
生物学的にいえば、近しい親族以外の他者に自分の資産を分け与えるという行為は、同じ遺伝子プールで競合する個体の体力は高めても、あなた自身自身の体力を低下させてしまうためだ。
しかし、研究によると、寛大さというものは、人をより幸せにし、より尊敬を集めることにつながることがわかっている。
食料やお金を他人に分け与えることは、よくある利他的行為の例だ。慈善活動の行動科学は、自分の財産をいつ、誰に寄付するかを考えるときに参考にする多くのシグナルによって、複雑に成り立っている。
だが、多くの場合、私たちの寛大さは予想外に機能することがある。今回の新たな実験は、とくにこの点についての実証となり興味深い。
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スーツ姿とTシャツジーパン姿、どちらが寄付金が集まるか?
米ニューヨーク市立大学の社会経済的不平等に関する研究者であるベネット・キャラハンは、ニューヨークとシカゴで、身分を隠して通りに立ち、お金を入れてもらう紙コップと、ホームレスに関するメッセージを書いたダンボールの看板を持って、忙しく通り過ぎる通行人たちから寄付を集める実験をした。その際、スーツと着た場合と、Tシャツにジーンズ姿の場合で、なにか違いがあるかどうかをみた。
後で助手が、なにもせずに通り過ぎた人、彼に話しかけてきた人、最終的に寄付した人の数を丁寧に数えた。

身なりを整えた方が寄付金が2倍以上多かったことが判明
このシンプルなフィールド実験でわかったことは、キャラハンが高いステータス(社会的地位)を表すスーツを着たときと、低いステータスを表すTシャツ姿のときとで、寄付金の額が2倍以上違ったことだ。通りに立った3時間半、集まった金額は、スーツを着ていたときは、54.11ドル、Tシャツのときは21.15ドルだった。
「社会的地位が高そうなスーツのときのほうが、寄付が多いことは予想していましたが、2倍以上の金額の差が出たことには驚いています」キャラハンは語る。
寄付をした人々とのやりとりの違いにも、いくらか驚きました。例えば、スーツを着ているとき、人々は5ドルとか10ドルを紙コップに入れ、ある人は再び寄付にやって来て、名刺を置いていきました唯一の違いは、服装だけだったため、研究者は寄付を求める側と寄付者との関係に影響を与えるステータス信号の役割の大きさを強く主張している。なぜ、このような強い影響があるのだろうか?

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社会的地位が高そうに見えるほど、能力と信頼の認識につながる
ステータス信号が、他者への思いやりや利他的行為に影響を与えるメカニズムを解明するために、492人の参加者を募って、オンライン調査をした。参加者たちには、路上で紙コップとダンボールの看板を持ったキャラハンがスーツを着ているときと、Tシャツ姿のときの2種類の写真を見てもらい、寄付を求める人間に関して、さまざまな社会的
属性を判断してもらった。
その結果、人は、たとえ同じ人間でもTシャツよりもスーツを着ているほうが、ステータスが高いと認識することが確認できた。
さらに、スーツ姿のほうが、有能で、人柄が温かく、人間性もいいと評価し、自身との類似点を見出していることもわかった。

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これは、人はより高いステータス信号を示している人に近づき、寄付をする傾向があることを示しているようだ。たとえそれが、服装のように表面的なものであっても、低いステータスの人よりも寄付する価値があると判断するせいだという。
スーツを着ているだけで、寄付者はこの人は有能だと思い、寄付された金を、アルコールやドラッグなど個人的な利益のために使うのではなく、特定の目的のために使うに違いないと、決めつけるのかもしれない。
成功者のように見えるのに、路上で寄付を求めている人は、困窮状態は一時的なもので、ほんの少しの助けがあれば、すぐに立ち直れるだろうという印象を人に与える可能性がある。
その一方で、ステータスが低いTシャツという恰好だと、絶望的だと思われてしうのかもしれない。
この実験に関連して、ホームレスなどの社会問題を解決する方法について、もっと批判的に考えることにつながることを願っています。
チャリティなどの個人の善意に頼るだけでは、この実験で示したような、ある種の偏見にさらされる可能性があります。
慈善団体は、確かに貧困や不平等の問題に取り組むという役割を果たしていますが、この研究は、すべての人が必要な援助を必ず受けられるための、しっかりした解決政策と構造改革が必要であることを示しているのです

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更なる研究が必要だが、人が利他的になるきっかけが解明できるかも
注意点は、これは無作為の比較研究ではないということだ。キャラハンが街頭に立つたびに、同じ人間が通りかかり、話しかけたりしたわけではないので、それが結果に影響したかもしれない。
さらに、キャラハンが直接金を要求したのではないということだ。
ホームレスを助けるために人々に行動を促すダンボールのメッセージのせいで、彼はただ慈善団体のために寄付を集めているだけで、彼自身はホームレスではないと解釈された可能性がある。
もうひとつ頭に入れておくべきことは、キャラハンはどんな恰好をしていても白人であることは明白だ。
この結果は、民族性、社会経済的な背景、性別といった点で、非常に多種多様な人口全体に対して、一般的なものと断定することはできないということだ。
それでも、量的に正確な数字は明らかに議論の余地があるとはいえ、ステータス信号の影響が重要な役割を果たしていることはわかった。
もっと研究が進めば、私たちが利他的であろうと決心するときに働く、複雑な力学をより明らかにできるかもしれない。
こうした発見は、貧しく困っている人を含めた他者に対する、私たちの印象を形成するステータスシンボルの力を示している。この研究は『 Frontiers in Psychology』誌に掲載された。
こうした認識力が私たちの社会的判断や、困っている人に対する思いやりの傾向を、いかに素早く形作るか、その潜在性を浮き彫りにしています。
他者を最初に判断するステータスシンボルの役割を理解することは、社会における貧富の差を埋め、潜在的には、富裕と貧困の原因と結果について、より広範に政治的態度を変えることに、直接的な意味を持ちます
References:Dressing up and begging: a panhandler earns twice as much money by wearing a suit (vs T-shirt and jeans) / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
デモとか座り込み抗議とかあの手の抗議行動には、全員がスーツ姿になることで賛同してもらえる説得力が出るってことだね
2. 匿名処理班
ボーイスカウトやガールスカウトが募金活動に参加するといつもより募金が沢山集まるそうです
やっぱ見た目とか築き上げた信用って大切だなと
3. 匿名処理班
日本でも寄付を求める方々が街頭にいるけど、今後はスーツ姿になっていくのかな?
4.
5. 匿名処理班
まあ、寄付がちゃんと使われるかの賭けでもあるから、ひとまず得られる外見で判断せざるを得ないところはあると思うわ
6.
7.
8. 2
もうね猜疑心が増えちゃって性別も服装も年齢も関係なく全部偽物と思っちゃう。
保護犬猫とか可哀想チャイルドとか、実際同じ雇われ人がその時の流行の看板を同じ駅で掲げてたりする。
街頭でやってる募金には入れませんよ。
9. 匿名処理班
マッチ売りの少女もスーツ着とけばよかったね
10. 匿名処理班
髪型を変えるのは比較のサンプリング対象がブレてしまうのでやり方として不適格です
11. 匿名処理班
※8
あいつらを聞いたら詐欺師なので相手しちゃだめだと
言われたとき、もうあかんと思った
本来真面目な団体が損して犯罪者が得するような状態は
おかしいと思うけど、警察ほど役立たん組織もないし
いったい誰があいつらを取り締まることできるのだろう
12. 匿名処理班
>>3
そういう人達って身だしなみに興味がないのかまともな格好してる人あんまり見たことないし(良い服を着ろと言うのではなく本当に身だしなみにどことなく違和感がある)、サイズの合わないスーツに適当な髪型だと逆に怪しさ増しそう
13.
14. 匿名処理班
スーツ着てると就職して自活の道が近いように見えるよね
ただ今日のご飯代を求めてずっとホームレスの人に見えるか 一時的に転落してしまった人に見えるか 名刺くれた人とか仕事紹介してくれそうだもの。
毎日スーツでやってたらたぶん無理だと思う
15.
16. 匿名処理班
視点がおかしい
スーツ姿は信頼できるのではなく
Tシャツ姿が信頼できないだけ
17. 匿名処理班
いかに困窮しているかよりいかに身近かが大事なのね
まあ日本人は世界最低レベルで寄付しないので有名だから関係ない
18.
19. 匿名処理班
※16
Tシャツを脱いだらどうなる?
20. 匿名処理班
たったひとりがたった1日実験しただけでは、募金活動におけるスーツとTシャツの効果の差が現れているのか、単にこの人がスーツとTシャツのどっちが似合うかわかっただけなのかの区別はつかないのでは?
21. 匿名処理班
子供のころから金と人手がある環境で育った人は
本人に衛生と美観に意欲やセンスが無くても乳母や家政婦
大人になったらスタイリストとプロを雇えるから
信頼や期待をしてもらえる姿で
幼稚園や義務教育のころから余分の投資をもらって生きていけるんだな
カジュアルでOKの場所を増やして
信頼が必要な場でも廉価な服を見慣れた人が増えれば
普通に働いたり生活に必要な場所から追い出されないためのコストは下げられるのだろうか
22. 匿名処理班
人は見た目が9割、という本がひと昔、いや二昔くらいに流行ったけど、古今東西どこでも変わらないもんだなあ。
23. 匿名処理班
スーツ着て電車の席に座るのと
カーゴパンツにTシャツリュックで座るのとで隣に女性が座る確率グッと変わるから
結局清潔感のある格好がすべてよ
当たり前じゃん
24. 匿名処理班
多少なりともスーツ姿は効果あると思うよ
最近スーツ着てない人は1weekスーツ着て過ごしてみてくれ
コンビニの店員ですら態度が違うと感じるかも
ほとんどスーツ着ない人がやっつけで着ると職質されるので注意
スーツ効果を活用する輩もいるので注意
で、現代のスーツの人ってマナー悪い ※俺調べ
25. 匿名処理班
>私たちが利他的であろうと決心するときに働く、複雑な力学をより明らかにできるかもしれない
いろいろと興味深い
"利他的"というフレーズが度々あるけども"効果的な"利他主義について人類はもっと考えるべきだし実行すべき
闇雲な利他的は利己的に劣る
26. 匿名処理班
そして着飾った詐欺師だらけになると。笑いが止まらんわな。
27. 匿名処理班
俺はピーマンよりも大嫌いなものが2つある
1つは思考実験で、もう1つは社会実験なんだ
28. 匿名処理班
>>27
いいからピーマン食べなさい
29. 匿名処理班
大きな駅前でいつもスーツややたら小綺麗な格好で立って募金や世界平和やら呼び掛けてて、ネットで組織名調べると大体がカルト宗教や詐欺だから関わらないようにしてる。
絶対ではないけど、ちゃんとしてる組織の募金の方がTシャツ率高かったりするんだよねぇ。
30. 匿名処理班
町内会で役員やってた母が昔真っ暗になる道(市道)に街頭付けてくれって
オバちゃん数人で陳情に何度行ってものラリくらりかわされたけど
男性役員にスーツ着せて連れて行ったら一発で話が通ったって笑ってた
※17
この記事内容でまず出てくるのが寄付を募る側への揶揄なんだからお察し
31. 匿名処理班
※14
「少なくとも1700人のシカゴ市民が路上で寝起きしています」
「まだ寒くはないですが、もうじき冬がやって来ます」
という看板を掲げてるから、本人がカンパをねだってんじゃなく
“ホームレスを支援する福祉団体員として寄付を求めている”
という設定なんだと思う。
32. 匿名処理班
※26
実際、詐欺師は、べつに美男子ではなくても
服装・髪型・笑顔・口調といった全体的な雰囲気の好感度で
効果的にカモ達から信用を獲得する術に長けてる。
33. 匿名処理班
普段の生活態度が信用に結びついてるから、それから連想してるんだろう
34. 匿名処理班
※8
私も同じ。職場や町内会で回ってくる寄付のお願いも断っています。
「確定申告に使うから法人としての領収書を発行しないなら寄付はしません」と言う。
35. 匿名処理班
>>9
残念、彼女は貧乏なので買うお金がないのです。