
高度に社会的な生き物である私たちにとって、他人が何をどうやっているのか観察するのはとても大切なことだ。
だが『Cell Reports』(2023年年11月13日付)に掲載された研究によると、脳は目で見たものをそのまま見ているわけではないようだ。
日本の自治医科大学やオランダ神経科学研究所をはじめとするチームが明らかにしたのは、むしろ脳は頭の中でこうなると予測していることを見ているという意外な事実だ。
他人を観察する脳の中で何が起きているのか?
私たちは社会的な生き物だ。だから誰かが何かをやっている姿を目にすると、まるで自分がやってるかのように脳が活性化する。これまでの研究からわかったのは、他人の行動を見ると、まず脳の「視覚」に関係している領域が活性化し、それから実際に「行動するときの領域」(頭頂部や運動前野)が活性化するということだ。
こうした事実からは、視覚 > 行動という情報の流れが、他人の行動を理解する鍵であるらしいことがうかがえる。
だが、ここで1つ気になることがある。それは、そうした実験が現実とはかなり違う状況で行われがちだということだ。
例えば、実験室の中で、人間やサルに誰かがナイフを手にする様子を見せるとする。これは現実的なものだろうか? 誰かが何の脈絡もなくナイフを手にする姿など、そうそう目にすることはないだろう。
実際に目にするのは、例えば誰かが朝食を作るために、パンとバターを用意し、それをナイフで塗るといった具合の一連の動作だ。
こうした現実の状況において、脳は研究室での実験と同じように働いているのだろうか、それともそこには何か違いがあるのだろうか?
日本の自治医科大学とオランダ神経科学研究所をはじめとする研究チームは、てんかん患者の協力を仰ぎ、この疑問に答えようとした。

photo by iStock
意外性がないと脳は視覚情報を無視する
今回の実験に参加したのは、てんかんの治療のため、頭蓋骨の下に電極を埋め込んでいた人たちだ。これを利用することで、頭蓋骨の上からよりも、ずっと正確に脳の活動を観察することができる(過去には発作中の脳の声を聞いた研究もある)。
実験では、参加者に他人が何かをしている映像を見てもらい、その時の脳の活動を測定した。
“何か”とは、朝食の準備やシャツをたたむといった、ごく日常的な作業だ。ただし、同じ作業を映したものでも映像には2パターンあった。
1つはごく自然な順序で行われているもの。例えば、朝食を用意する場面では、ある人がまずパンを選び、ナイフを持ち、パンを切り、バターを塗るといった具合に、ごく自然な流れが映し出される。
が、もう1つのパターンでは、そうした自然な流れが、ランダムに並べ替えられていた。それを見ても、次に何が行われるのか予測することは難しい。
これを視聴した参加者からわかったのは、よく知っている行動の場合、人間の脳は目から入ってくる情報を無視し、自分の知識から次の行動を予測するようになるということだ。

私たちは内側から世界を見ている
作業の順序が並べ替えられ、次に何が起こるのかわからない映像を見たとき、脳の情報は、視覚野から行動をコントロールする頭頂部や運動前野へと流れていった。だが、ごく自然の流れのとき、視覚野からの活動が抑制され、朝食の作り方を知っている運動前野から頭頂皮質へと情報の流れが変わったのだ。
「まるで目で見るのをやめて、自分だったらどうするかを見るようになったかのようです」と、研究チームの1人であるヴァレリア・ガッツォーラ氏は語っている。
この発見からは、脳がただ五感から入ってくる情報にだけ反応するわけではないことがうかがえる。
むしろ脳は次に何が起こるかをずっと予測し続ける。
そして、五感の情報が予想通りなら、己の情報に目を向けるようになる。つまり、私たちは外側からではなく、内側から世界を見ているようなものなのだ。
References:When we see what others do, our brain sees not what we see, but what we expect | ScienceDaily / Study: When we see what others do, our brain sees not what we see, but what we expect / written by hiroching / edited by / parumo
あわせて読みたい





コメント
1. 匿名処理班
「ゲット・アウト」怖かったな
2. 匿名処理班
人間は観察しているというよりも、確認しているだけなのかもしれない。
3. 匿名処理班
何らかのバイアスがかかるのなんて、特にネットじゃ珍しいことでも何でもないだろ
4. 匿名処理班
視覚から入ってくる膨大なすべての情報をその都度処理してたら大変だからね
5. 匿名処理班
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
こちらを覗く、その深淵は各々の心(脳)の内にあるものなのだ。(うふふ、深いでしょw)
6. 匿名処理班
つまりそれまでと異なる環境や情報は脳が注目して活性化されるわけだから、勉強や学習に新鮮味を取り入れることは効果的、というわけだ
7. 匿名処理班
そうだろうなと思いながらこの記事を読んだ。
しかし本当にこの記事を読んで納得したのか、読んでいるつもりで自分の考えを思い出しただけなのか、わからなくなった。
8. 匿名処理班
単なる脳機能の問題だな
3つ子の魂100までというのは視覚情報を編集無しに記憶するのは3歳まででその基本情報を生きるヒントにするからずっと記憶に残り続ける
それ以降はいらない情報を消して新しい情報を記憶していくのですでにある情報は常な上書きされていく事になる
なので毎日ルーティンでやってる、起こる事などは記憶されずイレギュラーな出来事だけ記憶される
9. 匿名処理班
なるほど。今日地下鉄で見た、お爺さんが下顎の入れ歯をリズミカルに出したり引っ込めたりしてた風景は、オレが期待してたものなのか。
10. 匿名処理班
そう言う事も有るだろう
慥かに自分の心象に関わる相手だと影響大きそうだけど、完全な第三者なら全てがそうだとは思わないけどね
11. 匿名処理班
シーザー曰く、人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない
12. 匿名処理班
交通事故の目撃証言で全く違う事を言い出す目撃者が居るしね
バイアスがあってそもそも「見えた景色が別のモノ」になっているから嘘をついている気にもなっていない
13. 匿名処理班
これ映像だからじゃないかなあ。
映像って編集されるものだと、誰もが知ってるよね。幼少時からテレビ見てると。
14. 匿名処理班
ホリケンのネタを見ているとき、あなたの脳はそれができるかな!?
15. 匿名処理班
>>13
違うと思う。
16. 匿名処理班
>>9
それは当たり前だな
じいさんを見たら俺だって下顎の入れ歯をリズミカルに出したり引っ込めたりするのを期待するわ
17. 匿名処理班
>>13
そういう話じゃない
18. 匿名処理班
むしろ、話を聞くときのほうが…
19. 匿名処理班
・・・なんかよく分からなかった
脳内で情報の流れが変わる事は分かったけど、
その事実からなぜこの結論に達するのかが理解できない
そこの説明すっ飛ばしてない?
みな本当に理解してるのかなぁ・・・
20. 匿名処理班
ミラーニューロンが仕事をしているってことかな?
21. 匿名処理班
性格の悪い人ほど
見たもの聞いたものを
自分の都合のいいように解釈して記憶するから
頭も悪くなる
何度言っても理解しない