、その嘘を覚えておけるかどうかが左右される。例えば、ありもしない出来事を相手に伝えるために細部まで込み入ってつく嘘「虚偽描写」と、単純に真実でないことを告げるだけの簡単な嘘「虚偽否定」では、前者の方がはるかに記憶に残り易い。
これは話をでっち上げるために努力が必要だからである。一方の虚偽否定の場合、簡単につけるため懸命に脳を働かせる必要もなく簡単に忘れてしまう。
9. 記憶を消し去れば、スポーツの勝敗予測がし易くなる
通常、脳は適当に選んだ汚染された記憶データを使って物事を予測する。しかし訓練次第で統計を使ったコンピューター並の精度で予測ができるようになる。
ある実験では、与えられたデータを基に野球リーグの試合結果を予測するよう被験者に求めた。まず一方のグループの被験者には現実の勝敗結果を伝えた。別のグループの被験者には、現実の勝敗とは関係なく、統計上予測される勝敗結果を伝えた。その後、リーグの残り試合の結果を予測させると、後者のグループは統計を使ったコンピューターと同程度の高い精度で勝敗を予測することができたという。
8. 記憶は戦争の残虐行為を正当化しようとする
戦争において自分の国の軍隊が行った残虐行為を正当化するため、脳は都合のいい情報を記憶をしようとする。これは人間が自らの道徳観から逃れることができるような情報を記憶するよう動機付けられているからだ。
例えば、いくつかの国が戦争で行った残虐行為を交えた文章を読ませると、自国の、しかもそれが正当化されているものはよく記憶できることからも判る。こうしたことは政治家やジャーナリズムが戦争を正当化することで世論を操作するということを理解する上で重要である。
7. 潜在的人種差別:高学歴の黒人はより色白であると記憶される
ある実験で被験者に「低学歴」と「高学歴」のいずれかの文字を見せた後、1人の黒人の写真を提示した。その後、同じ黒人の肌の明暗だけを変化させた数枚の写真を見せ、最初の写真がどれだったか質問した。すると「高学歴」を見た被験者は、実際より色白の写真を選んだという。これは「肌色記憶バイアス」と呼ばれ、自分の固定観念の誤りが示されると、その偏見を守るために記憶が修正されることを示唆している。
6. 鎮痛剤が麻薬による記憶障害を予防する可能性
マリファナは癌の疼痛コントロールなど、医療の現場において有用であるが、同時に記憶障害などの副作用もある。しかし、マウスを使ったある実験で、記憶障害はマリファナの有効成分Delta-9-THCによって脳の海馬(記憶を司る)内のCOX-2という酵素が増えることに起因し、これを下げれば問題を解決できることが判明した。
鎮痛薬のイブプロフェンはCOX-2を阻害するため、マリファナによる記憶障害を予防できるかもしれないのだ。
5. ドアを通り抜けるだけで記憶が薄れる
ただドアを通り抜けるだけで、色々と忘れることができる。これは「事象の境界」と呼ばれ、この単純な行為によって、ある部屋の出来事と別の部屋の出来事が記憶の中で区別されるのだ。このため、ある部屋の中で決めたことや行為は別の部屋へ行くと思い出しにくくなってしまう。
4. 女性は声の低い男性をよく憶えている
女性になんとか自分を印象づけたい男性は、低い声で話しかけるといい。女性は低い声を好む傾向にあり、そうした声の持ち主ほど記憶に残るとともに、潜在的なパートナーとみなす可能性も高くなるという。
しかし一方で、顔を憶えてもらえるかどうかは、それが特徴的であるかどうかに左右される。いくら魅力的な顔であっても、大きな特徴がない限りは、あまり魅力的でない顔の方が記憶に残り易い傾向にある。
3. 一目惚れは記憶のトリック
多くの研究で記憶を思い出すたびに、それは徐々に不正確になり、最終的にはまったくのデタラメになってしまうことが明らかとなっている。
記憶は呼び起こされる度に、現状に適合したものとするため、現在の情報で書き換えられているのだ。「一目惚れ」が単なる記憶のトリックと言われる理由はそれだ。研究者によれば、一目惚れとは現在のパートナーに対する愛情を、初対面の時に遡って相手に投影しているだけの記憶の錯誤なのだ。
2. 記憶力抜群の人たちでさえ偽の記憶を作り出す
世の中には幼い頃から現在にいたるまでの全てを、事細かに憶えていられる記憶力抜群の人たちが存在する。しかし、そのような人たちですら記憶の改ざんの影響を容易く受けてしまう。
女優のマリル・ヘナーもそのような1人で、抜群の記憶力の持ち主だが、あるインタビューで一番最初の記憶は洗礼式だと答えたことがある。「祖母がいつも洗礼式のことを話してくれたわ」と。実は、その記憶は間違っていた。彼女の祖母の話が記憶の中に紛れ込み、徐々に改ざんしてしまっていたのだ。
1. 記憶を操作して、恐怖心を取り除く
長期的な記憶は、脳のタンパク質形成に基づく固定化プロセスを経て形成される。ある出来事を思い出したとき、それは再度固定化されるまで不安な状態にあり、周囲の環境に影響される。研究者は、このプロセスを利用して脳から感情の記憶を消去できないかと考えている。
ウプサラ大学の研究者による実験では、2グループに分けた被験者に何の変哲もない写真を見せている間に電気ショックを加えて、写真と結びついた恐怖心を植え付けた。その後、一方のグループには記憶の固定化をさせたが、他方のグループには写真を繰り返し見せることで固定化プロセスを阻害した。すると固定化を行わなかったグループは写真の恐怖をすっかり忘れてしまったのだ。
via:listverse.・原文翻訳:hiroching
▼あわせて読みたい
自分の記憶があてにならない10の理由
個人の記憶は無意識のうちに書き換えられていく、「社会への同調」で生まれる「ニセの記憶」
人の記憶は曖昧なもの。伝言ゲームのように書き換えられていく(米研究)
脳に電気ショックを与えることで嫌な記憶を消し去ることに成功(オランダ研究)
SFの世界がついに現実に!?失った記憶を回復させる脳埋め込み型装置がいよいよ発表間近(DARPA)
カラパイア無料メールマガジン購読方法
コメント
1. 匿名処理班
あー、オレも事故で一部の記憶が抜け落ちているわ。
便利なモンだな。
2. 匿名処理班
ヤフーオークションのお話?
3. 匿名処理班
姑獲鳥の夏ぽい。
4. 匿名処理班
恐怖心を取り除けるという事は他の感情も
取り除けるのかね?それならいろいろなものを取り除いてみたいな。
5. 匿名処理班
ごめん、一目惚れのくだりがわからない
会った瞬間に、過去に会ったことがないのに、僅かな秒単位で好きという感情が湧いてくるのが一目惚れなのに、
なんで、今付き合っている恋人と出会った時の事を思い出して、一目惚れだった様な気がするっていう状態の話になっているの?
6. 匿名処理班
巧妙な戦略よりランダムな戦略のほうが平均的に強いという研究があったような
ゲーム理論だったかな
7. 匿名処理班
※6
ざっくり言うと「一目惚れは、していない」かな?
一目惚れから恋が始まったと思い込んでいる。
「思い込み」それが記憶の錯誤 だと思います。違ったらごめん。
8. 匿名処理班
世界を動かしている連中がやってることだな。
9. 匿名処理班
事象の境界かっこよすぎワロタ
10. 匿名処理班
記憶操作の最悪レヴェルの事例のひとつがアメリカで大規模訴訟に発展した悪魔崇拝儀式虐待事件だな。
心理療法により存在しない虐待の記憶が作り出されて保育園関係者や警察官、両親らが子供に訴えられるという事件がいくつも起きたんだ。
11. 匿名処理班
「ショッピングモールの迷子」の実験を知ってから、人の記憶は疑ってかかるようになったし、自分の記憶にも自信が無くなった
12. 匿名処理班
固定化したプロセスを阻害って、どうやって阻害したんだ?
13. 匿名処理班
※13
直前のパラグラフすら記憶できない人ですか?
14. 匿名処理班
※11
しかも、「その心理療法って科学的に信頼できるの?」って指摘したスケプティックな人たちまで批判されたんだよね。それまで幸せだった家族がバラバラになって、いい加減な心理療法家が儲かるという地獄になったわけだ。
ここの米見てる人でもっと詳しく知りたい人はカール・セーガンの本読んでみて。
15. 匿名処理班
一目惚れはないってのだけ理屈は分かるけど納得できない。初対面でこの人が良いって思っていきなり付き合う二人もいるし、初対面の好意的記憶が現在の関係性から捻出されてるってのは違う気がする。
16. 匿名処理班
記憶の事を説明してる科学者の記憶が改竄されてるな
17. 匿名処理班
だから僕は今日も扉を潜らないんです。
決して引きこもりじゃないです。
18. 匿名処理班
この「一目惚れ」は、ある程度付き合いが長いカップルに「彼(彼女)との出会いの印象ははどうだったか?」と質問したとき、本当の出会いがどんなものであれ「一目惚れ」と答える人が多いからか?
それなら確かに「記憶の改編」が起こってるのか
ただ、本当に出会った瞬間に「一目惚れ」したとしても。それがその相手への「好意」なのか。または過去にその相手に似た人に寄せていた好意を、その相手に「すり替え」てるのかってなると、またややこしくなるな
19. 匿名処理班
難しい話だ
記憶する前に理解できない
20. 匿名処理班
初めて見た日に告白したことのある自分からすると一目惚れだけは納得できない
21. 匿名処理班
有名なのは裁判で加害者が法廷で次第に被害者のように振舞う話があるよね
記憶を捏造して本当に自分が無実だと思い込んでしまうらしい
22. 匿名処理班
専門家でもないから、込み入った話は出来ないが、人の記憶なんて右から左に流れていくよね。
喜怒哀楽の事を、年数が経過すれば薄れていくし、余程のその人にとって、震撼させる事が無いと、人の脳には残らないものだと思う。
履歴書の経歴見て、その時に何をやってたか?
分かる事もあるから、不思議なものさ。
23. 匿名処理班
え〜と これ何のスレだっけ
24. 匿名処理班
記憶は何度も再構築されるって言うね。
虐待の記憶を捏造したカウンセラーの罪は重いよなー。家庭崩壊させてるもんね。
25. 匿名処理班
嫌な思い出はなかなか消えない。結構根に持つタイプなので・・・・。
26. ・・・
オバマ大統領より松崎しげるの方が色黒に見えるのも、潜在的な差別意識が生み出す錯覚なのだろうか…
27. 匿名処理班
鬱病の人の方が現実認識は正しい、って話があったと思うが、
戦争の残虐行為に目をつぶったり、都合の良い記憶改変をしたりするのは
健康的に生活するためには重要な精神活動である、という気がしてくる。
28. 匿名処理班
現実認識が正しい ・・・・ ではその現実がどうであれば正しくないのかな.正しいとされるその「認識」はどこの国にいっても同じか.どの民族,どの時代でも同じだろうか.多分違うと思うよ.ではその「正しさ」はどこで通用するのだろうか?
「世界は私の表象である」とは,ショーペン・ハウエルの言葉だ.著書の本文冒頭からズケズケとこの言葉をカマしているのには参った.
世界は自分のみが感じ 見た世界であり,他人が見た世界は また別の表象だということ.つまり人の数だけ世界があり,それぞれが「うん 世界はこういうものだ」と思っている.それぞれの解釈に加えて 殆ど無意識の「思い込み」「錯覚」「誤解」「偏見」などが彼自身の世界を表象として認知している.
こんな話をすると 「そんなこと言ってたら何も話せはしない」と不服を言う人が出てくる.そう!本来は「何も話せない」のだ. 間違ってはいけない.誰かが「何かを話す」ために真理が存在するのではない.それは人間の都合とは無関係にあるものなのだ.
かくして 筆者を含む多くの人間が「世界はこんなものだったんだ」という「思い込み」の記憶をたくさん抱えたまま 棺桶に入っていくんだね. 恐らく人の一生は自身が思い込んでいるほど悪くもなく また良くもないだろう. 合掌
29. 匿名処理班
自分に都合のよい情報は記憶に残りやすい、ってのは確かに事実だよな。
特に今は、インターネットでの情報入手だと予め自分の読みたい記事だけを半ば無意識に取捨選択してるから、自分にとって都合の悪い情報は存在しないことにすら容易に思い込める。
30. 匿名処理班
嫌な事ははっきり覚えている
31. 匿名処理班
7は実際そういうこともあるんじゃないの?
インド在住の日本人女性のエッセイを読んだけど、
インドではカーストが高いほど教養があって肌の色が薄いそうだ。
白い肌への憧れなのか、色の薄い人を好む傾向があるからそうなるらしい。
3はようするに一目惚れは後から一目惚れだったと思うだけで、リアルタイムではありえないって事?
私は経験無いけど、目の前で友人が一目惚れした瞬間に立ち会った事があるんだけどな…
32. 匿名処理班
「なんとなく欲しかった」ぐらいのを探しに本屋やCD屋に入ると「…何買いたかったっけ?」ってなる。
(ずっと心待ちにしていた本やCDだとさすがに覚えてるけど)
事象の境界にいろんな物を忘れてきた。
33. 匿名処理班
※33
インドの例は外から侵略してカーストという制度を作った民族が土着民族より肌が白かった、そしてカースト上位を占める民族は上位民族同士で子孫を残してきたため人種的特徴もカーストと共に受け継がれた、という歴史的な理由によるものです。カースト制度を作った民族の肌が黒かったら今でも上位を占めるのは肌の黒い人達だったでしょうね。
34. 匿名処理班
あのタモリですらさ、マイルス・デイビスへのインタビュー映像が流れたとき「嘘だ!あのときにテレビカメラなんか無かった!」と驚いていたからね。
35. 匿名処理班
そういえば買いたいものがあってコンビニに入ったのにそれを忘れて違うものを買って出る事が割とよくあるわ