エキゾチック・ブラックホールは暗黒物質の副産物である可能性
 そこに存在することはわかるのに、なぜか観測することができない謎の暗黒物質「ダークマター」だが、新たな研究によると、この宇宙が誕生した直後に発生した、きわめて風変わりな「エキゾチック・ブラックホール」は、暗黒物質の副産物かもしれないという。

 あらゆる「チャージ」を持つその特殊なブラックホールが存在したのはほんの束の間のこと。

 ビッグバンからわずか100京分の1秒以内に誕生し、1秒が経過して原子核が形成され始めると蒸発して消えてしまった。

 一瞬の存在でしかなかったエキゾチック・ブラックホールだが、それでも当時存在した平衡状態を乱し、原子核の形成に影響を与えた可能性があるという。

原始のブラックホールと暗黒物質の関係

 この宇宙に存在する物質のうち目に見えるのはほんの5%で、残り95%は「暗黒物質(ダークマター)」や「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」という謎の物質やエネルギーで占められていると考えられている。

 暗黒物質は光を放つことも、反射も吸収もしないので、目で見ることはできない。だがその重力が宇宙に与える影響から、それがあることだけはわかる。

 一体、この謎めいた物質の正体は何なのか? その有力な候補が「原始ブラックホール」である。

 一般に知られているブラックホールは、星が崩壊することで誕生する。それは巨大な恒星が自分の重力に耐えられず、時空を曲げるほどに収縮して形成される超高密度領域で、太陽の数倍から数十億倍もの質量を持つ。

 一方、原始ブラックホールは、ずっとずっと小さなミクロサイズのものだ。しかもそれはこの宇宙に星がまだ存在しない時代に形成された。

 それどころか、宇宙に基本的な元素すらできていないくらい古い時代に、超高密度の原始物質が崩壊して、誕生したと考えられている。

 あくまで仮説上のブラックホールだが、そこから導き出される特徴は、宇宙のいたるところに存在するはずなのに、まったく観測できない暗黒物質をうまく説明することができる。

 もしも原始ブラックホールが本当にあるのだとしたら、それは何からできているのだろうか? マサチューセッツ工科大学の物理学チームが挑んだのが、この謎だ。
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原始ブラックホールを作り出した材料は?

 デイヴィッド・カイザー教授らがまず取り組んだのは、宇宙初期に形成されたブラックホールの質量分布を、既存の理論がどうみなしているのか理解することだ。

 そして判明したのは、原始ブラックホールが形成される時期とその材料となる物質には直接的な関係があるということだ。

 カイザー教授らの計算によれば、原始ブラックホールが形成された時期は宇宙誕生の直後、ビッグバンからわずか100京分の1秒以内のことであるという。

 この一瞬にすら満たないごく短時間のうちに、小惑星ほどの質量がありながら、大きさは原子ほどしかない極小の原始ブラックホールが出来上がった。

 さらにほんの少量ではあるが、野生のサイほどの質量で、陽子(原子核のパーツだ)よりもずっと小さな、極小原始ブラックホールも誕生した。

 それらを作り出した”材料”は何だろうか?

 研究チームが着目したのは、物質を構成するもっとも小さなパーツ(素粒子)のうち、「クォーク」と「グルーオン」の振る舞いを扱う理論「量子色力学」だ。

 物質を作り出す「原子」は、「原子核」とそれを囲む「電子」の雲でできている。原子核は陽子と中性子でできているが、クォークとグルーオンはその陽子と中性子のパーツだ。

 量子色力学に基づくと、ビッグバンの直後の宇宙はクォークとグルーオンの高温プラズマだったが、それらは急速に冷えて結合し、陽子と中性子が作られたと考えられる。

 ところがビッグバンから100京分の1秒の間では、クォークとグルーオンはまだ結合しておらず、自由な状態だった。

 これらが崩壊することで形成された原始ブラックホールは、そうした自由な素粒子を、「カラーチャージ」という風変わりな性質とともに飲み込んだはずだ。

 カラーチャージとは、クォークとグルーオンだけが持つチャージ(荷量)のことだ。

 今回の研究によれば、素粒子のプラズマ内で形成された原始ブラックホールを理解するのに一番大切な要素が、このカラーチャージなのだという。
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宇宙に極小の原始ブラックホールの爪痕

 そこで研究チームは、量子色力学に基づき、初期の高温プラズマ全体のカラーチャージの分布を求め、これを原始ブラックホール1個が誕生するために必要になる広さに当てはめてみた。

 すると、膨大な領域にあるさまざまなカラーチャージが吸収されることから、最終的に原始ブラックホールのチャージは「中性」になることがわかったのだ。

 だが、数が少ない極小原始ブラックホールならば、カラーチャージで満たされていたと考えられる。

 それどころか、ブラックホールとして許される最大限のチャージを持つエキゾチックなブラックホールだったはずだ。

 こうした極端なエキゾチック・ブラックホールの仮説はかなり以前から提唱されていたが、その現実的な形成プロセスが説明されたのはこの研究が初めてのことであるという。

 このエキゾチック・ブラックホールはあっという間に蒸発したが、それでも現在の宇宙にも残る爪痕をつけた可能性はある。

 このブラックホールが消えたのは、最初の原子核が形成されてからのことだ。

 それはビッグバンから1秒後のことで、原子核が形成されたときに存在した平衡状態を乱し、原子核の形成に影響を与えたかもしれない。

 原始ブラックホールは今日の宇宙における暗黒物質全体を説明できる能性がある。

 将来の観測によってこれらのブラックホールの証拠が検出されれば、それは宇宙の歴史における重要な発見となるだろう。

 MITの研究者たちは、これらの原始ブラックホールが残した微妙な信号を捉えることで、暗黒物質の謎を解明する手がかりを得ることを期待している。

 この研究は『Physical Review Letters』(2024年6月6日付)に掲載された。

References:Exotic black holes could be a byproduct of dark matter / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント

1

1.

  • 2024年06月10日 20:12
  • ID:owNxFQPD0 #
2

2.

  • 2024年06月10日 20:24
  • ID:9NffkIcv0 #
3

3.

  • 2024年06月10日 21:23
  • ID:WdTy40JC0 #
4

4. 匿名処理班

  • 2024年06月11日 00:12
  • ID:evD52qF00 #

ふむ…これが本当ならと言うか理論上あり得るなら、やっぱセレンの実験って危ないじゃん。
極小のブラックホールが一瞬できるだけでこれだけの影響があるなら、地球なんて余裕で崩壊するじゃん。

5

5. 匿名処理班

  • 2024年06月11日 06:27
  • ID:wzGfnKdo0 #

>>4
そんなに簡単に出来るのなら、地球に降り注ぐ宇宙線でもポコポコとブラックホールが出来てしまうが、観測されてない。CERNはそれよりショボい能力しか持ってないから、たぶん出来ない。そして、CERNで作れる程度の大きさでは、たとえ出来たとしてもすぐ蒸発するはずだから大丈夫。

数億トンをぶつけれる研究室施設が出来あがれば別だけど、それって山1個を光速近くに加速できるって事で、恒星間宇宙船をつくれてしまうほどの科学力がいる







6

6.

  • 2024年06月11日 09:35
  • ID:BBrVM.Je0 #
7

7. 匿名処理班

  • 2024年06月11日 11:29
  • ID:uPtk3PYf0 #

>>4
現在のLHC程度の出力ではホーキング輻射によって秒も維持できない程度の文字通りのマイクロブラックホールなので、影響範囲も極小
そして記事にあるような"原始ブラックホール"は特殊環境下で生成されるブラックホールなので、LHCで生成可能とされるブラックホールとは全く別のモノと考えていい

アレだ。極小BH程度しか作れる可能性をもたない人類がビックバン。宇宙生成レベルのエネルギーを産みだす実験なんてできるわけないじゃん…

8

8. 匿名処理班

  • 2024年06月11日 14:03
  • ID:USTV.NQ30 #

う、宇宙ってすごい…!
この調子で色んな事が解明されていくと良いな
そして私のような一般人でも全体を何となく理解できるような説明や解説が行われるとなおよい…

9

9. 匿名処理班

  • 2024年06月11日 20:32
  • ID:FE2C3EAO0 #

暗黒物質とかって、すごく短く巻き取られた(しかしゼロではない)次元の名残なのではないかなーとか思っている

10

10. 匿名処理班

  • 2024年06月11日 23:00
  • ID:AC4.Tovy0 #


×爐海留宙が誕生した直後に発生した、きわめて風変わりな「エキゾチック・ブラックホール」は、暗黒物質の副産物かもしれないという。

○牋店物質は、この宇宙が誕生した直後に発生した、きわめて風変わりな「エキゾチック・ブラックホール」の副産物なのかもしれないという。

×原始ブラックホールは今日の宇宙における暗黒物質全体を説明できる能性がある。

○原始ブラックホールは今日の宇宙における暗黒物質全体を説明できる可能性がある。

11

11. 匿名処理班

  • 2024年06月12日 07:26
  • ID:cF8zzVx10 #

暗黒齋の野望

12

12. 匿名処理班

  • 2024年06月12日 14:58
  • ID:gJEQIyqn0 #

>>4
ビッグバン直後ってのが重要
卵はちょいと傷を入れただけで大惨事だけど、鶏がちょっと怪我した程度じゃなんんとも無いでしょ

13

13. 匿名処理班

  • 2024年06月14日 21:51
  • ID:OQbjXOGh0 #

>>4
極小ブラックホールが人体にぶつかったらどうなるでしょう?
正解は何も起きません!なぜなら極小ブラックホールは重力しか持たないので、原子核や電子を引き付けている強い力と電弱力には到底太刀打ちできないからです。
つまり何とも接触出来ずに素通りするのです。観測できない理由もコレです。

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