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船が排気ガスを規制したところ、落雷が50%減少するという謎の現象

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(著) (編集)

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Photo by:iStock
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 シンガポール沖の航路上では雷が集中して落ちるという不思議な現象がある。この地域は世界で最も船の交通量の多い海域だ。

 ところが、2020年、国際海事機関(IMO)が船舶燃料から排気される硫黄含有量を大幅に削減する規制を導入したところ、雷の発生回数が半減したという。海洋汚染を減らすための措置が、なぜか雷の活動を減らしたのだ。

 いったいなぜなのだろう? 確かなことはわかっていないが、この謎の現象の背景には、船から排出されていた「エアロゾル粒子」が減少したことが関係している可能性があるという。

船舶の硫黄排出量規制後、雷が半減

 シンガポール周辺の航路は、世界でもっとも船の往来が多いところだ。船の燃料には硫黄を含有するバンカー重油が使われるが、それを示すように、世界のバンカー重油の2割がここで購入されている。

 この航路上の船の多くは、しばしば3階建てにもなる巨大なエンジンで、バンカー重油を燃やし、硫黄の粒子やすすを大量に放出してきた。

 2020年、国際海事機関(IMO)は、こうした有害な粒子による汚染を防ぐため、硫黄の排出量規制を導入した。

 この規制により、これまでシンガポール港の船舶燃料のほぼ100%を占めていた、硫黄含有率の高いバンカー重油が、規制後は25%にまで激減し、ほとんどが黄含有率の低い燃料に代替されることになった。

 すると意外なことが起きた。シンガポール周辺の航路の雷が半減したのである。

 雷の発生を調べた地図で見ると、シンガポールの航路沿いはきわめて雷が多いことがわかる。

 ところが規制後そうした雷が50%に減少したと、ワシントン大学の気象学者クリス・ライト氏はThe Conversationへの寄稿で報告している。

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シシンガポール港付近の航路(上)と落雷(下) /Chris Wright

船舶とエアロゾル粒子と雷の関係

 だがなぜ雷は半減したのだろう? はっきりとした理由はまだ不明だが、ライト氏は、船から排出される「エアロゾル粒子」が減少したことが関係していると考えている。

 エアロゾル粒子とは、空気中に浮遊する微小な液体や固体の微粒子のことだ。

 エアロゾル粒子は必ずしも汚染物質というわけではなく、船舶など人間の活動によって排出されるものもあるが、森林などから風で舞い上がったような自然のものもある。

 こうした粒子は雲と密接に関係している。エアロゾル粒子が核となって周囲に水分が付着することで、「雲粒」が形成される。

 晴れた日、空に小さくモコモコした明るい雲があれば、エアロゾル粒子がたくさん含まれているかもしれない。雲粒が多い雲はその分表面積が大きいため、光がたくさん散乱して明るく見える。

 ところが嵐の雲では、雲粒はもっと混沌としたものになる。上昇気流によって高く舞い上げられた雲粒は凍って氷の粒になり、激しくぶつかり合うのだ。

 雷は、そうした氷の衝突によって静電気が蓄積されることで発生する。

 このとき、より密度が高く重たい「霰(あられ)」が落下し、軽い「氷晶」が上へ持ち上げられる。すると雲は巨大なコンデンサのようになる。そこに蓄積された電気エネルギーが放出されたものが雷だ。

 ライト氏の仮説によれば、シンガポールの航路沿いで雷が多かったのは、船舶から排出されていたエアロゾル粒子が、雲の氷晶を増やしていたからだという。

 それによって氷が衝突しやすくなり、その分雷のエネルギーが多く蓄積されたというのだ。

 ところが2020年の規制によって船からのエアロゾル粒子が減ったことで、雲の氷晶を作り出す”種”が減った。そのために氷の衝突も減り、雷が作られにくくなったと考えられるという。

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エアロゾル粒子に水の分子が凝結することで雲が形成される/David Babb/Penn State, CC BY-NC

人間活動と気候の関係

 雷が減ると、それが世界の気象に与える影響が気になるところだ。

 科学者たちは雷の発生における人間活動の影響を解き明かそうとしている。しかし、エアロゾルが雷を引き起こすメカニズムにはまだ不明な点が多い。シンガポール以外の海運拠点で同じ現象が起きているのかもまだわかっていない。

 エアロゾルは単に雷を増やすだけではなく、嵐の規模や降水量にも影響を与えている可能性も考えられる。

 ライト氏は、こうした疑問を解き明かすため、人間の排出する微粒子が地球規模の気候にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにするために研究を続けていくという。

References: The world regulated sulfur in ship fuels − and the lightning stopped

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この記事へのコメント 12件

コメントを書く

  1. 排気煙の中のカーボン(煤)も関係してるのでは?
    そんな気がする。

    • +12
    1.  そういう話だと思いますよ。 硫黄の少ない重油を使う船が増えた→すすが減った→エアロゾルが減った→雷が減ったってことじゃないかなと。 新コロナ蔓延は不幸なイベントでしたがそれでもその時に得られた情報を生かすことは人類の利益につなげられれば多少は取り返せるかなと思います

      • +13
  2. ヤマタイコクでは日照りの際、焚き火を焚いて、雨を呼んだという

    • +8
  3. 火山雷と似た現象なのでは
    あるいは粉塵が核となって雨粒ができやすくなる、など

    • +16
  4. 有名なマラカイボ湖の落雷(世界一の落雷数と言われている)も、あるいはマラカイボ湖に存在している油田が関係しているのでは?

    • +10
  5. エアロゾルかー、イオンのどちらかだと思った。

    • +3
  6. 2020年はコロナで世界中の人の流れが大幅に変わったので船の規制だけが理由と考えるのはあまりに安直すぎる

    • 評価
  7. 森林とかの自然の中ではキノコの胞子が雲粒の元となってまた雨をもたらす、と知った
    この観測は人間の活動の影響からわかったのが面白いな
    ただ人工的に広大な範囲で雷雲作れちゃいそうな話でもあるから、未来でそうした使い方はしてほしくないとも思った

    • +1
  8. ちなみに磯臭さはプランクトンの死骸から出たエアゾルで雲の原料になる

    • 評価
  9. ラム 「排ガス、きらいだっちゃー!」  ⚡ドカン! 

    • -6

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