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国民全員分。スイスの地下に広がる37万か所の核シェルター

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(著)

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Science Channel / Youtube
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  長年軍事的中立政策をとるスイスの地下には、国民約913万人全員を収容できる37万か所以上の核シェルターがある。

 冷戦時代、周辺国への核攻撃で降り注ぐ放射性降下物から国民を守るために建設が始まり、「住民1人につき1つのシェルター」が国のルールとなった。

 冷戦が終わってもこのルールは変わっていない。

 世界情勢の悪化を受けて、スイス政府は2025年10月、最後の避難先を守るための設備更新と建設義務の強化を決定した。

参考文献:

放射性降下物に備え、冷戦下で始まった全国的な建設

 地球上で核戦争が起きた場合、生き残るために隠れる最適な場所として、重武装した北半球から遠く離れたオーストラリアやニュージーランドがよく挙げられる。

 どちらの国も孤立した位置にあり、十分な農地を持っているからだ。

 地下にこもって生き延びる道を選ぶなら、スイスもかなり有力な候補になる。

 人口約913万人を抱え、長年軍事的中立政策をとってきたこの国は、世界で最も多くの核シェルターを持つとされているからだ。

 第二次世界大戦後から1991年まで続いた冷戦時代、スイスは米ソの対立が激化しても自国が直接の標的になるとは考えていなかった。

 しかし核爆発で生じる放射性降下物は、国境に関係なく降り注ぐ。

 ヨーロッパ全体に放射線が漂う事態を想定して、スイスは国民の命を守る計画に着手した。

 国民保護を管轄するスイス連邦国民保護局(BABS)は、「ヨーロッパで核戦争が起きた際に国民が地下で生き延びられるよう、頑丈で簡素、しかも費用を抑えたシェルターを全国に建設するという、世界に例のない構想を打ち出した」と説明している。

 冷戦が終わるまで、シェルターの建設と、地下で長期間暮らすための準備は、スイスの民間防衛の中心であり続けた。

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スイスの軍事施設の周辺地域のいたるところに存在する核シェルター Image credit:Kecko / ASU – Atomic shelter / commons.wikimedia / CC BY 2.0

ルツェルン市の3人に1人を収容する予定だった巨大施設

 冷戦時代のスイスには、非常に大規模な核シェルターがいくつも存在していた。

 1970年代にスイス中央部の都市ルツェルンに造られた「ゾンネンベルク・シェルター」は、なかでも規模が大きい。

 施設のガイドを務めるゾラ・シェルバートさんは、アメリカの公共ラジオ放送NPRの取材に対し、「当時、2万人はルツェルン市の住民の3分の1にあたる人数で、市民の3人に1人がこのシェルターに避難することになっていた」と語っている。

 ただし、施設に用意されていた発電用のディーゼル燃料は2週間分しかなかった。

 シェルバートさんによれば、2週間を過ぎれば食料も水も電力も尽きる。実際に核攻撃を受けていれば、地下での生活は短期間で行き詰まっていたはずだ。

 冷戦期に造られたシェルターが本来の目的で使われることは、一度もなかった。

「住民全員を収容」法律で義務づける

 冷戦が終わったのだから、スイスもシェルター政策を縮小しただろうと思うかもしれない。

 ところがスイス政府は「住民1人につき1つのシェルター枠」という方針を徹底させ、全国民を収容できるだけの空間を確保し続けてきた。

 武力紛争が起きたときに国民が最後に逃げ込める場所として、シェルターを手放さない道を選んだのだ。

 現在、スイスには個人用と公共のシェルターが合わせて約37万か所あり、収容できる人数は900万人以上にのぼり、スイス連邦国民保護局は国民全員の数を上回っていると述べている。

 シェルターは建設費や維持費を抑えるため簡素な造りになっているが、鉄筋コンクリート製で爆風に耐える扉を備え、入り口がふさがれたときのための脱出用トンネルも用意されている。

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Science Channel / Youtube

 どのシェルターにも換気装置が取り付けられ、大規模な施設には外の空気の侵入を防ぐエアロック(気密室)も設けられている。

 BABSによると、シェルターは規格化された部品で造られ、大きさはさまざまだ。

 一戸建てや集合住宅の地下にあるものは、建物の規模に応じて5人から50人を収容する。学校や役所の下に造られた公共のシェルターには、数百人分の枠を持つものもある。

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スイス、ザンクト・マルグレーテンベルクにある核シェルター内部の様子。Image credit:
Kecko
/ ASU – Atomic shelter / commons.wikimedia / CC BY 2.0

相次ぐ紛争を受け、2025年に決まったシェルター網の更新

 2010年から2011年にかけて、スイス議会ではシェルター建設の義務をやめるべきだという議論が持ち上がった。

 議論の最中の2011年3月、日本で巨大地震と津波によって福島第一原子力発電所が事故を起こした。

 BABSのダニエル・ヨルディ副局長は、議員たちが「本当の非常時に国民を守る国家の備えとして、シェルターを持っておくほうがよい」という結論に達したとNPRに語っている。

 現在も、住宅を新しく建てる場合には、自らシェルターを造るか、自治体が管理する公共シェルターに代替負担金を支払うかのどちらかが義務づけられている。

 さらに、ウクライナでの戦争をはじめ各地で紛争が続く状況を受け、スイス政府は2025年10月22日、民間防衛令(ZSV)の改正を決定した。

 老朽化した換気装置やフィルターを交換し、増改築や用途変更にもシェルター建設の義務を広げ、代替負担金を1枠あたり800フランから1400フラン(約16万円から約28万円)へ引き上げる内容で、2026年1月1日に施行されている。

 スイス政府を構成する連邦参事会は声明の中で、過去60年にわたって国民を守る防護インフラを築いてきたと述べたうえで、世界の安全保障環境の変化、とりわけウクライナでの戦争と各地の紛争が、こうしたインフラの重要性を裏づけていると説明している。

 武力紛争は21世紀においても現実の脅威であり続けている、とスイス政府は判断している。

 シェルターが本来の目的で使われる日が来ないことを祈るばかりだ。

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日本の核シェルター事情

 ちなみに日本は国土面積はスイスの約9.2倍、人口は約13.4倍にあたるが、どれだけ核シェルターが設置されているのだろうか?

 日本には、核シェルターの普及率を示す公的な統計が存在しない。

 ネット上では0.02%という数字が広まっているものの、調査の主体も算出方法もたどれず、根拠を確かめられなかった。

 国が指定を進めているのは「緊急一時避難施設」と呼ばれるものだ。

 ミサイル攻撃の爆風から身を守るため、1時間から2時間ほど身を寄せる場所として、コンクリート造りの建物や地下街、地下駅舎などが選ばれている。

 内閣官房によると、2026年4月1日の時点で全国に62,382か所あり、人口カバー率は162.8%に達した。

 ただし、地下にある施設は4,540か所しか存在せず、地下施設だけで人口カバー率を計算すると5.9%まで下がる。

 放射性降下物を避けるには地下に入る必要があるため、スイスと同じ条件で比べられると、明らかに少ない。

 日本政府は2026年3月31日、緊急事態を想定した避難施設の確保に関する基本方針を閣議決定した。

 2030年度までに市区町村ごとに全住民が入れる数を確保することを目標に掲げ、地下街や大規模な建物の地下駐車場を避難先として確保する方針を示している。

 日本では、核攻撃のような過酷な攻撃に耐えるシェルターについては、まだ調査と研究を深める段階にあるようだ。

References: Switzerland has more nuclear bunkers than any other country : NPR / Switzerland Has Over 370,000 Nuclear Bunkers, Enough To Host Every Person In The Country | IFLScience

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