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日本の温泉から、太古の地球に生きた微生物の生態系が明らかに

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(著)

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温泉の源泉と海 / Image credit:Fatima Li-Hau
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 約23億年前、初期の地球は青緑色の世界というわけではなかった。森林も動物も存在せず、大気中の酸素濃度は現在の約100万分の1という、極めて厳しい環境だった。そんな時代、生命はどのように生き延びていたのだろうか。

 東京科学大学 地球生命研究所をはじめとする研究チームは、古代の海と似た化学的環境を持つ、日本各地の鉄分豊富な温泉を調査した。

 その結果、当時の微生物は、太陽の光ではなく、鉄とわずかな酸素をエネルギー源として活動していたことが明らかになった。

 この発見は、地球の生命がどのように進化してきたかを知る手がかりとなるだけでなく、酸素がほとんどない他の惑星における生命の可能性を探る上でも、重要な意味を持っている。

 この研究成果は『Microbes and Environments』誌(2025年7月23日付)に掲載された。

鉄分豊富な温泉が、地球の原始の海を垣間見せる

 東京科学大学 地球生命研究所(ELSI)を中心とした研究チームは、東京都、秋田県、青森県にある5か所の温泉で調査を行った。

 いずれの温泉も鉄分が多く、酸素が極めて少ないという特徴を持っている。これは、地球が「大酸化事変(大酸化イベント)」を迎える前、つまり光合成によって大気に酸素が満ちる以前の海の環境とよく似ている。

 大酸化事変とは、約24億年前に起きた酸素が急激に増加した出来事のことだ。シアノバクテリア(藍藻)の微生物の光合成活動が活発化することで、酸素を多く含む環境へ大きく変化した。 

 それ以前の地球には、酸素を必要とするような動植物は存在していなかった。だが当時すでに生命は誕生しており、別の仕組みで活動していたのだ。

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 調査対象の温泉で沈殿した鉄酸化物 / Image credit:Fatima Li-Hau

鉄と微小の酸素で生き抜いた微生物

 研究チームは、温泉の微生物を対象に「メタゲノム解析(環境中のすべての微生物のDNAを調べる技術)」を行い、200以上の微生物ゲノムを再構築した。

 その結果、多くの温泉で微好気性の鉄酸化細菌が優勢であることがわかった。

 この細菌は、二価鉄イオン(Fe²⁺)を酸化してエネルギーを得るという特徴を持っている。酸素がわずかに存在する環境(微好気性)で活動できるため、太古の地球のような低酸素状態でも生存可能だ。

 この時代、光合成を行う微生物はすでに登場していたが、その数はまだごくわずかで、大気中に大量の酸素を供給するほどには広がっていなかった。

 今回の温泉調査でも、シアノバクテリア(藻類)のような光合成を行う微生物は非常に少なく、生命の中心は、鉄をエネルギー源とする細菌だった。

 このような微生物の構成や代謝の特徴は、大酸化事変以前の地球に存在していた生命環境を、現代の温泉で直接観察できるかたちで示している。

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調査対象の温泉の一つ 冬季における温泉の源泉から湧き出しているのは二酸化炭素の泡 / Image credit:Fatima Li-Hau

微生物たちは協力しながら生きていた

 調査によって、これらの鉄酸化細菌は、嫌気性(酸素を使わない)微生物や、わずかに光合成を行う微生物と共存しながら、複雑な生態系を形成していることが明らかになった。

 お互いに協力しながら、炭素・窒素・硫黄といった元素の循環を担っていたようだ。

 これは「生物地球化学的サイクル(生命活動と地球の環境変化が連動しているしくみ)」と呼ばれる現象であり、地球のどこにでもあるわけではない。

 今回の温泉では、そのサイクルが酸素に頼らずに成り立っていることが確認されたのだ。

 研究著者である東京科学大学 地球生命研究所のファティマ・リーハウ氏は、「温泉ごとに環境や微生物の種類が異なるにもかかわらず、鉄をエネルギーに使う細菌が中心となって、似たような代謝のしくみが成立していた」と述べている。

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調査対象の温泉の一つ 温泉の源泉から海までの全景  / Image credit:Fatima Li-Hau

他の惑星にも似た生命がいるかもしれない

 この発見は、地球の生命の進化を理解するだけでなく、宇宙における生命の存在を探るうえでも重要な手がかりとなる。

 たとえば、火星や木星の衛星エウロパのように、鉄が多く、酸素がほとんどない環境でも、生命が存在できる可能性があるということだ。

 研究チームは今後、これらの微生物がどのように進化してきたのか、またその代謝能力をどのように応用できるのかについても調査を進める予定だ。

 普段は癒しの場として知られる温泉が、実は地球生命のルーツを探る「自然の実験室」になっている。そこに生きる微生物たちは、私たちの知らない地球の過去、そして未来のヒントを静かに語っているのかもしれない。

追記(2025/10/04)東京科学大学を誤って東京工業大学と書いていた部分を修正し、再送いたします。

References: Jstage.jst.go.jp / PHYS / ELSI

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この記事へのコメント 9件

コメントを書く

  1.  今は酸化炭素に比べて酸素のほうが圧倒的に多いから好気性の微生物が多そうかなとは思いました。 鉄をエネルギーにってことで、記事で挙がっていなかった金星も鉄は多いし二酸化炭素も多いし温度が高いから化学反応も早いってことで我々とは全然違うタイプの生命が発生してないかなーなどと妄想しました

    • +4
  2. 東工大って合併してへんな名前なってなかったっけ

    伝統ある有名な東工大のほうが個人的にはいいと思うんだど

    • 評価
  3. 極限環境微生物の存在は地球外生命体の存在を確信せるよね。
    地球も表面にだけに生命が存在するわけではなく
    光も届かず酸素も無い地下深くの岩盤の中で硫化水素を
    栄養源に小さな食物連鎖が在ったりするそうだしね。
    もっとマシな環境は宇宙にはいくらでもあるものね。

    • +8
  4. オーストラリアの短パン製鉄マンがアップを始めました

    • -3
  5. 生物って何処から来たんだろうね
    そもそも魂とはなに?

    • 評価
  6. 鉄酸化細菌はシンクの錆びにいることがある。様々な化学物質に曝される家庭内の水回りも生物にとっては極限環境だろうけど、そんなところにも先駆種としてやってくる。

    • +2
    1. 電気ポッド菌とか中華なべ菌もいるかな

      • 評価

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