学習と記憶に関連する遺伝子は6億5000万年前に誕生したとする説が登場
 私たちは日々新しいことを学習し、それを記憶する。『Nature Communications』(2023年6月6日付)に掲載された研究によると、学習、記憶、攻撃性などの複雑な行動に必要な遺伝子は、約6億5000万年前に誕生したそうだ。

 生物のこうした複雑な行動は、「モノアミン神経伝達物質」の働きで可能になっている。これにドーパミン、アドレナリンなどが含まれている。

 レスター大学をはじめとする研究チームが、このモノアミンに関係する遺伝子の進化をたどったところ、当時の「左右相称動物」に起源があることを突き止めたという。

 この遺伝子の登場は、その後の生物の爆発的な多様化、すなわち「カンブリア爆発」にも影響を与えた可能性があるという。

様々な神経伝達物質の総称「モノアミン」

 動物が複雑な行動をするうえで大切な役割を担っている神経伝達物質の総称を「モノアミン」という。

 気分・睡眠・食欲などを調節しているセロトニン、快感ややる気といったものに関係するドーパミン、体のパフォーマンスを高め、集中力や注意力を高めるアドレナリンや脳内の恐怖を処理するノルアドレナリン、ヒスタミンなどはどれもモノアミンだ。
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 神経伝達物質であるモノアミンは、脳や神経が情報を伝える手助けをしている。

 私たちは何かを学習して記憶したり、攻撃的になったり、眠くなったりと、さまざまなことができるのはモノアミンの働きのおかげだ。

 では、こうしたモノアミンそのものを作り、それを機能させる遺伝子はいつ頃誕生したのだろうか?

 私たちにとって欠かせない化学物質だが、生命が誕生したときからこれが使われていたわけではない。ならば、最初にこれを機能させる遺伝子を進化させた生物がいるはずだ。
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学習と記憶に関連する遺伝子の起源は6億5000万年前

 今回レスター大学をはじめとする研究チームでは数理的な方法で、モノアミン遺伝子の進化の歴史をたどっている。

 その結果、モノアミン遺伝子のほとんどが、6億5000万年前の「左右相称動物」の幹細胞群に起源を持つことがわかったのだ。

 この発見は、モノアミンの働きによる複雑な行動がどのように進化したのか伝える重要なヒントであるという。
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モノアミン系の概要。セロトニン、ドーパミン、アドレナリンなど、私たちの複雑な行動には欠かせない神経伝達物質はどれもモノアミンだ。その起源は6億5000万年前の左右相称動物にさかのぼる / image credit: Nature Communications (2023). DOI: 10.1038/s41467-023-39030-2

モノアミンの神経制御は「カンブリア爆発」で重要な役割

 それはおそらく現代に存在するあらゆる動物にとって重要なことだった。というのも、モノアミンを利用した神経の制御は、「カンブリア爆発」で重要な役割を果たしたと考えられるからだ。

 カンブリア爆発とは、およそ5億4200万年〜5億3000万年前に新しい生物が爆発的に誕生したことをいう。これによって、今生きている動物の「門」がすべてそろったとされている。

 研究チームによれば、モノアミンを利用した神経の制御は、神経の働きにしなやかな柔軟性をもたらし、動物たちは周囲の環境と上手に付き合えるようになった。

 このことがカンブリア爆発で多種多様な生物が登場したことと関係すると考えられるのだそうだ。
この発見は、複雑な行動の起源や、まったく同じ神経細胞が報酬・中毒・攻撃性・摂食・睡眠といったことを制御しているのかどうか解明する、新しい重要な研究分野につながるでしょう(レスター大学 ロベルト・フューダル博士)
References:Physicists Just Figured Out How Wormholes Could Enable Time Travel : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2023年07月20日 20:22
  • ID:guWLTcxY0 #

6億5千万年の歴史が在るのに俺ときたら・・(◞‸◟)

2

2. 匿名処理班

  • 2023年07月21日 07:23
  • ID:6Fzzuh.c0 #

生命が物事を記憶学習し活動するという当たり前の生体反応も、改めて考えてみると実に不思議なものですよね。
生命体の記憶や思考という部分に関連してこんな話もあって興味深いです。
米国の研究機関がヒト幹細胞を培養して作られた脳オルガノイド(ミニ脳)をバイオコンピュータとして機能させる事でゲームのプレイ方法を学習させ自らゲームをプレイさせる事に成功しただけでなく、これをさらに発展させてAIへの活用に向けてさらなる研究を進めているそうですね。
現状のノイマン型コンピュータを用いたAIの演算では莫大な電力を消費してしまうという問題がありますが、この脳オルガノイドを用いたバイオコンピュータを用いることで消費するエネルギーを大幅に減らせるという点も大きなメリットとのこと。

また別の研究では遺伝子に画像情報を埋め込んで、それを再び画像情報として取り出す事に成功したという技術実験もあったりしますね。

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3. 匿名処理班

  • 2023年07月21日 08:05
  • ID:35TbO5vf0 #

>>1
そうそう、エディアカラの生き物でも学習してたというのにお前ときたら

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4. 匿名処理班

  • 2023年07月21日 12:24
  • ID:hlYoAlNu0 #

ほとんど生物の歴史の最初の最初っからってことか。

五放射相称動物は含まないって、超簡単に言い換えると「クラゲとかは除く」みたいになるから、ある意味すごい納得w

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5. 匿名処理班

  • 2023年07月21日 12:26
  • ID:HeiXKGI40 #

知性と攻撃性の起源が同じ可能性があるのか…やっぱり遺伝子って面白いな

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6. 匿名処理班

  • 2023年07月21日 16:29
  • ID:Hu8tP8Fi0 #

>>3
何それ?(・´з`・) メキシコ料理??

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7. 匿名処理班

  • 2023年07月21日 20:15
  • ID:OS2e4t0M0 #

>>6
エディアカラはオーストラリアの丘の名前そこで見つかったたくさんの化石が
エディアカラ生物群だよ見た目はびろびろしててウミエラみたいなやつから方位磁石状の
やつまで様々だよ
カンブリア紀が始まる前に絶滅しちゃった

所でこの顔´`が目なの?・ ・が目で眉間が寄ってるの?

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8. 匿名処理班

  • 2023年07月22日 07:41
  • ID:xijcjeGm0 #

目ぇやで、自分に似た顔チョイス

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9. 匿名処理班

  • 2023年07月24日 18:27
  • ID:rw55aI7r0 #

じゃあ ( ◦´皿`◦ )グギギ みたいな虫にも記憶があるのか。一寸の虫にも五分の魂の意味が自分の中で変わった。

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