この画像を大きなサイズで見るGoogleマップを眺めていたカナダのアマチュア天文家ジョエル・ラポワントさんが、ケベック州で奇妙な円形のくぼみを見つけたのは2024年のこと。
当時カラパイアでも紹介したこの発見を受け、カナダのウェスタン大学とフランスのCEREGE(環境地球科学研究センター)の研究チームが現地調査に乗り出した。
そして2026年、調査隊は衝突の証拠となる岩石を発見し、この謎のくぼみが3億9000万年前に隕石衝突でできた本物のクレーターだと確認した。
この結果は、一人のアマチュア天文家の気づきが、専門家にとっても貴重な科学的発見に転じるという驚きの出来事となった。
参考文献:
- An Amateur Astronomer Using Google Maps Spotted a Strange Indentation. It Turned Out to Be a Meteorite Crater From 390 Million Years Ago
Googleマップで見つけた円形の影
2024年、アマチュア天文家ジョエル・ラポワントさんはカナダ・ケベック州でのキャンプ旅行のルートを検討するため、Googleマップを眺めていた。
すると、コート・ノール地方、マグパイの町から北へおよそ100km離れたマルサル湖(Lake Marsal)周辺に、直径15km前後のほぼ球形の構造が写っているのに気づいた。
くぼみのおおよその位置は、北緯51.2度、西経64.7度付近。マルサル湖を取り囲む一帯にあたる。
地形の起伏を等高線図のように表示する「デジタル標高モデル(DEM)」で確認すると、円形の構造はさらにくっきりと浮かび上がった。
もっとも、こうした円形の地形自体は珍しくない。のちにこの構造を現地調査で確認したウェスタン大学の惑星地質学者ゴードン・オシンスキー氏はこう振り返る。
「Googleアースを見ると、確かに円形っぽい特徴がある。ただ、探せば似たような地形はいくらでも見つかります」
この画像を大きなサイズで見る火山地形か衝突の跡か
ラポワントさんは初めのうち、まさか自分が何かを見つけたなんてありえない。もうみんな知っているはずだ、と自分に言い聞かせていた。
だがこの地形は自分なりに調べたどのクレーターのデータベースにも載ってなかったため、フランス・CEREGEの地球物理学者ピエール・ロシェット氏に報告した。
ロシェット氏は、この地形を見た印象として、衝突の可能性を強く示唆するものだったとCBCに語っている。
今までそのくぼみは、地質学者の間で、火山砕屑性ダイアトリーム(火山活動でできた地形)と分類され、「マルサル角礫岩」と呼ばれていた。
だがラポワントさんの報告を受けたロシェット氏らのチームが、既存のデータを改めて検証したところ、ミスタスティン・クレーター(Mistastin crater)やヤニシャルヴィ・クレーター(Jänisjärvi crater)に似た、クレーター床の溶融岩に近いものという結論に至った。
さらに以前採取されたサンプルは、衝突溶融岩の可能性を示すケイ酸塩、磁鉄鉱、硫化物、ジルコンを含んでいた。それでも年代の絞り込みは難しく、侵食レベルに基づき、4億5000万年前から3800万年前までという幅広い推定にとどまった。
これらの予備的な証拠から、ロシェット氏ら研究チームは、この地形をケベック州で11番目に確認される衝突構造の有力候補としたものの、確定には現地調査が必要としていた。
最も過酷だった現地調査
ラポワントさんの報告は、惑星地質学者のオシンスキー氏のもとにも届いた。同氏はウェスタン大学が運営するクレーターのデータベースサイト「インパクト・アース(Impact Earth)」の管理者でもあったが、当初は懐疑的だったという。
そんなオシンスキー氏が調査に踏み切ったのは、2025年10月のことだ。CEREGEの研究者ジェローム・ガタチェカ氏ら4人の調査隊を率い、5日間かけて現地入りした。
この画像を大きなサイズで見る調査では水上飛行機が接岸できず、沖合50mから隊員が機材を担いで歩いて上陸するなどかなり大変な目にあったもよう。
「これまでで最も過酷な調査の一つでした。北極圏や6大陸で25回の調査をこなしてきた私の感想ですよ」とオシンスキー氏は語る。地形は険しく荒れており、その上、虫も多かったという。
シャッターコーンと衝突溶融岩発見
調査2日目、調査隊はシャッターコーンを発見した。
シャッターコーンとは、隕石衝突の衝撃波が岩石を通過する際にできる円錐状の構造で、円錐の先端が衝突の中心を向くのが特徴だ。
この画像を大きなサイズで見る「浸食が進んだこの場所では見つからないだろうと思っていましたが、非常に見事な特徴が見つかりました。今でも驚いています」とオシンスキー氏は振り返る。
加えて厚さ50m以上の衝突溶融岩(インパクトメルトロック)の崖も見つけた。
この画像を大きなサイズで見るこれほどの規模のクレーターの場合、形成時に地殻が数十立方kmという単位で一度溶け、その後冷えて固まるといった過程を経るという。
この画像を大きなサイズで見るこれらの証拠から、このくぼみが3億9000万年前に生じた本物の隕石クレーターだと結論づけたという。
この画像を大きなサイズで見るこの結果をオシンスキー氏はこう語る。「10件中9件、あるいは100件中99件が違ったとしても、驚かされる残りの1件が必ずあります。私にとっては、これが初めての当たりです」
現地調査の様子や発見の経緯は、現地メディア、カナディアン・プレスが動画で公開している。
なおデボン紀にあたる3億9000万年前という年代がどのような手法で導き出されたのか、といった詳細は現時点では明らかにされていない。
研究チームは今後、詳しい分析結果を論文としてまとめ、このクレーターが地球の地質・生物・気候に与えた影響についても明らかにしていく方針だ。
直径25kmに達する構造
さらにこの現地調査とその後の分析、さらに隕石学会の公式発表資料から、当初は直径15km前後とみられていたこのクレーターが、より大きな直径25km(15.5マイル)に達する構造であることが確認された。
世界でこれまでに確認された隕石クレーターはおよそ200個、うちカナダ国内で見つかったものは31個となる。
オシンスキー氏によると、新たなクレーターが見つかるペースは年に1、2個ほどで、その多くは直径5から10km程度だという。カナダ国内で最後にクレーターが確認されたのは2010年で、今回はそれ以来の発見となる。
クレーターは「ウアカティク」と命名
今回確認されたクレーターは「ウアカティク(Uhackatik)」と命名された。
この画像を大きなサイズで見るこの名前は、クレーターが位置する土地の先住民を代表する統治機関、エクアニチット・イヌー評議会(Innu Council of Ekuanitshit)との協議を経て決定されたものだ。
調査チームは2026年8月にドイツ・フランクフルトで開催される隕石学会の第88回年次大会でこの発見を発表する予定だ。
より大きく古いクレーターも存在
現存する最大の衝突クレーターは、南アフリカのフレデフォート・ドーム(クレーター)で、直径は最大300km近くにおよぶ。
地球最古のクレーターについては、2026年6月に発表されたオーストラリアのカーティン大学らの研究チームが、同国の「ノース・ポール・ドーム・クレーター(North Pole Dome crater)」がおよそ30億年以上前のものだとしているが、専門家の間でも意見が分かれている。
アマチュアの気づきが発端となった科学的発見
実はカナダは、世界のどの国よりも多くの隕石クレーターが確認されている国だ。
「ケベック州もカナダも、大陸移動でずいぶん位置を変えてきました。赤道近くまで行って戻ってきたこともあります。大陸が分裂と結合を繰り返す中、あの岩石は形成後ずっと地表近くにあり続けました。その期間は数十億年間の可能性もあります。カナダに古い岩石が多いからこそ、隕石衝突の記録も残っているのです」とオシンスキー氏は説明する。
ラポワントさんは、クレーターの発見に自分が関わったことに大喜びでこう語っている。
「一般市民が3億9000万年前のクレーターを見つけるなんて、そうあることではありません。みなさんには、たとえ自分の専門分野でなくても、直感や気づきを無視しないでほしいと伝えたいです」
References: Iflscience / Hou.usra.edu / Geoscienceworld.org















