
今、研究者たちは新たに発見された多数の壺と化学から、どのようにミイラ作りが行われていたかについて、さらに突っ込んだ考察を得たという。
『Nature』誌に発表されたこの研究は、珍しい考古学的発見に基づいたものだ。
およそ2500年前のミイラ作りの作業現場から、大量の陶器の壺が見つかったが、その多くには"洗う"とか、"頭に乗せる"などの作業指示が刻まれていたという。
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遺体を保存するレシピの新たな詳細が明らかに
ミイラ作りの作業現場から発見された陶器の壺の外側に書かれた文字と、中に残っていた化学的物質の痕跡をあわせて調べたところ、何千年も遺体を保存する"レシピ"について、新たな詳細が明らかになった。「まるで、タイムマシンのようなものです」ヨーク大学の考古学者、ジョアン・フレッチャーは語る。
「古代のエンバーマーのすぐ肩越しにのぞき見ることはできないにしても、これまでにないほど接近してミイラ作りの様子を見ることができるようです」
これらレシピは、死者を保存するのに役立つ物質について、エンバーマーたちが深い知識を持っていたことを示している。
その物質には、遠く離れた異国から運ばれてきた材料も含まれていた。つまり、エジプト人は、可能な限り完璧なミイラを作るために、多大な努力をはらったことを意味している。

サッカラで発見されたミイラづくりの作業場
2016年に研究著者のラマダン・フセイン(昨年死去)が発掘したミイラ作りの作業場は、サッカラの有名な埋葬地にある。その一部は地表に出ているが、大量の壺が発見された地下の防腐処理室と埋葬室まで立坑が延びている。
カイロにあるアメリカン大学のエジプト学者、サリマ・イクラムは、ここはミイラ作りの最後の仕上げをする部屋だったのではないかと言う。
おそらく、地上で塩を使って遺体を乾燥させた後、地下に運び込んで防腐処理を施したのだろう。

「ここで、ミイラ化の最後の処理が施され、秘密の儀式、宗教的儀式が執り行われたのかもしれません」イクラムは言う。
「人々は呪文を唱え、歌をくちずさみ、遺体は全身に樹脂を塗られて、包帯を巻かれていったのです」
専門家たちは、個々のミイラを調べ、書かれている文章を読んで、最後の処置のために使用された物質について、いくつかの手がかりを得た。
しかし、ドイツのルードヴィッヒ・マクシミリアン大学の考古学者、フィリップ・ストックハマーは、欠けている多くのパズルの駒がまだ残っていたと言う。
このたびの新たな発見が、その穴を埋めてくれるのに役立った。

ミイラを作るための壺には様々な物質の混合物が
「antiu」という言葉は、古代エジプトの文章の中にたくさん出てくるが、直接の訳語はないという。新たな研究によって、見つかったいくつかの壺に、この「antiu」という単語が記されていて、動物性脂肪、シダー(スギ)オイル、ジュニパー(ビャクシン)の樹脂など、さまざまな物質の混合物が中に入っていたことがわかった。
ほかの壺から見つかったものも含め、これらの物質は、遺体を保存するのに助けとなる重要な特性をもつという。
肝臓を保護し、包帯を処理するために使われた植物オイルは、細菌の発生を防ぎ、臭気対策にもなった。蜜蝋などの固い材料を胃や皮膚に使ったのは、水分を遮断し、毛穴をふさぐためだったのかもしれない。
使われている材料の一部には、東南アジアの熱帯雨林で採れる樹脂の一種、ダマールやエレミなどかなり遠方から運ばれてきたものもある。
これは、古代エジプト人が、ミイラ作りに効果的な材料を手に入れるために、広範囲に取引をしていたことを示すものだ。

photo by Pixabay
「ミイラ作りのために複雑な方法がとられていたことは、大変興味深いことです」ストックハマーは言う。「一方で、グローバルネットワークを繰り広げ、もう一方ですべての化学的知識を駆使していたのですから」
イクラムは、この研究の次の重要なステップは、実物のミイラの体のさまざまな箇所を調べて、同じ物質が使われているかどうかを確認することだという。
こうしたミイラ作りのレシピは、全国共通だったわけではなく、時間と共に変化し、また作業場によっても異なっていたのではないかと推測している。
この研究は、過去を理解するための基本をおしえてくれ、現代の私たちを遥か昔に生きていた人たちに近づけてくれる。
「古代エジプト人は、時空を越えて私たちとはかなり隔たっているけれど、それでも私たちは、まだつながっています」イクラムは言う。
「人類が死を恐れていたのは、昔も今も変わらないのです」
References:How to make a mummy: Ancient Egyptian workshop has new clues / Biomolecular analyses enable new insights into ancient Egyptian embalming | Nature / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
死んだらこの方法でミイラにしてもらいたい。
2. 匿名処理班
>>1
エジプトは乾燥し細菌も動けないような環境なので
誕生したが湿気や火山灰多い地域では、金かけて
ミイラにしても長くはもたない
3. 匿名処理班
ミイラも凄いけど30mの縦穴を地面にあけてさらにその先に部屋を作るって凄い。ビル10階分位の高さを何度も縄か梯子で昇り降りしたんだと思うと足がすくむ。明かりも火を燃やすしかないし酸欠も心配。
4. 匿名処理班
>>1
即身仏という道もありますよ
5. 匿名処理班
>>1
日本なら死蠟化もありますよ
6. 匿名処理班
よく読んだら、復活の書やったわwサーセン
7. 匿名処理班
「地上で塩を使って乾燥させた後〜」
…日本の漁港で干物を作ってる絵が出てきて、魚をヒトに変換してしまった。
それがエジプトの日常だとしたら結構怖い…。
8. 匿名処理班
古代の物事はタイムマシンでもできない限り永久に解明できそうにないことだらけだけど、エジプトは異国の素人でもわかるレベルの新発見が継続的に報告されててワクワクする
失われた物も多いとはいえ、やっぱりピラミッドとミイラ文化の存在は大きいな