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アカカミアリが共食いする理由。新しい土地への侵略を有利にする戦略だった(オーストラリア研究)※アリ出演中

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Tanes Ngamsom/iStock
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 殺人アリの異名を持つアカヒアリの同属近縁種であるアカカミアリ(学名 Solenopsis geminata)は、アカヒアリ同様アグレッシブで、攻撃を受けたとみなすと噛み付いたり、腹部の針で刺したりしてくる。

 アカカミアリもアカヒアリ同様、貿易の拡大によって世界各地で発見されており、侵略的な外来種として問題になっている(日本でも東京港や神戸港で発見された)。

 アカカミアリが新しい土地に侵入したとき、巣が限られているために近親交配をせざるを得ない。すると、子供に遺伝的な問題が生じやすくなり、彼らの生存を脅かす結果となる。

 ではどうするのか?最新の研究によると、アカカミアリは共食いをすることで、遺伝的多様性の乏しさという問題を乗り越えようとするのだそうだ。

やっかいものの二倍体のオス

 アカカミアリがその勢力を拡大するには、新しく巣を作らねばならない。そのために、女王アリは交尾を済ますと新天地を求めて空へ飛び立っていく。

 それは危険な旅路だ。捕食者を避けつつ、産卵に適した場所を見つけねばならない。そして、速やかに娘(=働きアリ)を産むことができなければ、エサが手に入らず、飢え死にするしかない。

 女王アリは2種類の卵を産む。受精卵と未受精卵で、前者からは働きアリとなるメスが、後者からは基本的に交尾のための存在でしかないオスが生まれる。

 ゆえにメスには各遺伝子のコピーが2つあり(二倍体)、オスには1つしかない(単数体)。

 ところが、女王アリと交尾相手の血縁関係が近いと、アリの性決定メカニズムの欠陥のせいで、受精卵の半数が働きアリではなく二倍体のオスに発達してしまう。

 先述したとおり、オスが担う役割は女王アリとの交尾だけ――エサを集めるようなことはなく、交尾をすませると死んでしまう。生活能力ゼロである。

 それなのに困ったことに二倍体のオスは、不妊(条件特異的変異の一つで、オス個体が特異的に生殖能力を失う変異)であることが多く、本来の存在意義すら果たせない始末。ついでに、その幼虫は働きアリのものよりも大きく、大飯食らい。完全なる厄介者だ。

 だから巣を築こうと頑張っている女王アリは、エサを集めず、子供も作れないオスを産んでもちっとも得しないし、それどころか体は大きいくせに役に立たない奴にエサを与えては、貴重な資源を無駄にすることになってしまう。

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※画像はイメージで本文とは関係ありません。cturtletrax/iStock

働かざる者食い物になる。捨てられた挙句エサとなるオス

 オーストラリアでも、中南米原産のアカカミアリなどのヒアリの侵入が問題となっており、その駆除を進め地元の生態系を守るために、彼らの生態調査が行われている。

 その一環として、オーストラリア・ジェームズ・クック大学の研究チームは、ダーウィンに定着したアカカミアリの巣を調査。10匹中8匹は二倍体のオスであることが判明した。

 研究チームはさらに交尾したばかりの女王アリ1187匹を集め、単独あるいは他の女王アリと一緒に巣を作らせてみた。

 その結果、二倍体のオスが生まれた巣の34パーセントで、女王アリが二倍体のオスの幼虫をゴミ捨て場に置いて、働きアリの幼虫と隔離するところが観察された。

 アリが死んだ仲間の死骸を他の仲間から遠ざけておくのはよくあることだ。しかしアカカミアリの捨てられた幼虫を顕微鏡で覗き込んでみると、なんとまだ生きていたのである。

 しかも女王アリは自分の息子たちを捨てただけでなく、どうやら食っているらしかった。観察が開始されてから12日以内に、二倍体のオスの幼虫109匹のうち4分の3が巣から姿を消していたのだ。

 その時点で成虫だったのは女王アリしかいない。ということは、女王アリが二倍体のオスを食べたか、働きアリの幼虫にエサとして与えたかのどちらかだということだ。

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※画像はイメージで本文とは関係ありません。HonBK1988/iStock

共食いによって無駄を減らし、女王アリや働きアリに栄養を行き渡らせる

 こうした共食いによって、巣に存在する栄養を女王アリ自身か、より生産的な仲間に再度振り分けることが可能になる。

 二倍体のオスの幼虫は、まったくの役立たずだというのに、働きアリの幼虫よりも多くの栄養を必要とする。

 そのために実験前の予想では、二倍体のオスの幼虫が生まれた巣では、そうでない巣に比べて、女王アリの体重が軽いはずだと推測された。

 ところがそうではなかったのだ。そして、おそらくその原因は、女王アリが自分の子供たちを食べているからなのだ。

 なお女王アリ同士で協力して巣を作らせたケースでは、働きアリが多く生まれることがわかった。

 ならば不妊化したオスが生まれたとしても、巣のメンバーが生き延びる可能性は高まるはずだ。

 それなのに、6パーセントのみであるが、協力関係が破綻した巣もあった。そこでは片方の女王アリが殺されバラバラにされてしまっていた。

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※画像はイメージで本文とは関係ありません。ApisitWilaijit/iStock

共食いや女王アリ同士が協力する理由

 不妊化したオスを食うことと女王アリ同士で協力して子育てをすることは、近親交配を避けるための行動メカニズムだと考えられる。

 しかし3つ目の可能性として、女王アリに出来るだけ多くのオスと交尾するチャンスを与えるという意味もあるかもしれない。

 それは自分とは遺伝的に異なるオスと交尾できる確率を上げるために、二倍体のオスが生じる可能性を低めることになるだろう。

 女王アリが交尾するのは、巣から飛び立つ直前だけだ。そのとき「受精嚢」という器官にオスの精子を蓄えている。

 そこで女王アリ40匹の受精嚢から集めた精子を遺伝子解析した。が、複数のオスと交尾したことを示す証拠は得られず、3つ目の仮説についてははっきりしないままだ。

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※画像はイメージで本文とは関係ありません。chokchaipoomichaiya/iStock

オーストラリアに侵入したヒアリによる被害

 現在オーストラリアのアシュモア・リーフ海上公園にはアカカミアリが定着してしまった。

 ここはウミガメやウミドリの重要な産卵場所であり、生まれたてのカメやヒナがアリに攻撃されるという憂慮すべき事態が生じている。

 またノーザンテリトリー、クイーンズランド州、西オーストラリア州にも彼らが繁殖しやすい環境があり、そこにある生態系だけでなく、住人の生活をも脅かしている。

 過去10年間で、アカカミアリ対策として約311億円が費やされてきたが、駆除には成功しておらず、人間・作物・家畜等への被害で年間約1240億円もの損害が生じていると試算されている。

 一度定着したヒアリを根絶するのは容易ではない。水際で食い止めることが大切であるとよくわかる事例だ。

 この研究は『Scientific Reports』に掲載された。

References:Cannibalism helps fire ants invade new territory/ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 31件

コメントを書く

  1. 僕がアカカミアリだったら完全に食われていただろうなぁ・・。
    人間でよかった・・。

    • +11
  2. 人間がこのアリとキメラになったとしたら世にもおぞましいホラー映画になるな

    • +2
  3. アリクイ って ヒアリは たべないのかな?

    • -1
    1. >>7
      食べるよ。
      食べるけど、アリクイは餌になる蟻の個体数を維持するために、たくさんの蟻塚から少しずつ食べる習性がある。
      つまり、アリクイがいてもヒアリは根絶できない。

      • +14
  4. ハンターハンターのキメラアント思い出した

    • +1
  5. 二倍体のオスかどうかは判るんだろうか?

    • +2
  6. 「役に立たない命なんてないよ❤」ってことですよねわかりまs

    アリとかハチの社会ってほんっとよくできすぎてて恐ろしい
    そのまま人間に置き換えるだけでいくらでもディストピア小説や映画ができる
    つか、多様性のある世界にしようという考えが高まる一方で、人類も確実にそっちの「高度に文明化された社会」の方向に突っ走ってるんだけども、それが成熟しきったらどうなるんだろう
    そのまま永続するのか、自由を求める人類の自我ゆえに崩壊して反動で原始的な社会に戻るのか、管理の行き届いた枠の中での多様性という矛盾を模索していくのか…

    • +7
  7. 二倍体のオスが、土地の侵入者に明らかな戦闘能力を示せば、安定して繁栄できる存在として重用され支配側になれるのにな
    無駄にでかいだけじゃ、そのまま栄養にされるしかないか

    • +1
    1. >>15
      蟻の巣はトンネルだと考えるとただデカイだけでも道を塞ぐには好都合

      しかしそのトンネルを通ってやってくる侵略者は少ない

      上にコメントしてるようなアリクイが地上から破壊してくる事を考えたら桁を幾つか変えないと不充分

      • 評価
    1. >>16
      食うまで育てたオスの蟻の使った資源を全て回収してるのではないからロスはあるが
      繁殖期にオスが必要なタイミングと食糧の乏しい時期のタイミングとのズレによっては腐りにくい貯蔵庫としての役割はありますね

      全く別の考え方ではロスがあっても許容できる可能性があります

      • +1
      1. ※27
        >腐りにくい貯蔵庫
        同じ種なのに同胞の非常食として生まれて死ぬ運命って人間の感傷的な目で見るとなんともいえないな…
        でも、※35 の言うように他のオスやメスだってひたすら一つの役割を全うするためだけに生きて死ぬんだもんな
        群れの意志(という表現は適切でないかもしれないけど)、種の意志というものはあっても個なんてものはないんだろうな

        • +1
  8. まあアリの環境対応力ってすごいよね
    会議してるわけでもないのに本能だけで集団の目的意識が統一されてるんだから不思議だね

    • +7
    1. >>19
      人間に観測できる音声やり取りじゃないだけで、それこそ匂いとかでコミュニケーション自体はとりあってるんじゃないかな~たぶん

      女王蜂二匹の巣で片方バラバラになってることがある、ていうの、蜂も相性あるんかと思った

      • +2
      1. >>30
        蟻も音でコミュニケーションとってますよ。胸と腹の間にコオロギのように擦り合わせて音を出す器官がある者がいるようです。
        言語として使われていると特定された物で40~種以上だったかと記憶しています
        ハキリアリだと音を出せないよう操作したグループはフェロモンを使えなく操作したグループに比べキノコ栽培の世話で不利になりカビが生えるなど栽培しているキノコが小さくなる被害が大きかったそうです。

        • 評価
  9. 通常外から集めてきた食料で余ったものはそれぞれの個体に脂肪などの形で蓄えたり、そのまま備蓄したりするけど、子供を産み、それを食料とする方法もあるのだね
    脂肪にすると個体サイズが大きくなり燃費が悪くなるデメリットが、そのまま備蓄する方法は微生物に分解されて栄養価が落ちるデメリットがある
    子供は他の生物に食べられてしまう危険があるけど、アリならばその危険は少ないので有力な選択肢になるということか
    メスではなくオスにその役割が振られるのはメスの方が製造コストが高いということだろうね

    • 評価
    1. >>20
      腹に当分を蓄えて他の蟻にそれを供給し続けるような蟻も居ますし
      蟻に近い種には蜂が居て幼虫が成虫にエネルギーを供給する事も可能です
      状況を見て成虫が幼虫の数を減らしてるようですが

      成虫と幼虫の体質と役割を変えたり複数の役割を最初から産み分けていたりコントロールが可能な事に新な謎が生まれる

      • 評価
  10. アリの巣を観察してると女王アリが飛ぶ前に巣から出そうになったオスアリがあわててまた巣の中に引っ込んだりしてて すごく気を使ってるんだなあってしんみりした

    • +2
  11. 結婚しなかった王蜂もエサを与えられず
    巣から棄てられるね

    • 評価
  12. 「役立たずで、図体ばかりデカくて、むだ飯を食う。」
    イタイ、イタイ、耳が痛い。

    • +13
  13. やめろ!これ以上二倍体のオスの悪口を言うな!

    • 評価
  14. そもそもオスが働かない穀潰しとして進化しているのは何故なんだ?
    オスも生殖以外の仕事でも働くように進化した方が役に立って得なのでは?

    • 評価
    1. >>33
      長距離を飛行して捕食者よりも小さなメスを探して交尾する無茶な役割を担っている

      個体数で無理やりこなしてるのだと思うけど他の機能を搭載する事で航続距離が低下したりするかも?

      巣が近い条件では航続距離は短くても問題にならないけど水害で広範囲の蟻が死滅した環境では役立ちその影響は数世代後には血縁者の数に現れると思う

      • +2
    2. >>33
      なんだか群単位で一つの生命体みたいだよね。
      オスは○ックスしかできない、メスは働くしかできない、女王は生むしかできない。
      さながら一匹一匹が巨大な個を構成する細胞の如しだ。
      生命に正解なんてないんだと思わされるよ。

      • +3
  15. ミツバチだって冬の前になるとオスは巣から追い出されて野たれ死にするから 蟻がオスを食っても不思議じゃない 

    • 評価

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