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なぜ人類だけが利き手を持つのか。二足歩行と脳進化が解き明かす左右非対称の謎

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Image by Istock / Luka_Trajkovic
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 地球上のほぼすべての地域で、人類の約90%が右利きだ。これほど強い左右非対称な行動様式を持つ霊長類は他に存在しない。

 英オックスフォード大学の研究チームが41種・2,025個体の霊長類データを分析した結果、強い利き手が生まれた背景には、二足歩行と脳の進化が関係していることが示された。

 なぜ利き手が「右手」だったのか?10%の確率で左利きが存在する理由は、現在もまだ正確にはわかっていない。

 この研究成果は『PLOS Biology』誌(2026年4月27日付)に掲載された。

参考文献:

人類の手は他の霊長類と何が違うのか

 チンパンジーもゴリラも、個体によって右手を使う場合も左手を使う場合もある。しかし集団全体で見ると、どちらかに大きく偏ることはなく、右と左をほぼ同じように使っている。

 研究チームは右手と左手の使用頻度の傾向を数値で示すため、「平均利き手指数(MHI)」という指標を用いた。

 プラスの値が大きいほど右利き傾向が強く、ゼロに近いほど左右差がないことを意味する。

 サルや類人猿のほとんどはMHIがゼロ付近に集まった。

 ところが人間のMHIは0.76と突出して高かった。

 これは人間の大多数が左右どちらか一方の手を明確に優先して使っており、両手を均等に使う個体がほとんどいないことを意味する。

 実際、世界的に見ると右利きが約90%、左利きが約10%で、生まれつきどちらの手も同等に使える真の意味での両利きは約1%にとどまる(左利きで右利きに矯正された場合を除く)。

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Image by Istock Liudmila Chernetska

6つの仮説を検証するも説明できず

 なぜ人間だけがずば抜けた非対称性を持ち、どちらか一方の手(特に右手)だけを利き手にするようになったのか?

 英オックスフォード大学のトーマス・A・ピューシェル准教授らの研究チームは、サルと類人猿41種、2,025個体の利き手データを集め、ベイズ法を系統進化の分析に応用した「ベイズ進化モデル」と呼ばれる統計手法で分析した。

 ベイズ進化モデルは、種と種の間の進化的な親戚関係を考慮しながら、どの要因が利き手の違いを最もよく説明できるかを確率的に計算する手法だ。

 ピューシェル准教授らの研究チームは、利き手が生まれた原因として従来から提唱されてきた6つの仮説を、同じ分析手法でまとめて検証した。

 「道具の使用」説、「食性」説、「移動様式」説、「脳の大きさ」説、「生息環境」説、体「体の大きさ」説だ。

 しかしいずれの仮説も単独では、人間の突出した右利き傾向を説明できなかった。

 移動様式についても、「木の上で暮らすか地上で暮らすか」という生息環境の違いだけでは説明がつかなかった。

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利き手を説明しようとしてきた6つの仮説(上段)と、霊長類4グループの利き手分布の比較(下段)。人間だけが右側に突出した偏りを示している

脳の大きさと四肢間指数が示した答え

 ところが移動様式をより精密に測る指標として「四肢間指数(ししかんしすう)」を使い、「脳の大きさ」とあわせてモデルに加えると、答えが見えてきた。

 四肢間指数とは腕の長さを脚の長さで割った比率のことで、直立二足歩行をする人間は脚が長く腕が短いため、値が低くなる。

 チンパンジーなど四足歩行の霊長類は腕が相対的に長く、値が高い。四肢間指数は、「どのように体を動かして生活しているか」を骨格の形から数値で示す解剖学的な指標だ。

 脳が大きいほど、そして四肢間指数が低い(つまり二足歩行に近い)ほど、右利き傾向が強くなる。

 この2つの変数を加えることで、人間の突出した右利き傾向は進化の流れの中で自然に説明できる現象になった。

人類の利き手はいつ、どのようにもたらされたのか

 同じモデルを使って、研究チームは絶滅した人類の祖先における利き手の傾向も推定した。

 約440万年前のアルディピテクス属は四肢間指数が現代人より高く、脳も小さかったため、利き手の傾向は現代の類人猿と同程度のわずかなものにとどまっていた。

 約390〜200万年前のアウストラロピテクスになると二足歩行が確立されてきたが、四肢間指数はまだ現代人ほど低くなく、脳の拡大も限定的だったため、利き手の偏りは依然として弱かったと推定されている。

 利き手の傾向が顕著に強まったのはホモ属の出現以降だ。

 ホモ属とはホモ・サピエンス(現代人)だけを指すのではなく、約180万年前のホモ・エレクトスや、約40万年前に出現したネアンデルタール人(学名:ホモ・ネアンデルターレンシス)もこれに含まれる。

 ホモ属の出現とともに脳が急速に大きくなり、四肢間指数も現代人に近い値になるにつれて、右利き傾向は段階的に強まり、現代人のホモ・サピエンスで今日見られる極端な偏りに達したと推定されている。

 そして例外が1つあった。

 インドネシアのフローレス島で2003年に発見された小型の人類、ホモ・フローレシエンシスだ。

 身長約1mで「ホビット」とも呼ばれるホモ・フローレシエンシスは、脳が小さく四肢間指数も現代人とは異なる値を示していた。

 モデルによる推定では右利き傾向がはるかに弱いと予測されており、「脳が大きいほど、二足歩行に近いほど右利き傾向が強まる」という今回の理論と一致している。

 ホモ・フローレシエンシスの存在が、逆に理論の説得力を高めたのだ。 

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ホモ・フローレシエンシスの復元予想図 Image credit: Elisabeth Daynes.

ではなぜ9割が右利きとなったのか?

 研究が示したのは「なぜ人類がこれほど強く一方の手に偏ったか」であり、「なぜその方向が左ではなく右だったか」ではないため、右利きが9割を占める理由は説明されていない。

 だがこの問いに対し、脳科学の分野で長年議論されてきた知見がある。

 人間の脳は左半球が言語や論理処理を担う傾向があり、脳と身体は「左脳が右半身を、右脳が左半身を」制御するという交差支配の関係にある。

 右利きの人の約95%が左半球優位であることは、WADAテスト(脳の片側を一時的に麻酔して言語機能を調べる検査)や脳機能イメージングによって確認されている(参考:脳科学辞典 言語中枢

 脳が大きくなる過程で言語をはじめとする高度な機能が左半球に集中し、その左脳が右手の動作も担うようになったことで、右利き傾向が強化・固定されていったとみられている。

 ただしこれは「相関」であり、言語の左半球優位が先か、右利きが先かという因果の方向は現時点でも確定していない。

 また進化論的な観点からは、「どちらか一方の手に偏ること」自体に適応的な価値があり、「右」である絶対的な必然性はなかった可能性もある。

 更に「なぜ左利きが約10%という割合で残り続けてきたか」については、少数派だからこそ生まれる「予測されにくさ」という戦術的優位性が進化的安定戦略として機能してきた可能性を示す研究成果がイタリアのパドヴァ大学の研究チームにより報告されている。

まとめ

この研究でわかったこと

  • 人類だけがこれほど強い利き手(左右非対称な行動様式)を持つ理由は、二足歩行と脳の拡大という2つの進化的変化にあることがわかった
  • 脳が大きくなり、二足歩行が進むほど、左右どちらかの手に偏る傾向が強まることがわかった
  • ホモ属の出現以降、脳の急速な拡大とともに右利き傾向は段階的に強まり、現代人で約90%が右利きという突出した偏りに達した

まだわかっていないこと

  • なぜ左ではなく「右」が多数派になったのか、その決定的な理由はまだわかっていない
  • 言語を担う左脳が右手も支配するという関係は確認されているが、どちらが先に発達したかは不明だ
  • なぜ左利きが約10%という割合で残り続けているのかも、完全には解明されていない

References: doi.org/10.1371/journal.pbio.3003771

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