この画像を大きなサイズで見るもふもふの体を膨らませたり縮めたりする毛玉ロボットに、人はなぜか愛着が湧く。
電気通信大学とソニーの共同研究チームが開発したロボット「MOFU((MOrphing Fluffy Unit))」は、目も顔も手足もなく、呼吸しているかのような動きをする。
特定の動物の動きを真似しているわけでもなく、ただ単に変形しているだけなのに、なぜか生き物っぽく感じてしまうのだ。
人間が、ある対象を見て生命を感じる感覚を、「アニマシー(生き物らしさ)」という。
研究チームは、MOFUを使いアニマシーに迫る実験を行った。
この研究成果は『PLOS ONE』誌(2026年8月18日付)に掲載された。
参考文献:
- 【ニュースリリース】全身をふくらませたり縮ませたりできる移動ロボット「MOFU」を開発-「体積が変わる動き」が「生き物らしさ」に与える影響を検証| 国立大学法人 電気通信大学
- This soft robot expands and contracts to seem more alive
顔も手足もなくても生きて見える毛玉ロボット
ロボットの「MOFU(MOrphing Fluffy Unit)」には目も顔も手足もない。
この画像を大きなサイズで見る動きもさほど凝ったものではなく、もふもふの毛でできた丸い塊が、膨らんだり縮んだりするだけだ。
この画像を大きなサイズで見るそれでも、その様子を動画で観た人は「生きてるよう」だと感じる。
MOFU を手がけたのは、電気通信大学とソニー株式会社の研究グループで、研究は、仲田佳弘准教授、当時大学院生だった茂木泰生氏、ソニーの齋藤真里氏が中心になって進めた。
目的は、体積が変わるロボットの動きが、どれだけ生き物らしい印象を与えるか、を確かめることだった。この感覚は「アニマシー(Animacy)」という。人間がある対象を見て「生きているみたいだ」と感じる感覚を指す学術用語だ。
約500人が「動けば生きてる」と感じる
研究チームは、MOFUが動く様子を撮った20秒間の動画を使って、オンラインで3つの調査を行った。
参加者はそれぞれ1種類の動画だけを見て評価する方式で、無効な回答を除いた498人分(平均年齢51.69歳)の回答を分析した。
動画を見た参加者は、ロボットの印象を測る国際的な指標「Godspeed Questionnaire Series」をもとに、「生き物らしさ(アニマシー)」に関する6項目を5段階で評価した。
まずは動かない状態、その場で体を膨らませたり縮めたりする動き、それからくるっと向きを変える動きを組み合わせた4パターンを比較した。
この画像を大きなサイズで見るその結果、いずれも動きがあるほうが、動きがないよりも「生き物らしさ」の評価が上がることがわかった。つまり参加者は、もふもふな球体が伸縮して動いてるだけで、生命が宿っているように感じたことになる。
次に、MOFU1台だけと2台に増やした場合の比較実験では、差はほとんど見られなかった。なお同じ2台でも、まったく動かないほうは、動きがあるほうに比べて評価が低かった。
この画像を大きなサイズで見るさらにMOFUが移動する場面も比較実験した。単に移動するだけの場合と、移動しながら体を膨らませたり、方向転換する場合を比べたところ、後者の方が「生き物らしさ」の評価が高くなった。
ただしこの実験は、当初の計画より参加者が少なかったことから、研究チームは十分な人数で再確認する必要があるとしている。
動きが回転でも膨張・収縮でも差はない
「生き物らしさ」の評価に関しては、体を膨張・収縮させる動きと、その場で向きを変えるだけの動きの間にはっきりした差は出なかった。
単にくるっと回るだけの動きも、参加者には同じくらい生き物らしく見えていたのだ。
こうした結果は、生き物らしさの演出に、さほど凝った動きは要らない可能性を示唆するものともいえる。今回試した範囲では、とにかく動きが重要らしく、人は動くMOFUに何かしらの意思のようなものを感じ取っていたようだ。
呼吸のような動きの秘密
ではMOFUの単純な動きの仕組みはどうなってるのか。使われているのは「Jitterbug(ジターバグ)構造」とよばれる幾何学的な機構だ。
モーターは1つだけだが、複数の面が連動して動くことで、全身の形を大きく変えられる。この構造により、MOFUは高さ約210mmから280mmまで変化する。
この画像を大きなサイズで見る移動については、左右の車輪を別々に動かす「差動二輪駆動」を採用した。
この車輪にはもう一つ役目がある。実は膨張・収縮の動きにより、本体がすこしずつ回転してしまうのだが、その回転を車輪が打ち消してるのだ。
研究チームはこの仕組みを使って、「膨張・収縮のみ」の動きと「旋回のみ」の動きを分けて、比較実験できるようにしていた。
生き物の呼吸や求愛行動がお手本
見た目にも工夫がある。前述したように、体積が変わる動きで「生き物らしさ」を調べたい研究チームは、MOFUを特定の動物に似せることなく、抽象的な球形にとどめた。
この画像を大きなサイズで見る毛足の長いもふもふの毛で覆われているMOFUは、初見では、猫のような動物のぬいぐるみっぽく感じられる。ところがよく見ると確かに目も顔も、手足も尻尾もついてない。
また内部にはギアを使わない静かなモーターを使用することで、機械音を抑えた。さらに内蔵バッテリーでケーブルにつながれることなく、自由に動き回れる。
膨張・収縮のアイデアは、生き物が体の体積を変える様子から生まれた。その代表例が呼吸だが、動物の中には必要に応じて体を膨らませる種もいる。
例えば、海鳥で知られるグンカンドリのオスは、喉元の赤い袋(喉袋)を大きく膨らませてメスにアピールする。
この画像を大きなサイズで見るクジャクが繁殖期にオスがメスに向けて羽を広げるといった仕組みも似たようなものだろう。
MOFUの設計や実際の詳しい動作は、NAKATA Lab 仲田研究室が2026年9月7日に公開した下の動画で見ることができる。
今後は対面実験を予定
今回の実験には限界もあった。参加者は動画を見ただけなので、実際にMOFUに触れたときの柔らかさや動作音など、直接の印象などは確かめられていない。
この画像を大きなサイズで見るそのため今後は、対面実験での「生き物らしさ」のほか、心地よさや温かみ、もしくは不気味さや近づきたくなるかどうかなど、人に対する幅広い感情への影響を調べるという。
また膨張・収縮の動き、関節を曲げる動きといった他の動きとの比較、さらに膨らませ方に関しても、大きさや速さのほか、タイミングを変えたときに、人の印象がどう変わるのかも調べる予定だ。
このように体積を変える技術は、人と接するロボットの開発に役立つと見られる。医療や福祉の現場では、音が控えめでも表現力があり、かつ省スペースなロボットが求められることが多いからだ。
直感的に当たり前のことのように思えるけれど、あらためて考えると、生きてるように感じるのって不思議かも。やっぱり動いていると無意識に動物とか、特に猫とか想像しちゃうんだろうか。アニマシーの境界ってどのあたり?って考えちゃうよ。
もふもふの球体なだけで、目もなくてただ膨らんだり縮んだりする静かなロボットでも、まるで生き物のように人から愛着を持たれたり、好かれる要素を備えることができるのか。
これで何かしらのリアクションがあったとしたら、さらに親近感が湧くだろう。
息してるような動きに加え、ふれ合いを通じた反応が、人に寄り添うロボット開発のカギになりそうだ。
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