
約2000年前のヘルクラネウムの炭化した巻物に書かれている内容を解読するため、ケンタッキー大学はコンピューター科学者たちを総動員した。巻物から判読可能な文字を見つけ出した研究者に賞金を出すというのだ。
その結果、巻物の中の文書の1つから最初の単語を解読することに成功したそうだ。
2000年前の巻物から判読できる単語を発見
西暦79年、ベスビオ山が大噴火を起こし、その爆風がヘラクラネウムの町を襲ったとき、大邸宅の図書室にあったおびただしい古代の巻物を焼き尽くし、古代ローマの町を灰と軽石で埋め尽くしてしまった。この大災害で、巻物は永久に破壊されたかにみえた。だが、それから2000年近くたった現在、研究者たちがAIを利用して、真っ黒に炭化した今にも崩れそうな巻物の残骸の深淵をのぞいてみた。
その結果文章のひとつから、初めて判読できる単語を見つけ出した。

賞金を懸けた巻物の解読チャレンジ
この発見は、ケンタッキー大学のコンピューター科学者、ブレント・シールズ教授らが発表した。彼らは2023年3月にベスビオ・チャレンジというコンテストを立ち上げて、解読のスピードを加速させた。シリコンバレーの投資家が支援し、炭化した巻物から判読できる文字を見つけ出した研究者に賞金を出したのだ。
「これは、手つかずの巻物のひとつから復元した、世界初の文字です」と言うのは、デジタル修復スタッフのひとり、スティーヴン・パーソンズ氏。その後、古代の巻物からさらに多くの文字を発見することができた。
ベスビオチャレンジを始めるために、シールズ教授らは巻物ふたつとパピルスの破片3枚の、数千枚に及ぶ3D処理したX線画像を公開した。
さらに、大昔のインクがパピルスの構造に与えた微妙な変化に基づいて、巻物の文字を読み取るよう訓練したAIプログラムも開放した。
REVEALED: Herculaneum Scrolls First Text: A Vesuvius Challenge Update
巻物の中から「紫」を意味する単語を発見
この手つかずの黒焦げになった巻物は、パリのフランス学士院のコレクションのひとつで、ローマ政界の長老で、ユリウス・カエサルの義父だったとされる、ルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスの邸宅図書室から回収された数百点の中のひとつだ。このベスビオ・チャレンジに挑んだ、コンピューターサイエンスを専攻するネブラスカ州のルーク・ファリター氏と、ベルリンのユセフ・ネイダー氏のふたりの学生は、検索プロセスを改善し、巻物のひとつにあった、古代ギリシャ語と同じ「紫」を意味する“πορφύραc”という単語を独自に見つけ出した。

最初にこの単語を見つけたファリター氏が4万ドル(約600万円)、ネイダー氏は1万ドル(約150万円)を獲得した。
そして現在、まわりの文章を読み解く競争が始まっている。
フェデリコ2世ナポリ大学のパピルス学者、フェデリカ・ニコラルディ博士は、最大10文字を含む3行が判読可能で、さらに多くの文字が読めるようになる見込みだと述べている。
最近、とりかかっている箇所には、少なくとも4列の文章が隠れているという。
「“πορφύραc”(紫の意味)は、私たちが手つかずの古代書物に取り組んで、初めて見つけた文字で、この書物は王族、富、嘲笑に関する物語を連想させます」シールズ教授は語る。
ここの文脈はなにを示しているのでしょうか? 大プリニウスは、『博物誌』の中で、貝類から紫の染料を作り出すプロセスとしての「紫」をとりあげています。古代から現存している唯一手つかずの図書として、ヘラクラネウムの巻物には大きな関心が寄せられている。
マルコの福音書には、紫の衣をまとったイエスが、十字架にかけられる前に嘲笑された様子が描かれています。
炭化した巻物の中になにが語られているのかは、まだ不明ですが、いずれ明らかにされるでしょう。私たちにとって、「紫」で始まる古くて新しい物語は、驚くほど重要な場所なのです

歴史的に重要な書物が発見される可能性
これまで分析された文章のほとんどは、古代ギリシャ語で書かれているが、一部ラテン語の文章の可能性もある。断片からは、フィロデモスの著作『On Vices and the Opposite Virtues』からの手紙や、ヘレニズム王朝史の詳細が明らかになった。図書室にあった書物のうち哲学書ではないものは、まだ発見されていないのではないかという強い疑いがあり、それは、ソフォクレスの新しい戯曲か、サッフォーの詩か、エンニウスの年代記か、リウィウスの未発見の著作なのではないかと、想像ばかりがどんどん暴走していますブリストル大学のギリシャ語の名誉教授ロバート・ファウラー氏は言う。
手紙やビジネス文書など、いわゆる記録パピルスが見つかれば最高で、それらは歴史家にとって宝の山になるでしょう「私にとって、ヘラクラネウムの巻物の中に書かれた言葉を読み解くことは、月に第一歩を踏み出すようなものです」シールズ教授は言う。
そこにある文章が、私たちが"到達"するのを待っているのは確かにわかっていますが、真の意味での"到達"は、解読が完成した最後のステップでのみ起こるのです。References:BREAKTHROUGH: Discovery made from within 2,000 year-old Herculaneum scrolls | UKNow / Researchers use AI to read word on ancient scroll burned by Vesuvius | Science | The Guardian / written by konohazuku / edited by / parumo
こうした才能あるチームが協力しあって、言葉を解読していくことは、新たな領域への第一歩になり、私たちは足を踏み出し始めました。今、やっと探索を始めるときなのです
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コメント
1. 匿名処理班
キャンプで使った木炭そっくり
2. 匿名処理班
封印は解かれた
3. 匿名処理班
なんて書いてあったんだろ
翻訳も成功させてくれ
4. 匿名処理班
星を継ぐものにあったトライマグニスコープみたいだ
5. 匿名処理班
記事中で解説されていないから、どうして紫で始まるのが興味深いことがわからない人が多いと思うが、古代ローマ時代は紫はとても貴重で権威の象徴だった。
カエサルは紫に染めたマントを身につけていたことで有名だが、そのカエサルとゆかりの深い人物。それも、元老院の長老の自宅から見つかった書物に紫という単語が含まれているとあればいやがうえにも期待は高まるというもの。
6. 匿名処理班
翻訳といってる人もいるがギリシャ語とラテン語は読めているわけだから、文字さえ読み解ければ内容は理解できる
7. 匿名処理班
>>3
中二病の異世界もの小説だと泣けるが、それはそれでその時代の
考えがわかるので悪くないか
実際のところ巻物になるものは宗教もしくは公文書で
税務書類とか在庫管理かもしれんな
8. 匿名処理班
紫かー
「○○さんは紫の衣装を着ていた」
「貝紫は高価でXXXもする」とか
9. 匿名処理班
>>4
AIの性能はまだゾラックほどではないけどねw
10. 匿名処理班
新しい技術で、一気に世界の解像度が上がるのは感動するな。
11. 匿名処理班
ヴィクターハント博士か
12. 匿名処理班
思いっきり下らない愚痴ノートの可能性もあるよね
それはそれで当時の日常が垣間見れて面白そう
13. 匿名処理班
>>5
紫が最上の色ってのは日本だけかと思ってた
そっかローマもだったのね
どこの国も入手難易度が高い順で高位の色だったのかな
貝紫とか沢山の貝から少量しか採れないし
14. 匿名処理班
発掘した人、輸送保管した人、スキャンした人、解析した人…みんなの尽力が繋がってるのが教科書みたいで良い話だ
15. 匿名処理班
どんなくだらない内容でも当時の世俗を知る上で貴重なデータになるだろうな
16. 匿名処理班
紫は日本でも高貴な色だものね。
源氏物語で光源氏の愛人明石の上が紫の衣をまとっていたことで、正室の紫の上が「紫が似合う高貴な方」と心乱すことなく受け入れたみたいなエピソードが隠れていたらドキドキする。
17. 匿名処理班
>>12
「昨日ぶつけた所紫色になっちゃってさー」
18. 匿名処理班
kaggleでやってたコンペか
19. 匿名処理班
>>4
みたい、というかほぼそのものだねこの技術。
20. 匿名処理班
腐った泥とか汚れ扱いで消え去った遺物は多いんだろうなあ
非破壊検査で原始構造レベルまで保管できる様になるまでは
発掘とかしない方が良いのかも
21. 匿名処理班
>>4
書かれてた
22. 匿名処理班
>>13
貝紫って有りますね、何と言う特殊な貝から取る染料だったかな?