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海の騒音が、ヒョウアザラシの美しい歌声をかき消している

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(著)

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南極の氷の下では、ヒョウアザラシ(Leopard seal)が繁殖期に長い歌声を響かせている。その歌は秩序立ったメロディを持ち、人間の子守歌にも似た規則性があることが研究で示されている。

 だが、人間が生み出す海の騒音により、その歌声が聞かせたい相手に届かなくなっていることが新たな研究で明らかとなった。

 氷の下で受け継がれてきた美しい歌を、若い個体が学べなくなる危険もあるという。

 この研究は『Scientific Reports』誌(2025年7月31日付)に発表された。

海はもともと、音で満ちあふれていた

 地球の海は古くから音にあふれてきた。生き物同士のやりとり、海面を打つ雨、氷が崩れる音、波や泡の音などが鳴り響いていた。

 約40億年の歴史を通じて、こうした海の音は地球の変化と歩調を合わせて緩やかに進化してきた。

 しかし過去200年の間に急激な変化が訪れた。世界を行き交う大型船、石油やガスを探すための空気銃探査、海洋建設や掘削、さらに深海採掘の動きまでが、人工的な騒音を絶え間なく流し込んでいる。

 その結果、イルカの口笛やヒョウアザラシの歌といった自然の声がかき消されてしまっているという。

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工業化と気候変動がもたらす騒音の変化

 産業革命の時代に蒸気船が海を横断するようになり、エンジンやスクリューが低周波の騒音を発するようになった。

 1950年までに船舶の数は5倍に増え、さらに大型化と騒音の増大が進んだ。

 1964年から2004年の間に30〜50 Hz帯の環境音は10倍に増加し、2004年以降は世界の船舶数が累計で110%増えている。

 気候変動も海の音の性質を変えている。海水温が上がると音はより遠くまで届き、酸性化は水中での音の伝わり方を変化させる。

 氷床が薄くなれば音は浅い層に閉じ込められ、反響しながら長く残る。貨物船は20〜200 Hzの低周波を近距離のチェーンソー並みの音量で出しており、この影響はまだ解明途上にある。

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NOAA漁業局は、さまざまな技術を使って海中の音を記録し、海洋生物を研究している。海洋生物は、人間、自然、そして他の生物が発する音が重なり合う騒がしい環境で暮らしている。この概念図は、人間、海洋生物、環境による音の発生源と、それぞれのおおよその音波の大きさを示している/ Image credit: NOAA Fisheries.

音で世界を読む海の生き物たち

 水中では深さ100 mを超えると光がほとんど届かないため、生き物たちは音で環境を読み取る力を進化させてきた。

 振動や反響を頼りにしてきた彼らにとって音は生存に欠かせない。クジラやイルカは音で移動し、狩りをし、仲間と結びつき、繁殖する。

 しかし音への依存は人間の騒音に対して脆弱でもある。

 イルカは大きな音で狩りや社会行動が妨げられ、クジラは繁殖地を捨てたり移動ルートを変えたりする。

 イッカクは石油探査の空気銃を恐れて突然深く潜り、別のクジラは歌うことをやめてしまうことさえある。

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ヒョウアザラシの歌は子守歌に似た構造を持つ

 ヒョウアザラシは南極海の氷域に生息する大型のアザラシで、成体は全長2.4〜3.5 m、体重は200〜600 kgに達する。

 寿命はおよそ26年とされ、魚やイカ、クリル、ペンギン、さらには他のアザラシまで多様な餌を食べる。孤独な生活を送り、氷上や氷下で過ごす時間が長い。

 繁殖期のオスは氷下に潜り、5種類の鳴き声を組み合わせて長時間繰り返す。

 研究者が情報理論のエントロピーを用いて分析したところ、その歌はイルカやクジラよりも構造的で、人間の音楽ほど硬直していない一方、子守歌と同じような予測可能性を持っていた

 オスごとに鳴き声の順序は固定されており、遠く離れた氷と海の中で誰が鳴いているかを識別する役割を果たしていると考えられる。

ヒョウアザラシの鳴き声サンプル

南極でも高まる人間の騒音

 ヒョウアザラシの歌の録音は1990年代に南極で行われた。当時は人の影響が少なかったが、近年は観光、オキアミ漁、船舶活動が増加し、音環境は変わりつつある。

 彼らは孤独に生きるため、若い個体がどのように歌を学ぶのかはわかっていない。

 ヒョウアザラシの歌は主にオスが繁殖期に発する長く複雑な鳴き声である。

 一方、メスも声を出すが、オスほど長く秩序だった歌ではなく、研究者はその鳴き声が子に歌を学ばせる役割を担っている可能性があると考えている。

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歌を守るための取り組みと課題

 科学者や政策立案者は船の静音化技術や敏感な海域での速度制限、静けさゾーンの設定に取り組んでいる。

 産業活動の監視強化や教育活動も進んでいるが、1972年に制定された海洋哺乳類保護法は再承認の過程で弱体化の危機にある。

 これまで「健全な個体群を維持する」ことを目指していた基準が「生き残ればよい」へと引き下げられれば、規制機関の権限は制限され、音に基づく多くの行動が乱される恐れがある。

 ニューサウスウェールズ大学のルシンダ・チェンバース博士は「動物は背景音が大きくなると自分の声を強めるが、分布が乱されれば歌の学習や伝達に影響が出る」と警告している。

 氷下で続く美しい歌声は、人間の活動によってかき消されるかもしれない。

References: Nature / Leopard seals sing like the Beatles

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この記事へのコメント 11件

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  1. 潜水艦は太鼓をバンバン鳴らしながら、ジンギスカン踊ってるのを
    同じくらいにぎやかでやたら目立って走行してるのを同じ状態
    これに一般船舶のようなサンバなどの激しい踊りも入った日には
    耳に敏感な動物にとってはわけわからんことになる
    地上なら明るくて好きですけどね

    • +10
    1. その潜水艦、簡単に探知できそうでワロタwww

      • +6
  2. きれいだけど不気味でもある声だね。
    ヒョウアザラシって肉食で3M超えの大きさで襲われることもあるらしいから
    この声を聞いたらすぐ逃げないと

    • +3
    1. といってもダイバーさんに「これ食べて」ってペンギン獲ってきてくれる話しここでも時々紹介されてるような・・・

      • +7
    1. 自分たちも自然の一部なんだからどんな非道も不問にすべき
      なんて考えの方がよっぽど傲慢だ

      • +8
  3. 潜水艦のソナー波で方向感覚を失った鯨やイルカの群れが海岸に打ち上げられたり、熊の市街地出没日常化なんかも人間が彼等の快適な生息圏を奪ったからやろ?巨大な海洋生物が船舶に体当たりしたり、森を奪われた象が家屋を襲って食べ物を強奪したり動物達による復讐もだいぶ前から始まってる

    • +2
    1. クマだってアクの強いドングリよりも品種改良されてデカい実のつく栗が食べたい、タヌキやハクビシンも大好物の柿、銀杏の果肉が食べたい。山梨より甘くてジューシーな梨を食べたいだけや。

      クマの目につくところにご馳走い~っぱい並べといて、山に食べ物が無いからだとか訳わからんわ・・・クマだって多少危険おかしても美味しいもの食べたいわ。

      あとクジラやイルカは打ちあがってもシャチがソナーで打ちあがらんのはなんでや?

      • 評価
      1. 鯨類は大体摂食障害みたいなのを起こすと観察結果が出てる。シャチの場合は狩りを放棄するのが観察されてる。大食漢のシャチが飢えるってのは育児にも影響あるでしょうね。

        それとソナーを回避して急激に浮上して潜水病起こす鯨も観察されてるから、多分死んでるのはそういう連中で、シャチはまだ潜水病にかかるような急浮上でのソナー回避をしてないのかもね。

        • 評価

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