強烈な磁場を持つマグネターの可能性がある青色巨星「ウォルフ・ライエ星」
 100年以上も天文学者を困惑させてきた星は、極端に強い磁場を持ち、大量の高エネルギー電磁波を放出する天体「マグネター」の卵かもしれない。

 その星は地球から3000光年離れた「HD 45166連星」を構成している青色巨星「ウォルフ・ライエ星」だ。このタイプの星のご多分にもれず、ヘリウムが豊富で、パートナーもいる。

 だが想像以上に質量を失っており、恒星風のパターンも異常という、どこか異様な雰囲気を漂わせている。

 このほどオランダ、アムステルダム大学の研究チームは、この星が信じられないほど強力な磁力を持っていることを明らかにした。もしかすると、これまで未発見だったマグネターの前身かもしれないという。

宇宙最強の磁石「マグネター」

 たった20kmの範囲に、太陽と同等の質量を持つ超高密度天体、それが「中性子星」だ。「マグネター」は、この中性子星の一種だと考えられている。

 マグネターが特徴的なのは、それが宇宙最強の磁石であること。普通の中性子星の1000倍、地球と比べるならなんと1000兆倍もの強力な磁場を持っている。

 これほど強烈な磁力を持つ星がどのように誕生するのか、詳しいことはわかっていない。

 だが有力な仮説によると、もともと強い磁場を持つ星が超新星爆発を起こすと、コアが崩壊するプロセスで磁場が劇的に強まり、マグネターになるのだという。

 これはあくまで仮説だ。これまでのところ、超新星爆発をひかえた星の中に十分に強力な磁場を持つものは見つかっていない。

 だが今回のHD 45166連星の青色巨星「ウォルフ・ライエ星」は、その待望のマグネターの卵かもしれないというのだ。
1
ウォルフ・ライエ星は信じられないほど強力な磁場を持っていた/ image credit:ESO/L. Calcada

ウォルフ・ライエ星は強力な磁場を持っていた

 「ウォルフ・ライエ星」とは、まるで宇宙のロックスターのようにキラキラと明るく輝く「青色巨星」だ。天の川銀河でもっとも壮観な星のひとつで、その明るさは太陽の3万〜100万倍もある。

 しかし核融合の燃料が尽きかけているほか、恒星風に吹き付けられたすごい勢いで質量を失っているため、そう遠くない未来には超新星爆発を起こす運命にある。

 そうなれば外側の物質は吹き飛ばされ、コアはたちまち崩壊して中性子星になる。

 今回の主役であるHD 45166連星のウォルフ・ライエ星(正確には準ウォルフ・ライエ星)は、ヘリウムが豊富で、質量は太陽の約4倍。パートナーである「B型主系列星」をわずか1.6日で周っている。
12
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、ウォルフ・ライエ星WR 124と周囲を取り巻く星雲 M1-67/ image credit: ESA/Hubble & NASA; Acknowledgement: Judy Schmid / WIKI commons

 これが謎めいているのは、そうした特徴が現在の天文学が考える連星の進化や恒星風パターンにそぐわないものだからだ。

 そこでアムステルダム大学の研究チームは、もしもこのウォルフ・ライエ星が磁気を帯びていたとしたら、そうした謎を解明できるのではと考え、観察してみた。

 するとそれが信じれないほど強力な磁力を持つことがわかったのだ。

 その磁場の強さは4万3000ガウス。これは大質量星としては、これまでで一番強い。

 さらに、この星は想像以上にずっと質量が小さく、連星の公転周期がじつは8200日だったことも明らかになった。

 これまでは1.6日とされてきたが、それはB型主系列星の内部振動の影響のせいでそう誤解されただけだったのだ。
2
HD 45166連星のウォルフ・ライエ星はいずれマグネターになると予測されている / image credit:NOIRLab/AURA/NSF/P. Marenfeld/M. Zamani

超新星爆発を起こしマグネターになると予測されるウォルフ・ライエ星

 このウォルフ・ライエ星がどうやって現在の状態になったのか不明だが、2つの小さな星が合体してできたのではと推測されている。

 そして、あと数百万年で超新星爆発を起こすと予測されている。

 そうなればコアが崩壊して、磁場もギュッと収縮すると考えられている。あとに残されるのは、100兆ガウスもの強烈な磁場を持つマグネターである。

 残念ながら、私たちがその瞬間を目撃することはない。それでも今回の発見は神秘的なマグネター誕生の秘密を紐解く新しいヒントになるはずだ。
Artist’s animation of HD 45166, the most magnetic massive star ever found

 この研究は『Science』(2023年8月17日付)に掲載された。

References:New type of star gives clues to mysterious origin of magnetars | ESO / The Most Magnetic Star Ever Seen Could Be The Precursor to a Mysterious Object / written by hiroching / edited by / parumo
あわせて読みたい
太陽の250万倍明るい「巨星」が忽然と消失する謎の現象が観測


太陽の1000万倍!物理法則を破るほど明るい天体が発見される


宇宙で30年以上、22分ごとに点滅を続ける奇妙な天体が発見される


18分ごとに膨大な電波を放出する未知の天体を発見


史上最長で心臓の鼓動のように点滅する高速電波バーストが検出される

Advertisements

コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2023年08月27日 21:13
  • ID:p4Aya8Nh0 #

単位が天文学的すぎてどんなもんか想像付かないな
そういう星が太陽系の近くに存在してたら地球に生命が生まれてなかった事は確かだろうが

2

2. 匿名処理班

  • 2023年08月27日 22:30
  • ID:6V7PMW6b0 #

※1 まあ光の速度が現宇宙の大きさに対して致命的に遅いってのも有るけど
確かに太陽系から10光年以内だと思いっきり影響が有るように思うね ただこの10光年は
自分の妄想でしかないけどw

3

3. 匿名処理班

  • 2023年08月27日 22:44
  • ID:ou5S9M310 #

平均的な中性子星の磁力1兆ガウスがどれ位かというと、その中性子星が地球からみて月と同じ距離に存在してたら地球上の釘を全て引き寄せてしまう位強いらしい

4

4. 匿名処理班

  • 2023年08月28日 01:47
  • ID:QOwOJefm0 #

>>3
すごいなんかドラゴンボールの話みたい

5

5. 匿名処理班

  • 2023年08月28日 07:45
  • ID:dRfi69b20 #

実生活に役立たないはずの知識だけど、見ているだけでワクワクしてくる。それが宇宙のロマン。

6

6. 匿名処理班

  • 2023年08月28日 08:00
  • ID:iRQ9w9dm0 #

映像や想像図からヴァジュラ(金剛杵)を連想しただよ

お名前
Sponsored Links
記事検索
月別アーカイブ
Sponsored Links
Sponsored Links