
脳と機械をつなぐ「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)」の最新の研究では、十数年使われなかった体の機能でも、脳にはその記憶が残っており、そのイメージをAIが読み取れることを明らかにしている。
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手書きの脳内信号をキャッチ
『Nature』に掲載された研究に参加した男性(研究当時65歳)は、「T5」と紹介されている。彼は2007年に脊髄を損傷し、手足が麻痺。それ以来、手で文字を書くことができなくなった。スタンフォード大学のフランシス・ウィレット氏らは、そんな彼の脳にインプラントを移植し、頭の中で文字を書く動作をイメージしてもらった。想像上のペンと紙で、手書きの文字を書いてもらったのだ。
すると運動皮質に移植されたインプラントが脳の信号をキャッチ。それをAIが解析して、T5が頭の中で書いている文字を解読。それをコンピュータの画面に出力する。
これがサイバーキネティクス社が開発したBCI「BrainGate」を利用した、脳内手書き入力システムの仕組みだ。
Brain Computer Interface Turns Mental Handwriting into Text on Screen
手書き入力のメリット
こうしたBCIを介して脳内信号をテキストに変換する実験は数年前から行われている。だが従来のものは、思考でカーソルを操作し、それで画面に表示されたキーボードをクリックするというシステムだった。
今回の研究は、頭の中で文字を手書きする点に特徴がある。このやり方なら、ちまちまとキーを1つずつクリックするよりもずっと速い。
だが問題は、T5が10年以上文字を書いていなかったことだ。手書き動作の神経活動が、彼の脳内にどの程度残されているのか心許なかった。

credit:(F. Willett et al., Nature, 2021, Erika Woodrum
同年代のスマホ入力速度に匹敵
そんな心配とは裏腹に、実験でT5は1分間に90文字(18単語)を入力することに成功。それも非常に正確なもので、普通にやれば94%正しく入力され、オートコレクトでアシストすれば、99%まで向上した。
この速度は、カーソルによる文字入力より速いどころか、同年代の人がスマホに入力する速度(毎分115文字/23単語)と同等であるという。

credit:(F. Willett et al., Nature, 2021, Erika Woodrum
10年経っても脳は忘れない
この結果を受け、ウィレット氏は「体が動かなくなって丸10年が経っていても、脳にはその機能が残されていることがわかりました」と語る。またAIには、複雑な手書き動作を正確に解読できるだけの力があることも実証された。
「ペンの速さが変わったり、筆跡が曲がったりと、手書きはカーソルを一定速度で真っ直ぐに動かすよりもずっと複雑です。そんな複雑な動きであっても、AIは簡単かつ素早く解釈できることもわかりました。」
伝える力を蘇らせる技術
素晴らしいシステムだが、まだ概念実証の段階で、実験の時点ではT5たった1人が成功しただけだ。今後のステップとしては、被験者をさらに増やしつつ、利用できる文字の追加(例:大文字と小文字の区別など)、感度の調整、高機能な編集ツールの実装などが考えられるという。
実用化まではまだまだいくつもの課題をクリアしなければならないが、失われた伝える力を蘇らせる技術の進展に期待大だ。
References:Brain Implant Translates Paralyzed Man's Thoughts Into Text With 94% Accuracy / From brain to screen: a scientist is ready to directly turn what you think into words | South China Morning Post / written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
次の目標は「頭の中でしゃべっただけで文字が出力される」だな
2. 匿名処理班
すごい!けど漢字は難しいかもね
アルファベットみたいな、シンプルな文字なら活躍しそう
3. 匿名処理班
それBluetoothで繋げたらもうテレパシーじゃないか
4. 匿名処理班
(あ〜トイレいきてぇ〜)
「あといれいきてやべおもたことがかてに」
5. 匿名処理班
ALSの患者さんが利用出来るようになったら素晴らしい
6. 匿名処理班
コックリさん コックリさん
7. 匿名処理班
障害がある人には朗報ですね
早く実用化されて欲しい
8. 匿名処理班
今はまだ頭にケーブルを繋いでるんだろうけど、
これがワイヤレスでできるようになったら凄い事になりそう。
良くも悪くも。
9. 匿名処理班
悪筆の人はやっぱり悪筆なのか、それとも、脳内イメージでは美しい字なのに手指のせいで悪筆になってしまうのか、新たな研究材料が生まれそうだな。
10. 匿名処理班
攻殻機動隊の技術に近くなったとはすげえな
11. 匿名処理班
アルミホイルが必要になるな……
12. 匿名処理班
画像をイメージしたらアスキーアートが生成されそう
13. 匿名処理班
>>2
アルファベットのほうが向いてるとは思うけど
日本語でやるならひらがなで打ち込めばいいんじゃない?
漢字変換は音声入力みたいに機械側がやればいいし
これは凄い技術だと思う
頑張って続けてほしいわ
14.
15. 匿名処理班
この技術、そのうち
「ああ…ドカベンの主人公の名前ってなんだっけ…ここまで来てるのに出てこない…」
「山田太郎デハ?」
みたいなレベルまでいくかも。
16. 匿名処理班
思考盗聴がいよいよ現実に
17. 匿名処理班
※9
というより、美しい字が書ける人は、書くべき線が
白紙上にキッチリ“見えて”いて それをなぞる感じだけど、
悪筆の人は、脳内イメージがはっきり描けず 曖昧にぼやけていて
適当に書き始めて歪つな出来上がりになるんじゃないかと思ったり。
料理上手な人が、何の調味料をどれだけ足し引きしたら
目指す味になるか分かって調整しているのに対し、
料理下手だと、訳も分からないまま適当に入れてみて
「なんか違う」でゴールが見えないまま迷走してるようなもんで。
18. 匿名処理班
※13
漢字変換の選択(完全に自動のみだと
思っていたのと違う字が表示される可能性があるから、
(伯父と叔父など)著述者による調整は必要になるだろう)
という過程がどのみち入るなら、
IMEパッド方式も併用した方がいい気がする。
19. 匿名処理班
>>13
つい漢字で想像しちゃいそうなんだよね
20. 匿名処理班
これって読めるけど書けない文字(漢字とか)はダメって事だよね
21. 匿名処理班
>>16
もう既に思考盗聴は軍事分野で実用化されてるし、国家機関が裏で運用してるよ。
その証拠として、日本にもその被害者はたくさんいる。
22. 匿名処理班
>>20
そもそも漢字は厳しいだろう
頭の中ではっきり思い描くの相当難しいよ
AIで判別するにしても似てる漢字があまりに多すぎるし
23. 匿名処理班
※22
IME手書きパッドの仕組みを応用するなら、
「筆順」と「線を引く縦横の向き」が合ってれば
人間の目には何の字か判読不能なレベルの図形でも
かなり高い確率で候補の上位に示してくれる。
逆に、人間の目では「明らかにこの字以外の何物でもないだろ」
ってレベルの綺麗な字でも、標準とされる書き順と違ったり
一筆で書く ㇕ のような角を横棒と縦棒の2画に分けて書いたり
した場合には、候補に出ないか 出てもだいぶ下位になる。
「田」とか「目」とか、縦横の線の筆順をバラバラにしたり
「画」をお皿に入ったメロンのように丸字で描いたりして
IMEパッドに候補を出させ、正しい書き順のデタラメな殴り書き
の場合と比べて遊ぶと、けっこう面白いよ。
24. 匿名処理班
最悪、脳と視覚が残っていれば何かを伝えられるかも知れないのか。
25. 匿名処理班
※24
筆記イメージは脳内で行うから、最悪 視覚も必要ないかも?
正しく出力されているかの確認および微修正は
画面でなく音声読み上げで対応できるようにしておけば、
脳と聴覚が残っていれば対応できる気がする。
目をつぶって一見 意識が無さそうな植物状態でも、
他の人間が話しかけるのを聞き、
自分が喋るのは 脳内筆記に繋がった音声読み上げ、みたいな。
26. 匿名処理班
>>5
麻痺の患者が、って書いてあるからそうなんでない?
27. 匿名処理班
これをスマートグラスに導入できたら捗るね。
後、動物に簡単な言語を覚えさせてコミュニケーション取れるようになったら
面白いかも
28.