
オックスフォード大学をはじめとするチームによるこの研究は、岩石はCO2の吸収源であるという従来の定説を覆し、じつは主要な排出源かもしれないことを明らかにしている。
こうした岩石から排出されるCO2は、従来の炭素循環モデルではほとんど考慮されてこなかった。
そのため『Nature』(2023年10月4日付)で発表されたこの事実は、今後の気候変動を予測するうえで重要な手がかりを示しているという。
岩石に閉じ込められた古代の二酸化炭素
ただ静かにそこにあるだけのように思える岩石だが、じつは何百万年もかけて取り込んだ太古の二酸化炭素(CO2)をたっぷりと蓄えている。大気中のCO2が含まれた雨が降ると、鉱物の化学的風化によって岩石にはそれが吸収される。こうしたプロセスは、世界中の火山から放出されるCO2を相殺しており、地球の気候のバランスを取る大切な役割がある。

岩石は吸収したCO2を排出している
だが今回の研究では、岩石が吸収するCO2ではなく、放出する方のCO2に光が当てられている。調査の結果、それが世界中の火山から放出されるCO2にも匹敵する量であることが判明したのだ。これはほとんどの自然炭素循環モデルが考慮していないプロセスであるという。
この放出プロセスは、例えばヒマラヤ山脈やアンデス山脈のような、山が形成されるときに起きる。
こうした地球の活動によって、太古の海底で作られた岩石が地表に押し上げられる。
すると、そこに含まれていた有機炭素(植物の光合成によって大気から吸収され、やがて海底の堆積物としてたまったもの)が、空気や水中の酸素と反応してCO2を放出するのだ。

岩石はCO2の吸収量と排出量のどちらが多いのか?
そうだとするなら、岩石が吸収するCO2と排出するCO2とではどちらが多いのか? これは気候変動が進む現代においては、とても重要な疑問なはずだ。これまでこうした岩石から放出されるCO2の量を測定することは難しかった。
そこでオックスフォード大学をはじめとする研究チームは、川の水に含まれるレニウムというレアメタルの一種を調べることで、その量を推定することにした。
レニウムは、岩石に含まれる有機炭素が酸素と反応する時に水中に流れ出る。だから、その濃度を測定すれば、岩石から放出されたCO2のおおよその量を知ることができる。
とはいっても、世界中すべての川を調べるのは、なかなか大変だ。
そこで研究チームは、2つのことを行った。まず地表近くの岩石にどれだけの有機炭素が含まれているかを調べた。そして次に、急峻な山が侵食されて岩石が露出するペースが速い場所を特定した。
こうしたデータをスーパーコンピューターに入力し、物理的・化学的・水文学的プロセスの複雑な相互作用をシミュレートする。こうして、岩石に含まれる太古のCO2が大気中に吐き出されるペースが推定された。
そして、この結果を岩石が吸収するCO2の量と差し引いてみると、岩石は吸収源であるというこれまでの定説が覆され、多くの地域ではむしろ排出源であることがわかったのだ。

岩石から排出されるCO2は世界中の火山に匹敵する量
そうした岩石からのCO2排出は、ヒマラヤ山脈東部、ロッキー山脈、アンデス山脈など、隆起速度が速く、地中の岩石が露出しやすい地域に集中していた。世界全体で見れば、岩石から放出されるCO2は、年間68メガトンに達しているという。
これは現代人が化石燃料を燃やすことで排出するCO2の100分の1程度の量でしかないが、世界中の火山から放出されるCO2に匹敵する。
つまり岩石からのCO2は、地球の炭素循環プロセスにおいてかなり重要な一部だろうということだ。

自然によるものなのか?人為的な影響によるものなのか?
地球の歴史を振り返れば、こうしたCO2の流れが変化してきた可能性もある。例えば、山が形成され、有機炭素を含んだ岩石が活発に地表に押し上げられていた時代ならば、それだけ多くのCO2が大気に放出され、当時の地球の気候に影響を与えたかもしれない。
また今回明らかになった事実によって、新しい重要な疑問が浮かび上がってもきている。
例えば「人間の活動が地表の侵食作用をうながし、岩石からのCO2放出が加速したりはしないのか?」、あるいは「温暖化で岩石が暖まったことで、CO2放出に影響が出ていないか?」といったことだ。
研究チームは今後、こうしたことを調べる予定であるそうだ。
References:Rock organic carbon oxidation CO2 release offsets silicate weathering sink | Nature / New research finds that ancient carbon in rocks releases as much carbon dioxide as the world's volcanoes / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
>>これは現代人が化石燃料を燃やすことで排出するCO2の100分の1程度の量でしかないが、世界中の火山から放出されるCO2に匹敵する。
人間の排出するCO2膨大スギィ!!
2. 匿名処理班
>>1
たまに「CO2削減頑張っても火山の噴火1発でパー」
みたいに思ってる人いるけど、とんでもないのよな。
3. 匿名処理班
>>1
それ放出してる量だから、蓄えてる量は?
古生代には現在の二酸化炭素量の五倍大気中にあったわけだから、それが岩石中に含まれたりしたわけだ。
4. 匿名処理班
2020年度の世界における二酸化炭素排出総量は1150メガトンと発表されていますが
今まで盲点とされていた軍需演習における二酸化炭素排出量について調査を行ったところ
世界の総排出量の約6%にあたる69メガトンが軍事演習によって排出されている事が判明したとロイター等の記事で明らかにされています
岩石から排出される二酸化炭素が68メガトンという事なので
それとほぼ同等の量が軍事演習によって排出されているという事になります
5. 匿名処理班
>>1
乗用車やトラックだけでも消費量は膨大ですからね
6. 匿名処理班
二酸化炭素の有効活用を考えたらいいと思う
でも、例えば水などはどう加工しても循環して最後は元に戻るから
二酸化炭素は封じ込めたほうがいいのか
7. 匿名処理班
>>4
そんな事はないんだけど、100分の1が101分の1になっても大した事ない様に感じちゃうな。
スケール感がデカ過ぎて想像が及ばない領域。
8. 匿名処理班
遺跡発掘したり、建築工事で掘ったりして岩石を掘り出すとその分の二酸化炭素が増えているってことなのかな。
それなら全部計画を練り直さないと
9. 匿名処理班
>>4
1150メガトンというのは日本だけの数字だと思う。
世界全体だと2020年のCO2排出量は約3万1400メガトン
(31.4ギガトン)程度と言われてる。
なお2022年の世界のCO2排出量は3万6800メガトンと増加中。
10. 匿名処理班
>>6
火力発電所や化学工場から排出するガスを使って回収し、CO2だけを分離して安定した地下深くに貯留、圧入(封じ込め)するCCS技術という技術があります。
このCCSによるCO2回収には主に5つの方法があり、CO2の発生の規模や特性により複数の方法があります。
a.「物理吸着法」CO2を固体吸着剤に吸着させる。
b.「化学吸収法」CO2を吸収液に溶解させる。
c.「物理吸収法」吸収液に高い圧をかけてCO2を物理的に吸着させる。
d.「膜分離法」特殊な膜でCO2だけを透過し分離する。
e.「深冷分離法」極低温状態で液化させ沸点の違いを利用し分離する。
また回収したCO2は以下の3つの方式で大気中に漏れないようにしっかりと貯蔵する事が求められます。
a.「地中貯留方式」CO2が漏れにくい地層を選び、その空間や帯水層に圧力をかけてCO2を封じ込める。
b.「海底貯留方式」海底深くでCO2は安定した状態で留まる性質を利用し貯蔵する。
c.「中層溶解方式」水深1000メートル以上の海中でCO2を炭酸水のように海水に溶かしてしまう。
11.
12. 匿名処理班
>>2
トバ火山の噴火一発で氷河期に突入したのは事実だが
13.
14. 匿名処理班
>>8
そこらの岩石が炭素を含んでるわけではない
炭素を含む堆積岩(黒色頁岩、石灰岩、石炭など)に限った話
日本に多い火成岩や火成岩由来の土砂は酸化珪素、アルミニウム、マグネシウム、鉄などが主成分なので心配する必要はない
15. 匿名処理班
>>12
それはCO2関係ないでしょ。
ただの日傘効果。
16. 匿名処理班
>>9
なるほど
だとすると軍事分野で排出されるCO2排出量はもっと大きいということですね
2023年7月11日 ロイター記事
専門家らの昨年の見積もりによると、軍隊は世界最大級の燃料消費セクターであり、地球の温室効果ガス排出量の5.5%を占める。