
そして時に、歴史的発見や新たなる知見が得られた場合、専門家ですら騙されることがある。大抵のねつ造ならすぐに見破られてしまうのだが、そんな彼らの眼力を持ってすらも見抜けず、何十年も世界を騙し続けてきた歴史に残るねつ造のいくつかを見ていくことにしよう。
1.100年信じられ続けたイギリスの歴史を記した写本

article source:theguardian
1747年、英語教師のチャールズ・バートラムは有名な古物蒐集家ウィリアム・ステュークリーに手紙を出し、「ウェストミンスター公爵によるローマ帝国時代占領下のイギリスの歴史を記した興味深い写本」を友人の家で見たと連絡した。ステュークリーはその写しを求め、感嘆した。写本の著者はいくつかの紛失した原典を閲覧できたらしく、またローマ帝国統治下のブリテン諸島の包括的な地図を作成するだけの十分な地質学的知識を有していた。
バートラムは写本を『The Description of Britain(ブリテンの記述)』という本にまとめて出版。これは古物蒐集家や歴史家に大好評だった。
書籍には、これまで知られていなかった県や地名、イングランドにおける初期のキリスト教聖人に関する詳細など、ローマ時代のイギリスに関する新しい情報が記載されていた。
その後100年に渡り、写本は本物であり、ブリタニアに関する主要な資料とされた。しかし19世紀半ばになって、写本のラテン語が拙く、新しい書籍を参考にしているらしいことが研究者から指摘された。
今日、目的は不明であるが、写本の著者もまたバートラムであると考えられている。
2. カラベラス頭蓋骨

article source:archaeology
1866年2月25日、ある鉱夫が40メートルの地中に埋もれた人間の頭蓋骨を発見した。頭蓋骨は数百万年前の火山堆積物で覆われており、北アメリカで発見された最古の人間であることを示唆していた。カリフォルニア州の地質学者ジョサイア・ホイットニーは頭蓋骨が本物であることを発表。頭蓋骨が500万〜2500万年前のもので、北アメリカにおいて人とマストドンとゾウが同時代で共生していたことの証拠であると主張した。
しかしその年代については異論もあった。そうした専門家の見解では、完全に発達した現代人の頭蓋骨であり、人類の進化に関する証拠にはなり得ないという。とは言え、仮に本物であれば、人の起源に関する進化論を覆す代物だった。
だが、間もなく発見者の鉱夫が、頭蓋骨はネイティブアメリカンの埋葬地から盗み出したものであることを告白した。それはジョークだったのだという。
現在でもカラベラス頭蓋骨が本物であると信じる人たちはいるが、1907年の検査によって、それは1000年前のものであることが判明している。
3. モディリアーニの彫刻

article source:thelocal
1909年、作品への批判に意気消沈したアメデオ・モディリアーニは故郷リヴォルノから離れた。これに関して、彼が出立前に数点の彫刻を運河に投げ入れたという噂が流れた。1984年、モディリアーニ生誕100年を記念する展示会が催されることになった。そこで主催者と行政は、この失われた作品の捜索を助成することに決定。
それから8日後、運河の底で曲線を描く胸部が発見された。さらに数時間後、別の2点が発見された。計3点の彫刻はモディリアーニの作風であり、真作であると信じる専門家もいた。
これについて、たった1人の美術史家のみが、仮に真作であったとしても拙く、モディリアーニが投げ捨てたのも頷けると評していた。
後に3人の学生が現れ、1点は彼らのいたずらであることを自白。さらに残り2点についても、地元の芸術家によって彼自身の作品であることが明かされた。彼の目的は、評論家たちを嘲笑することだったそうだ。
4. エトルリアのテラコッタ製戦士像

article source:Metropolitan Museum of Art Etruscan Terracotta Warriors
ジョン・マーシャルはイギリスの考古学者で、1915〜1921年の間にニューヨークのメトロポリタン美術館のために3点のテラコッタ製戦士像を購入した。彼が「これに匹敵するほど重要なものはない」と自賛していた戦士像は、紀元前5世紀にエトルリア人によって作られたものと考えられた。美術館はその真贋を判定するために、陶器の専門家に鑑定を依頼。その結果、遺物に何らの問題も発見されず、本物であると判断された。
1933年に展示されると、エトルリア美術の素晴らしさを示すものとして大好評を博す。一方、その真贋を疑う意見や、偽造であるという発言まであったが、美術館はこれらを無視した。
1960年、美術館はついに疑惑を無視できなくなる。そこで戦士像を化学分析にかけると、エトルリアでは使われたはずのないマンガンが検出された。さらに焼かれて砕ける前に壊されていたことも判明した。
翌年、戦士像の制作に携わったアルフレッド・フィオラヴァンティによってそれが偽物であることが明かされた。何と彼はその左の親指の部分を記念に所持していたのである。
5. チャールトン・ブリムストン・バタフライ

article source:Charlton Brimstone Butterfly
1702年、蝶蒐集家ウィリアム・チャールトンは高名な昆虫学者であったジェームズ・ペティヴァーにある蝶の標本を送った。ペティヴァーは見たこともない蝶に驚き、「イングリッシュ・ブリムストン・バタフライにそっくりだが、黒い斑点と下羽の青い三日月が特徴的だ」と記した。
1763年、博物学者カール・リンネによって、新種であると発表。学名パピリオ・エクリプシスは、『セントゥリア・インセクトルム』の12版にも記載された。
それから30年後、昆虫学者ジョン・クリスチャン・ファブリシャスが標本を確認したところ、何とそれが偽物であることが分かった。羽の黒い斑点は塗られたもので、希少な種とされたそれはありふれた蝶でしかなかった。
標本が展示されていた大英博物館のキュレーターはこれを知ると、憤然として踏み潰したそうだ。
6. 類人猿と人の”ミッシングリンク”?ピルトダウン人

article source:scientificamerican
1912年、アマチュアの化石蒐集家チャールズ・ドーソンは、大英博物館の地質学者の権威アーサー・スミス・ウッドワードに手紙を書いた。ドーソンによれば、ホモ・ハイデルベルゲンシスの顎の骨の化石に匹敵するかもしれない人間の頭蓋骨の一部を発見したという。ドーソンとウッドワードは発見場所を発掘し、人のものに似た頭蓋骨、類人猿のものに似た下顎、磨り減った大臼歯、石器、動物の化石を発見した。この頭蓋骨は50万年前のものと推定された。
この発見はロンドン地質学学会で発表され、類人猿と人の”ミッシングリンク”であると主張された。この人類は発見者の名にちなみ「エオアントロプス・ドーソニ(ドーソンの曙人)」と命名される。
人類進化史における要所としての地位をイギリスに与えることから、同国の進化論学者からは大いに歓迎された。
しかし、その後の数十年でヒト亜科の化石がいくつも発見され、彼らが発見したピルトダウン人の唯一のミッシングリンクとしての重要性は失われた。
1953年、新しい解析技法でその年代の特定が試みられた結果、ピルトダウン人の骨はいずれも年代が異なっており、720年より古いものがないことが確認された。それどころか、人骨と類人猿の骨を削り、着色されたものであることまで明らかになった。
2016年、ピルトダウン人の調査が再度行われた。その研究者は、これがおそらくはチャールズ・ドーソンによるねつ造であると考えている。
ドーソンにはねつ造癖があり、また学会からの承認も欲していた。彼はピルトダウン人を発表するまで王立協会の会員候補として選出されることを夢見ていたが、それが果たされることはなかった。
all translated by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
日本の考古学界を引っ掻き回したゴッドハンドもよろしく!
2. 匿名処理班
骨董品だってそうだよな。
某鑑定番組で本物と評価された物だって実際は作者本人にしか真贋は分からないわけじゃん?
自信満々で偽物と評した物だってさ、作者もたまにはおふざけで適当に描いたり作ったりするかもだし。
何事も本物と思ってるうちが華だわねw
3. 匿名処理班
かつて某デパートのいんちきペルシャ秘宝展で失脚されたワンマン経営者の方がおられましたな。
4. 匿名処理班
ゴッドハンド
5. 匿名処理班
このコメント欄ではSTAP細胞の存在を認めるような発言は禁止されています。
6. 匿名処理班
日本では2000年に「旧石器捏造事件」というのがあってだな…
7. 匿名処理班
ジンギスカン=源義経・説もそうだな。
NHKの歴史番組でやってたの見て面白かった。
この話し、江戸時代の中頃が出発点だとか。
8. 匿名処理班
日本のゴッドハンドは挙げられてなかったか。
9.
10.
11.
12. 匿名処理班
※2
あの番組見てる時に「以前やった鑑定結果に間違いがありました」という謝罪文でたことある、間違いはちゃんと認めるようだ
13. 匿名処理班
※6は歴史家の藤村新一だね。第1回相沢忠洋賞の受賞者だね。
14.
15. 匿名処理班
※3
みんなけっこう忘れてくれんもんだねー。
なぜだ!
16.
17. 匿名処理班
アンネの日記
18.
19. 匿名処理班
2番目のケース、ジョークで他人の墓を荒らすとか悪趣味すぎる……
20. 匿名処理班
生物学の話だが「サンバガエルの謎」は捏造事件が捏造じゃないかということに切り込んだドキュメンタリーだった。カンメラーの研究成果は戦争で灰燼に帰し当事者たちもこの世を去ってしまったので真相は闇の中。
21. 匿名処理班
※2
作者本人にしかわからないなんて言い出したら知識の探求も研究もなんもなくなるだろ
22. 匿名処理班
ほかの5つに比べてピルトダウン人はちと有名過ぎる
23. 匿名処理班
ゴッドハンドは控えめに言っても日本の恥だからな
その後ホントに十万年以上前の遺物が見つかったときは、
喜びと同時にあんなインチキしなくても良かったんやないかと無情も感じた
そりゃ勿論発掘方法や同定のやり方が進化したからだけどさ
24. 匿名処理班
こういうのは金になって名誉にもなるから後を絶たないな
25. 匿名処理班
捏造で像を作ると言えばアレでしょ
26. 匿名処理班
ネタの為だけにネイティブアメリカンの墓を荒らすとか呪われたらいいのに
27. 匿名処理班
物の真贋が科学的手法で高確率で見抜けるようになったのは、人間の積み重ねてきた年代に比べればほんのここ数十年のことなんだよな
インターネットの発達で情報伝達の真贋が明確な根拠を求められるケースも多くなってきたし人間社会の在り方は今大きな変革をしてるのかもしれないな
28. 匿名処理班
イギリス人だまされてばっかりだな
29. 匿名処理班
イギリスといえば有名なストーンヘンジも建て直しているけど
本当に元の形なのか、ストーリーに合わせて位置を変えた可能性はないのか、
ちょっと考えてしまう
30.
31.
32.
33. 匿名処理班
気持ちはわかるが、ありふれたチョウの標本でも
踏み潰すのはどうなのか...
34. 匿名処理班
ナンテラコッタ。
35. 匿名処理班
ゴッドハンドの場合は発掘した遺跡と出てきた石器そのものは本物だったから
ここでいう「発見そのものが捏造」ってのとちょい違うのがややこしい
・・・というのも、別の場所で発掘された石器を発掘現場にあらかじめ埋めて、自分で掘るっての繰り返してた
発掘したはずの石器が毎回なくなってるとか、別の遺跡で発掘した石器が紛失してるとかそりゃ何回も繰り返せば誰かしら気付くだろって部分から発覚したからまあいつかバレる
ただなまじっか本物使ったせいで発覚が永らくバレにくくなったのも事実…
その時代の石器にしちゃ怪しい部分もあったんだからもう少し精査してれば別だったろうけど
あと、あまりにも不自然な「連続発見」が続いたのに怪しまずに信じきってた日本の学界にも責任が大きい
36. 匿名処理班
ちょうちょもったいないなー、俺なら捏造架空・動植物・人類史博物館として永遠に展示して人々を楽しませるのに!
あと鑑定って精密さのぞけばブロントさんと一緒だよね、ぽさが大事
37. 匿名処理班
つくづく人を騙すのに必要なのは技術の高さは二の次で、騙す相手へどうつけこむか、そのリサーチ力が重要なんだなあ……。でも捏造は絶許。