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現金給付がどのような影響を及ぼすのか?米アラスカ州の11年間のデータでわかったこと

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(著)

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Image by Istock alfexe
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 政府が個人に現金を直接支給する政策は、社会にどのような変化をもたらすのだろうか。

 アメリカ・アラスカ州では、40年以上も前から全住民に現金を配る独自の制度を継続している。年間1人あたり約15万円から30万円ほどだ。

 これまで現金を配ることは、「アルコールや薬物の購入が増え、事故や事件などの社会混乱を招く」という根強い懸念の声があった。

 だが、ニューヨーク大学などの研究チームが、アラスカ州の11年間にわたるデータを分析したところ、少なくとも現金の給付直後において、事件や事故による負傷、および死亡率の増加と統計的な関連は一切見られなかった。

 この査読済み研究論文は『American Journal of Epidemiology』誌(2026年1月29日付)に掲載された。

40年以上続くアラスカ独自の給付金制度

 アラスカ州には、永久基金配当金(PFD)という世界でも類を見ない制度がある。

 これは州の石油資源から得た利益を、赤ちゃんからお年寄りまで、アラスカに住むすべての住民に毎年還元するものだ。

 一般的に知られている「ベーシックインカム」は、税金を財源に最低限の生活費を「毎月」支給することを目指すが、アラスカのPFD制度は石油の利益を分ける「年に一度のボーナス」のような性格が強い。

 1982年から続くこの制度では、毎年秋になると1人あたり1,000ドルから2,000ドル(約15万円から30万円)程度が送られる。

 物価の高いアメリカでこれだけで生活するのは不可能だが、多くの家庭にとって暖房費や教育費を支える重要な臨時収入となっている。

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Image by Istock Jeff Manes

「お金を配ると混乱が起きる」という懸念を検証

 一方で、この制度には導入や継続に対して慎重な意見も存在する。

 特に懸念されていたのは、現金を直接手にすることで自制心を失う人が現れるのではないか、というリスクだ。

 「自由なお金が手に入れば、アルコールや薬物の購入が増える。その結果として、暴力事件や交通事故、薬物の過剰摂取による死亡といった悲劇が急増し、社会が不安定になるのではないか」と指摘する声が常にあがっている。

 今回、ニューヨーク大学(NYU)やカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームは、こうした予測が現実となっているのかを確かめるため、2009年から2019年までの11年間におよぶ州全体の膨大なデータを徹底的に調査した。

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Image by unsplash Meg von Haartman

現金給付直後の事故・事件率は増加していない

 研究チームは、州内の病院に記録されたすべての外傷(事故や事件による怪我)と、公的な統計に記録されたすべての死因を分析した。

 もし給付によるマイナスの影響があれば、現金が配られる秋の時期に合わせて、怪我や死亡率に目に見える変化が現れるはずだ。

 ところが、11年分のデータを精査しても、給付金の支払い直後に不自然な怪我や死亡が増えたという証拠は一切見つからなかった。

 この結果は、州最大の都市、アンカレッジのような人口の多い都市部でも同様だった。

 現金を一斉に支給した直後、人々の安全が脅かされたり、治安が悪化したりする事態は起きていなかったのだ。

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アラスカ・アンカレッジ Image by Istock Jacob Boomsma

社会支援のあり方を議論するための一歩

 今回の調査は、現金給付直後の「急激な事件や事故増加のリスク」を分析したもので、少なくとも給付後すぐには影響が見られないことがわかった。

 しかし、これは現金給付が社会に及ぼすあらゆる影響を解明したわけではない。

 長期的な心理変化や、労働への影響などは依然として検証が必要な課題だ。

 それでも、研究チームのサラ・コーワン博士は、今回の発見が「無責任な現金給付が悲劇を招く」という懸念を払しょくする根拠の1つになるという。

 このデータは、新しい社会支援の形を、事実に基づいて議論するための貴重な土台となるだろう。

References: Cash transfers do not increase traumatic injury and mortality: evidence from Alaska / A State Gave Everyone Money Every Year. Here’s What the Data Found

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この記事へのコメント 38件

コメントを書く

  1. アラスカならそうだろうけど、これが北米主要都市にも当てはまるかと言えば…
    薬物やアルコール、暴力沙汰以外で消費活動へのデータとかは無いのかな。そっちは日本にも参考にできそう

    • +27
  2. そもそもなんで「現金を給付するとアルコールや薬物の購入が増え、事故や事件などの社会混乱を招く」という思考に至るのかが理解できない
    そんなわけないじゃん

    • +53
    1. ほら、西側は反共ですから。
      社会が直接人を支えてはいけないという価値観がすごく強いので。

      • +9
      1.  マイナスついちゃっているけど、そういう部分はあると思いますね。 アラスカ州はアメリカ合衆国の一部で、アメリカ合衆国は西側の盟主でもあって、アメリカ合衆国に住んだことがあれば感じるでしょうけれど、彼らは小さい政府を望んでいて、共産主義や社会主義は大嫌いなのだとね。 かつてハリウッド(映画関係者)でもそういったことがあって赤狩りと呼ばれました。 
         今回の調査報告はほかの州ではどう見られているのかちょっと知りたいなと思ったのですが、 reddit (カラパイアでも時々でてくる掲示板)では見つけられませんでした。 かつてマルクスが言ったような資本主義が進んだ先にあるもの(社会主義)に近いのかどうか…… アラスカがこんな制度であることを不勉強で知らなかったのですがとても興味深い記事でした。 ありがとうございます

        • +8
    2. 世の中にはお金が手に入った時にパァッと使っちゃう人が一定割合いるんですよ
      で、そういう人たちが行きがちなのが手軽に良い気分にさせてもらうこと、すなわちお酒やドラッグなのでそれらの購入が増えることが心配された
      でも有意差はそこまで無かったというお話

      思うに昨日今日始まった制度ではなく40年以上続いているから住人たちの年間経済計画にしっかり組み込まれているんだろうね

      • +29
      1. コロナ給付金みたいに一度ならパッと使う人もいるだろうけど
        毎年同時期にもらえるって分かっているなら、それ前提に生活するでしょうね。

        • +14
    3. 「人間は即物的な快楽に走るはずだ」って前提を無根拠に支持してきた連中のせいだね
      生物はそんな単純な仕組みで動いていないのに馬鹿だ

      • +16
    4. それはグリーンランドのイヌイットの前例が有名な事例としてあるからですよ

      • +7
    5. メンタルアカウンティングの観点から見て、年によって変動する天から降ってくる金は
      ギャンブルの儲け同様あぶく銭と考えてろくでもない使い方に走る者を産みがち、
      という観念があるのだと思う。
      しかしここの住民たちは、このボーナスを年間家計に組み込んでいて有用な使い方をしてるみたいね。

      • +11
    6. 知的水準・教育水準が低くて計画性がなく、手元に現金があれば有るだけ使ってしまうタイプの人間は、一定数いる。
      そういう傾向は、酒や薬物、ギャンブル等、依存症が絡むと特に顕著になる。

      ただ、特段の増加が無かったところを見るに、
      そういう人は少数で 統計の大勢に影響を与える程でもなかったのか、
      そういう人は既に借金や盗みに手を出していて、給付が入ったところで返済に取られ どのみち手元にはあまり残らないのか、
      下層といえども現代では中学·高校は出ていて、前世紀みたいな宵越しの金は持たない日銭フローのその日暮らしタイプはさすがに減ったり、重度なら福祉の手が入るのか、
      原因は不明だが、とにかく数字に影響は出なかったんだろう。

      アラスカの秋というタイミングに20万円程という額も、冬に備えた衣類・寝具や暖房機器の買換え、クリスマスシーズンの物入りなど、ちょうど堅実な消費の足しに消えやすい時期なのかも。

      • +22
    7. アラスカだからじゃない?
      お酒の販売に厳しくて身分証提示が必須らしいし、そういった環境だと薬物みたいに闇販売の恐れがあるって考えになって、そういったモノの売り買いはやっぱり現金って事になるから、現金手渡す=違法物品の足つかない売買が盛るって発想で。

      • +1
    8. 現金なら第三者に知られず買えてしまうし証拠が残らないから。口座引き落としだといついくら引き落とされたか記録に残ってしまう。

      • -1
      1. いや、この場合の「現金給付」って、用途を指定した商品券(食料品のみ、地元市町村の店舗のみ等)とか、減税による実質的支給金ではない、って程度の意味で、べつに役場で列に並んで紙幣や硬貨を手渡しって訳ではないよ。
        申請口座に直接振り込みか、紙の小切手送付の選択肢もあるらしい?

        性質的には「政府系ファンドの石油事業の配当金」という位置づけで、連邦所得税の確定申告の対象だそうな。アラスカ州自体は所得税が無いらしい。

        • 評価
    9. “ナウル”っていう前例がありましてー…まぁ。あそこはやりすぎたんだけどね
      最低限度の「足しになる」「それでは生活ができない」程度ならば問題はないとは思う

      • +7
  3. 自由なお金が手が手に入ったからといってアルコールや薬物の購入が増えるのが分からない

    • +5
    1. 日本では生活保護受給者がパチンコやアルコールに使ってしまうと言われている。ただしごく一部の不正だとも言われている。ただ悪いニュースほど目立つもので、多くの生活保護受給者が悪いと思われてしまっている。

      「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」の中でハンス・ロスリングが同様のことを述べているので読んでみて

      • +2
      1. 何か勘違いなされてませんか?
        生活保護で不正とみなされるのは、収入を申告しなかったり、車や土地を所有しているのに申告しなかった事などです。
        パチンコやアルコールは確かに良くないかも知れませんが、支給された保護費の範囲内なら不正でもなんでもありません。
        もう少し調べてから投稿なされた方がよろしいかと。

        • 評価
        1. 法律と法律の趣旨の違いが理解できない人ですね

          生活保護は最低条件の生活ですよ

          パチンコは生活保護の趣旨から逸脱している不正ですよ

          • -6
          1. 法律の趣旨がどうであろうが、生活保護法に規定されていない以上は不正とは呼べんでしょう。
            それこそあなたの個人的主観でしかない訳で。
            別にパチンコをしてる人を庇い立てする訳ではないですが、現状では不正と断じて裁く事は出来ません。
            ついでに最低条件の生活についてもあなたの個人的主観が入り過ぎています。
            もう少し勉強された方がよろしいかと。

            • +4
          2. 生活保護は、憲法25条に基づいて作られた生活保護法による「権利」です。
            施しでも特権でもありません。
            法律に違反していない限り、受給者を感情で断罪するのは法治国家の態度ではない。
            「気に入らない使い方=不正」と決めつけるなら、それは法ではなく私刑の発想です。
            本当に問題があるなら条文を示せばいい。
            示せないなら、それは違法ではなく“あなたの感情”です。
            弱い立場の人を叩く前に、まずは法と事実で話すべきです。

            • +9
  4. やっぱり現金給付は下策だと思う だって政府には税金をもっと有効に使う力があるはずだから
    支給する目的を限定する(例えば燃料費)だけでもコストカットされてかなりの生活支援になるはずなのに

    • -11
  5. BIだけで人が生活するようになった時、お金の意味って変わるのかな
    企業から個人にお金が流れないだけで、個人から店にはお金が行くからどういう意味になるんだろう
    ここまでいくと社会主義的な形になるのかな?
    そういう話があれば記事にして欲しい(けどたぶん人気記事にはならないかも)

    • +6
  6. 犯罪率が全米でも屈指の高さのアラスカ州でもこれなんだもの、最低限の飯を食える収入があれば安易に犯罪に走ろうとは考えないだろうし、ベーシックインカムって案外合理的なのかもね
    まあ、元から治安が悪いからそれ以上悪化しなかっただけかもしれないけども

    • +4
  7. 不景気になると犯罪が増える好景気になると犯罪が減るというのはどこの国のデータでもそうなってる
    金を配って犯罪が増えるわけがない
    金持ちにアル中やギャンブル中毒が多いなんてデータも存在せず
    むしろアル中やギャンブルで破綻するのは生活困窮者ばかり

    • +17
  8. 誘惑が多く、満足度が足りないところで配るとトラブルにつながる
    当てこんで買い物、薬や酒での現実逃避、賭け事で逆転狙いなど
    アラスカはアルコール問題はあるが厳しい環境で地に足が付いてないと生き残れない
    誰もが冬の備えを考えるころ配られてもいるし

    以上、推測でした(責任は取らない)

    • +8
  9. 「年に一度のボーナス」
    「物価の高いアメリカでこれだけで生活するのは不可能」
    というところにも注意が必要ね

    • +16
  10. そりゃもらえるものとして組み込まれてたら浮かれないわよ。毎月の給料と変わらないし。ギャンブルみたいに自分で選んだ結果、もらえたらとち狂ったりがあるだろうけど

    • +7
  11. いつだって、疑わないことには生きていけないね

    • +1
  12. 金額が少なすぎるでしょ
    こんなの冬の暖房費補助金だよ

    • +14
  13. で、就業率(失業率)の向上といったプラス面のデータはよ

    • +4
  14. アルコールや薬物よりも働く意思への影響の方が強そうだと思っていたし、ベーシックインカムのようなシステムの導入に積極的な国が少ないのはむしろそっちがネックになっているものとばかり思っていたな
    一時的な快楽(しかも健康被害つき)にお金を払う価値を感じない人間だって結構いるんだよ

    • +7
  15. 1年間で15〜30万円程度じゃね。これで人生狂わせるのはさすがにヤバすぎる。

    • +11
  16. 寒い場所は堅実に周到に生きないとすぐ寒さで死ぬから
    南国だったらまた違うかもだけど

    • +5
  17. 僻地に住んでるヤツに行政はなんの行政サービスも行わないのに税だけ取っていって僻地や田舎に人が居ませんって当たり前だからな
    こうやって金を支給して居住させないと

    • +4
  18. こういう調査は、まず先に結果があって、その結果に合うように調査したりするからなぁ。
    現金を渡すということは、渡した側が意図しない使い方をされてしまうという事が前提であろう。
    ただ今回の調査はアラスカという「生きていくだけでかなりいっぱいいっぱい」な北極圏を含む地域での話なので特殊事例ではなかろうか、人口密度も低く、そのため凶悪な犯罪の発生率も低い地域で犯罪件数に顕著な違いはありませんでしたよというのは、ちょっと短絡的ではなかろうか。
    まるで現金を受け取ったらその足で犯罪を起こしに行くのが当たり前という前提で今回の調査では現金を受け取ったら犯罪を起こしに行くはずなのに行かなった!凄いっ!と持ち上げているようにも見える。

    • -2
  19. 40年前の、給付金が始まった頃は違ったかもね。
    そこら辺も比較してみたいな。

    • +3
  20. この程度の金額では不景気時の生活支援給付金となんら変わらない。ベーシックインカム導入の参考にはならないだろう。

    • +1

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