
その度に、象使いは鋭いびょうがついた竹棒で、メー・カムの繊細な皮膚にたくさんのみみず腫れができるほど打ちのめした。それでもメー・カムは働くことを拒否し続けた。
そんな彼女に手を焼いた象使いは、メー・カムを象の保護施設に引き渡した。そこでやっと彼女は待ち望んでいた人生を得ることができたのだ。
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メー・カムの人生は働くことだった。観光客用の象として働かされる前は、37年ほどタイの木材産業で働かされていた。来る日も来る日も、ひたすら重たい材木をジャングルから運び出していたそうだ。
その後観光客を乗せる日々を送っていた彼女は2匹の子供を妊娠した。悲しいことに1匹は死産で、もう1匹は生まれてすぐにコブラに咬まれて死んでしまった。メー・カムは自分の子が蛇に咬まれる現場を見て、叫び声をあげたという。必死で子供の側に行こうとしたが、メー・カムの足は鎖でコンクリートに括り付けられ動くことができない。
オーナーが鎖を外してやると、メー・カムは子供を守るため駆け出して行った。しかし時はすでに遅く、子供は毒により死んでしまった。それから、数時間ほど、メー・カムは誰であろうと、側に来ようとする者に突進するようになった。

最初、メー・カムのオーナーは手放すことを渋ったが、仕事を拒否するメー・カムを抱えてどのように暮らしていけばいいのか途方に暮れていた。そこで、マクウィリアムさんとリンカウさんはオーナーにある提案をした。2人はメー・カムを借りる事とし、レンタル代を払ったのだ。この代案にはオーナーも満足げに同意したという。

だが心を許す人もいる。象はとても頭の良い動物である。その人間の本質を見抜いているのである。彼女に優しく接するリンカウさんと、保護施設にいる新しい調教師にだけには心を許した。
人間が嫌いなメー・カムだったが、施設で過ごしていくうちに心の壁が溶けていったようだ。ここでは毎日、水浴び、ダスティング(泥などを体につけて寄生虫や乾燥から皮膚を保護すること)、狩猟採集、周囲の探索、泥遊びなどをしている。



メー・カムが来て2ヶ月半が過ぎた頃、別の引退した象がやってきた。71歳のメスの象で名前はメー・ジュンペという。メー・ジュンペもメー・カムと同じように、木材産業と観光産業で働かされてきた。
メー・カムは他の象とも特に問題はおこさず順調にやっているが、マクウィリアムさんとリンカウさんは新しい象をメー・カムに紹介することをためらっていた。
「メー・カムはとても心が傷ついた状態で、不安定でした。私たちは彼女のいる場所に新しい象を入れて、受け入れてもらえるか不安でした」
いよいよ、メー・ジュンペとメー・カムを対面させる日がやってきた。
メー・カムの世話係が少しずつメー・ジュンペを近づけさせていった。
「最初、メー・カムは過敏に反応していました。ゆっくりと動き、周囲の空気を嗅いでいました。実際にメー・ジュンペに直面すると大声で鳴き、逃げ去って行きました。落ち着くまでには30分もかかりました」。
数時間経ってから、世話係たちは再び2匹を引き合わせようと試みた。すると、メー・カムは今度は逃げようとはしなかった。代わりに、自分の鼻をメー・ジュンペのお尻に当てた。

「2匹は地面を揺るがすような大声で鳴きたてたんです」とマクウィリアムさんは語る。「お互いにゆっくりと近づき、生殖器のにおいを嗅ぎ、顔にある側頭腺、口の中まで嗅ぎあいました。そして、お互いの体を優しくこすりつけ、愛情を示したんです」。






via:Beesanctuary Elephant Sanctuary/ translated melondeau / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
もうお別れですサンタマリア
2. 匿名処理班
お互い羊さんだからシンパシーを感じたのかな… って
「メー」は、タイ語で「お母さん」なのか
カムさん、子供みんな失ってるのに「カム母さん」ってなんか皮肉だな
お疲れさま、気の置けない友人と一緒余生をのんびり過ごしてね
3. 匿名処理班
象なのに人生なのか
4. 匿名処理班
それというのもオツベルの頭がよくてえらいため
5. 匿名処理班
募金したいけど海外のサイトだからわからない
WEBマネーじゃダメなのかな
6. 匿名処理班
目の前で子どもが危険な目に遭っているのに動けないだなんて辛すぎる
知能が高い生き物だから自分を鎖に繋いだ人間にも不信感を抱いたんだろうな…
7. 匿名処理班
寄付する寄付するよ!
インドでも客を乗せている象がいるね
坂を上ってたけど、酷使されてないといいな
8. 匿名処理班
姉妹とか親戚なんじゃないかな
9. 匿名処理班
※11
母娘かもしれんな
10. 匿名処理班
サーカスやら、観光の客寄せやら、酷使され、虐待され、
手を差し伸べる人がいるから良かったものの、このオーナーとやらは未だにレンタル料をもらってるのだとしたら、恥ずべき人間だな。
11. 匿名処理班
世界丸見えの後半で放送される海外の感動系再現ドラマのネタになりそう
12. 匿名処理班
象の調教はかなり酷いものだが、彼らはそれでご飯食べてるんだしな
私達が食べる精肉にするために酷使するのはよくて、見世物はダメってのもエゴでしかないし
動物と人間の付き合いって難しいね
13. 匿名処理班
おや、川へはいっちゃいけないったら
14. 匿名処理班
※1 ※6
宮沢賢治の「オツベルと象」を真っ先に連想したら同じ人がいて安心した
15. 匿名処理班
うーん、メーってタイ語で母という意味なんだけど、この話は母親同士のレズカップルが誕生したって事なのかな
16. 匿名処理班
なんでゾウさんを虐待が普通になってるんだ?悲しむし涙も流すし人間以上の存在だよね
同じ生き物になぜこうも冷酷になれるんだ?やっぱり私を含めて人類は滅んだほうが少なくとも苦痛を与える存在が減るだろう
17. 匿名処理班
自分の利益のために動物に鎖や首輪を付ける全ての人間は恥を知るべき。
そういうヤツに限って自分とこの動物は絆で結ばれてるとか言い出すんだ。
動物の心が判るってのか?嘘付くな。ただ単に躾の結果だろうが。
さっさと自分の手から放して自然に帰す事だけが唯一できる事。
それ以外はゆるやかか急激かの違いはあれど虐待でしかない。
18. 匿名処理班
う〜む、色々と考えさせられるゾウ
19. 匿名処理班
蛇に噛まれた時に調教師は助けようとしなかったんかな?
人間が必死に守ろうとしてたなら、この母象にも伝わった気がするけど
調教棒で痛いところをつついてばっかりいたなら、日頃から信頼関係は無かったかもね
犬や猫だって本気を出せば、丸腰の人間よりも強いわけだけど、殆どの飼い主は近づいても噛まれるどころか甘えてくるし 叩かなくたって褒める事で芸や仕事(盲導犬など)を覚える 一般的に使役動物は本来の寿命よりも短くストレスや疲れを感じてるのだろうけど、飼い主との信頼があればこそだと思う
日本も牛に鋤をひかせて農耕をしてた時代があったが、東北の曲屋に現れる様に、馬や牛が凍えないように人間と近い寝床で鳴き声等で異常があれば直ぐに世話を出来る距離感だったんだと思う ただし人間も低栄養や重労働で早死にな時代、牛馬にも決して楽な事は無かっただろうけど、多くの農家は愛情をもって労働に応えてたんじゃないかと思う 財産であっても牛馬が本気で反抗すれば人間なんて手に負えないんだし
この母象には調教師の愛情不足と不幸が重なったケースで
タイの伝統的な象の使役も本来多くは、人間と象の協同作業で仕事が終れば面倒をみて労ってあげるんじゃないかと思う じゃなきゃ年中踏まれたり潰されたりして人死が出て、とっくに廃れてると思う
20. 匿名処理班
白人は泣いて喜ぶだろう。
21. 匿名処理班
ゾウを使ってお金を稼いでるならゾウのことを道具として扱わずに
仕事を共にしている相棒のように扱うべきだ
お金を稼がせてもらっているのに敬意も払わないなんて、地獄に落ちてしまえばいい。
働いて、途中で1時間ぐらいは遊び時間を与えて
ごはんや水も好きな時に食べれるようにして
仕事が終わったら終身時間まで遊ばせてやるべきだ。
調教師なんかじゃなくてただの虐待クズ野郎だ
22. 匿名処理班
オレも解放されたいわ・・・
23. 匿名処理班
71歳と40歳ぐらいの2匹の象
きっと母と娘のような情が芽生えたんだろう
24. 匿名処理班
※1
「なんだい。成りばかり大きくて からきし意気地のないやつだ」
25. 匿名処理班
※19
魂の双子って感じじゃないのかな
26. 匿名処理班
象ライフでいいじゃないか
兄妹とか?
27. 匿名処理班
ミャンマーの話だけど、ジャングルで象は重要な労働力だった。
ただ、動物愛護の精神から労働時間を短くし、
最近は機械が普及したので仕事自体が減ってるそうだ。
で、そんな象たちだが、労働時間が減って運動不足で肥満になったり、
朝から晩まで交尾してるらしいw。
28. 匿名処理班
恋に落ちる、、?
百合か
29. 匿名処理班
※19 ※35
確か象はメスを中心にして群れを作り、皆で子育てをするんだよ。
母親以外のメスが子守を担当したり、助け合って暮らす。
だからスタッフさんもメス同士を顔合わせしたんだと思うよ。
30. 匿名処理班
観光地で、人間乗せてる像も、サーカスも、酷い虐待受けてるんだよね
何が猛獣使いだ、調教師だ
上手くやらなければご飯を与えなかったり、
鎖で首を吊ったり、尖った金属での暴力や恐怖で強制させてるだけ
人間は、オカシイやり方をしていると思うものを拒否する権利がある
人間が、動物を苦しませることをしないのが一番だけど
31. 匿名処理班
最近、どこかの企業が「アフリカのゾウを密猟から守ろう」ってポスターを作ったんだけど、そのポスターに使われていたのが、一見、「仲の良い人間と海水浴するゾウ」的な写真だったんだけど、実は「"アジアゾウ"を鉤棒で"強制的に"泳がせてる」写真で、「この企業は、実はゾウのことなんて何もわかっちゃいないんだ」って、動物保護のサイトで批判されてた。
そのサイトでは、「ゾウを救いたいと思ったら、観光地でゾウに乗ったりゾウと写真を撮ったりしないこと」と呼びかけてた。我々も動物虐待の一端を担うことのないよう、気をつけなきゃいけないね。
32. 匿名処理班
ゾウって繁殖できないから森からさらってくるんだよね
33. 匿名処理班
オツベル の 所から 仲間によって救出された象の 続編かと思った・・ドキュメントリー なんだね・・
34. 匿名処理班
メーカムもメージュンペも女の子でしょ?ビアンのゾウさんだったのかな
35. 匿名処理班
※32
繁殖はできるよ、ただ、出産の時に間違って子供を踏み潰したり、かなり大変らしい。
36. 匿名処理班
※17
でもここから離れたら、また誰かに捕まってしまうかもしれない。だからこそ施設があるのかもしれない。