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ダーウィンが発見したカエルが絶滅の危機、イギリスに移送し繁殖に成功

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(著) (編集)

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Photo by:iStock
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 オスが口の中でオタマジャクシを育てるという、珍しい習性を持つ絶滅危惧種、ダーウィンハナガエルは南米が原産だ。

 ところが2023年、カエルの原産地で、真菌による両生類の感染症がまん延した。ただでさえ絶滅の危機に瀕している貴重な生き物が、この感染症により、1年で90%もその個体数を減らしたという。

 ダーウィンハナガエルを救うため、現地で捕獲したカエルたちを遠く離れたイギリスまで移送して、繁殖させる計画が実行に移された。

 2025年2月。チリから約1万1,000kmを旅してロンドンに辿り着いたカエルたちから、33匹の赤ちゃんが無事に誕生したそうだ。

両生類を脅かす「カエルツボカビ症」

 ダーウィンハナガエル(Rhinoderma darwinii))は、南米のチリやアルゼンチンの森にある小川などの水場に生息している。

 名前は、進化論で知られているイギリスの自然科学者、チャールズ・ダーウィンの名にちなんでいる。

 ダーウィンは1831年、ビーグル号での南米調査に同行し、チリでこのカエルを発見したのだ。

 ダーウィンハナガエルの生息地の一つである、チリ南部のタンタウコ森林公園に、「カエルツボカビ」と呼ばれる真菌の侵入が確認されたのは2023年のことだった。

 それからわずか1年で、同公園内に暮らすダーウィンハナガエルのうち、監視対象となっていた個体の約90%が、ツボカビ菌による感染症「カエルツボカビ症」で失われたことが判明した。

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 カエルツボカビとは両生類の皮膚で繁殖する真菌で、皮膚に含まれるケラチンを栄養分として分解し摂食するため、その機能が阻害されてしまう。

 両生類は肺呼吸だけでなく、皮膚呼吸も行っている。あのぬるぬるした皮膚の粘液に酸素を溶かし、皮膚から吸収しているのだが、カエルツボカビに感染するとこの皮膚呼吸ができなくなる。

 さらに体温を調節したり、浸透圧を調節したりといった皮膚の機能が働かなくなり、重症化すると死に至るのだ。

 カエルツボカビが初めて確認されたのは1998年、パナマとオーストラリアでのことだった。以来世界中で何度も両生類の大量死を招いてきたという。

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 国際自然保護連合(IUCN)によると、世界に生息する5,743種の両生類のうち約120種が、1980年以降に絶滅したと見られているそうだ。

 学者たちはこの数字のうちのかなりの割合が、カエルツボカビ症によるものではないか推測している。

 一度感染すると致死率は約90%とされ、IUCNによって外来生物ワースト100にも挙げられている恐ろしい真菌なのだ。

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CSIRO, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

チリからロンドンに52匹を移送

 ただでさえ希少な絶滅危惧種を救うため、イギリスのロンドン動物学会(ZSL)のスタッフらが、タンタウコ公園のダーウィンハナガエルの救出作戦に乗り出した。

 2024年10月、ZSLのスタッフたちは、チリの保護団体ラニタ・デ・ダーウィンNGOやドイツのライプツィヒ動物園と協力し、タンタウコ公園に飛んだ。

 そしてジャングルの中で、体長がわずか2~3cmのカエルを探し出して捕獲を試みる。最終的に、カエルツボカビに感染していない健康な個体52匹の採取に成功。

 温度調節機能付きのケージに入れられたカエルたちは、6時間の船旅と15時間のドライブに耐え、さらに飛行機を乗り継いで約1万1,200kmの長旅の末、無事にロンドンに到着した。

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11匹のオスから33匹の赤ちゃんが誕生

 ロンドンにやって来たダーウィンハナガエルのオスのうち、11匹が子供を持っていることが判明した。

 ダーウィンハナガエルは、オスの口の下にある「鳴嚢(めいのう)」の中で2週間ほどオタマジャクシを育て、カエルの姿になった段階で口から「産み出す」という、なんとも風変わりな特徴を持っている。

 下の動画は、その「出産」の瞬間を写したものだ。

This Frog Spits Out Its Babies

 11匹のオスのカエルからは、その後33匹の赤ちゃんが無事に誕生した。ZSLの両生類学芸員ベン・タプリー氏は、このミッションについて次のように語っている。

これはダーウィンハナガエルを、カエルツボカビの壊滅的な影響から守るための取り組みにおける、画期的な瞬間です。

子ガエルたちの親が無事に子育てに成功したことは、この種にとっての力強い希望の象徴であり、保護活動に携わる者が協力し合えば何が達成できるかを示しています。

私たちは何か特別なことを始めたのだとわかっていました。時は刻一刻と迫っており、カエルたちを救うには迅速に行動する必要がありました。

この活動を映像に納めたことで、私たちの活動がいかに重要であるかをはっきりと認識できたのです

 ロンドンのダーウィンハナガエルたちは、現在苔に覆われたガラスのテラリウムの中で、つがいで飼育されているそうだ。

 ZSLではカエルたちの繁殖プログラムを立ち上げ、将来野生に返す時を目指して活動を続けている。

A Leap of Hope | Rescuing Darwin’s Frogs from Extinction

References: A Leap of Hope: Endangered Frogs First Seen by Charles Darwin Give Birth in London to Help Avoid Extinction

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この記事へのコメント 9件

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  1. フランス本国では全滅、でも日本では残ったラフランスや
    南アフリカでは全滅寸前だが日本では過ごしやすくて
    大量に増えたフンボルトペンギンに似た状態だな

    • +9
  2. 日本では耐性があるっぽいけど、そういうのからワクチン的なのとか作れないのかな。
    ツボカビに感染しているけど発症していない個体の展示があったような。

    • +6
  3. 有名な種は保護して貰えるが無名あるいは未発見のまま絶滅していく種もあるだろう。一般的に嫌われやすい種は保護を理解されにくい。絶滅するとは思えないが万が一ゴキブリが絶滅に瀕したら、科学者は保護しようと躍起になるだろうがゴキブリなんか絶滅しろって人の方が多いんじゃないかな。

    • +9
    1. ゴキブリはともかく蚊は絶滅させた方がいいって研究者が多いね
      絶滅した際の生態系への影響も限定的らしいし

      • -2
  4. これ元々東洋由来の真菌らしくて日本だと両生類が耐性持ってて大量死がおこらなかったんだよな
    他の地域でもこれから耐性持ちの個体が選別されていくんだろうな

    • +6
  5. オーストラリアに放されたウサギを根絶しようとなんとか細菌(?)を撒いたときには生き残ったわずかなウサギがすぐに繁殖して無意味だったらしい。

    増えてほしくないのはすぐ増えて増えてほしいのは大量の資源を投入しなけりゃ増えない。

    自然を相手にするときにはよく考えないといけない。

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