メインコンテンツにスキップ

アインシュタインの脳を解読できるか?古い組織を読み解くRNA技術が登場

記事の本文にスキップ

14件のコメントを見る

(著)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
image credit:Pixabay
Advertisement

 1955年に亡くなったアルバート・アインシュタインの脳は、死後すぐに240個のブロックに切り分けられ、現在も保管されている。

 これまで科学的な分析には限界があったが、稀代の天才の思考の痕跡を細胞レベルで探る道が開かれるかもしれない。

 中国の研究チームが開発したRNA解析法「Stereo-seq V2」は、劣化した古い組織からでもRNA情報を高精度で抽出できる。

 すでにがん組織の解析にも成功しており、天才の思考に迫る手がかりを、細胞レベルで探る道が現実のものとなりつつある。

 この研究成果は『Cell』誌(2025年8月28日付)に発表された。

劣化した生体サンプルでもRNAを読み取る新技術

 中国のBGIリサーチとその提携機関の研究チームが開発した「Stereo-seq V2(ステレオ・セック・バージョン2)」は、RNA(リボ核酸)の空間的な配置を高解像度で可視化できる、最新の空間トランスクリプトミクス技術だ。

 トランスクリプトミクスとは、細胞の中でどのようなRNAがどのくらい作られているかを網羅的に調べる手法で、細胞の働きや状態を読み解くのに使われる。

 RNAは、DNAの情報をもとに体内でタンパク質をつくる設計図のような分子で、細胞の働きや病気の状態を詳しく調べる手がかりになる。

 これまで、保存状態の悪い組織からはRNAの情報をうまく取り出すことができなかった。RNAは長い文字列のような分子で、従来の方法では「決まった場所」からしか読み取れない。

 そのため、古いサンプルでは途中で切れていたり壊れていたりして、情報の取得が難しかった。

 特にホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)という、医療現場で一般的に使われる長期保存法では、組織をホルマリンで固定し、さらにパラフィン(ろう)で包んで保存する。

 この方法は長期保存に向いている一方で、RNAやDNAが化学的に劣化しやすく、遺伝子解析には不向きとされてきた。

 しかしStereo-seq V2では、ランダムプライマー法という手法を用いることで、劣化したRNAでも遺伝子全体の情報を再構築できるようになっている。

 ランダムプライマー法は、RNAのどこからでも読み取りを始められるのが特徴で、壊れてしまった部分を避けながら情報を引き出すことができる。

 実際の試験では、約10年間保存されていたがん組織の解析に成功し、腫瘍のタイプや免疫応答まで細かく読み取ることができたという。

この画像を大きなサイズで見る
保存された古い組織からRNAをキャッチして、細胞単位の遺伝子活動を丸ごと読み解くStereo-seq V2 / Image credit: Cell (2025). Li et al.

アインシュタインの脳の秘密に迫れるか?

 今回の技術が特に注目を集めている理由は、「アインシュタインの脳」にも応用できるかもしれないという期待があるからだ。

 BGIリサーチの研究員リー・ヤン氏は、「もしアインシュタインの脳を分析できるチャンスがあれば、挑戦したい」と語っている。

 とはいえ、実際に使えるかどうかは未知数だ。1950年代当時の保存技術では、現在のようにRNAの構造をきれいに保つことは難しく、サンプルが分析に耐えうる状態かは保証できないという。

 アインシュタインの脳は、病理学者によって解剖され、240個の小さなブロックに分けられたうえで保存されている。

 もしその中に、まだ読み取れるRNAが残っていれば、「天才」の脳の構造や働きに関する新たな知見が得られる可能性もある。

医療アーカイブの再活用で希少疾患や感染症研究にも光

 Stereo-seq V2の応用はがん研究だけでなく、結核の研究にも使われており、患者の細胞と病原体のRNAを同時に解析することで、免疫系と病原体の関係性を詳しく観察することができるようになった。

 この技術を展開している企業STOmics(ストミクス)の技術責任者リアオ・シャ氏は、「すべてのサンプルが使えるわけではなく、状態の悪いものは除外している」と述べており、あくまで事前のスクリーニングが重要であることを強調している。

 世界中の病院には、FFPE処理されたサンプルが数千万件以上保管されているとされる。その多くはこれまで保存状態の問題から研究に使われることがなかったが、Stereo-seq V2によって再び価値ある研究素材となり得る可能性がある。

 特に希少疾患の研究では、患者数が少ないため十分な検体を集めるのに何年もかかる。長期間保存されたサンプルが使えるようになれば、研究が大きく前進するだろう。

この画像を大きなサイズで見る
アインシュタインの脳 public domain

「過去の資料」が未来の医療を変える可能性

 研究チームは、将来的には病院内にサンプル処理専用のラボを設置し、サンプルを外部に送らず安全に解析できる体制を整えることも視野に入れている。

 これにより輸送中のトラブルを避け、より多くの資料を安全に活用できるようになる。

 アインシュタインの脳が実際に解読されるかどうかは、まだわからない。

 しかし、今回の技術革新によって、長年「眠っていた」過去の資料が再び蘇り、新たな診断技術や個別化医療への応用、病理研究に活かされることが期待されている。

References: CELL / Interestingengineering / SCMP

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 14件

コメントを書く

  1. 手術の難しい脳腫瘍の治療にも活かせそうですね。
    今後の研究に期待です。

    • +1
  2. アインシュタインですらやらないであろうこと

    • +3
  3. 遠い過去の偉人にまだ現代人は追い付かないんだね

    • 評価
  4. 可能だったとして、死者の人権とか法整備が必要でしょうな。まあ生前に「私の脳を解析していいですよ」と一筆書くような感じになるんだろうけど。

    • +1
    1. アインシュタインの場合、死後に自分の脳が検体になることを拒否してたのに
      意思に反してこうして標本として保存されてしまってるわけで、問題があるよね。

      • +6
  5. そのうちどこかの政府機関がアインシュタインの脳細胞から
    クローンを作成して教育し新たな天才を作るかもね。

    • 評価
  6. 飛び抜けた人は死後も脳を切り取られて皆んなに観察されてしまうんだね…
    ゆっくり寝むらせてくれー

    • +2
  7. 西暦2025年のアインシュタインのイメージといえばあっかんべーと自分の実物の脳みそって、本人も微妙だろうなぁ

    • 評価
  8. 脳をスキャンして作られたAIアインシュタインがスマホにいて欲しい

    • 評価

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

サイエンス&テクノロジー

サイエンス&テクノロジーについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

料理・健康・暮らし

料理・健康・暮らしについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。