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野生動物の異変をスマホで報告。感染症の流行を早期発見する監視システム

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(著) (編集)

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野生動物を通報できる専門アプリに新しい仕組み/image credit:youtube
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 一般人でもスマホから、野生動物の異変を通報できる専用アプリが浸透しているブラジルで、大量の報告を点数化することで、感染症の発生をいち早く検知する新しい仕組みが開発された。

 開発したのは、保健省の連携研究機関、オズワルド・クルス財団の研究チームだ。

 動物の発見場所と時期でグループ化し、注意度を数値で示すことで、1年間で1万4000件の報告通知を48件の警告に置き換えることができたという。

 黄熱(おうねつ)病の過去データでは、しきい値の設定により、実際の症例の9割から98%の検知率が確認され、研究チームは、狂犬病や鳥インフルエンザなど、他の人獣共通感染症への応用についても検討する方針を示している。

 この研究成果は『PLOS One』誌(2026年8月25日付)に掲載された。

参考文献:

野生動物の異変を集めるSISS-Geo

 ブラジルには、SISS-Geo(シス・ジオ:Sistema de Informação em Saúde Silvestre)と呼ばれる野生動物生体情報システムがある。

 運営するのは、ブラジル保健省と連携する公衆衛生研究機関、オズワルド・クルス財団(Fiocruz)だ。

 この無料の参加型プラットフォームの運用開始は2014年から。一般市民のほか、専門家や研究者、環境管理の担当者が、具合が悪そうな猿などの野生動物などを発見次第、スマホ専用アプリから位置情報付きで知らせることができる。

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image credit:youtube

 対象は、病気の個体や死んだ個体だけでなく、生きた個体の目撃情報までおよぶ。

 その内容は、地図上にリアルタイムで反映され、専門家の診断や感染症の拡大分析や予測に活用される。

Vídeo SISS-Geo Fiocruz

致死率最大50%。ブラジルでも流行中の黄熱病

 SISS-Geoは 運用開始以来、黄熱病の流行など、ブラジルの野生動物の健康が危機的状況に陥るたびに、最善の選択を支えてきた。

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image credit:youtube

 国連食糧農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)など、複数の国際機関がまとめた「ワンヘルス共同行動計画」でも、感染症の早期検知を支える監視システムの一例として紹介されている。

 黄熱病は、中南米やアフリカで流行中のウイルス性感染症で、マラリアやデング熱同様、主に蚊の媒介で感染する人獣共通感染症の一つだ。

 致死率20から50%と高く、発症すると高熱や出血などの症状を伴うが、一度罹ると生涯免疫が得られる。

 主な宿主は猿、およびヒトで、ヒトが黄熱病のウイルスを持つ蚊に刺されることで感染する場合もある。媒介する蚊はネッタイシマカに代表される。

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ネッタイシマカ

 猿など、ヒトを除く霊長類は、ヒトより先に発症して死亡することが多いため、早期に流行の兆しを示す「センチネル(見張り役)」ともみなされてきた。

 世界保健機関の情報によると、2025年には南米5カ国で212件の黄熱病の確定症例が報告された。2024年の61件の3倍以上だ。

1年で1万4000件もの通知が課題に

 現行のSISS-Geoのシステムは、あらかじめ定められたルール通りに作動する。たとえば、誰かが猿の死亡や疾病を1件報告すると、自動で保健当局担当者のもとにデータを含むお知らせメールが1件届く。

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image credit:youtube

 SISS-Geoは、2014年から稼働してるが、通知の体系的なモニタリングが始まった2024年4月以降、2025年の1年間だけで、約1万4000件もの通知メールが届くようになった。

 通報が多いということは、それだけ皆が意識して野生動物を見てるともいえ、報告がゼロよりはずっといい。

 だが、すべての通報が同じ優先度で届く仕組みでは、地域や時期の差もわかりにくく、担当者も大量のメールの中のどれを優先すべきか迷うことになる。

 つまりは限られた人員と検査体制の中で、対処を急ぐべき重要な通報に十分な人手を割けない課題が生じた。

異変を点数化する新指標「Z-Alert指数」

 この課題に対応するため、Fiocruzの研究チームは「多属性人獣共通感染症警報指数(Multi-Attribute Zoonotic Alert Index)」、通称Z-Alert指数と呼ばれる新しい仕組みを開発した。

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システム全体の流れ図/image credit:Angelo et al., 2026, PLOS One, viaCC BY 4.0

 中心となるのは、クラスタリング(似た性質のデータをグループ化する分析手法)と、多目的最適化(互いに競合する複数の目標を同時に満たす最良の組み合わせを探す手法)という、2つの技術の組み合わせだ。

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クラスタリングデータ。単位クラスター以外のクラスターのみを強調したもの/image credit:Angelo et al., 2026, PLOS One, viaCC BY 4.0/Map image is the intellectual property of Esri and its licensors. All rights reserved. Copyright © 2026 Esri and its licensors.

 まず、近い場所・近い時期に報告された記録を、DBSCANという手法で、ひとまとめのグループ(クラスター)にする。

 次に各クラスターについて、死んだ動物の割合、報告が続いた期間、地理的な広がり、といった複数の要素を数値化し、重み付けしたのちに合計する。

 この重み付けの配分は、これまで黄熱病の確定症例があったクラスターと、なかったクラスターを比べる最適化計算で決まる。いわば罹患歴があるグループかどうかを最も見分けやすくなるよう、自動的に調整される仕組みだ。

 こうして算出された点数がZ-Alert指数であり、点数が高いクラスターほど注意すべき水準が高いことを示す。健当局の担当者は、警報を出す点数のしきい値を自らの地域の実情に合わせて調整できる。

 しきい値を緩めれば、見逃しは減るが件数は増え、絞れば当然その逆になるになるが、この仕組みでリスクレベルもわかりやすくなり、優先順位もつけやすくなった。

黄熱病データで高精度を発揮

 研究チームは、2014年5月から2024年12月までのブラジル保健省の黄熱病の公式記録を使い、Z-Alert指数の精度を検証した。

 その方法は、通報から30日以内に、同じ市町村で実際の確定症例の報告があれば的中と判定するものだ。

 しきい値を緩やかに設定した場合、実際の症例のおよそ9割から98%の高精度で見逃しを防げることが確認できた。

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実際の警報発生クラスター。ソリューション6の結果、いき値レベル0.99で27件の警報が発生した/image credit:Angelo et al., 2026, PLOS One, viaCC BY 4.0/Map image is the intellectual property of Esri and its licensors. All rights reserved. Copyright © 2026 Esri and its licensors.

 研究チームは、2025年に新たに収集された、独立したデータでも改めて検証し、同様の傾向を確かめている。

 2025年のデータにZ-Alert指数を当てはめると、警報はおよそ48件にとどまった。同じ1年間に寄せられた約1万4000件の通知と比べると、劇的に数が減った。

 研究チームは、この仕組みを今までのシステムに取って代わるものではなく、重要な報告を見出しやすくする追加の仕組みと位置づけている。

他の人獣共通感染症への応用と課題

 SISS-Geoには黄熱病以外にも、狂犬病や鳥インフルエンザに関する記録が含まれており、研究チームは、このZ-Alert指数の枠組みを、こうした他の人獣共通感染症にも応用できる可能性を見込んでいる。

 同時にチームはこの仕組みの限界も挙げている。まずクラスタリングとZ-Alert指数の信頼性が、報告データの網羅性と正確性に左右されること。

 さらにデータとなる報告そのものの遅延と、地域によってSISS-Geo の普及度に偏りがあるところだ。これらの点がデータ利用を妨げる要因になりうるという。

 それでもSISS-Geoは現在、サンパウロ州やパラナ州をはじめ、ブラジル各地の現場で実際に活用されている。野生動物の小さな異変が、感染症の早期発見の確かな手がかりになる日もそう遠くないかもしれない。

References: DOI:10.1371/journal.pone.0356739

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