
Erg Chech 002は、およそ46億年前に形成された、太陽系でもっとも古いとされる隕石で、まるでタイムカプセルのように、太陽系が誕生した頃のガスと塵の雲の様子を今に伝えてくれるという。
このほどオーストラリア国立大学をはじめとする研究チームは、この隕石に含まれる同位体を分析し、その結果を『Nature Communications』(2023年8月29日付)で報告している。
それによると、太陽系の誕生も終わりに近づいた頃、超新星爆発によって形成された放射性物質が散りばめられただろうことが判明したそうだ。
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太陽系はどうやって誕生したのか?
太陽はほかの星々と同じように、ガスと塵から生まれた。宇宙に漂うガスと塵はお互いの引力でゆっくりと集まり、やがて中心にある重いかたまりと、その周囲をうすい円盤が囲んでいるような雲ができあがる。
これが「原始太陽系星雲」と呼ばれるものだ。いわば太陽系の赤ちゃんである。
この星雲がどのようなものだったのか、大体のところは見当がつく。この地球も、太陽系を漂っている惑星や岩石も、すべてこの星雲から作られたからだ。
だがほとんどの場所では、太陽が誕生してから46億年ほどの間に、化学的な性質が大きく変わってしまっているのも事実だ。
それとは対照的に、隕石や小惑星はまるでタイムカプセルのように、太陽系が形成された当時の痕跡をとどめていると考えられている。
だから、こうした天体を調べることで、それがいつ、どのような物質から形成されたのか知ることができる。

地球に存在する太陽系最古の隕石
ここで太陽系最古とされる隕石「Erg Chech 002」の話に移ろう。2020年にアルジェリア南西部のシェシュ砂漠で発見されたこの安山岩質隕石は、既知の隕石や岩石の中で最も古いことが明らかとなった。
日本の国立極地研究所とフランスの国際共同研究チームは2021年、年代測定によって、今から45億6500万年前、つまり、太陽系誕生の直後(225.5万年後)にできたことをPNAS誌で発表した。
どうやらマグマの活動と関係していたらしく、おそらくはかつて途中まで形成されたが、結局それ以上は成長しなかった惑星の一部だったろうと推測されている。
この隕石には、マグネシウムの安定同位体「マグネシウム26(26Mg)」が含まれている。だがこれはもともと、寿命がつきた星が最後に起こす超新星爆発で作られるアルミニウムの放射性同位体「アルミニウム26(26Al)」だった。
マグネシウム26は、アルミニウム26が崩壊するときに作られる「崩壊生成物」なのだ。
この事実を踏まえると、隕石に含まれているアルミニウム26とマグネシウム26の比率を調べてみれば、Erg Chech 002の年齢を推定できるということになる。

太陽系の赤ちゃんに超新星爆発のスプレー
オーストラリア国立大学の宇宙化学者エフゲニー・クレスティアニノフが率いる研究チームは、実際にそれをやってみた。その結果、Erg Chech 002の年齢は、これまで推定されてきた45億6500万年前と一致したという。
そこで次に、ほかの似たような古い隕石と比べてみた。すると、Erg Chech 002はアルミニウム26がやたらと多いことがわかったのだ。
研究チームの考えによるなら、これは原始太陽系星雲内のアルミニウム26が一様に分布してたわけではないことを意味しているという。
ここから研究チームが想像するのは次のようなことだ。
太陽系の誕生もいよいよ終わりに近づいた頃、原始太陽系星雲には、超新星爆発によって生成された放射性物質が降り注いだ。
だからErg Chech 002のような隕石が作られるとき、アルミニウム26のような放射性同位体が混ざることになった。
これまでの研究でも、太陽系の赤ちゃんには超新星爆発で作られた放射性物質がたくさんあっただろうことが示されている。
今回の研究もまた、こうした太陽系創生の物語を紐解く新たな手がかりになることだろう。
References:Igneous meteorites suggest Aluminium-26 heterogeneity in the early Solar Nebula | Nature Communications / This Ancient Meteorite Is A Time Capsule From The Birth of Our Solar System : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
追記(2023/09/02)誤字を訂正して再送します。
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コメント
1.
2. 匿名処理班
この記事の意図するところは26Alの空間的不均一性のことであって必ずしも最も古いかどうかというのとは別の話ではないの?
26Al不均一性を認めた場合、たまたまその隕石のみ26Alが増加するイベントを受けたとして年代を過剰に古く見積もってしまうこともあるのでは?
3. じょん・すみす
この緑色の結晶は、カンラン石かな。
だとすると、この隕石の母天体はかなり大きかったんだろう。
4. 匿名処理班
難しい事はわからないけど、確かに隕石にはいろんな宇宙の情報が詰まっているにしても、これ1個では情報として乏しい気がする。
星になり損ねた原始太陽系の欠片にしても、今日まで太陽系惑星がそれぞれの個性を持つに至っていることを踏まえると、欠片といえど経年の変化があるんじゃないか?とか。何十億年前の姿のままってのは…なんか無理がある気がする。
いろんな検査で推定されても、
5. 匿名処理班
>>2
26Al → 26Mg は電子捕獲という現象で陽子が中性子化して Mg になるようですね。 1954 年に 26Mg に重水素を高エネルギー( 15MeV とありました)でぶつけて 26Al を作ることに成功しています。
まぁ、記事の方ですがサンプルが少ないので空間的不均一性の可能性は否定できないけど、ありふれたものの一つとして扱うことが適当ということで崩壊の痕跡から古いとみているように読めました。