Illustration by Sabrina Cappelli/c Royal Ontario Museum
古代生物はそのユニークな形状が我々を魅了してやまないのだが、カンブリア紀の海に生息した捕食動物「スタンレイカリス」もその1種だ。
このほどスタンレイカリスの化石が大量に発見され、中には完全に近いほど保存状態が良いものがあった。その結果、これまで知られていなかった第三の目があったことが明らかになったのだ。
脳まで残されていたスタンレイカリスの化石
5億600万年前のスタンレイカリスの化石が発見されたのは、カナダ、ブリティッシュコロンビア州にあるバージェス頁岩だ。ここは化石の宝庫として知られる地域だが、新たな研究では268点ものスタンレイカリスの化石について記されている。
特筆すべきは、その中には非常に保存状態が優れた標本も残されていたことだ。
トロント大学の博士号取得候補者ジョセフ・モイシュク氏は、「この発見のすごいところは、脳と神経系の名残がある数十の標本があり、それらが細部までとてもよく保存されていること」と語る。
この発見以前、脳まで残されたカンブリア紀の化石はほんの数点しかなかったという。10年に1度お目にかかれるかどうかの非常に珍しい標本なのだが、今回それが大量に発見されたのだ。
Illustration by Sabrina Cappelli/c Royal Ontario Museum
古代の海の小さなハンター
スタンレイカリスは、体長20センチにも満たない捕食動物だが、それより小さな動物にとってはじつに威圧感ある姿だったろう。モイシュク氏は、「トゲ付きの爪が生えた獰猛な付属肢や丸い口のおかげで、凶暴そのものに見えただろう」と説明する。
前部付属肢には、海底の獲物を探すための熊手のようなトゲのほか、互いに向かって伸びる三叉状のトゲも生えていた。
これはエモノを潰すアゴのように使用されたと考えられている。そんな武装をしながら、体の横に伸びた羽のようなもので水中を滑空していたのだから、狙われる側はさぞや恐ろしかったことだろう。
ペアで見つかったスタンレイカリスの化石/Image Credit: Royal Ontario Museum/Photo by Jean-Bernard Caron
化石の観察からは、スタンレイカリスの脳が、目がつながる「前大脳」と、付属肢がつながる「中大脳」に分かれていたことが明らかになっている。
スタンレイカリスは昆虫をはじめとする節足動物の仲間だが、前大脳・中大脳・後大脳でなる現代の節足動物とはまた違う構造である。
「脳がよく保存されているので、化石記録の観点から神経系の進化について直接的な洞察を得ることができる」と、モイシュク氏は話す。
スタンレイカリスは、「ラディオドンタ類(分類学上はラディオドンタ目:放射歯目)」というすでに絶滅した節足動物のグループに属している。そのため現代の節足動物の進化を紐解く手がかりとして重要なのだという。
スタンレイカリスに巨大な第三の目を発見
スタンレイカリスのもう1つ目を引く特徴として、中央に大きな第三の目(中央眼)があったことが判明している。これはラディオドンタ類では初めて観察された特徴だ。その用途についてはっきりしたことは不明だが、モイシュク氏は獲物を追うために便利だったのではないかと推測する。
「第三の目は衝撃だ。というのも、ラディオドンタ類の姿については十分理解したと思い始めていたところだったからだ」と、モイシュク氏。それなのに今回、一対の目にくわえて、巨大な中央眼があることが判明してしまったのだ。
Animation of Stanleycaris hirpex
トンボやハチなど、現代の節足動物にも中央眼を持つ仲間はいる。通常、それは一対の目よりも敏感だが、かわりに焦点を合わせるのが得意ではない。
「あくまで推測だが、第三の目は動物がいる方向を探るために便利だったのではないだろうか。素早くかつ正確に移動せねばならないスタンレイカリスのような捕食動物によっては特に重要なことだ」とモイシュク氏は語っている。
この研究は『Current Biology』(2022年7月8日付)に掲載された。
References:HOME BIOLOGY NEWS“Astonishing” 500-Million-Year-Old Fossilized Brains Prompt a Rethink of the Evolution of Insects and Spiders / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
やっぱ光スイッチ仮説が示すように「視覚」がゲームチェンジャーになっていたからこそ、視覚器官の進化方向もいろいろ手探りしていたんだろうか?
2. 匿名処理班
化石から放射状に伸びてるのは何だろう?
3.
4. 匿名処理班
なんか中央の黒いとこ(目)が犬の鼻に見えて仕方ないんですけど。
5. 匿名処理班
>>1
それ、前世紀から言われてるよ
6. アユラ
第三の眼と聞くと、悟りを開いた気がします。
※そこから、更に覚醒した状態かもしれない。
7. 匿名処理班
※5
視覚の獲得による体制の多様化はそうだけど、視覚それ自体の方向性の模索についての考察はあまり聞いたことない。
8. 匿名処理班
アブダルダムラルオムニスノムニスベルエスホリマク!
出でよ赤いコンドル!
9. 匿名処理班
真ん中の目は単眼?複眼?
10. 匿名処理班
※1
それは大いに有り得ると思うな。
現世の動物も視覚の機能については千差万別で昆虫類とかも複眼だし。
ひょっとすると昔は王蟲みたく大量の目が色んな場所に付いてる生き物もいたかもしれないね。あるいはサイクロプスみたいな単眼とか。
そもそも今の生き物の大半のように左右一対でなければいけない理由も無いわけで(あるのかもしれないけど)。
11. 匿名処理班
※9
この時代の生物の目はすべて複眼でまだ単眼(カメラ眼)までは進化していないです
12. 匿名処理班
うーん
微妙な目だなー
13. 匿名処理班
>>7
結構仮説は論文になってる
今回の目玉は、実際に目と視神経の化石が出たこと
14. 匿名処理班
天津飯の先祖かな?
15. 匿名処理班
ホウネンエビにそっくり
16. 匿名処理班
アノマロカリスもそうだけど、なんかエビみたいで現代にいたら茹でて食べられてただろうな
17. 匿名処理班
田んぼにこんなヤツいるよな
あれの正式名称なんて言うかわからんがw
18. 匿名処理班
※13
何というか、目玉が何個ついているとかそういうのではなく…
現在の地球上の視覚器官の在り方って大きく分けて脊椎動物(カメラ眼)と無脊椎動物(単眼複眼)の2系統あるけど、それ以外に別の方向性のやり方模索していたのもあったんじゃないかってこと。
19. 匿名処理班
先カンブリア期の生き物って目なんて3つどころじゃないだろ
20. 匿名処理班
こうして見るとなんで今の生き物
目が二つしかないんでしょうね
進化は突然変異だとあるのに
なんかフォーマットは同じなのは
不思議、魚君も昆虫も人間も
なんでだろ
21. 匿名処理班
※10
単眼の最大の欠点は視野の狭さとスペアが無いことだな
22. 匿名処理班
※20
立体を見るのに最小の数だから。
視界は広いに越したことないけど、数を増やすと栄養も、画像処理するエネルギーもかかる。
だから、目が役に立たない深海魚は(エネルギーがもったいないから)目がなくなる。
23. 匿名処理班
※10
複眼だけどオパビニアは王蟲みたいになってる
24. 匿名処理班
>>14
天津飯の先祖は写楽くんだと思ってた
25. 匿名処理班
>>20
蜘蛛「8つですが」
26. 匿名処理班
※2 化石を掘り出した跡だね。
27. 匿名処理班
※22
成程!余計なエネルギーを使わなくするための退化か。初めてお目にかかる学説でした。ごっつあんです(’∀’*)←馬鹿&無知
28. 匿名処理班
>>20
哺乳類や爬虫類鳥類は元を辿れば魚の先祖と共通祖先なので魚とフォーマットが同じ
29. 匿名処理班
少なくとも先カンブリア時代は目が多いのが有利だったのが面白いなぁ
というか栄養確保が厳しい環境の時代を何度も経て来たから最低数で何とかする省エネ方向に進化したのかな
30. 匿名処理班
脳すらないホタテ貝が大量のカメラ眼を持っているのはなんでなんだろう
31. 匿名処理班
目がドライブ
32. 匿名処理班
第三の目を、特別な力が宿る『カイヌンの目』と呼ぶ、某国の古い宗教を思い出したわ〜。
33. 匿名処理班
>>19
先カンブリア紀の化石から眼は見つかっていない。スタンレイカリスがいたのはカンブリア紀。