
ハワイ大学を中心とする国際的研究チームは、90億年という宇宙の歴史を観察して、「宇宙結合(cosmological coupling)」の証拠を史上初めて観測することに成功した。
もし本当ならば現代宇宙論の大きな謎が解明されるだけでなく、ブラックホールについての理解自体ががらりと変わってしまう革命的な発見だというが、それはどういうことなのか?
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宇宙の7割を占めるといわれているダークエネルギー
宇宙は137億年前に起きたビッグバンによって誕生し、それ以来どんどんと大きく膨れ上がっている。だがそれも永遠ではないと考えられる。あらゆる物質からは重力が発生している。それらが引き合うために、宇宙を誕生させた大爆発の力も弱まり、膨張はだんだんとゆっくりになり、いずれは収縮に転じるだろうからだ。
ところが1990年代、宇宙の膨張が遅くなるどころか、加速していることがわかったのだ。一体なぜなのか?
その謎を説明するために考案されたのが「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」だ。
その正体はわからないが、この仮説上のエネルギーは負の圧力を持っている。それがこの宇宙の7割近くを満たしており、重力に反発している。だから宇宙の膨張は加速するというのだ。
面白いことに、このダークエネルギーの説明は、かつてアインシュタインが生涯最大の失敗と述べた「宇宙定数」とよく似ているという。

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ダークエネルギーはブラックホールにある?
だが謎めいたダークエネルギーとは何なのか? その候補の1つが、やはり謎めいた「ブラックホール」だ。1960年代に提唱された理論によれば、そこには「真空のエネルギー」が含まれているという。これがダークエネルギーが発現したものと考えられるのだ。
ブラックホールは巨大な恒星が燃え尽きた後、自分の重さに耐えきれず崩壊して生まれる超重力の天体だ。
光すら脱出できない巨大な重力を持つが、特にその中心の重力はすさまじく、それゆえに密度は無限大になる。
ここを「特異点」というが、特殊すぎるゆえにブラックホールの研究を阻む大きな問題となっている。
想像すると恐ろしいが、そんなブラックホールは周囲の物質を飲み込んだり、ブラックホール同士で合体することによって成長する。だから古いブラックホールほど大きいと考えられる。
だとすれば、近くに飲み込むものがなくなってしまえば、ブラックホールはそれ以上成長できないはずだ。

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宇宙結合の証拠:それでもブラックホールは成長する
『The Astrophysical Journal Letters』(2023年2月15日付)に掲載された研究では、そのことを実際に確かめようとした。研究チームが注目したのが「巨大楕円銀河」という古い銀河だ。
この銀河は宇宙の初期に進化したもので、すでに星が形成されなくなっている。つまり、吸収する物質がほとんどとないため、その中心にある超大質量ブラックホールはそれ以上成長できないはずなのだ。

ところが90億年もの悠久の時間のさまざまな時点の銀河を比べてみると、成長しないはずの楕円銀河のブラックホールが予想よりはるかに大きいことがわかったのだ。
こうしたブラックホールの成長は、物質の吸収や合体だけでは説明できない。
そこで研究チームは、ブラックホールには本当に「真空のエネルギー」(ダークエネルギーが発現したもの)があると考えてみた。
それは宇宙の膨張と結びつき、それに合わせてブラックホールの質量が増加する。こう想定すると、成長しないはずのブラックホールの大きさをうまく説明できたのだ。
研究チームによれば、これは「宇宙結合(cosmorogical coupling)」が起きていることを史上初めて観測したものであるという。そしてダークエネルギーの源がブラックホールであるという証明でもある。

ブラックホールの意味が根底からくつがえる?
今回の発見が本当なのかどうか、今後さらなる検証が必要になる。だがもしも本当ならば、宇宙の膨張がなぜか加速するという、現代宇宙論の矛盾を解決できるだけでなく、ブラックホールの定義自体も大きく変わることになるという。
これまでブラックホール研究を阻んできた、特異点という奇妙な空間も必要なくなるのだ。
だが面白いのは、この発見がまったく予想外ではなかったことだ。
ブラックホールにはダークエネルギー(すなわち真空のエネルギー)があるという仮説は、以前からあった。今回はその証拠がついに見つかったというだけのことだ。
この研究の筆頭著者であるハワイ大学のダンカン・ファラー氏は、「アインシュタインの重力理論におけるブラックホール、それこそがダークエネルギーなのです」と語っている。
References:
・Black holes may be the source of mysterious dark energy that makes up most of the universe
・Scientists find first evidence that black holes are the source of dark energy
/ written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
…で、美味いのか?
2. 匿名処理班
え〜と、足りない頭で理解できたことは…、ブラックホール、ダークエネルギー、宇宙の膨張が関連した出来事だっていう説なのかな?
3. 匿名処理班
イヌの漫画「銀牙」でイヌたちがこの件について
話してるのが何よりの驚きだよ。
4. 匿名処理班
ブラックホールはホーキング放射によって徐々に蒸発しており、途方もなく長い時間をかけていずれ消滅するとも言われていますが、その仮説も覆るって事なのかしら???
5. 匿名処理班
「真空」と言うと「何も無い」をイメージするから
「真空のエネルギー」という表現がどうもややこしく感じてしまう。
エネルギーが存在することが判明したなら
「真空」という言葉を変えても良いかも、と思ったり。
6. 匿名処理班
人間に可能な限りの重装備に身を包んで、超高性能で通信できるカメラを持ってブラックホールに飛び込むという最期の飾り方をしたい。20年後くらいに。
7. 匿名処理班
宇宙は加速して広がってる
これは聞いてる
その源がダークエネルギーというのも知ってる
で、すべてを吸い込むブラックホールが宇宙と比例して大きくなるってことか?
宇宙の濃度?が薄くなってるってこと?
8. 匿名処理班
>>6
どんなことをしてもただの無駄死にしかならんぞ
吸い込まれるから光が曲がってるわけじゃなくて空間が歪曲してるのでどんな物質も抵抗なんてできないし、外と通信はできない
人間を犠牲にするよりもカメラを放り込んだほうがよっぽどわかるし、その後の後悔がないぞ
ブラックホールは極度に重力が強いので人間程度の大きさでも潮汐力が働き、体が伸びて引きちぎられるほどの潮汐力が働くと言われてる
映画やアニメなどで巨人に人間が捕まって引きちぎられる描写に憧れがない限りはあまりおすすめできない
まあそもそも20年やそこらではブラックホールに到達すらできないんだけどね
9. 匿名処理班
解説の解説を乞うw
なんかあまりに出来過ぎの話で困惑するんだが。
10. 匿名処理班
音が消えるのはダークマターが音を食べてるからや
11. 匿名処理班
>>4
「ホーキング放射でブラックホールが消滅する」話は有名ですが、観測できる一般的なブラックホールのサイズだと予想される寿命が宇宙の寿命より時間がかかることはあまり知られていない
もちろん理論上想定されるマイクロブラックフォールで数単位以下で消滅する可能性は示唆されているけどね
12. 匿名処理班
「真空のエネルギー」というものがあると仮定するといろいろ説明がうまくいくってだけで
エネルギー自体を観測したわけじゃないじゃん
13. 匿名処理班
ブラックホールは高重力で宇宙の膨張を抑える側だと思ってた
14. 匿名処理班
よくわからんけど、風船に指を突き刺したら反発して他の部分は膨らんでいくようなイメージなのかな。
15. 匿名処理班
要するに「床にこぼしたスープのなかのクルトンがいろんな物質を吸い込んでるせいで、スープ自体はどんどん薄まって粘性がなくなり広がりやすくなってる」ということね。
革新的というよりはどちらかというと伝統派というか、これまでの宇宙論の系譜の延長上にある話。
量子論では逆に、「多元宇宙からダークエネルギーが流入してあらゆる空間の内部から宇宙が増えてる」というイメージだから、そちらに比べればシンプルでわかりやすい。
銀河団が泡構造になる説明はつきにくい気もするが・・・・。
16. 匿名処理班
なるほど、自分の知識の無さが良く分かった
17. 匿名処理班
>>6
ドワナクロォォズマイアァァイズ
18. 匿名処理班
(;´・ω・)「またまたー、ダクマター?」
19. 匿名処理班
>>6
たしか光の速度に近づけば近づくほど
時間の進みが遅くなるはずだから
生きていたとしてもほぼ永遠に吸い込まれ続け
ジョジョのカーズ様状態になると思う
20. 匿名処理班
宇宙結合というから、ブラックホールが隣の宇宙を結合しているといったすごい話かな? と思ったけど、どうもそういうことではないらしい。
宇宙結合というより宇宙論的結合というらしく、ブラックホールと宇宙の膨張加速が関連づけられたといった意味合いらしいが、詳しくはわからないので、詳しい方、あとよろしく。
21. 匿名処理班
>>19
時間のすすみ方は相対的な話だから一人で落ちる分には8の言うとおりの地獄が待ち受けてるよ
普段は俺と貴方もほぼ差がない(でもちょっとはある)ってだけ
体と脳の時間がズレるほど接近すればちがうかもしれんけど、そうなる頃には先に粒子に分解されてる事だろう
22. 匿名処理班
※16
僕なんか吸収しすぎて何も残らないんだぞっと。
23. 匿名処理班
>>12
でも現代宇宙論のほとんどが「仮説」で組み上がっているんだなぁ…
24. 匿名処理班
パイ生地をひたすら引き伸ばしていったら所々薄くなって穴が空いてしまう。実はその程度のことを宇宙規模でやっているのがブラックホールだったりしてね。
25. 匿名処理班
分からんけどこれって、斥力使う系のワープ装置に応用できる?
26. 匿名処理班
ブラックホールはダークエネルギーすら取り込んで大きくなる→ダークエネルギーは反発する物質だから取り込むほど反発の力は大きくなる→重力だけならブラックホールには質量が無限大になる特異点が発生してしまうが、ダークエネルギーは重力の逆のエネルギーだからダークエネルギーが重力に作用し無限大はありえなくなる→ダークエネルギーが存在する以上、質量が無限大の特異点はこの宇宙に存在しえない→アインシュタインがかつて静的な宇宙であるために使った宇宙項のようにダークエネルギーが宇宙項のような役割を果たして特異点の問題を解決してくれる
ちなみに表題のダークエネルギーの源とはダークエネルギーの集積地くらいのニュアンスでブラックホールがダークエネルギーを創出してるわけではない
ダークエネルギーは真空が存在すればするほど多くなるので、宇宙の膨張によって真空が増えるほど増加し、さらに宇宙の膨張を助けると言われている
27. 匿名処理班
※26
逆ですよ。ダークエネルギーを取り込んでいるのではなく、源(ダークエネルギーはブラックホールにあった)という話です。
※9
・宇宙は膨張力が力尽き、収縮に転じていると考えられていた
・しかし実際には膨張し続けている
・ということは膨張力以外に、隙間を埋める別の力が存在するのでは?ということで、ダークエネルギーという仮説が生まれた
・ダークエネルギーは引力とは逆向きの斥力(外向きの力)を持っており、そのせいで宇宙は膨張を続けていると考えられていた
・しかし、ダークエネルギーの出どころは今まで見当もついて無く不明だった
・そこで今回、ブラックホールに目を付けた
・ブラックホールは基本的に、他の天体を吸収することで大きくなる
・でもとあるブラックホールを観測したところ、周りに他の天体がなくそれ以上大きくならないはずなのに、計算よりもはるかに大きいサイズであることが観測された
・ということは天体の吸収以外に何かを含んでいるはずだ
・その何かってもしかしてダークエネルギーでは?
・それであれば「宇宙が膨張するにつれてブラックホールも大きくなる」という計算になり、つじつまが合う!
という具合です。
一言でまとめるなら、「宇宙を膨張させる力はブラックホールによるものだった」ということです。
なんで引力が強い存在が宇宙を膨らますの?って感じですが、まあ、引力が強すぎて空間が伸びちゃうくらいのイメージで良いと思います。
28. 匿名処理班
>>6
君がBHに飛び込みそうだなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーってとこで固定される
そのまま君の時間は止まったように動かないけど、外の世界だけが進んでいく
そのまま永遠の時を落ちて引き裂かれそうな状態で無限に生きる事になる
29. 匿名処理班
なるほどね、完全に理解した
30. 匿名処理班
ブラックホール存在が宇宙を拡大させるなら、蒸発しきったら収縮を始めるのかな
そうするとまたエネルギーや物質が集まって星になって・・・
我々は永遠にひっくり返る砂時計の中で刹那に生まれた模様なんだろうか
31. 匿名処理班
ゴメン
この理論だけどユニークで革新的だけど
否定されると思う
細かい矛盾点が生じてるから
32. 匿名処理班
つまり、ブラックホールはその名の通り宇宙の穴で
広がってる宇宙の外側と同じってことになりませんかね?
33. 匿名処理班
>>6
太陽の1億倍の巨大ブラックホールの場合、潮汐力は1000万分の1Gと非常に小さくなるそうです。
飛び込むのなら、潮汐力で引き裂かれることのない巨大ブラックホールがおすすめですよ
34. 匿名処理班
人間社会も似たようなものかもしれない
35. 匿名処理班
>>19
事象の地平線に落ちた人は、落ちた人の主観では瞬間的にすり潰されるけど、外部から観測するといつまでも間延びしているようにみえるだけ
さらにマジレスすると事象の地平線にたどり着く前の周辺の重力ですら耐えられない気がするんだが…
36. 匿名処理班
>>28
逆に考えれば、落ちた人が振り返れば無限に加速した宇宙が見えるんじゃね
諸説ある宇宙の終わりがどうだったのか、6氏は報告してほしい
その報告も届くのは宇宙が終わったあとだろうけど・・・
37. 匿名処理班
>>4
なー、ホーキング放射と言ってることが逆だよね
真空から正負のペアの片割れを取り込んで、片割れが放出されるのは一緒でも、こっちは正エネルギーを取り込んでるように思える
38. 匿名処理班
宇宙の膨張が早いか、ブラックホールの成長(?)が早いか…?
えー、ブラックホールの方が早かったら宇宙をブラックホールが飲み込んじゃうかも?みたいなこと?…ではないんだろうな。
39. 匿名処理班
>>19
本人にとっちゃ一瞬だよ。
永遠に感じるのは外側の人間が観察した場合の話で、それも概念に過ぎない。
実際は反射光も重力の影響を受けてるんで、本当にそう見えるかどうかはわからない。
さらに言えば、重力で無限に引き延ばされる肉体では生命を維持できないだろう。
40. 匿名処理班
単語のせいで理解し辛くなってるな
真空のエネルギー=空間のエネルギー
ダークエネルギー=暗黒物質
特異点=超重力場
ブラックホールは反応を繰り返し蒸発する事が知られているが
その際に暗黒物質も生成してるという話
41. 匿名処理班
よく分からんけどブラックホールにも大小がある時点で密度の限界はあるんだと思う
臨海超えたら超新星爆発どころでは無いだろうしそれがある種のビックバンじゃないかと考える素人が私です
42. 匿名処理班
>>10
蟲の仕業ですな
43. 匿名処理班
このダークエネルギーを使って、めちゃくちゃなスピードで宇宙船を出すとかするんだろうな。