メインコンテンツにスキップ

Googleでカラパイアを「お気に入りサイト登録」

生きた細菌を「トランジスタ」に見立てた生体回路を開発、植物への応用を目指す

記事の本文にスキップ

7件のコメントを見る

(著)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Advertisement

 植物が自ら周囲の環境を感知し、病害虫から身を守る未来が近づいてきた。

 アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、生きた細菌を遺伝子操作し、電子回路で電気信号の流れを切り替えるスイッチ役の「トランジスタ」のように働かせることに成功した。

 将来的には植物の葉や根に応用し、干ばつや害虫などを検知して、殺菌剤を作り出せることを目指している。

 この研究成果は『Nature Chemical Biology』誌(2026年8月17日付)に掲載された。

1つの細胞から細菌のコロニーへ機能を分散

 生き物の遺伝子を設計し直し、目的に応じた働きを持たせる研究分野を「合成生物学」という。

 これまでの生体回路では、特定の物質を感知したり、その情報に応じて別の物質を作ったりする複数の機能を、1つの細胞の中に組み込む方法が使われてきた。

 しかし、1つの細胞に多くの機能を詰め込むほど回路を複雑にすることが難しくなる。

 遺伝子の働きを切り替える『転写因子』には使える種類に限りがあり、数を増やすと信号同士が干渉しやすくなる。

 さらに、多くの回路を組み込めば、細胞がタンパク質を作る仕組みにも負担がかかる。

 そこでマサチューセッツ工科大学(MIT)の生物工学科長、クリストファー・ボイト教授らは、回路全体を1つの細胞に作り込む方法をやめ、単純な役割を持つ細菌を別々の部品として組み合わせる方法を考えた。

この画像を大きなサイズで見る
生きた回路基板の概念図 Image credit:MIT

5種類の菌株がトランジスタと配線の役割を担う

 研究チームは、植物の表面などに生息するパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)という細菌を使用した。

 研究チームは遺伝子操作によって、化学物質の信号に応じて出力を切り替える2種類の菌株を作った。2種類の菌株は、電子回路で信号の流れを切り替えるトランジスタと同じ役割を担う。

 研究チームはさらに、トランジスタ役の菌株が出した化学物質を受け取り、次の菌株へ信号を伝える3種類の中継役も作った。

 電子回路では配線を通って電気信号が伝わるが、生体回路では細菌が作る小さな分子が信号となり、コロニーから隣のコロニーへ移動する。

 トランジスタ役2種類と中継役3種類を組み合わせた計5菌株が、回路を作る基本部品となる。

 研究チームは新しい計算を行うたびに菌株を作り直さず、5菌株の配置と組み合わせを変えることで、異なる働きを持つ回路を作れるようにした。

細菌が回路として働き、計算も可能に

 研究チームは、寒天を入れたペトリ皿の上に細菌のコロニー(細菌が増殖して目に見える集まりになったもの)を印刷し、隣り合うコロニーを約5mm離して配置した。

 約5mmの間隔を空けると、信号となる分子はもっとも近いコロニーまで届き、信号を受け取ったコロニーが次のコロニーへ情報を伝える。

 離れたコロニーまで一度に信号が届かないため、研究チームは情報が決められた順番で一方向に流れる回路を作ることができた。

 研究チームは5菌株の配置を変え、複数の入力を処理する論理回路や、1つの入力信号を制御信号に応じて複数の行き先へ振り分ける「デマルチプレクサ(demultiplexer)」、2つの入力を足し合わせる加算回路などを構築した。

 最大の加算回路では24個の細菌コロニーをつなぎ、複数の単純な機能を組み合わせることで、回路全体として複雑な計算を行えることを実証した。

 ただし生体回路が1回の計算を終えるまでには約8時間かかるため、電子回路と比べると計算速度は非常に遅い。

 だが植物は数日から数か月という時間をかけて成長するため、研究チームは一晩ほどで終わる計算でも、生物を制御する用途なら利用できると考えている。

この画像を大きなサイズで見る
寒天培地に印刷した細菌コロニーが、7日間かけて成長する様子をとらえたタイムラプス映像。 Image credit:MIT

植物が環境変化を感じとり、自ら身を守る未来へ

 研究チームは将来、生体回路を植物の葉や根に配置し、農業に利用することを目指している。

 細菌で作った生体回路を植物に配置できれば、細菌が干ばつや害虫などに関係する複数の信号を検知し、受け取った情報を回路で処理して、必要な反応を起こせる可能性がある。

 研究チームは、植物の根で特定のストレスを検知した場合に、殺菌剤を合成する反応を起こす仕組みを応用例として挙げている。

 なお、今回の研究では植物への実装まで行っておらず、研究チームはペトリ皿の寒天上に配置した細菌コロニーで生体回路を実証した段階だ。

 MITの研究チームは今後、細菌で作った生体回路を植物の葉や根で働かせ、植物が周囲の環境を感知して必要な反応を起こす仕組みへの応用を目指している。 

References: Nature / MIT engineers connect bacteria to create living transistors | MIT News | Massachusetts Institute of Technology / Living bacterial transistors perform logic operations inside plants

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 7件

コメントを書く

  1. ブラックって、将来は電気基板にされた細胞にも当てはまるのかよ
    人だけでなく細胞にも適用とはむごい

    • 評価
  2.  スイッチ? フラグじゃないの?と思ったけど、これはブーリアン演算もできそう。 寒天培地のタイムラプス映像を見て感動しました。 真ん中の二つの縦ポチから左上や右下などに何かが伝わっているということが可視化されていて時間のスケールはともかくちゃんと振り分けできてる!と、今は応用は思いつかないですが発展させて誰かが面白いことや素晴らしい生活の基礎技術になってくれるといいな

    • +2
  3. 「植物の根で特定のストレスを検知した場合に、殺菌剤を合成する」ってあるけど、これが進化すると「人に食べられないように毒を持つ」って事にならない?
    そのうち人類が食べられる植物がなくなって滅んだりして・・・。

    • -1
    1. 人類に食べられる事によって種を遺伝情報を伝えていく種も有るからその辺は大丈夫じゃないかな。
      人の手の介在が無ければ種の維持が不可能な動植物が既に多く存在するし、自然界においても他種に食べられることによって生息域を広げたり受粉をしたりといった種がほとんど。
      自分という個の維持にとらわれる我々より生命の思惑は遥かに遠大な様だ。

      • +2
  4. こういった情報伝達機能による外界の状況に合わせた自己防衛の機能によって生命を維持している。
    我々の自我人格というのはこういった情報回路の脳や肉体といった物理的な情報システムの海で生まれた生命なのかもしれない、、、
    植物がいずれ自我を持ち、コンピュータもいずれ自我を持つ、そんな事が起こるのかもしれないなぁ。

    • +1
  5. 萩尾望都先生の50年前の漫画「11人いる」では「電動蔦(ツタ)」という生きた植物を使った電子回路がありました
    SF大会初の漫画での受賞は伊達ではなかったですね

    • +7

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

サイエンス&テクノロジー

サイエンス&テクノロジーについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

植物・菌類・微生物

植物・菌類・微生物についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。