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ヒラタケは食虫キノコ。神経ガスで獲物となる虫を毒殺して食べていた

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(著) (編集)

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 「ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)」は、クセのない味わいと香りで、さまざまな料理に使われるキノコだ。だが食べられるだけでなく、じつは食べる側でもある。食虫植物ならぬ、食虫キノコなのだ。

 「トキソシスト(toxocyst)」という球形の構造に含まれる化学物質は、エモノとなる線虫の細胞をものの数分のうちに死滅させる猛毒だ。

 『Science Advances』(2023年1月18日付)に掲載された研究は、この化学兵器の正体をついに突き止めたと報告している。

肉食系菌類の世界

 菌類の中には肉食系の仲間がおり、それぞれがユニークな捕食メカニズムを進化させてきた。

 例えば、「卵菌」は、線虫を狩る”ハンター細胞”(遊走子:無性生殖細胞である胞子の一種)を放出する。

 これが線虫を発見すると、その口や肛門に「シスト」(被嚢・嚢子・包嚢などともいう)を形成、そこからハンター細胞を線虫の体内に潜入させ、内臓を攻撃する。

 また別の卵菌は、エモノを狙うモリのような細胞を使って、胞子を線虫に注入し命を奪う。

 短剣のような胞子をつくる菌類もいる。線虫がそれを飲み込むと、食道で引っかかり、発芽して腸に穴をあける。

 くくり罠のようにあっという間にしまって線虫を絞め殺す真菌などもいる。

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ヒラタケの菌糸にできる球形の構造。ここに毒ガスが詰まっている / image credit:Yi-Yun Lee

線虫を捕食する為、化学兵器「毒ガス」を使用するヒラタケ

 ヒラタケが採用したのは、そうした物理的な罠ではなく化学兵器だ。

 ヒラタケはいわゆる「木材腐朽菌」で、枯れ木を養分にする。だが木はタンパク質がそれほど多くはない。そこで「菌糸」を木の内部に成長させる。

 ここには「トキソシスト(toxocyst)」という球形の構造がある。これは毒ガス入りの袋のようなもので、線虫が近づくと破裂する。すると線虫はたちまち麻痺して、数分で死んでしまう。

 あとはひたひたと菌糸が死体の中に忍び込み、触手モンスターさながらに溶かしながら栄養をすするのだ。

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線虫がヒラタケに触れると、その組織にカルシウムの波が広がる。美しくも、線虫にとっては致命的な反応だ / image credit:Ching-Han Lee

ヒラタケの毒の正体を探せ!

 2020年、中央研究院(台湾)の研究チームによって、ヒラタケの毒がさまざまな線虫を殺してしまうことが確認された。

 研究チームは、その毒が線虫の筋肉を伸び縮みさせるカルシウムに作用するのではと推測。

これを確かめるために、線虫のカルシウムを可視化して、ヒラタケ毒に触れたときの反応を観察してみた。

 すると毒を受けた線虫の咽頭と頭部の筋肉がカルシウムであふれ、広い範囲にわたり神経や筋肉が死んでしまうことがわかった。

 どうやらヒラタケ毒は、まず筋肉のカルシウム反応にスイッチを入れるが、その後の調整メカニズムを邪魔しているらしい。

 ただ、このときはその毒の正体までは特定されなかった。

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ヒラタケ / image credit:Ching-Han Lee

毒の正体は揮発性有機化合物「3-オクタノン」

 そこで最新の研究では、ガスクロマトグラフィー質量分析法で、謎のままだった毒の特定が試みられた。

 その結果、突き止められたのが、真菌がコミュニケーションに使う天然の揮発性有機化合物「3-オクタノン」だ。

 線虫を3-オクタノンにさらしてみると、カルシウムイオンが神経細胞や筋肉細胞に大量に流れ込むことが確認されたのだ。

ヒラタケが獲物を殺すために使用する毒物として同定された 3-オクタノン

 これは少量ならばナメクジやカタツムリを追い払うのに役立つが、量を増やせば命を奪うこともできる化学物質だ。

 それは線虫でもまったく同じ。濃度50%以上の3-オクタノンなら、速やかな麻痺を引き起こし、広い範囲で細胞を殺してしまう。

 またヒラタケの遺伝子を変異させ、菌糸にトキソシストを作れなくしてみると、線虫が死ななくなることも確認された。

 こうした毒は攻撃だけでなく、身を守る手段でもあるかもしれない。

 線虫の中には菌糸に穴をあけて食べようとする仲間がいる。毒ガスで武装した菌糸なら、そうした捕食動物から身を守りやすいに違いない。

References:3-octanone identified as the toxic agent used by oyster mushrooms to kill prey / Carnivorous oyster mushrooms can kill roundworms with “nerve gas in a lollipop” | Ars Technica / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント 25件

コメントを書く

  1. キノコ狩りが趣味ですがヒラタケには「ヒラタケ白こぶ病」というセンチュウによって引き起こされるヒダに白いコブができる見た目最悪の病気が広がってましてキノコの中でも特にセンチュウに弱いのがヒラタケだと認識していたのでこの研究結果と真逆で驚いてます。

    • +21
    1. >>2
      弱いからこそ狙い打ち(故に当たった場合に仕留める確実性は高いが当たらない可能性も高い)の物理攻撃ではなく
      散布型(故に効果範囲内にいても仕留める確実性は低いが自身と対象の間に広範な効果範囲を展開出来る)の化学攻撃であるガスなのかも知れませんね。
      自身の周りに「バリアを展開」して防御し、それで相手が死んだ場合は食べていると。

      • +7
  2. ヒラタケ。単なる美味しいキノコだと思っていた。
    恐ろしい子…!と思う私は
    線虫寄りの人間なんだろうな。

    • +4
  3. 「すべてのキノコは有毒である」インド人はキノコを食べない(宗主国イギリスが持ち込んだマッシュルームを除く)
    ブッダがキノコ中毒で死んだ古事から始まったようだが、経験的に知っていたようだ
    少し前、全て有毒というのは化学的に証明された
    食用になるのはただ毒の量が少ないだけなのだ
    ヒラタケも同じ、その毒は線虫の捕獲(殺して栄養に)するためかー

    また最近の研究ではキノコはその状態で「毒の量が変わる」のだそうだ
    テングタケの仲間は大型の獣を殺したり行動不能にする強い毒があり、猪等が掘り返していわゆるシロを壊すのを防いでいる
    これが「カサが開ききる頃、毒性が下がる」という
    目的は鹿などに食べさせて生育域を広げるためではないかという報告があがった
    このテングダケ、毒性が高いだけでなくうまみ成分が非常に多いのだ
    獣を撃退するだけなら毒だけでよいのに
    (個人的には山全体に広がる菌糸にメリットがあるかわからないのだが…)

    菌糸間で遺伝子交換(平行移動)までするキノコだからこれからも新しい発見が続くだろう
    興味深い生き物だ

    • +7
    1. ※5
      テングタケに関しては、「毒性が高いだけでなくうまみ成分が非常に多い」ではなく、「毒成分そのものがうまみ成分でもあり、それが通常の無害なうまみ成分等の数十倍のうまみを有する」では?

      あと、食用になるのは単に「毒の量が少ない」のではなく、毒性が熱で変成するもの、水分と反応して気化するもの、等を選択し無毒化します
      有名なところでシャグマアミガサタケ(舎熊網笠茸)は強烈な猛毒を持っていますが、茹でることで毒が揮発し食用にすることが出来ます
      無論揮発した毒成分が湯気と共に散布される危険が伴いますので通常はするべきではありませんが

      • +9
      1. ※9
        コメントありがとうございます
        そうですね、イボテン酸のことはその通りです
        訂正感謝します

        後者に関してはうーん、毒抜き・アク抜きまで考えると食用とか食用可という話になるので、食材として一般的なものという意味です
        赤熊は茹でこぼしですが、ベニテングタケは塩漬けで可食、椎茸などは加熱が前提(生で食べれますが美味くないので危なくなるほど食べないでしょう)

        • +2
    2. ※5
      テングダケ科の毒として有名なのは「イボテン酸」だけど、これは非タンパク構成アミノ酸であって、本種の毒であるオクタノン(脂質)とは全然系統が違う化学物質じゃ?

      • +1
      1. ※13
        ですよ
        (毒)キノコつながりです

        ここはある程度、話が広がる場所ですから
        ♪キノコのこのこ元気な子、エリンギ、マイタケ、ブナシメジ…
        とかこれくらいならくらいなら許容範囲でしょう
        木材腐朽菌からセルロースの硬度まで進むとやや行き過ぎの感があるでしょうがw

        • +3
  4. 捕食というよりは生体防御反応で退治した線虫の残骸を分解処理しているようにみえる 人間がアニサキスを最終的には消化吸収するみたいに

    • +3
    1. ※6
      トマトが食虫植物扱いされるなら
      ヒラタケは十分、捕食と呼ばれると思うよ

      • +5
  5. 菌類は矢っ張り舐めたらイカンな
    流石森の掃除屋だけの事はある

    • +8
  6. 3-オクタノンが線虫に効果的ならばイカに潜むアニサキス(線虫)に作用させて安全安心な刺身を食べれるようにしてほしいな

    • +1
  7. 昔は普通に食ってたスギヒラタケであたる事例が報告されて今は食べない方がいい扱いされてるのってこれと関係あるのかな

    • +1
  8. 君たちのコメントが専門的すぎてぼくにはわけがわからないよ

    • 評価
    1. >>17
      自然界の毒物の話は専門的にならざるおえない

      • 評価
  9. ヒラタケってオオクワの菌糸瓶のイメージあったから食虫キノコ!?って思ったけど線虫の話ね

    • 評価
  10. たけのこの武器は?戦争に負けちゃうぞ?

    • +2
    1. ※20
      なんで菌類と草との間で戦争になるのよ?

      タケには「生育速度」と「根の深さ」があるじゃない
      竹林放置すると床突き破ってタケノコが生えてくるという恐怖の侵襲力

      • -1
      1. >>21
        きのこ竹のこ戦争ね
        お菓子の話だよ
        検索して下さい

        • 評価
  11. 「発芽して腸に穴をあける」ヒェッ…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

    • 評価
  12. リスはテングダケ系食ってもまったく問題無いんだろ?
    俺は色々期待してテングダケ1/4本食べたけど何の幻覚も見ない上に中々の腹痛。
    味はとにかく美味かった。

    ベニテングの10倍の毒性とか言うからどんな世界が見れるかと結構勇気出してみたのにただの嫌な腹痛の思い出しかねえ

    • 評価
  13. ヒラタケは薬のロバスタチンの同じ成分の代表的生産者でもあるぞ
    紅麹と同じやな。あれは青カビが科学装飾をして毒になったようだが

    • 評価

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