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 イギリス・ブラウン大学とイタリア・ボローニャ大学の研究者が、DNAから数え年ではなくて、体自体の年齢を把握できるかもしれない指標を発見したそうだ。

 それは細胞の中ではなく、血液の中に浮かんでいるセルフリーDNA(cfDNA)の中で見つかったある違いである。
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健康な100歳以上の人は70代よりも20代のサンプルに似ていた

 学術誌『Aging Cell』に掲載された研究では、20代、70代、ならびに健康/不健康な100歳以上の人の血液サンプルからcfDNAを採取し、これら4グループの違いについて調査した。

 明らかになったのは、20代のサンプルでは「ヌクレオソーム(DNAがタンパク質の核に巻きついたようになっている染色体の基本単位)」がしっかり間隔をとって並んでいたのに対して、高齢者になるほどそれが不規則になっていたことだ。

 この間隔の狭さは、不健康な100歳以上のサンプルで特に顕著だったが、健康な100歳以上の人のサンプルの場合、70代よりも、20代の見た目に近かったという。

 つまりそれだけ若い人の特徴を残していたということだ——ならば、この間隔を見れば、実際の年齢に比べて、体の年齢が高いのか低いのか知ることができる。

 加齢には様々な要素が関与しているために、現時点では何が原因でそうした違いが生まれるのかは明らかではない。

 DNAの塩基配列を変えないままで、その働きを変える仕組みのことをエピジェネティクスという。

 その情報を集めたものをエピゲノムというのだが、ヌクレオソームのまとまりもまたこの一要素で、遺伝子の発現や活動の仕方に影響を与えている。
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ヌクレオソームにまとめられたDNAの電子顕微鏡写真。黒い点がヌクレオソーム。黒い矢印はヌクレオソームのコア粒子、白い矢印はリンカーDNAを指す。スケールバーは50nm。
image credit:Chris Woodcock.

血液の中に浮かんでいるDNA「cfDNA」

 cfDNAは細胞の中ではなく、血液の中に浮かんでいるDNAで、初めて発見されたのは、がん患者の血液の中からだ。

 がんを診断する生体マーカーとして研究されており、細胞が死ぬときに発生し、ヌクレオソーム同士の間に入り込むことが分かっている。

 研究の中心人物ニコラ・ネレッティ(Nicola Neretti)氏によると、「cfDNAは瓶に入れられたメッセージ」のようなものなのだという。

 ヌクレオソームの間隔が維持される背後にはいくつもの細胞メカニズムが働いており、それは年齢を重ねるほどに衰えていく。

 発見された間隔の変化は、そうしたメカニズムが変化していることを示すものだ。維持メカニズムが変化すれば、ゲノムの各パーツの利用しやすさにも変化を引き起こす。

 このためにトランスポゾン(ゲノム上の位置を転移できる塩基配列)という通常は固定されている遺伝要素が逃げてしまったりと、だんだんときちんと機能しなくなってくる。

 研究では、加齢によって、2つの一般的なトランスポゾンの最初にcfDNAシグナルが減少することも判明した。

 このことは、不健康な100歳以上の人と70代の人では、これらトランスポゾンの固定が弱いために、ゲノムへのコピーが行われやすく、その結果遺伝的な機能不全が起きるらしいことを示している。
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istock

大規模研究の必要性

 今回の研究ではイタリア国内のたった12人の被験者からしかcfDNAを採取していない。

 したがって、今回判明したことが本当に生体年齢を知るマーカーとして相応しいものなのかどうか確かめるには、もっと大規模な研究が必要になる。

 理想を言えば、2、30年かけてヌクレオソームに生じる変化やその速さ、ならびに被験者の体調、ライフスタイル、食事といった事柄を追跡調査したいところである。

 このような長期的な研究調査の準備を進めつつも、現在研究チームは、cfDNAを血液から抽出する方法の効率化に取り組んでいる。

 マウスを使った実験では、ティースプーン4分の1ほどの血液から十分なcfDNAを抽出することに成功している。

 ネレッティ氏は、生体年齢を把握するためや、健康とエピジェネティックな変化との関係を知るためには、わざわざゲノム全体を解析する必要はないと考えている。

 今回の研究では全体を解析しているが、おそらくは2〜5パーセントを解析すれば、それで十分だろうという。

 またこれ以外にも、cfDNAの中のDNAメチル化パターンの研究も検討されているそうだ。

 これもやはり、DNA塩基配列の変化なしで起こるエピジェネティックな変化のマーカーとなるものだが、こちらからはcfDNAがどの組織から発生したかという情報も得ることができる。

 加齢によるエピジェネティックな変化の理解が進めば、加齢にしたがって生じる病気の治療開発にもつながるし、体が老いる速さも把握できるようになるだろう。

References:Researchers detect age-related differences in DNA from blood | News from Brown/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 09:49
  • ID:s7.NXMwU0 #

やはり死ぬように設定してあるんだな。
遺伝子いじれば不老不死か。
既に成功例があるのでは?

2

2. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 10:36
  • ID:7isdWrTS0 #

イギリスが「いぎりす」となっているので修正した方が良いと思います。
※このコメントは載せなくてOKです

3

3. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 10:53
  • ID:crMG.Wjz0 #

DNAって普通に生きてるだけで変異していくんだっけ?

4

4. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 11:03
  • ID:1oKWro2B0 #

冒頭可愛すぎて笑った
お茶目かよ!

5

5. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 12:53
  • ID:xW1e4P0h0 #

あのさあ、、
なあ?何が似てるんだって?具体的に遺伝子のどこが似てるんだい?

DNA、遺伝子、ゲノムというこの似たような3つの 単語があるがその区別をまず理解してから記事を書こうな

6

6.

  • 2018年12月29日 13:00
  • ID:xW1e4P0h0 #
7

7. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 20:53
  • ID:93hTTRB90 #

※5
生理学は門外漢だが、普通に読めば
「『ヌクレオソームの間隔』が
若く健康な人はしっかり開いて規則的、
老化による体の衰えと同期して不規則に狭まってくるが、
高齢でも健康な人は、若者のように規則的な間隔を保っていた」
という論旨は理解できたけど。

8

8. 匿名処理班

  • 2018年12月29日 21:16
  • ID:93hTTRB90 #

※2
chronological age を「数え年」と訳しているあたりも、
違和感あった。文脈からして云わんとすることは
「誕生日からの数字上の経過年数とちがって、
実際の肉体の老化具合いを〜」という事なんだろうけれど、
「数え年」というとやっぱり、近代的な「満年齢」に対して
生まれた時点で一歳で、お正月を迎える度に
皆が一斉に1つずつ加齢するアレのイメージしか無い。

一般に「生活年齢」や「暦年齢」あたりが定訳じゃないかと思うが、
それで趣旨が伝わりにくいと思えば「戸籍上の年齢」とか
「名目上の年齢ではなくて、実際の身体年齢を把握できる指標」
なんかの意訳でもよさそうに思う。

9

9. 匿名処理班

  • 2018年12月30日 01:19
  • ID:KRxQFcoX0 #

つまり、あらゆる意味で相手の両親に面通しするのは有効って事だな?

10

10. 匿名処理班

  • 2018年12月30日 11:29
  • ID:Z2SRrxCK0 #

>不健康な100歳

何を言ってるのかはじめ分からなかったが、要は無理くり生かされてる状態の方々、のことか。

11

11. 匿名処理班

  • 2018年12月30日 21:23
  • ID:sT8gp6Bv0 #

脳の機能も含むのかな。

先日101歳になった婆っちゃは、体はすこぶる健康で自分で食事を摂れるしほぼ毎回完食。
でも、認知症なの。
5分毎に名前を尋ねられて再会を喜んで貰える。

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