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アルメニアのドラゴン石の謎を解明、6000年前の水への信仰と結びついていた

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(著)

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ヴィシャップ(ドラゴン石) / Image credit:“Vishap” Project, A. Bobobkhyan / reconstruction by V. Mkrtchyan
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 アルメニアの高山地帯に、魚やヘビ、牛の皮の形をした奇妙な石碑が点々と残されている。「ヴィシャップ」、通称ドラゴン石と呼ばれるこの巨石群の正体をめぐって、100年近くにわたり考古学者たちは頭を悩ませてきた。

 標高3000m近い高地に、6000年前の人々はなぜ巨石を運び、手間をかけて立てたのか。そしてそれは、何のために造られたのか?

 最新の研究により、先史時代の人々が水の恵みに祈りを捧げ、神聖な場所として示すために建てた信仰の為の石碑であった可能性が浮かび上がってきた。

 この研究は『npj Heritage Science』誌(2025年9月1日付)に発表された。

アルメニアの高地に立つヴィシャップ(ドラゴン石)

 アジアとヨーロッパの間にあるコーカサス山岳地帯にある、アルメニアの高地には謎の石が多数存在する。

 ヴィシャップ(Vishap)と呼ばれるこれらの石は、アルメニア語でドラゴン(竜)を意味することから、「ドラゴン石」とも呼ばれる。

 これらは主に安山岩や玄武岩など、周辺で採取できる火山岩を用いて、一枚岩から彫り出された先史時代の石碑である。

 現在確認されているヴィシャップは約150基。そのうち90基以上がアルメニア国内の標高1000〜3000mの高地に集中している。

 彫刻のモチーフとしては、魚やヘビのような水生動物、あるいは吊るされた動物の皮のような意匠が見られる。形状によって以下の3つに分類される。

  • ピスキス型(Piscis):魚の形に似た石碑
  • ヴェルス型(Vellus):吊るされた動物の皮を模した形状。
  • ハイブリッド型:魚と皮の意匠が融合したもの。

 なお、頭部にヘビのような意匠が施された石碑も存在するが、現時点では分類上の基準とはされていない。ただし、一部のハイブリッド型に含まれている可能性はある。

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ヴィシャップの類型:ピスキス型、ヴェルス型、ハイブリッド型 Image credit:“Vishap” Project, A. Bobobkhyan / reconstruction by V. Mkrtchyan

 これらの石碑は、高さ1.1〜5.5m、重さ数トンにおよぶものもある。

 現在は多くが倒れて横たわっているが、根本部分以外が丁寧に研磨・彫刻されており、本来は垂直に立てられていたことが明らかになっている。

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ヴェルス型のヴィシャップ Image credit:“Vishap” Project, A. Bobobkhyan / reconstruction by V. Mkrtchyan

かつての仮説を検証するため、研究が再始動

 ヴィシャップが初めて学術的に取り上げられたのは20世紀初頭だ。

 アルメニアの考古学者アシュ・カルベク・カランタル氏は、これらの石碑が古代の灌漑施設と関係している可能性を指摘し、水流の分岐点や管理の要所を示すために意図的に設置されたのではないかという仮説を唱えた。

 その後長期間、体系的な調査はなかったが、2012年より本格的な共同研究プロジェクトが始まり、アルメニア国立科学アカデミー考古民族学研究所、ベルリン自由大学、ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学が参加し、フィールド調査と発掘調査を行った。

 特にアラガツ山の斜面にあるティリンカタル遺跡では、12基ものヴィシャップが密集していることが確認され、ヴィシャップが古代の人々にとって重要な場所だった可能性が高いことがわかった。

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ヴィシャップが密集していたティリンカタル遺跡  Image credit:“Vishap” Project, A. Bobobkhyan / reconstruction by V. Mkrtchyan

年代鑑定により、6000年前のものであることが判明

 ティリンカタル遺跡で得られた有機物46点に放射性炭素年代測定を実施したところ、2例においてヴィシャップの設置時期が紀元前4200〜4000年(銅器時代)であることが示された。

 それまでは、ウラルトゥ王アルギシュティ1世(紀元前8世紀)の楔形文字が刻まれた石碑など、再利用された例しか年代を知る手がかりがなかった。

 しかしこの成果により、ヴィシャップの初期形態が6000年前にまでさかのぼる可能性が裏付けられたのである。

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ティリンカタル直下にある灌漑施設「12本の水路」。20世紀半ばまで実際に使用されていたため、正確な築造年代の特定は難しい / Image credit:“Vishap” Project, A. Bobobkhyan / reconstruction by V. Mkrtchyan

標高とサイズの謎、統計分析が示した事実

 研究チームは、アルメニア国内で記録された115基のヴィシャップについて、設置された標高と石のサイズに関する統計分析を行った。

 想定された仮説は、「標高が高いほど、作業期間が短いため石碑も小さくなる」というものだった。

 しかし結果はその予想に反していた。

 標高2800mを超える地点にも、全長5.5m・重量4.3トンに及ぶ巨大な石碑が存在していたのである。

 高地での建設には、資材運搬、食料・燃料の確保、人員動員など、多大な労力が必要だったにもかかわらず、それでもなお大規模な石碑が意図的に築かれていたのだ。

 さらに、石碑の分布はランダムではなかった。標高1900m付近と2700m付近に明確な集中が見られ、これは地形的要因ではなく、巡礼や季節的な祭儀など、文化的理由による配置とみられている。

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魚と皮の意匠が融合したハイブリッド型のヴィシャップ Image credit:“Vishap” Project, A. Bobobkhyan / reconstruction by V. Mkrtchyan

石碑の意匠に見る、水への祈りと崇拝

 魚、吊るされた牛の皮、ヘビ。ヴィシャップに刻まれたこれらの意匠には、共通して「水」に関わる象徴的な意味があると考えられている。

 魚は言うまでもなく水そのものを象徴する存在であり、ヘビは多くの古代文化において、泉や地下水の守護者、あるいは水を司る精霊として信仰されてきた。

 また、吊るされた動物の皮は、祭儀における供物を表し、水源への感謝や祈りを込めた象徴だった可能性がある。

 こうした意匠が刻まれたヴィシャップは、実際に水と密接な場所に設置されている。高山の雪解け水が始まる源流域や、自然の泉、かつての灌漑の要所など、水の存在が重要視される場所に集中しているのだ。

 研究チームは、これらの石碑が、水の恵みに感謝を捧げるための祭祀的モニュメントだったと結論づけている。

 先史時代の人々にとって、山から流れる水は命そのもの。その源に祈りを捧げることは、生活と直結した信仰行為だったのだ。

 かつてカランタル氏が唱えた「灌漑施設との関連」という仮説も、こうした精神文化と結びつくことで、再び重要な意味を帯び始めている。

 アルメニアの民間伝承において、ヴィシャップは、水や地下から現れる水竜恐ろしい竜として描かれており、アララト山に住みついたとされている。

 ヴィシャップは、自然の力そのものを擬人化し、恐れ、敬い、祈りの対象としてきた存在だったのだ。

References: Nature / Labrujulaverde

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この記事へのコメント 17件

コメントを書く

  1. 世の中にはまだまだ知らないことがあるなぁ。

    意外と最近まで使われていた水路もすごいな…。

    • +21
  2. サムネを見て息子スティック案件かと思った

    • +12
    1. 古代ローマの生殖器信仰やアジア側の陽根信仰とかとの繋がりを妄想してしまう

      • +1
      1. う~ん… その繋がりの可能性はないんじゃないかなあ。
        年代が違いすぎるし、当時文化の伝搬がそこまであったと思えない(主観です)
        ただ、息子スティック信仰を兼ねていた可能性はあると思う(妄想込み)

        • +1
  3. 草原で日向ぼっこしながら、寝んねしてる、マナティーに見えてしまった。( *˘꒳˘*)スヤァ…

    • +12
  4. グッズ化しないかな
    このデザインの抱き枕が欲しい

    • +7
  5. 水神信仰はほとんどの地域で「旧世界の神」扱いで邪神とされることが多いんだよね。
    日本も縄文時代は湧水点信仰で蛇信仰だったが、弥生期に稲作が始まると次第に衰退、盤座信仰が古墳中期に流入してからは完全に邪神扱いで英雄神や農耕神に駆逐される。
    八岐大蛇退治や氷川神社(元は水神信仰)の素戔嗚信仰はその表れ。
    この地も、メソポタミアの農耕神やキリスト教の普及に伴って同じことが起こったんだろうね。

    • +3
  6. ワイの休日の姿やん、、、
    ワイはドラゴンやった、、、

    • +7
  7. こういう記事本当好き!!
    deer stoneとかArborglyphのscorpion treeとかめちゃワクワクするよ。

    • 評価
  8. はーいドラゴン退治しまーす
    ってこの石倒しまくったドラゴン退治の聖人いそう
    地域もね、、

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