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せつない…。またしてもシャチの母が亡くなった我が子を抱えて泳ぎ続ける

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(著) (編集)

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 我が子を失うことの喪失感、筆舌に尽くしがたい苦しみの感情は人間だけに備わったものではない。

 以前カラパイアでは、何度も我が子を失いながら、その亡骸を離さずに一緒に泳ぎ続ける母シャチのタレクア(J35)の様子をお伝えしたが、2025年9月、彼女と同じ群れにいるメスのシャチ「アルキ(J36)」が、生まれたばかりの子供を失ってしまった。

 出産直後とみられる我が子の亡骸を、アルキはかつてタレクアがしていたように、何日間も自らの身体で支えながら泳ぎ続けていたそうだ。

我が子の亡骸を放さずに泳ぎ続ける母シャチ

 2025年9月12日の朝、アメリカ・ワシントン州のクジラ研究センター(CWR)に、複数の通報が相次いだ。「母シャチが死んだ我が子の亡骸を押しながら泳いでいる」というのである。

 その日の午後、現場に駆けつけたCWRの調査員は、26歳の雌のシャチ「アルキ(J36)」が、赤ちゃんの亡骸を鼻先で支えながら泳ぐ姿を確認した。

 赤ちゃんはメスで、臍の緒がまだついたままの状態だった。CWRでは、発見時の様子を次のように説明している。

大きさから判断すると、満期産かそれに近い状態だったと推定されます。死産だったのか、出産直後に死亡したかは不明です。

J36を最後に観察した時点から判断すると、この子は過去3日以内に生まれたものと考えられます

 CWRは他の研究機関とも協力し、上空からこの赤ちゃんの大きさなどの記録をとり、アルキの様子を見守ることに。

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image credit: GoogleMap

「南部定住型」のシャチの群れに重くのしかかる「繁殖の壁」

 CWRによると、アルキが我が子を失うのはこれが初めてではないらしい。2017年には、生きた状態で観察されていた唯一の息子(J52)を2歳で亡くしたほか、複数回の妊娠失敗が確認されている。

 アルキは北東太平洋で暮らす3つの「南部定住型シャチ」(Southern Resident Killer Whales、SRKW)の群れの一つ、「Jポッド」の一員だ。

 2018年、17日間にわたって死んだ子供(J61)の亡骸を運び続けていたタレクア(J35)も、アルキと同じ「Jポッド」の仲間である。

 この群れは、同じ海域に生息する他のシャチの集団と比較しても、極めて低い繁殖率を示している。SRKWの群れで生まれる子供の約7割が、生後数年以内に命を落とすと言われているのだ。

 結果として、SRKWの個体数はここ数十年にわたり確実に減少を続けており、1995年に98頭を数えていこう、2000年には78頭まで減少した。

 その後一時期は緩やかな増加がみられ、2006年には89頭まで回復したものの、それ以降は再び減少に転じ、2020年現在では74頭しか残っていなかったという。

 近くに生息する肉食系の群れ「ビッグス」が順調に数を増やしているのとは対照的に、魚食性のSRKWは減少の一途をたどっているのだ。

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※イメージ画像 image credit:photoAC

食事のエコタイプによって変わる「群れ」の形

 シャチには肉食系と魚食系がいるのをご存じだろうか。見た目は同じでも、彼らは群れごとに「何を食べるか」が厳密に分かれる「エコタイプ」を持つ。

 SRKWの魚食系シャチは、不規則に大海原を回遊することはなく、沿岸の「伝統的な餌場」にとどまる傾向がある。特に大型のキングサーモンに強く依存しており、その生息域がシャチたちの行動圏を決定づけている。

 また、彼らは母系の血縁同士の絆がきわめて強く、世代を超えて同じ家族が結束した群れを作っているケースが多い。

 一方で、哺乳類を狩る肉食系のシャチの群れ「ビッグス」は、アザラシやアシカ、時にはクジラの子までも獲物にする。

 彼らは獲物を求めて広い範囲を柔軟に移動し、血縁同士の結びつきはSRKWに比べると緩やかで、より小規模な集団を成すことが多い。

 彼らの間ではこういった「主食」の線引きが驚くほど明瞭で、基本的に魚食系のシャチは哺乳類を食べず、肉食系は魚を食べない。

 この違いは生得的というより文化として群れの中で受け継がれており、方言のような発声や狩りの手順とセットで、生涯にわたりほぼ固定されるのだそうだ。

 魚食系のシャチが出産の失敗を繰り返す背景には、サケ資源の減少があると言われている。Jポッドが主食とするキングサーモンは脂肪分が非常に豊富で、母シャチにとって欠かせない栄養源だ。

 しかし近年、このサケが激減し、母体が十分に栄養を取れないまま妊娠や出産を迎えるケースが増えているという。

 栄養不足のときに体内の脂肪を燃やすと、そこに蓄積していた化学物質が血中に流れ出し、胎児や子どもに悪影響を及ぼすこともある。

 さらに、人間の乗る船舶の騒音などでサケの捕獲が難しくなっていることも加わって、Jポッドの繁殖成功率は他の群れに比べて著しく低くなっていると思われる。

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※イメージ画像 image credit:photoAC

繁殖が失敗しがちな理由は他にも考えられる

 CWRは「今回の子供の死因を単一の要因に帰すことはできない」としていおり、その背景にはいくつもの環境的な圧力が存在するとみている。

 先述の大型のキングサーモンの減少は、個体数激減の最大の要因とされている。サーモンが減っている原因は、人間による漁や生息地の破壊、ダムの影響などが大きい。

 また、海洋汚染の原因のひとつであるとされるPCB(ポリ塩化ビフェニル)は脂肪に蓄積しやすいほか、母乳を通して母体から子へ移行し、繁殖失敗の要因となりうる。

 さらに観光船や貨物船など船舶が出す騒音は、シャチのエコーロケーションを妨害し、狩りの効率を下げてしまうのだ。

 CWRこういった要因が複雑に重なり合い、シャチのただでさえ低い繁殖率をさらに押し下げているとしている。

 まずは彼らの餌となるキングサーモンの個体数を回復させるための、抜本的な対策が急がれる。さもなければ、Jポッドの群れで繁殖がうまくいかない状況が今後も続き、アルキやタレクアが経験した悲劇が繰り返されることになるだろう。

仲間と共に再び泳ぎ出したアルキ

 アルキと子供の悲し過ぎる「最初で最後の親子の旅」の様子を見たネットユーザーからは、その死を悼むメッセージが寄せられている。

  • 亡くなった愛する存在を悼む彼らの姿を見ると胸が痛みます。慰めたいけれど、人間には何もできないのよね
  • また母親が赤ちゃんを失った…。しかも亡くなるのはメスの子が多い気がします。何か死亡率に相関関係があるのかしら
  • 悲し過ぎる。毎年のようにこんなことが起きている気がする。いったい1年にどのくらいの子どもが生き残るの?
  • この家族のことを思うと胸が張り裂けそう。彼らはいつも赤ちゃんを失っているように見える。何か遺伝的な要因もあるんじゃないかしら
    • 大半は飢えで死んでいるんだよ。餌になるサーモンが足りないので、お乳も十分に出ないの。本当に悲しい現実だよ
  • 「動物は人間のように喜びや悲しみを感じない」と考える人がいるのが理解できない。私が長年見てきた限り、動物は人間と同じように、いやそれ以上に感情を露わにすると思う
  • 子供の亡骸を回収して解剖すれば、原因がわかるんじゃない? 溺死かもしれないし、母乳が足りなかったのかも。母親が授乳できなかった可能性もあるよね。魚を食べるようになるのはもっと先のことだから
    • 剖検をすればわかることも多いと思う。今回は臍の緒が残っているのが見えるので、死産の可能性も高いんじゃないかな
    • 母親もサーモンが足りないと十分なお乳を作れないしね
  • 記録や測定をするために、研究者たちは子供を母親から取り上げたの? それとも母親は子供を抱えたままでいられた?
    • 彼らは過去の写真からサイズを測定するんだ。子供を母親から取り上げることはないよ。人間がシャチに触れるのは、座礁して死んでしまったとき、許可を得て死骸を標本にする場合だけだよ
    • 測定はドローンからの撮影など、直接触れない方法で行っているんだよ
  • 原因は何なのか? 水中の化学物質や毒による酸化ストレスでしょうか?
  • 心から悲しい。研究によれば、この群れはあと15年以内に消滅する可能性があるらしい。ひどい話よね。人間が彼らの家に押しかけて、ゴミを撒き散らし、食べ物を奪っていくようなものじゃない?
  • 母親や子供の遺伝子は研究している? 環境要因が大きいのはわかっているけど、彼女が何度も流産や早期の死を経験していることを考えると、遺伝的な欠陥の可能性もあるんじゃないかと思えるんだ

 人間が「悲しみ」や「喪失感」と呼ぶものと同じ、あるいはそれに近い感情を、シャチや他の動物たちも抱くことができるのだろうか。

 この問題については、今も議論が続いていて、明確な答えは出ていない。だが、世界各地で観察される、「子供の亡骸と共に泳ぐ」母シャチたちという光景が、彼女たちの「強い母性の表れ」であることに疑いの余地はない。

 なお、9月16日付の情報によると、アルキはすでに子供の亡骸を手放して、仲間たちと行動を共にしているとのこと。通報があったのが12日なので、アルキは4日~最大でも1週間ほどで、我が子への追悼を終えたようだ。

 CWRのマヤ・シアーズ氏によると、アルキは通報時より南下して、シアトルに近いピュージェット湾で、仲間の若いシャチと交流している姿が観察されたという。

References: Mother Orca Seen Carrying Dead Calf Once Again On Washington Coast

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この記事へのコメント 6件

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  1. すぐに死んだとは認識できないし息を吹き返す可能性もあると思えばの親心かな😥

    • +11
  2. アシカも悲しい
    何かの番組で見たが、泣き声で我が子の認識する習性が故に死んでしまった子供の声を聞こうと必死に子供の頭を地面にたたきつけて泣けと叫び続ける親の姿が本当に痛ましかった
    子供の死因は餓死・・・にしたいくらい辛い
    泣く体力がない子供に無体を打つ姿が余計どうしようもなさが漂ってきて悲しかった

    • +9
  3. 生きてたら生きてたで他の生き物の命奪うんだしあんま気にしたらあかんよ

    • +2
  4. シャチも肉食系の陽キャの方が繁殖力高くて増えてるってリアルなんやなぁ
    魚食系ももっとお腹いっぱいキングサーモン食べられるようになったら良いね

    • +9
  5. こういう記事は【閲覧注意】って書いてほしい。悲しすぎる…。

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