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パン酵母は火星の極限環境で生き延びられる可能性、地球外生命の新たな手がかり

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(著)

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NASAの火星探査車キュリオシティが撮影した、火星の「キンバリー層」からの眺めこの画像を大きなサイズで見る
火星の眺め NASA/JPL-Caltech/MSSS
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 私たちの食卓に欠かせない、パンを膨らませるために使われる微生物「パン酵母」が、火星でも生き延びられる可能性が高まってきた。

 インドの研究チームが行った最新の実験で、パン酵母が火星の過酷な環境を模した、高温・高圧の衝撃波や、有毒な化学物質にさらしても、命を保っていたことが確認されたのだ。

 これは、生命が地球以外の惑星でも存在しうる可能性を探る上で、大きなヒントになる発見だ。

 この研究成果は『PNAS Nexus』誌(2025年10月14日付)に掲載された。

火星の環境を再現してパン酵母を試す

 インド科学研究所(IISc)の生化学部門と、同国アーメダバードにある物理研究所(PRL)の研究チームは、「火星の環境に似た条件」を人工的に再現し、パン酵母(イースト菌)がどこまで耐えられるかを調べた。

 使用されたのは「高強度衝撃波チューブ」という特別な装置で、マッハ5.6という高速の衝撃波を発生させることができる。

 この圧力は、隕石が火星の地表に衝突した際に起こる衝撃と同程度だという。

 さらに研究者たちは、火星の土壌に多く含まれる有毒な化学物質「過塩素酸ナトリウム」を100mMという高濃度で酵母に加えた。

 これらの条件を単独、あるいは組み合わせて与えることで、細胞がどのように反応するのかを観察した。

 筆頭著者であるIIScのリヤ・ダージュ氏は、「生きたパン酵母を衝撃波にさらす実験はこれまで誰も行っておらず、汚染を防ぎながらサンプルを回収するのはとても難しかった」と語っている。

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NASA の火星探査機「インジェニュイティ」が火星を飛ぶ様子を描いたイメージ図/ Image credit:NASA/JPL-Caltech.

酵母が見せた「生命のしたたかさ」

 実験の結果、パン酵母は衝撃波にも、過塩素酸塩にも、さらには両方を同時に受けても生き延びた。

 細胞の増殖は遅くなったものの、それでも生存していたという事実は驚きである。

 研究チームは、この生命力の鍵が「リボ核タンパク質凝縮体(RNP凝縮体)」と呼ばれる構造にあることを突き止めた。

 これはRNAとタンパク質が集まってできる小さな粒状の構造で、細胞がストレスを受けたときに遺伝情報を保護し、活動を再び整える働きを持つ。

 実験では、衝撃波によって「ストレス顆粒」と「P-bodies」という2種類のRNP凝縮体が形成された。一方、過塩素酸塩ではP-bodiesだけが作られた。

 ストレス顆粒は、細胞が低温や酸素不足、感染などのストレスを受けたときに現れるRNAとタンパク質からなる膜のない粒状の構造で、mRNAを保護し、翻訳(タンパク質合成)を一時的に止める役割を持つ。

 一方のP-bodiesは、細胞質に存在するRNAの粒で、不要になったmRNAを分解したり、翻訳を抑制したりする“情報整理の場”として機能する。

 どちらも細胞がダメージを受けたとき、遺伝情報を守り回復を助ける仕組みの一部と考えられている。

 さらに、このRNP凝縮体を作れないように遺伝子を改変した酵母では、生存率が大きく低下した。

 つまり、RNP凝縮体は細胞が極限環境で生き延びるための“防御システム”のような役割を果たしていたのである。

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ストレスを受けた酵母細胞内で形成された細胞質RNP凝縮体(黄色の点)  / Image credit:Riya Dhage

火星だけでなく、生命そのものを考えるヒントに

 研究に携わったIIScのプルシャース・I・ラジヤグル教授は、「パン酵母が火星のような環境でも生き延びるとは思わなかった。今後の宇宙探査では、酵母が実験モデルとして重要な役割を果たすかもしれない」と述べている。

 実際、パン酵母は遺伝子構造がよく解明されており、人間の細胞とも多くの共通点を持つ。そのため、極限環境に対する細胞の反応を知るうえで理想的な研究対象といえる。

 今回の成果は、生命が宇宙のどこまで適応できるかという問いに、ひとつの答えを示した。

 火星に生命がかつて存在していたのか?あるいは今も存在しているのかはわからない。だが、我々の食料となるパンを発酵させている小さな微生物が、生命探査の新たな出発点になるかもしれない。

References: Academic.oup.com / This Common Organism Could Survive on Mars

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この記事へのコメント 12件

コメントを書く

  1. イースト菌でワインも作れちゃうほどすげえ奴だ
    地球誕生から少々の環境くらいではへこたれんし、それは納豆菌も含めた
    多くの菌にはごく普通の生存本能なんだろうな

    • +8
  2. 太古の生物にとって酸素は猛毒だったけど、それをエネルギーに変える生物の誕生で今や酸素が生命に必要不可欠なものになったって習ったけど、他の惑星でも地球の生物には猛毒でもその環境で進化した生物にとっては必要不可欠だったりしないのかな?とかいつも思う。
    火星のその過塩素酸塩とかいうのにも適応した生物がいて、地球基準で生命活動の痕跡で調べようとしても、元の設計図が違い過ぎて痕跡が見つけられないとか。 

    • +6
  3. 地球でも劣悪環境下で生命が誕生しているから宇宙でも生物はいてもおかしいとは思わない
    こう書くと何故か叩かれるのだけど人間の様に知性を持った生命を個人的には見てみたいな
    (姿かたちが不気味だと会いたくはないけどね)

    • +8
  4. 火星でビールも作れそうだな
    と言うか酵母が火星環境で強く進化しそう

    • +8
    1.  火星で飲食できそうなもの……パン、ビール、納豆。 ワインもいけるか? 醸造酒作れるなら蒸留酒もいけそうね。 ってことは酢も。 原料となる、大豆は何とかなる(別記事)からあとは小麦とかブドウとかでしょうか。 ……うん、生きていけそうな気がしてきました💛

      • +3
  5. 条件が悪い時、酵母は芽胞になって耐えるんだっけ?
    だから、ドライイーストなんてものが売ってるわけで。

    • +3
  6. 火星でも生き延びるくせに、うちのオーブンではうまく働かない(生地がふくらまない)ことがあるってなによもぅ!

    • +3

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