
その理由は染色体が安定しており、遺伝子が変化しにくいからだという。ではなぜネコ科動物の染色体は安定しているのか?
『Nature Genetics』(2023年11月2日付)に掲載された最新の研究では、その謎を明らかにするべく、ネコ科動物のゲノムを比較した。
その結果、彼らの遺伝子には「セグメント重複」と呼ばれる繰り返しが少ないことを突き止めている。
そこから明らかになったのは、安定しているはずのネコの遺伝子でも特に進化が速い部分や、ネコのアイデンティティである嗅覚の秘密など、興味深い事実の数々だ。
それらは、少ないながらも確かに存在する遺伝的な違いが、それぞれのネコがそれぞれの生息環境で生きるためにとても重要だったろうことを伝えている。
なぜネコ科動物は似ているのか
しなやかで神秘的なネコ科の動物たちは個性豊かと思いきや、意外にも種の違いが少ない。というのも、ネコ科動物の染色体は他の哺乳類に比べて安定しているからだ。だから、可愛らしいペットのイエネコと、百獣の王ライオンの染色体にほとんど違いがない。
動物に多種多様な種がいるのは、遺伝子が変化するからだ。例えば、類人猿のゲノムは壊れたり、配列が変わったりしやすく、それがヒトをはじめとするさまざまな種の進化につながった。
今回米テキサスM&A大学の猫進化学者ウィリアム・マーフィ氏らによる研究では、ネコの遺伝子が安定している一方、類人猿で変異しやすいのは、「セグメント重複」の違いに関係するらしいことが明らかになっている。
つまり遺伝子全体(ゲノム)を見たとき、ほとんどコピーのような同じ部分がどれだけあるかが鍵を握っているということだ。セグメント重複が多ければ多いほど、染色体の再配列が起こりやすくなる。
そしてネコ科動物の場合、この重複がほかの哺乳類よりもずっと少ない。
例えば、霊長類のゲノムと比べると、重複は7分の1でしかない。だからネコ科動物の染色体は安定しており、なかなか変化しないだという。

ネコの中で一番進化が速い遺伝子
とはいっても、ネコのゲノムがまったく変わらないわけではない。遺伝子が変異することで、きちんとネコ科動物の種の違いが作り出されている。そして今回の研究では、彼らの遺伝子のうち、特に変わりやすい場所が特定されている。それは「X染色体」の真ん中にある大きな領域で、 ネコの遺伝的変異のほとんどはここで起きている。
そこには「DXZ4」と呼ばれる繰り返しがあり、これが例えば「イエネコ」(つまりペットのネコだ)と小型のネコ科「ジャングルキャット」との違いにつながっている。

このDXZ4は、毛色のような体の特徴に関係するよくある遺伝子ではなく、むしろX染色体の立体構造を補助するためのものだ。
だが、この繰り返しがネコの種の違いを作り出すうえで、重要な役割を果たしている可能性が高い。
またDXZ4はネコのゲノムの中で一番急激に変化しているところで、ゲノムの99.5%の部分より速く進化しているという。

photo by Pixabay
ネコの嗅覚に関する遺伝子の違い
今回の研究では、最新のゲノム解析法を用いて、ネコの嗅覚に関する遺伝子も調べられている。じつはネコにとって嗅覚は、彼らが何者であるかを示すアイデンティティのようなものだ。
というのも、彼らが捕食動物で、獲物をとらえるために嗅覚に大きく依存しているからだ。だから嗅覚はネコの生き方を反映している。
例えば、同じ大型のネコ科動物であるライオンとトラとでは、フェロモンを嗅ぐための嗅覚遺伝子がかなり違う。
フェロモンとは、動物がコミュニケーションするために分泌する化学物質のことだ。
性フェロモンのイメージが強いが、それだけではなく、自分の存在や縄張りを伝えたり、あるいは危険を警告したりと、さまざまなことに使われる。
ライオンとトラでそれを嗅ぐための遺伝子が違うのは、ライオンが群れで暮らす社会的な動物なのに対して、トラが単独で生活することと関係があると、研究チームは考えている。
ライオンの場合、身近にほかの仲間たちがいるので、それほどフェロモンに頼らなくてもいい。
ところがトラは、かなり広い縄張りの中で獲物のニオイを嗅ぎ、子供を作るパートナーを見つける必要がある。
だからトラは、ライオンに比べて、さまざまなフェロモンを嗅ぐ(フェロモン受容体が多い)ことができる。

photo by Pixabay
一方、ペットとして飼われているイエネコは、ライオンのように嗅覚遺伝子をたくさん失っているようだ。研究チームによれば、それは人間と一緒に暮らしているため、餌やパートナーを求めて遠くまで出歩く必要がないからだという。

photo by Pixabay
また嗅覚に関してとりわけユニークなのは、東南アジアに生息する「スナドリネコ」だ。このネコは湿原で魚をとって生きているのだが、水に関係するニオイを嗅ぐための遺伝子をたくさん持っている。
この遺伝子はほかのネコ科動物がほとんど失ってしまったもので、それどころか陸上脊椎動物というより広いグループで見てみても、かなり珍しいのだという。

photo by Pixabay
染色体の違いは少なくても適応能力の差は大きい
この研究で明らかになったもっとも大切な事実の1つは、確かにネコの染色体はそれほど違いがないかもしれないが、適応能力の差がきわめて大きいということだ。研究チームによれば、ネコの違いは、それぞれが暮らす自然環境にどれほど完璧に適応しているのかを示すものであるという。
このことは、ネコ科動物の保全や、彼らが生息する自然環境を守るうえで、大切な示唆に富んでいる。
例えば、同じトラであっても、インドネシアに生息するスマトラトラとシベリアのアムールトラはまるで違うと考えられる。
彼らは、まったく異なる場所で生き残るために、それぞれユニークな遺伝的適応をしている可能性が高い。
また、ゲノムの中で特に調べにくい部分が、免疫や生殖のような重要なシステムの鍵である可能性があることにも注意すべきだと、研究チームは述べている。
これまでの研究では、そうした重要な情報がないまま進められることも多かったが、それでは本当のことはなかなかわからない。だからこそ、ゲノムを完全に再構築することが大切なのだという。
今後研究チームは、最先端のゲノム解析技術と組み立て技術でネコゲノムを調べ、ネコの世界についてできる限り多くの情報を集めていく予定であるとのことだ。
References:Genome sequencing project reveals new secrets about cat evolution / written by hiroching / edited by / parumo
あわせて読みたい





コメント
1. 匿名処理班
日本の山の生態系にトラとかヒョウ系の
モンスター猫が居なくて本当に良かった。
クマですら勝てないのにトラとか絶対に勝てない。
2. 匿名処理班
近所の石灰岩の山でトラの化石が出てたな、、
人類ネコ科って漫画、あったが、
内容を全然記憶してない、、
3. 匿名処理班
しまっちゃおーねー
4. 匿名処理班
>>1
苛政は・・・?
5. 匿名処理班
難しくて良くわからないけど どんな猫科動物も共通して可愛いことは分かった(´・ω・`)可愛いは安定している
6. 匿名処理班
>>1
鎌倉時代には居たらしいぞ。
ソースは源平討魔伝。
7. 匿名処理班
安定してるってことは環境への適応はともかく、知能が大幅に強化されたりという変化がないってことなのかなあ。進化した猫とお喋りとかしてみたかった。
トップのAI画、見ているとボスの「快楽の園」みたいで落ち着かない気分になってくる。こっちの心理が不安定になるわw
8. 匿名処理班
イエネコってなんで
ちっちゃくなっちゃったの?
もとはライオンなのにね。
9. 匿名処理班
>>1
日本も2万年くらい前にはトラがいたみたいね。
静岡県の採石場で肉食動物に噛まれた跡のある人骨と一緒に
トラの化石が見つかったとか。
魏志倭人伝には日本にトラがいないと書かれてるので
縄文時代か遅くとも弥生時代までには絶滅した模様。
人間に駆逐されたのかも知れないし
大陸と切り離された日本はトラには狭すぎたのかも知れない。
10. 匿名処理班
>>8
イエネコはライオンから進化したわけではないよ。
イエネコとライオンの中間くらいのサイズの動物から
分かれたと考えられてる。
大型獣を襲うよう進化したものがトラやライオンになり、
小動物を襲うよう進化したものが
イエネコの祖先(リビアヤマネコ)になった。
11. 匿名処理班
人類も機械を使う文明じゃなく自然なかで生きてればもっと違ったものになっただろうなぁ
12. 匿名処理班
>>9
オオカミでさえ滅びちゃったくらいだもんなあ
13. 匿名処理班
>>7
同じこと思ってる人がいた!
なんだろうキレイな絵だし猫も好きなのに、なぜかこの絵は怖いというか、夢に出てきた不安な情景みたいな印象
14. 匿名処理班
>>11
自然の中で生き続けるには人類はひ弱過ぎてな…
祖先からして樹上での生存競争に負けて地上に降りたとかいうし
15. 匿名処理班
日本で出土されたトラの化石は
最近ではホラアナライオンの可能性が高いとされている