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パンスペルミア説の証明なるか?生きた動物を乗せたロシアの衛星カプセルが帰還

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(著)

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ロシアのビオンM2号降下モジュールの着陸地点 / Image credit:Roscosmos: Russia’s Space Agency
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 2025年9月19日(現地時間)、多種多様な生物を乗せたロシアの生物研究衛星「ビオンM2号」の実験カプセル(モジュール)が、同国オレンブルク州に帰還した。

 この衛星には、75匹のネズミ、1,500匹以上のハエ、細胞組織、微生物、植物の種子などが詰め込まれており、約1か月にわたって宇宙空間を飛行していた。

 その目的は、宇宙環境が生物にどのような影響を与えるのかを調べること。

 そしてもう1つ、地球の生命は宇宙からやってきたとする「パンスペルミア説」を検証するためだ。

生きた生物を乗せたロシアの衛星カプセルが帰還

 ロシア当局が公式テレグラムの投稿によると、今回の実験では、パンスペルミア説の検証を目的に、微生物を岩石に仕込んだサンプルが衛星に搭載された。

 この実験の狙いは、微生物が宇宙空間の過酷な条件や、地球大気圏への高熱を伴う再突入を生き延びることができるかを確認することにある。

 ビオンM2号(Bion-M No.2)は2025年8月20日、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。

 衛星はその後、国際宇宙ステーションよりも高い軌道を周回しながら30日間にわたり宇宙空間を飛行し、その実験カプセル(モジュール)は9月19日に地球へ帰還した。

 この飛行ミッションは、ロシア宇宙機関ロスコスモスと、ロシア科学アカデミー生物医学問題研究所(IBMP)による共同プロジェクトとして実施された。

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オレンブルク地方の草原に着地した、ロシアのビオンM2号の実験カプセル Image credit:Roscosmos

パンスペルミア説とは?

 地球上の生命は、果たしてこの惑星の中で自然に誕生したのだろうか。それとも、もっと遠い宇宙のどこかからやってきたのか。その問いに答えようとする仮説のひとつが「パンスペルミア説」である。

 この説によれば、生命の起源は地球外にあり、宇宙を漂う隕石や宇宙塵などに付着した微生物が地球に飛来し、そこで生命として根付いた可能性があるという。

 もともとは古代ギリシャの時代から似たような考え方が存在していたが、科学的な理論として注目されるようになったのは20世紀に入ってからだ。

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パンスペルミア説のイメージ図 WIKI commons / CC BY-SA 3.0

リソパンスペルミア説の証明実験

 そしてこのパンスペルミア説の中でも、特に現実味があるとされるのが「リソパンスペルミア説」だ。

 これは、岩石に守られた状態の微生物が、惑星衝突によって宇宙空間に飛び出し、長い時間をかけて別の天体に到達し、そこで生命をもたらす可能性を示す仮説である。

 岩石は、微生物を宇宙の強い放射線や真空、極端な温度変化から守る天然のシールドとなりうる。また、大気圏への再突入時に発生する高熱にも、岩石の内部であればある程度耐えられる可能性があるとされている。

 今回のロシアの実験は、まさにこのリソパンスペルミア説の検証を目的としたものだ。

 科学者たちは、微生物の細菌株を玄武岩に注入し、それを実験カプセルの外殻に直接取り付けた。

 玄武岩は、宇宙線や真空、高温から微生物を守る「隕石の代わり」として使われた。サンプルは宇宙空間を約1か月漂い、その後カプセルごと地球の大気圏へと再突入した。

 微生物はこの過酷な環境を生き延びられるのか?それを確かめようというのが、今回の実験だ。

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帰還したビオンM2号の実験カプセル内部を調査する研究者たち Image credit:Roscosmos

焦げた実験カプセルからサンプル回収

 大気圏を突入して着陸したビオンM2号の実験カプセルは、外装が黒く焼け焦げており、宇宙と再突入の過酷な環境をくぐり抜けた痕跡を残していた。

 ロシア当局がテレグラムで公開した写真では、研究者たちが金属製の容器やサンプルを慎重に取り出す様子が確認されている。

 現在、微生物やその他の生物サンプルの生存状況についての分析が進められており、結果の発表が待たれている。

 一方で、動物実験の結果として、75匹のネズミのうち10匹が死亡していたことも明らかにされた。ハエや植物の種子など、他の試料の状態についてはまだ公表されていない。

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実験カプセル内の生物を取り出す研究者たち Image credit:Roscosmos

リソパンスペルミア説の宇宙実験は過去にも

 リソパンスペルミア説をめぐる宇宙実験は、過去にもロシアで行われている。

 2015年、ロシアの研究チームは、極限環境に耐える微生物「サーモアネロバクター・シデロフィラス(Thermoanaerobacter siderophilus)」を使った検証を行った。

 この微生物を乾燥させて玄武岩に封入し、人工隕石に見立てて衛星「フォトンM4」の外装に取り付けて打ち上げた。

 45日後、衛星は大気圏に再突入し、摂氏980度を超える高熱にさらされたが、24のサンプルのうち4つから微生物の生存と増殖が確認された。

 この結果は、リソパンスペルミア説の現実性を示す初の「生存証拠」となり、当時カラパイアでも紹介している。

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image credit:Pixabay

地球の生命起源はどこにあるのか

 パンスペルミア説が本当なら、生命の起源は地球ではなく宇宙にあるということになる。

 だとすれば、この広大な宇宙には、すでに生命が芽吹き、独自に進化を遂げてきた星があるのかもしれない。

References: T / Russia Tests Whether Life Could Spread Between Planets With Spacecraft Filled With Critters / T

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この記事へのコメント 31件

コメントを書く

  1. はい!パトレイバーでこの言葉を知りました!

    • +3
  2. 戦争中でも宇宙科学の研究費出せるのか。
    さっさと戦争やめて研究費に回すよろし

    • +70
  3. こんな所で開かないで、もちっと気密がしっかりした隔離実験施設のような場所で開けて欲しい気がする。

    • +39
  4. 岩石が惑星から飛び出すには他の隕石の衝突が必要なわけだけど、その熱と衝撃に耐えられるのかな?

    • +17
  5. 地球の生命が宇宙のどこかの惑星から飛来したとして、その生命はどこから来たのだろう?
    その星で自然発生?
    また別の惑星?
    だったらそのまた別の惑星の生命はどこから?
    地球のある種の生命が宇宙環境や大気圏突入の影響に耐えられたからといって、それが即ち、生命が地球外から飛来したということにはならないのでは?

    • -6
    1. 生命の起源に関する確度が上がるのでは?
      奇跡的な条件下で生命のスープから生まれる確率が、ただ一つの惑星に限られるか宇宙のどこか一つの惑星から他の惑星に伝播する可能性があるかでだいぶ違ってくるのでは?

      • +20
    2. 地球は第二次重爆期に太陽系外延部の氷を含んだ多くの岩石が降り注ぎ
      巨大な海が生成で来たって話がある。そういうことや

      • +5
  6. オウムアムアみたいなのもあるにはあるが、大気圏突入に耐えるサイズの岩塊が惑星上から第三宇宙速度を超えて飛び出し、且つその速度を維持するのは難しいから、パンスへルミア隕石の故地は高確率で太陽系内の惑星ということになると思う。そういうわけで後期重爆撃期に地球を飛び出した原始生命が太陽系中にばらまかれているのではないかと期待している。

    • +1
    1. 地球を構成している岩石はどこから来たんでしょうね?

      • -1
      1. どこかから来たのではなく高密度の星間ガスが凝り集まって太陽系の天体を形成したのだから、核となった石や塵はあっただろうけど生物は生き残れない。

        • +1
    1. 許せないと言いながら薬は飲むし化粧水も塗るんやろ?
      過去の動物実験の成果で自分の快適な生活成り立ってるのは棚に上げて批判するのはどうかと思うわ

      • +23
    2. 気持ちはわかるが、シミュレーションソフトも完全でもなく
      実際にしないと不可能な実験

      犠牲になった生物には御冥福を祈り、その命を生かし未来へ
      つなげないとそれこそ意味のない実験で終わってしまう
      50年もすればもっといいものになり、AIである程度の実験も
      可能になるのだろうな

      • +20
    1. なんでハエさんには言及しないの?
      ネズミさんだけ可哀想っていうのはハエさんに対して可哀想なんじゃない?

      • +11
  7. 仮にこの実験が成功したとしても、パンスペルミアにて地球に生命がもたらされた事の証明が出来ないんだよな。どうしたら証明できるんだろ?

    • +1
    1. 一足飛びに結論に到達しようとしているみたいだけど
      他の説だって大した違いがない進捗なんだよね

      • +1
    2. 地球外から生命が見つかって、それが地球上の生命と共通していればほぼ証明になる。
      もちろん地球から宇宙に拡散したって可能性もあるが、そのへんのことを詰めていくのにもこういう実験は役に立つ。

      • +2
    3. やたらめったら宇宙に打ち上げられてるクマムシさんが宇宙で大繁殖したりしてな。
      もしかしたら他所の星でこのクマムシすげえな、ロケット乗せてそこら中打ち出してみるかってやった結果が地球の生命かもしれん。

      • +2
  8. 竹宮恵子の「アンドロメダ・ストーリーズ」のエンディングがこんな感じだったと思う

    • +1
  9. 周りの草原が燃えてるのはこいつが着陸したから?

    • +3
  10. 細菌やウイルスで構わないからせめて火星まで飛ばしてuターンさせてくれ。でかい岩石に生きたまま閉じ込めてちゃんと過酷な宇宙空間に晒しながら宇宙船が牽引して引っ張ってくるw可能性高いパターンに近づけて実験しないとムダでしょう
    なぜ火星かというとアメリカが火星で発見したとする生命の痕跡が仮に本当なら、火星で先に発生した生命が地球にやってきた可能性も一考する余地が出てくるのでは。じゃあ火星の生命はどうやって発生したんだとなるがw

    • -3
    1. いや言う通り火星の話の検証は大事
      何十年もずっと火星火星言っててうるしぇから
      もう白黒つけさせようぜ

      • -5
    2. 小惑星を越える大きさが想定できる岩塊を宇宙に持ち上げるのはまず不可能だよ

      • +2
    3. ムダかどうかなんて素人が勝手に判断することじゃあないでしょう。
      私らが思いつく程度の事を国家事業で計画立ててる専門家集団が思いつかない訳が無い。

      • 評価
  11. 地球上の全ての生命が「外来種の子孫」かどうかという事か

    • 評価
  12. 動物の命を実験にしないでください。
    彼らがどんな過酷な状況で恐怖にさらされているか。死んで当たり前のように思わないでほしい。命です。腹が立ちます。

    • +1

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