
幽霊はただ現れて消えるだけではない。中には奇妙という言葉では割り切れない、特殊なケースも記録されている。
幽霊が、自分の殺人事件の犯人を明らかにするために、あの世から舞い降りてその痕跡を残したとしか思えないような話があるのだ。
1896年にアメリカで起きた世にも奇妙な物語を見ていこう。その女性の幽霊はのちにその地名を取って「グリーンブライアーの幽霊」と呼ばれることとなる。
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女性の母親の猛反対を押し切り結婚した二人
1896年、アメリカ、ウェストバージニア州グリーンブライア郡でそれは起こった。ゾナ・ヒースターという女性が、エドワード・シューという年配の鍛冶屋に夢中になった。ふたりはめくるめくような恋愛に夢中になったが、ゾナの過保護な母親メアリー・ジェーン・ヒースターは、ふたりの年の差だけでなく、エドワードが2度の結婚歴があることも問題視して大反対した。
それでもふたりは、母親の意に反して結婚した。始めは順調な生活だったが、3ヶ月ほどたつと事態は制御不能に陥り、殺人、陰謀、幽霊といった恐ろしい話へと展開していく。

ゾナ・ヒースター
ゾナが謎の死を遂げる
1897年1月23日、少年がゾナとエドワードの家に使いに出されたが、家には誰もいないようだった。少年はおそるおそる家の中に入り、誰かいませんかと呼びかけた。すると、階段の下に倒れていたゾナの遺体に遭遇した。ゾナは大きく目を見開いて天を見つめ、まるで恐怖の渦中で絶命したかのような形相だった。驚いた少年は、すぐに家に帰って母親にこのおぞましい発見を話した。
ジョージ・W・ナップという医師が呼ばれたが、1時間たっても到着しなかった。その間に夫のエドワードが遺体を動かして2階へ上げ、ゾナのベッドに寝かせると、襟が高い服に着替えさせて、顔にベールをかけた。
エドワードはひどく悲しみ、妻の頭を抱きかかえて、手に負えないほど泣きわめき出した。そのせいで、ナップ医師は遺体を詳細に検死することができなかった。
ナップ医師が詳しく調べようとすると、エドワードは激しく抵抗して医師を押しのけようとした。しかし、ナップ医師はゾナの首に妙な痣があるのに気づいていた。
ナップ医師はゾナの死因の様々な可能性について考えたが、最終的には出産が原因だとした。だが、ゾナが妊娠していたかどうかは不明だし、エドワードと結婚してまだ3ヶ月しかたっていないことを考えると、辻褄が合わなかった。
ゾナの母親はこの結果にまったく納得せず、"娘は悪魔に殺された"と主張したと言われているが、出産による死が公式の判断となった。

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ゾナの母親の疑惑
ゾナはきちんと埋葬されたが、その間ずっとエドワードは深い悲しみにくれていたという。当時、エドワードが妻の死に関与したと疑われることはまったくなく、そんな噂もこれっぽっちもなかった。だが、葬儀のときの彼のふるまいには妙なところがあった。まるで嫉妬するかのように遺体をがっちり守り、誰にも近づかせないのだ。
さらに、ゾナの首にお気に入りだったというスカーフがきっちり巻かれていたことも、後から思えば妙だった。
にもかかわらず、当時、エドワードの不審な態度に感づいたのは、ゾナの死因に疑問を持っていたゾナの母親だけだった。
母親は、エドワードの前妻のひとりが謎めいた死に方をしていることを知っていた。その時も、エドワードにはなんの疑いもかけられなかった。
母親は頭の中で"彼が娘を殺した"という声が聞こえたとも主張した。
母親がこっそり娘の遺体の下からシーツをはずして家に持ち帰り、洗おうとしてたらいに浸けると、水が赤く染まったという。
母親はこの奇妙な出来事を、エドワードが娘を殺したという神からの暗示だと考えた。しかし、母親にそれを証明できるはずもなく、自分の疑いが確信に変わるよう、ほかにもなんらかの兆候が出てこないかと毎日祈るだけだった。
ここから話はますます奇妙なものになっていく。

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「私は夫に殺された」母親の夢で語るゾナ
ある夜、母親は非常に説得力のある夢を見た。ゾナが現れて、エドワードは暴力的で、自分はしょっちゅう殴られ、虐待されていたと訴えたのだ。それだけでなく、怒りにまかせて殺されたと主張した。それから4夜続けて夢の中でゾナは、エドワードがある晩の食事に肉が入っていなかったといって激怒し、喉をつかまれて、首をへし折られたと説明した。
夢はあまりにも鮮明でリアルだったため、母親はゾナが、証言しに死者の世界から戻って来たのだと確信した。

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母親の想いが通じ、再び検死が行われることに
この信じがたい夢の話を、母親は郡の検察官であるジョン・アルフレッド・プレストンに話した。プレストンは幽霊話は信じなかったが、念のため、ナップ医師に遺体になにかおかしなところはなかったか訊ねた。すると、ナップはエドワードが激しく抵抗したので、詳しい検死ができなかったことを明かした。
そこで遺体を掘り起こして、もう一度、より詳細な検死を行うことになった。果たして、遺体は掘り起こされ、べつの2人の医師によて調べられた。
すると早速、遺体の首に指の跡が痣になって残っていることが判明した。気管はつぶれ、首も折れていた。ゾナ・ヒースターは確かに殺されていたのだ。

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ゾナの幽霊が夫の罪を暴き、終身刑に導く
すぐにエドワードが妻殺しの罪で逮捕され、裁判が行われた。ゾナの幽霊が母親の夢に現れて殺人を訴えたことは、この時点で町中の噂になっていたため、裁判の行方はマスコミにもかなり取り上げられた。
真の殺人犯である夫、エドワードは、自分が手にかけた妻の幽霊に「私を殺したのは夫です」と名指しされたわけで、幽霊の存在を信じるか否かにかかわらず、人々の興味をそそる事件となった。
裁判が進み、ヒースター側の弁護士プレストンは、賢明にも超常現象的要素は重視しなかったが、エドワード側の弁護士は、逆にその要素を大きく取り上げ、ゾナの母親を信用できないいいかげんな証人だと印象づけようとした。
驚いたことに、これが却って逆効果になり、裁判官が何度も、幽霊に関する証言は無視するようにと訴えたにもかかわらず、人々は母親の奇妙な話のほうを信じるようになった。
エドワードは終始、自分に不利な証拠は十分にはない、すべては状況証拠だとたかをくくっていたため、陪審員が満場一致で彼を有罪とし、終身刑を宣告したとき、さぞ驚いたに違いない。

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幽霊に罪を暴かれたエドワードの孤独な死
エドワードは刑務所に入ったが、ただの終身刑では納得がいかないと、群衆らが正義の裁きを自分たちの手で下そうと、彼を無理やり脱獄させようとした事件が起きたが、これは失敗に終わった。その後エドワードはさらに3年監獄でひっそりと過ごしたが、1900年3月13日、流りの病にかかって刑務所内で死んだ。

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都市伝説として語り継がれる「グリーンブライアの幽霊」
遺体の引き取り手はなく、ひとり寂しく埋葬されたという。ゾナの母親は、1916年9月に死ぬまでずっと、この幽霊話を心の支えにしていた。この奇妙な話は、その後「グリーンブライアの幽霊」として知られるようになり、この地域の伝説になった。
地元史には、「幽霊の証言が、殺人犯を有罪にした唯一のケース」と誇らしげに記されている。いくつかのゴーストツアーの目玉にもなり、現在も語り継がれている。
ここで本当に起こったことはなんだったのだろうか? 本当に幽霊が自分の殺人を解決することがあるのだろうか?私たちには永遠にわからないだろう。
ゾナの母親が娘は殺されたに違いないという自分の信念が、ゾナを霊として蘇らせたのかもしれないし、聞く耳を持たない人を説得する為、幽霊話をでっちあげたという可能性も十分にある。
あるいはゾナの母親の強い思い込みが、脳内の記憶を書き換え、ゾナの霊は真実として刷り込まれてしまったのかもしれない。母親は死ぬまで一貫してこの幽霊話に固執していた。
この事件はその後、超常現象界ではかなり特殊な案件となった。
The Greenbrier Ghost - Paralopedia
References:Greenbrier Ghost / The Bizarre Tale of a Ghost Who Solved Her Own Murder | Mysterious Universe / written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
十分な物証がないにも関わらず人々がオカルトを信じて終身刑になったのだとしたらそこが一番のホラーじゃね?
2. 匿名処理班
2002、3年ぐらいに滋賀で貯水タンクの上に女性が立っているという通報が警察に相次いだので警察が調べたら女性の殺人遺体が発見されたっていうニュースがあった。確か不倫の末、殺されたとか
3. 匿名処理班
流石に出産で亡くなったは無理あるっしょ…
4. 匿名処理班
「娘は誰かに殺されたに違いない!」
という母親の情念が夢になったんだね
まぁこれでちゃんとした証拠もなしに夫が有罪になってたら冗談キツイけど…
遺体に殺害の痕跡あり&夫が検査を激しく拒んだって事実があったからね
母親の執着が起点だったとはいえ、それがマジだったばかりにフィクション顔負けになった感。
5. 匿名処理班
>>2
40年前の秩父の防火貯水タンクの事件とごっちゃになってない?
6. 匿名処理班
そういえばインドネシアだかそこら辺でも娘が殺されて母親の夢に出てきて殺された場所と犯人が誰かって話をして本当にそこからシタイが出てきて夫が捕まったみたいな話があったような。
7. 匿名処理班
大久保清にも近いエピソードがあったな。
8. 匿名処理班
恨〜めしや〜 伊右衛門殿ぉ〜〜👻
9. 匿名処理班
検死も出来なかったのに死因は出産の所為とするのもかなりホラー
例えばの話、下腹部からの大量の出血があるなら
流産や子宮外妊娠によるものと推測できなくもないけど
10. 匿名処理班
※1
ホラー抜きにして読むと、魔女狩りの精神構造が浮かび上がってくるね。
11. 匿名処理班
※1
旦那が犯人だという証拠はないけど、唯一の証拠である絞殺の痕を隠そうとしたことは見過ごすことはできない
犯人でないなら、遺体の検死を断る理由が全く無いし
12. 匿名処理班
幽霊が自ら殺人を暴く!
とするとドラマチックだが、「殺人は身内」の基本形だし、そもそも幽霊は自分で犯人に復習できない事が多いなと思う。
死刑がある事が、幽霊がいない(もしくは物理的に影響を及ぼせない)事の証明だと思っている。
13. 匿名処理班
※1
とはいえ間接証拠だけで有罪なる自体はそんなに珍しくない
特に陪審制なら間接証拠よるイメージが決定しやすくなる
14. 匿名処理班
夢とか幽霊とかはわからないけど母親の直観はすごいよね
15. 匿名処理班
突然虫の知らせがあって不安になって母親が家を訪ねたら一人暮らしの子供が死んでた、と言うことが自分の親戚で実際にあったので、
幽霊のことも、母親にだけ分かる子供の生き死にに関する直感みたいなものがこの世にはあるのかなぁ…って思った
16. 匿名処理班
>>6
タイだったわ
17. 匿名処理班
日本はコロした相手が毎晩枕元に立つっつって自首した事件があるよね
18. じょん・すみす
埋めた上に家を建てて時効まで知らない顔をしようとしてたんだけど、毎夜
枕元に出てきたんで耐えられなくなって自首した、なんて話を
聞いた記憶がある。
19. 匿名処理班
※11
>犯人でないなら、遺体の検死を断る理由が全く無いし
19世紀だろ?
うちの祖母なんか、平成の世の中でも
祖父の解剖をえらい剣幕で嫌がったし、
若妻を医者とはいえ他の男が触るのを快く思わない男もいるぞ
(妊婦検診を受けに行くと不機嫌になる夫とか今でも存在する)。
20. 匿名処理班
>>19
そういう旦那さんだと、女医の産婦人科医に診てもらうしかないですねえ。
21. 匿名処理班
※19
解剖を嫌がる人は今でもいるけど、この夫の場合は違うでしょ
・死体を動かしてベッドに寝かせる
・襟が高い服に着替えさせる
・顔にベールをかける
・頭を抱きかかえて泣きわめき、医者を押しのける
・葬儀の最中も他人を近づけさせない
ここまで揃ったら、さすがに隠そうとしてるとしか思えない
しかし土葬でよかったな
日本みたいな火葬の国だと、後から掘り返して調べ直したりできずに完全犯罪が成立するところだった
22. 匿名処理班
親の反対を押し切っての駆け落ちって一見ロマンティックだけど、その後「末長く幸せに暮しました」ってあまり聴かないよね。殆どが破綻してる
やっぱそーゆーもんなんだろうなぁ
23. 匿名処理班
※21
この夫が犯人かどうかの真相はともかく、
そこに列挙している内容だけなら無実の配偶者でも有り得る。
それだけを以って有罪にするのは、恐ろしい。
・死体を安置したい遺族(まして19世紀)の心情は理解可能
・ハイカラーの服やベールは、遺体を整える正装として妥当
・新婚の夫なら嘆きが強くベッタリも分からなくはない
名古屋妊婦切り裂き事件なども「帰宅時、鍵が開いていて 主婦在宅のはずが電気が点いてなく真っ暗だったのに、不自然な中で 妻の所在を確かめもせず寝室で着替えを済ませた」「好物のワインを供えるパフォーマンスがわざとらしい」等と最有力容疑者扱いだった夫は、職場のアリバイがあったし。
フィクションだと、『12人の怒れる男』も
12人中11人まで「明らかに息子の犯行」と言っていた状況証拠が
詳細を詰めていくと引っくり返ったし。
・数時間前の父子口論で「ぶっ殺してやる!」
⇒ スラムの不良少年には日常茶飯事の口癖
・犯行時刻に観ていたという映画の題名や俳優を言えない
⇒ ありがちな印象に残らない三文映画、
帰宅後、父親の死体の横で動揺状態な中での尋問
・息子が紛失したのと同じ、珍しい龍の模様のナイフが凶器
⇒ 「珍しい」と言われつつ凡百のキラキラネーム的なもんで、
チンピラ向けの店にはその手のデザインは掃いて捨てるほど
24. 匿名処理班
※23
いやフィクションを論拠のひとつに持ってこられても…
25. 匿名処理班
握力だけで人間の首へし折るってバケモノじゃねーか
26. 匿名処理班
>>22
幸せにしてたとしても親にバレたら幸せが去るのと、世間体を守って親に繋がる情報を与えないため周囲の人に駆け落ちだとは言わないからでは
27. 匿名処理班
※22
小公子とかペリーヌ物語の両親は、
「駆け落ちして幸せに暮らしました」パターンだと思うが。
お父さんは早世しちゃったけど。
単純に、創作の物語では
「紆余曲折の末、親にも認められて大団円」のハッピーエンドか、
ロミオとジュリエットや浄瑠璃の心中モノみたいに
「駆け落ちを図ったが失敗し、愛に殉じて悲劇に終わる」的な
実利は無く純粋な想いだけがカタルシスとして残る悲恋でないと、
中途半端に「親と絶縁して出奔し、そのまま和解せず生きました」
ではスッキリしないせいもあると思う。
上記のように「実はあの夫婦は昔〜」みたいな過去エピソードで
ポロッと挟まるケースはちょくちょくある気が。
あと、現実のだと、「うちの祖父母は、片方が村の分限者で
片方が小作の家で、駆け落ちして町に出て来たらしい」
「自分が生まれた頃にはごく普通の下町の家で、祖父も祖母も
平凡だけど子や孫に恵まれて、人並みの寿命を全うした」
みたいな事を語っていた人の話を聞いたことがある。
28. 匿名処理班
>>23
死んだ新妻の首にあざついてるのに犯人探さない夫は黒だとおもうよ
29. 匿名処理班
※6
アンビリーバボーかなんかでやってたな
30. 匿名処理班
※1
民衆が私刑のために脱獄を企てるというのもなかなか
ネットリンチの源流やね